2016.11.28

■感想 片渕須直監督『この世界の片隅に』


映画『この世界の片隅に』予告編 HD - YouTube
この世界の片隅に - Wikipedia

" 片渕自身がこの作品のアニメーション映画を企画し、こうのに許諾を請う手紙と自作『マイマイ新子と千年の魔法』のDVDを送った。
 こうのは1996年に放送された片渕のテレビアニメ『名犬ラッシー』にあこがれ、「こういう人になりたい、こういうものが作りたいと思う前途にともる灯」として捉えていたため、この手紙を喜び枕の下にしいて寝たという"

 片渕須直監督『この世界の片隅に』を名古屋伏見ミリオン座で観た。
 まず第一に、冒頭のことりんごの主題歌が出てくるシーンの素晴らしさ。息を飲むような素晴らしい空のシーンにまずじんわりと映画全体がそこに結晶したような感覚を(冒頭なのに)何故か覚えたのは僕だけだろうか。

 そしてそれに続く本篇のアニメーション表現の何と豊かなことか。
 冒頭の化け物の背追い駕篭から、座敷わらし。空襲のリアリティとファンタシー。衝撃的な場面の心象を前面に出したようなアニメーション映像。

 音響設計と相まって、映画を芳醇にする、まさに魅せる映像になっている。
 こうの史代の原作も、ロ紅で描いたり、左手で描いたりしたそうだが、映画の心象を見事に表現した、アニメーションの柔軟な描写が活きている。

 片渕須直監督と、そして監督補・画面構成を担当された浦谷千恵さんのアニメーション表現が存分に発揮されたみごとな映像。
 アンドウの頃からの活動を会誌で少し知っていたので、このお二人のアニメーションの結実がなんとも素晴らしく感動です(^^)。

 淡々とそしてユーモラスに描かれる日常のリアル。
 絵を描くシーンも日常の家事も、いずれも主人公すずの手作業を丹念に追い、そこに息づく人間のぬくもりを伝えてくる。ホワッとしたすずの人柄がなんとも微笑ましい。
 そして呉という街の独特の雰囲気と、その日常描写があいまって、映画は戦時中の人々の生活をリアルに描き出している。

 そうした人の手の作業を前半で描き、それに退避して描かれる後半の痛ましい現実。積み上げた日常を破壊する戦争という過酷な現実の表現として、ほわっとしたすずのあるシーンでの慟哭が強く胸を撃つ。

 戦争と市井の人間を描いた素晴らしい傑作。多くの人に観てほしいアニメーション映画です。

◆蛇足 岩井俊二監督『リップヴァンウィンクルの花嫁』との関連
 この映画を観て、僕は今年観た『リップヴァンウィンクルの花嫁』を何故か強く思い出していた。主人公 皆川七海の浮遊感と、状況への巻き込まれ感がきっとその原因なのだろうと思う。

 描いている時代もテーマも大きく違うが、ここにもうひとつの現代の『この世界の片隅に』が存在しているような気がする。いささか強引だけれど、描かれている人の気持ちはとても似ている。こうした市井の心象の丹念なスケッチは、日本映画の見事な堆積物の賜物のような気がするのは僕だけだろうか。

◆関連リンク
・当ブログ記事 ■感想 岩井俊二監督『リップヴァンウィンクルの花嫁』: Bride wedding scores for rip van winkle

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2016.11.21

■動画 ピーター・ジャクソン監督とギレルモ・デル・トロ監督の映画関連コレクション


Adam Savage Tours Peter Jackson's Movie Prop Collection! - YouTube
本物のHAL 9000が! ピーター・ジャクソン監督の隠れ家を訪問|ギズモード・ジャパン

"映画『ロード・オブ・ザ・リング』三部作と『ホビット』三部作が代表的なピーター・ジャクソン監督もまた、途方もないコレクションを誇るオタクな人物のようです。 今回は、そんな監督の隠れ家にお邪魔してみるとしましょう。"

Photo Gallery: Peter Jackson's Movie Prop Collection - Tested
 こちらにピーター・ジャクソンの宝物殿、この"魔窟"wの写真144点が掲載されています。

 どこまでがフィギュアで、どこからが撮影用の本物か、よくはわかりませんが、以下のような錚々たるアイテムが並んでいます。

 『2001年 宇宙の旅』HAL9000のカメラアイ、『スターウォーズ』イウォーク、『ジュラシックパーク』ヴェロキラプトル、『ゴーストバスターズ』プロップ類、『エイリアンズ』クィーン・エイリアン、『サンダーバード』1, 2号、『ナイトメアビフォークリスマス』『ジャイアントピーチ』主要キャラクタ達、『ターミネーター2』液体金属ターミネーター等々。

 素晴らしいコレクション。ピーター・ジャクソンを形作った物がここに集積されている感じ。まるで彼の脳内空間を覗き込むような、ワクワクする空間が映し出されています。もっと長い映像レポートを見てみたいものです。


Andy Visits Guillermo Del Toro's Bleak House - CONAN on TBS - YouTube
映画ファンには夢の国のようなギレルモ・デル・トロの家を訪問|ギズモード・ジャパン

"L.A.郊外のサン・フェルナンド・ヴァリーに建つこの家は、デル・トロ・コレクションを展示した「ブリーク・ハウス」と名付けられ、表には看板も出ているほど有名。玄関に入ると頭上には巨大なフランケンシュタインの顔が飾られており、いきなり来訪客のド肝を抜きます。"

映画ファンには夢の国のようなギレルモ・デル・トロの家を訪問|ギズモード・ジャパン.

"なお、この「ブリーク・ハウス」から約500点ものコレクションや、監督が描いた資料などが展示される「ギレルモ・デル・トロ:アット・ホーム・ウィズ・モンスターズ」展が、ロサンゼルス・カウンティ美術館にて2016年8月1日~11月27日に開催されます。"

 そしてこちらはもう一方の雄、デル・トロ監督のコレクション。
 こちらはアメリカで展示会が開催されているとか。ぜひ日本にもこうした企画を持ってきてほしいものです。

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2016.11.14

■情報 『シン・ゴジラ』VFX / CG StealthWorks 米岡馨氏/ 特撮班美術 三池敏夫氏

StealthWorksFXReel_2016 from StealthWorks LLC on Vimeo

thinkingParticles 6によるシン・ゴジラのVFX / StealthWorks CEO 米岡馨氏 « TMSサポート

" 私は9年日本のVFX業界で働き「ファイナルファンタジーXIII」や「SPACE BATTLESHIP ヤマト」等の作品に加わりました。その後ベルリンのPIXOMONDOで 「レッド・テイルズ」、 「センター・オブ・ジ・アース2 神秘の島」、「ゲーム・オブ・スローンズ シーズン2」 、「スター・トレック イントゥ・ダークネス」等に参加した後、バンクーバーのスキャンラインに移り「アイアンマン3」、「300 帝国の進撃」、「ポンペイ」、「カリフォルニア・ダウン」の初期のR&D等に参加しました。

 今のところ主に日本でですが、「Evangelion Another Impact」「ガメラ50周年記念ムービー」「シン・ゴジラ」「KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV」等の大きなタイトルに参加出来ました。

「ヤシオリ作戦」はゴジラを凝固剤で凍結させるミッションで、StealthWorksはゴジラに直撃させ転倒させるために7個のビルを倒壊させるシーケンスを担当しました。これ程までのスケールの大きい破壊エフェクトは今までの日本のVFXにはありませんでした。このシーンの構成要素は非常に大きいもので、TPのキャッシュは43個あって計520GBの容量がありました。また18個のFumeFXのグリッドがありそれは3.3TBまで達しました。"

『シン・ゴジラ』が見せる特撮のこれまでとこれから
 『シン・ゴジラ』で特撮班美術を担当した美術デザイナー、三池敏夫さん
PART1
 PART2

"「技術的には、日本でもできます。『シン・ゴジラ』のヤシオリ作戦の高層ビルの倒壊は全部CGです。合成素材は現場でも撮っていますが、ビルの破片が飛ぶとか、煙もほぼCGです。CGで全部やるのは可能ではあるけれど、日本映画の制約の中でCG班が全部やるのは大変なことです」

「出来上がりの理想の画は見えていても、与えられた条件の中でそこに行きつく保証は何もないわけです。ミニチュアだったら、その場にある画はできているわけですから、最低限の保証があります。ミニチュアを超えるCGができればどんどん入れ替えるかもしれませんが、タイトなスケジュールで何百カットも仕上げる保険としては、最低限現場で撮った画があれば成立します。全部CGだったら、スタート時点では白紙からのスタートになるから、いいものになると保証できる人は誰もいません」"

 長文になりましたが、興味深い『シン・ゴジラ』のVFXについて、CGを担当されたStealthWorks 米岡馨氏と、ミニチュア担当 特撮班美術 三池敏夫氏のインタビュー記事。
 まずハリウッドのレベルに追いつき/追い越したと感じられた「ヤシオリ作戦」のビル破壊CGシーン。まさに米岡氏がハリウッド大作で経験された蓄積が、庵野秀明/樋口真嗣/尾上克郎各氏と日本スタッフと融合して生まれた名シーンであったことがわかる。

 三池敏夫氏は、CGはどこまで完成度を上げられるか、時間との勝負となる際にリスクが大きな課題になる、ということを語られている。ミニチュア特撮に関しては、どちらかというと今後は衰退する方向で、技術の温存を特撮アーカイブで物と制作の両面で維持していく必要性が述べられている。

 特撮ファン、ミニチュアシーンにワクワクしてきたファンとしては残念な気分になるがこれも時代の趨勢で致し方ないことかもしれない。

Shirogumi x StealthWorks Shin Godzilla DestructionReel from StealthWorks LLC on Vimeo.

『シン・ゴジラ』が見せる特撮のこれまでとこれから
 『シン・ゴジラ』で特撮班美術を担当した美術デザイナー、三池敏夫さん
PART1

"たとえば、手前に街燈とか街路樹があって、その奥に家とか雑居ビルが広がり一番奥にゴジラが立っている画を想像してください。すべてをひとつの画面に収めたい時はどうするか。

「それぞれの大きさを変えます。怪獣映画の基本は25分の1ですが、画面手前の街燈なんかは10分の1とか15分の1で大きく作ります。小さいものをカメラに近づけようとするとぼやけてしまうので、カメラからの距離は、被写界深度(ピントが合っているように見える被写体側の距離の範囲)を考えると、なるべく離します。カメラからは離れているけれども画面では大きく見せる必要があります。ライトをいっぱい当てて絞り込むというのが特撮の基本です」"

 特撮が培ってきた映像表現の工夫がここで述べられている。
 これはミニチュアシーンについての発言だと思うが、僕が知りたかったのは、こうした特撮のノウハウがCGシーンにも適用されたかどうか。
 CGワールドで街全体を精緻にモデル化すれば、リアルな破壊シーンはできるだろう。しかしそこにこうしたミニチュア特撮の工夫点を適用したらどうなるか。

 CGデータ作成の節約と、ある部分円谷英二等により蓄積された映像のダイナミズムを生み出す工夫がCGワールドでも縦横無尽に映像に迫力をもたらす方向に活躍するような気がするのだけれど、、、。

 ネッドで見ててもあまりそうしたところは触れられていないが、今度出る予定の『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』でそうしたミニチュア技術によるCGの活性化みたいなところが述べられているのを楽しみにしています。

◆関連リンク
Kei Yoneoka(StealthWorks) "Evangelion Another Impact" DestructionFX Reel - 米岡馨氏によるアニメーター見本市公開のリアルエヴァ作品破壊エフェクトリール
カラー、東宝, 庵野秀明『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』

当Blog関連記事
■感想(2) 「館長庵野秀明 特撮博物館」 ミニチュア特撮の未来
 CGと特撮技術の融合について、以前書いた記事です。

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2016.11.09

■情報 "DAVID LYNCH meets HOSOO"展 デイヴィッド・リンチと西陣織のコラボ展

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DAVID LYNCH meets HOSOO | GYRE OMOTESANDO

"The Multistory World 多層的世界 meets The Multilayered World 重層的世界

「螺旋状の夢_ 夢見るように目覚める」

鬼才映画監督デヴィッド・リンチの描写する多層的世界_The Multistory World が、西陣織十二代目の細尾真孝の9,000本の糸によって紡ぎ出す重層的世界_The Multilayered Worldと出会って構成される本展。

デヴィッド・リンチの絵画作品「SPIRAL」のイメージと世界観を、
細尾真孝がハイパーテクノロジー化した西陣織の技術を駆使して解析するなど、実験的最先端のクリエイティビティとデジタル技術によって再生、および日本の伝統が融合した、未だかつて見たこともなかった体験をぜひGYREで。

デヴィッド・リンチからEYE OF GYREへのメッセージ                 
「螺旋は上昇・下降を繰り返す円環である。
この螺旋は、私にとって進化を表象する円環なのである」 

会期 : 2016年10月7日(金) – 11月13日(日)
会場 : EYE OF GYRE / GYRE 3F
時間 : 11:00〜20:00
キュレーション:ART DYNAMICS  
会場デザイン :武松幸治+EPA
監修: 飯田高誉 ・ 生駒芳子"

 気づくのが遅れて、既に会期は〜11/13までの残すところ一週間あまりですが、東京でデイヴィッド・リンチと西陣織のコラボ展示が開催されています。
 冒頭の絵画がリンチによるもので、それにインスパイアされた西陣織の細尾真孝氏による作品が合せて展示されているようです。


Background of DAVID LYNCH meets HOSOO - YouTube

 こちらも関係動画ですが、どういう位置づけか、よくはわかりません(^^;)。

◆関連リンク
株式会社 細尾

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2016.11.07

■感想 六本木アートナイト2016 名和晃平作品 & ダリ展 @ 国立新美術館

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THEME | 六本木アートナイト2016
 ダリ展の前に、六本木ヒルズと国立新美術館に展示されている「六本木アートナイト2016」の名和晃平作品を観てきた。
 作品は名和の作品としては、球面を活かした樹脂成形の作品。
 まず上のヒルズB2階に展示された大鹿を象った造形「White Deer」と球体の塔「Ether」。
 昼間の光のもとの写真と夜間のライトアップ。
 それぞれの佇まいが都市の中に自然が混入し、素晴らしい情景を作っている。

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 そして次に国立新美術館前に作られた、これも球面で構成された名和作品。
 人と奇妙な台車をイメージしたような作品。
 国立新美術館に展示されたダリ作品と呼応するように、その球面による軟体な作品がゴツゴツした岩の中で異彩を放っている。

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 こちらも昼の情景とライトアップ。
 ライトアップは写真にあるように下から暖色系のライトで照らされ、夜空の寒色とで作品を重層的に魅せている。
 これらは3Dハンディカムで立体映像として撮ってきたので、いつかどこかで紹介したいと思う。いつも書いているが、これらの立体造形作品は、3Dによる立体映像こそが(実物作品を除けば)記録媒体での作品表現に適している。艶かしい作品の立体の魅力をいつか3Dブルーレイで、究極映像研映像記録として配布したいものです。

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◆ダリ展 | 国立新美術館

 ガラスの球面に覆われた斬新な建築の国立新美術館に展示されたダリ作品、高校の時に図書館でシュルレアリスム好きの友人から見せてもらったダリの図録で触れて以来、ずっと観たかったサルバドール・ダリの作品を初めて生で観ることができた。
 以下、印象的な作品について、簡単なコメントです。リンクをクリックするとネット上にある作品写真を見ることができます。

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「巻髪の少女」
 展示はダリの少年時代からスタート、そしてこの作品は22歳の時の作品。
 まず冒頭で印象的だった作品。後ろ姿の少女の巻髪と、肉感的な尻と足の絵画。デフォルメされた人間の筋肉を思わせる足と体の形状が力強く描かれている。展示された作品ではここから鮮やかな色が使われていて、ダリらしさを印象付けた。
「姿の見えない眠る人、馬、獅子」
 獅子と人の融合。シュールレアリズムのダリへの注入。
「皿のない二つの目玉焼きを背に乗せ、ポルトガルパンのかけらを犯そうとしている平凡なフランスパン」
 これはタイトルによるイメージ喚起が強烈で、それと実際の絵とのギャップに絵の前で考え込んだ一枚。目玉焼きを背にしたフランスパンの前で10分(^^;)。
「エミリオ・テリーの肖像」
 岡本太郎のような男の前の、不思議な黒いオブジェの乗る机。男の視線と机の上の奇妙な立体造形がまるで観客に彫像作品を擬似的に見せているように印象的。
「謎めいた要素のある風景」
 謎めいた要素のある風景。黒い溶けた巨人と白い球体。そして手前にヨハネス・フェルメール「絵画芸術」のような絵を描く画家の後ろ姿。黒い溶けた巨人のような形態は、まさに怪獣映画にも導入可能w。こうしたシュルレアリスムの映像作品への転用は今はそれほど多くないが、映像としての可能性の戦端を開くにはもっと造形として援用されてもいいのではないか、とか思いながら見ていた。
「アンダルシアの犬」(映像作品)
 そのシュルレアリスムの映像への援用の代表作。ピアノの上に牛の死骸二体。3人の男を引きずる欲望の男と蟻。このイメージは映画に素晴らしい奥行きを与えていると思う。現在のリアリズムに寄った幻想映画はもっと想像力の羽をこうしたイマジネーションの世界に飛ばしてもいいのではないだろうか。
「ガラの晩餐」
 これは書籍として刊行されたもの。数々のサイケデリックな料理を中心とした絵が素晴らしい。まさにヤン・シュヴァンクマイエルを直撃しただろうFoodたち。
「ドンキホーテ」挿絵
 とてもダイナミックなイラスト群。特にXの文字を大きく描いたドンキホーテと雲のような巨人の絵(リンク先参照)。なんと荒々しいパワーに満ちた作品。簡単しかありません。
「ポルト・リガトの聖母」
 福岡美術館所蔵の巨大な絵画。特に中心付近の高精彩が凄い。フォトリアルなダリのシュルレアリスムの真骨頂。圧倒的な迫力にしばし脚が動きませんでした。
「ニューヨーク万国博覧会のためのパヴィリオン」制作中のダリの工房写真
 ヴィーナスの夢のオブジェ制作現場。人魚やマネキンが妖しく佇む空間。こんなアーティストが想像力を羽ばたかせた万博展示が観たくてたまらなくなった。


New York World's Fair 1939 part 1 - YouTube
 ニューヨーク万博展示。その一部映像がありました。1'00"あたり。このパビリオンは行ってみたかった!! 

◆関連リンク
SANDWICH(名和晃平公式)

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2016.10.31

■レポート 「大都市に迫る 空想脅威展」

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大都市に迫る 空想脅威展

"2016年9月24日(土)〜2016年11月13日(日)
東京シティビューラウンジ@六本木ヒルズ
戦後、日本独自の文化として盛り上がってきた特撮作品。作品内では、空想上の怪獣や怪人たちが幾度となく都市を襲ってきました。映画やドラマで人々の平和を脅かした空想上の怪獣や怪人たち(=空想脅威)と都市との関係を、撮影で使用されたセットや模型とともに振り返ります。通常一般非公開の森ビル株式会社の縮尺1/1000の都市模型が登場し、怪獣が壊してきた首都・東京のスポットを模型とともにご覧いただくことが出来ます。"

 東京へダリ展と合せて、「大都市に迫る 空想脅威展」を観てきました。写真を中心にレポートします。

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 ヒルズ前、パリ出身のアメリカの彫刻家ルイーズ・ブルジョアによる彫刻「ママン」が「空想脅威展」にぴったりで雰囲気を高める。

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 初めて登ったヒルズ52階シティビューラウンジから見下ろした光景と展示のファーストパネル。この東京全体を見下ろせる場所で観る東京が空想上で進撃された脅威の記録。なかなか素晴らしい立地である。

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 まず入り口で迎えてくれるのは、『ガメラ 大怪獣空中決戦』の東京タワー上のギャオス。高さ2mほどの精巧なタワーの模型とギャオスの鉄骨で作られた巣がリアル。

Img_5651side 森ビルの都市模型。
 『巨神兵東京に現わる』にも登場した精巧な都市模型の実物を観られて、なかなかの感動。

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 東京が襲われた歴史を紹介するパネルと都市のミニチュア。
 この都市部分は、3Dハンディカムで撮影し、ミニチュアの立体造形を家に持ち帰りました(^^;)。

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 そして登場するガメラの彫像。
 ゴジラというよりは、昭和ガメラで育った僕には、左の素朴なガメラも素晴らしく特撮のクオリァを想起されます。リアルな平成ガメラは細部まで気迫がこもり迫真の迫力でした。

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 展示されていた樋口真嗣特技監督の平成ガメラ内部図解スケッチが興味深い。

" 「アトランティス人の作った生体融合炉」「炉心容器として甲羅を持った巨大爬虫類の化石を使ったらしいぞ」「全身を循環する冷却液は"緑色の液体"だ‼︎」「制御棒(石板)」「プラズマチェンバー エネルギーを圧縮する」。"

 まるでシン・ゴジラの兄弟だ!(^^)

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 次のコーナーは、永井豪『デビルマン』。
 ここは漫画映像と都市の競演。できればデーモン一族を造形で見せて欲しかったと言ったら、欲張りすぎだろうか。

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 こちらも圧巻の森ビル都市模型。ミニチュア東京を襲うガメラも豊洲市場はお気に召さない様子。

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 そして最終展示コーナーはこちらのレギオンとイリス。実際に撮影に使われた着ぐるみらしい。記憶していたより鋭角的なデザインだったんですね。イリスは電飾もあり、生物というよりメカ的なイメージが強い感じ。

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 展示会場から外へ出たところで、特撮図書ライブラリーと軽食コーナー。

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 図書とフィギュアがなかなか充実していて、こちらも楽しめます。
 そして昼ごはん食べてなかったので、お約束のガメラバーガー、何故かチキンのバーガーでした。亀の味はチキン?(^^)

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 そしてこの軽食コーナーから観た国立新美術館の端正な景勝。
 次はここで開催されているダリ展へ向かいます(来週の更新になりそうです)。

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2016.10.19

■感想 岩井俊二監督『リップヴァンウィンクルの花嫁』: Bride wedding scores for rip van winkle


映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』予告編2 - YouTube

"岩井俊二監督最新作 「リップヴァンウィンクルの花嫁」
http://rvw-bride.com/
監督・脚本 岩井俊二
出演 黒木華 綾野剛 Cocco 他
制作プロダクション ロックウェルアイズ

 岩井俊二監督『リップヴァンウィンクルの花嫁』DVD初見。
 「リップヴァンウィンクル」を冠したタイトルは、この映画の前半の虚ろなフィクションに彩られた人々の物語と、生命という現実に直面したある登場人物がクライマックスで望んで観た最大限の"夢"、そしてそれに触れて少しだけ現実に帰ってきた主人公の、まさに夢の物語を表している。

 前半のネット描写と結婚式で虚ろに描かれる虚構の描写が鋭く現在を描いている。ほやっ〜と夢見るように揺蕩う黒木華がそんな虚構の中で、綾野剛演じる何でも屋の男"ランバラル"の友人こと安室行舛(あむろ ゆきますw)が誘う悲劇に落ち、雨の中を歩くシーンが素晴らしい。このまま観客はどこまで連れられていってしまうのか、どん底の不安に包まれる前半。

 後半、謎の女優 里中真白が現れ現実が一転、二人がピアノバーで森田童子「ぼくたちの失敗」と荒井由実「何もなかったように」を歌うシーンの暗闇の中の鈍い輝きは鮮烈。

 クライマックスの夢と現実、リリィが演じた母親と綾野剛が取る行動。悲劇映画の中のこれだけ奇異な喜劇の超現実的な光景も他にはないだろう。
 そんなシーンで描かれた本映画の着地点。これはどんな他の映画も描けていない現実のちょっとだけの希望を観客に見せてくれた。岩井監督がずっと描き続ける現在の姿から、まだ当分我々は眼を離せません。


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2016.10.17

■感想 『この世界に生きている – 加藤泉 × 陳飛 : LIVING IN FIGURES IZUMI KATO × CHEN FEI』展

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この世界に生きている – 加藤泉 × 陳飛

"2016.9/18-12/18 @富山県入善町 発電所美術館

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加藤泉は、独自のプリミティブな形象をもつ「人」をモチーフに、油彩画と、木やソフトビニールを素材とした彫刻を制作しています。加藤の手から生み出される、胎児や民俗彫刻を思わせる「人」は、時に植物や地と交わり、根源的な生命感を放ちます。平面と立体を行き来する中で表現が磨かれ、迫力やユーモア、愛らしさなどさまざまな表情を見せる存在となっています。

日本で初の発表となる陳飛は、大学で映画を学んだ経験をもとに、物語的な情景や意味ありげなシーンなどを絵画で活写。人間の業を見つめ、時にユーモアも交えて表現しています。それはあたかも一人で創作できる映画のよう。一人っ子政策後に生まれ、欧米や日本の資本主義社会や文化の影響を受け、自国との間で問題意識を抱えながら新しい表現を模索する「ポスト1980年代」の作家です。改革開放後の急激な近代化の中で生まれ育ってきた世代の葛藤を、重層的に描写しています。

本展で、加藤は新作の絵画と3メートルを超える大型彫刻などおおよそ12点、陳飛は大作の新作絵画と彫刻1点を含む約12点の作品を展示します。"

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 カナザワ映画祭の前に、お隣の富山県に立ち寄り、これも念願だった富山の発電所美術館に行きました。

 もちろん御目当ては、加藤泉さんの木造彫刻と絵画。あの土俗的な雰囲気に痺れているBPですので、カナザワ映画祭の時期に、ちょうどこの展覧会開催を見つけた時は、とても嬉しかったので勇んで行きました。

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 発電所の遺跡に佇む加藤泉さんの彫刻、まさに異世界がそこに現れた様な空間が素晴らしい。上の写真は、まさに発電所の発電機と操作パネルの前に展示された木製の彫像とソフトビニール製フィギュア。
 操作パネルのアナログなメカ感とプリミティブな造形の奇妙なコラボレーション。

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 日本の特撮は、その生まれに数々の美術家が参加され、キュヴィズムやシュルレアリスムとの親和性が高いのだけれど、それを刷り込まれている我々世代には、このアートと発電所のメカ感の融合は素晴らしく興奮させるヴィジュアルになっています。

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 富山の融雪の水を讃える山々から流れ着いた水流による発電。その跡地が広い空間の展示スペースになっているこの独特の美術館空間で観る加藤泉作品の魅力は格別です。上の写真の穴は上流から水を通していた穴を効果的に使った展示ビュー。穴の中へ入って眺めた情景も素晴らしいものがあります。

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 そしてコラボ展となっている中国人アーティスト 陳飛の作品。これも発電所の水流のパイプの中を使った展示で右の女性フィギュアを置くなど、空間を利用した展示も魅力的です。

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 陳飛さんは大学で映画を学んでいたとのことで、絵画作品には各種の映画を思わせるビジュアルに親近感を持ちます。
 右の女性の腕には、「FIRE WALK WITH ME」とリンチファン、ツイン・ピークスファンを喜ばせる刺青が。

 富山県入善町の発電所美術館、他に類を見ない独特の展示空間で美術館好きとしてはその展示室だけでなく、建築を見るのも楽しく見所の多い施設です。

 ひとつ残念なことに駅から遠く、バス等の公共交通機関がなく徒歩(1時間以上かかりそう)か、タクシー(15分くらい)で行くしかないため、注意が必要です。自家用車もしくはレンタカー,レンタサイクルをオススメします。

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2016.10.12

■感想 イリヤ・ナイシュラー監督 『ハードコア・ヘンリー : Hard core henry』日本プレミアム爆音上映@カナザワ映画祭


First Look at 'HARDCORE' - The World's First Action P.O.V. Film - YouTube
完全にFPSな映画『Hardcore Henry』、4月8日米国公開 | EAA!! - FPS News.

"舞台はモスクワ、主人公のヘンリーは死から蘇ったサイボーグだ。ヘンリーは、彼の妻であり創造主でもあるエステールを、テレキネシスを操る暴君“アカン”と彼が雇った傭兵達の魔の手から救わなければいけない。唯一の頼みの綱となる相棒ジミーと共に壮絶な1日を乗り越え、ヘンリーは妻を救うことが出来るのだろうか。"

 FPS : First Person Shooting , POV : Point of View Shotと言われる一人称視点カメラで映画全篇を描いたロシア映画 イリヤ・ナイシュラー監督の 『ハードコア・ヘンリー』をカナザワ映画祭での日本プレミアム爆音上映で観てきた。

 会場に少し遅れて入ったので、一番前、しかも右スピーカの前という爆裂な環境。
 映画はとにかくシャープなアクションでガンガン進む。正にキレキレの映像とはこのこと。凄い勢いで、状況に巻き込まれて、アレヨアレヨと巻き込まれ、主人公同様に観客もヨレヨレになる。

 とにかく爆音も含めて、アドレナリン全開。
 映画としてはハードアクションであり、超能力サイバーパンクもの。
 主要キャラクタであるジミーの設定が素晴らしい。ネタバレになるので詳しくは書かないが、とにかくぶっ飛んだサイバーパンク設定に痺れる。
 最初の登場シーン、浮浪者の姿で現れたジミー。息つく間も突然現れるキラキラ光る鏡男とその火炎放射器の対決。その後も姿を変えて現れる遠隔操縦サイバー男ジミー。なんともパンクでPOV VRな存在を考えたものだ。

 単なるPOV大アクションと思いきや、さにあらず。このジミーと主人公の設定で優れたPOVサイバーパンクになっている。そして一人称映像で観客にも仕掛けられるサイキック暴君"アカン"の存在。

 一部『AKIRA』ばりのテレキネシス戦も見せながら、爆音の砲撃の音が観客に突き刺さり、クールな音楽の挿入もあいまって観客の没入感は沸点へ。

 アクション映画『アドレナリン』へのリスペクトや、様々なアクション映画パロディ、アイデアをこれぞとばかりに投入した殺戮シーン。とにかく飽きさせず楽しめる大エンターテインメントになっているので、血液沸騰映画を観たい向きには大いにお薦めです(^^)。

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 この映画を撮ったのがこのカメラとカメラリグ。
 搭載されているカメラは、GoProと思われる。このようなレイアウトなら、日本映画でも手作りでこうした撮影器具は作成可能かもしれない。
 この写真からはカメラが平行に2台搭載され、ステレオに成っているように見えるが今回の映画は2D。いずれこうしたカメラで、POV & 3Dのこの映画を超えるようなものが出てくるかもしれない。
 さらには、この360度カメラ版が作られ(すでにあるでしょう)、VRヘッドセットを使って、観客の任意の視点で全篇を描くような、完全没入型劇映画も出来てくるかもしれない。そんな近未来の斬新な映画に期待です。


映画『ハードコア・ヘンリー』日本版予告編 - YouTube

◆関連リンク
FPS視点で話題沸騰のアクション作「ハードコア」17年4月に日本上陸! : 映画ニュース - 映画.com.

"「ハードコア」は、17年4月1日から東京・新宿バルト9ほか全国で公開。"

 日本公開(邦題は何故か「ハードコア」)はまだ先の来年4/1のようです。
How Hardcore Henry’s POV shots were made | fxguide
Inside the World's First POV Action Movie: 'Everybody Has To Be Awake or Somebody Could Die'
 メイキングについては、これらページに詳しい。
FPS映画「ハードコア・ヘンリー」の内容を60秒にまとめたアニメ | EAA!! - FPS News

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2016.10.10

■感想 岩切一空監督『花に嵐』 と 「期待の新人監督2016」@カナザワ映画祭 


PFFアワード2016入選作品 『花に嵐』予告編 - YouTube

期待の新人監督2016 - カナザワ映画祭2016|かなざわ映画の会

"9/25(日) 12:45〜 一般公募自主映画の中から選ばれた3作品を上映し、最優秀作品としてカナザワ映画祭期待の新人監督賞、観客投票で選ばれる観客賞、そして出演俳優賞を選ぶ。
・太田慶 監督・脚本・編集『狂える世界のためのレクイエム』(15年/88min)
・大野大輔 監督・脚本・主演『さいなら、BAD SAMURAI』(16年/61min)
・岩切一空 監督・脚本・撮影・編集・主演『花に嵐』(15年/76min)
審査員 黒澤清、ダンカン、柳下毅一郎、小野寺生哉委員長(カナザワ映画祭)"

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期待の新人監督2016 受賞結果発表 - 目標毎日更新 カナザワ映画祭主宰者のメモ帳

"期待の新人監督賞 『さいなら、BAD SAMURAI』
観客賞 『花に嵐』
出演俳優賞 里々花(『花に嵐』)"

 カナザワ映画祭の期待の新人監督の三本を観た。応募された60本からこの日、候補作3本が上映され、観客の投票による観客賞と審査員による出演俳優賞、期待の新人監督賞が決定された。

 以下、上映順に僕の感想です。

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 まず『狂える世界のためのレクイエム』、映画をめぐるサスペンス&メタフィクション。女優 東亜優が素晴らしい。その眼の演技が男たちをテロリストとして先導していく役にぴったり。テロリスト3人の個性も良かったし、小宮孝泰による撮らない映画監督によるラストのメタフィクションも、好きな作品になりました。

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 『さいなら、BAD SAMURAI』、黒沢清が講師を務める映画美学校出身の大野監督作品。正に監督紹介に書かれている通り「呪われた映画監督」。これも自主映画を巡る制作の苦労の物語なのだけれど、その道筋の混沌。同人誌を作っているシネフィルが途中登場しおちょくられるシーン、なかなかの爆笑でした。(こんなブログをやってると自戒自戒(^^;))

◆岩切一空監督『花に嵐』

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 早稲田大学公認自主映画サークル「稲門シナリオ研究会」出身の岩切一空監督『花に嵐』大学映研の日常を描くPOVとしてスタートしたドキュメンタリーが、見事に伏線を回収してフィクションに転化して昇華していく傑作。

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 予告篇の映像は映画のシーンを右左に2分割して短いカットを繋いであるけれど、そこから切り出した映像で簡単に映画のイメージを紹介してみたいと思う。(予告篇のイメージは必ずしも本篇とは合っていなく、この予告篇そのものの映像性を狙ったものになっている)

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 まず映画冒頭、上の画像のように、砂浜を撮り空が写り込んだ海面を天地逆にして表現している。ここに不安を掻き立てる、学生時代を思い出すようなモノローグがかぶり、映画のトーンを予告する。映像的に新しい何かを観せてくれる予感も合わせて表現していて秀逸。 

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 映画は大学構内、春の新入生サークル勧誘から始まる。
 POVで描かれた、キャンパスや学生サークルの部屋、そして新歓飲み会の描写はごく自然。新人がサークルのハイビジョンカメラで日常を切り取っていく体を取っている。

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 学生たちの日常としか思えない自然な描写にジワジワと忍び寄るフィクションのディーテール。日常描写として違和感があったシーン(ex. 広報写真に使われているコインロッカー前のシーン等)も見事に伏線として回収されていくテンポのいい展開。

 そして、まさかの空撮(ドローンを調達できず風船20個にカメラぶら下げたとか)による映画的ショック。

 みずみずしい感性としっかりしたストーリーの縦糸を持つ映画の構造はまさに岩井俊二の初期作を思い出させるレベル。けどその感性は21世紀の新しい今。

 僕の知ってる自主映画、特に学生映研を舞台にしたものは、映画づくりへの情熱と、あの年代特有の鮮烈で新鮮な感性が結実したような映画が傑作として記憶されているのだけれど、この映画はそうした感覚を持った上で、エンターテインメントとしての結構とサスペンス、そして映画的な映像の快感を持った傑作だと思う。

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 上映後のツイートでこの映画を観た人から、劇場で一般公開できるレベルと複数書き込まれているのを見たけれど、まさにそんな映画。

 岩切一空監督のこれからの作品も大いに期待です。 主演賞に選ばれた里々花の活躍も楽しみ。

◆関連リンク
花に嵐(青山シアター)
 有料ですが、ネットで全篇上映中!
PFFアワード2016『花に嵐』|第38回PFF

"= 今後の上映スケジュール =    
京 都 会場 】 2016年10月31日(月) 16:40~ @京都シネマ
   ※同時上映『おーい、大石』『山村てれび氏』    
【 神 戸 会場 】2016年11月5日(土) 16:00~ @神戸アートビレッジセンター
   ※同時上映『おーい、大石』『山村てれび氏』    
【名古屋 会場】 2016年11月11日(金) 18:30~ @愛知芸術センター
   ※同時上映『回転(サイクリング)』『シジフォスの地獄』"

PFFでの映画紹介ページ

"[2016年/76分/カラー] 監督・脚本・撮影・編集:岩切一空/録音:石川領一 出演:岩切一空、里々花、小池ありさ、篠田 竜、半田美樹、不破 要、吉田憲明"

岩切一空 関連 YouTube
岩切監督twitter , "i" tumblr (岩切監督tumblr)
りりかtwitter , ririka(公式HP)

◆「期待の新人監督2016」審査員コメント

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 3人の審査員からのコメントのメモです。

・ダンカン

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 昔の自主映画は何だったんだろう、と言う位、みんな本格的。
 『さいなら、BAD SAMURAI』の主役、大野さんは友達になりたくないタイプ、イライラ感がつのる(笑)。
 たけし監督の『監督バンザイ』も酷かった。自分が楽しめるのが大切。覚醒剤と同じ、映画続けるか、人間やめるか(笑)。

 岩切監督はいい芝居だった。POVでうつっている以上の芝居を想像させる。
 りりかさんは絵が持つ女優、オーラがあった。最優秀俳優はりりかさん。

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・柳下毅一郎 観客賞 岩切監督『花に嵐』言うまでもなく。観てて面白かった。まさに映画に祝福されている。それに対して『さいなら、BAD SAMURAI』の大野監督は映画に呪われている。祝福と呪いなら呪いは一生。『さいなら、BAD SAMURAI』の方が強いと思う。
 『狂える世界のためのレクイエム』は、やはりあのストーリーなら、本当にテロをやるのが映画。もう一歩踏み越えて欲しかった。

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・黒沢清
 3本とも映画を巡る物語で、皆んな青春を描いている。8mmを撮ってたのに大して格段の進歩。
 やはり青春を若い人は撮ってしまう。そして映画に、呪いか祝福か捕らわれてしまう。
 『狂える世界のためのレクイエム』映画を撮ることと女性。後半から映画を撮ることに集中。
 まず撮ることからはじまるが、気持ちよくフィクションにつないでいく。
 期待の新人監督賞『さいなら、BAD SAMURAI』は、映画を撮ることのせつなさを感じた。

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・大野監督挨拶
 映画作ってて良かった。大きなスクリーンで上映され幸せな瞬間。審査員の3人の方に観てもらい恐縮の限り。次作はガラリと雰囲気を変えて『ア二一ホ―ル』みたいな新作を撮りたい(会場 笑)。

◆関連リンク
カナザワ映画祭2016 期待の新人監督審査員講評 - 目標毎日更新 カナザワ映画祭主宰者のメモ帳 公式な審査員講評はこちらをご覧下さい。

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2016.10.07

■レポート クリスピン・グローヴァーかく語りき No.2 @カナザワ映画祭2016 ”What is it?.”上映後トークショー

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”What is it?.”上映後 Q&Aとトークショウ
 カナザワ映画祭2016 9/25(日) ”What is it?”上映の後の、クリスピン・グローヴァートークショーについてレポートします。

 前回のレポート同様、こちらも通訳を務められた特殊翻訳家 柳下毅一郎による言葉をその場でメモさせて頂きました。早いスピードで語られるクリスピン/柳下氏の言葉を聞き違えている所もあると思うので文責はBP@究極映像研です。

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 このトークは、映画が21:00に終了し、その後、延々3時間あまりに渡ってクリスピンが精力的に語り続けたものである。実は僕はメモ取っていたこともあり、23:30頃にギブアップしてホテルへ帰りました。ので、最後までのレポートでないこと、最初にお断りしておきます。3時間実施されたというのは、twitterで得た情報で確かな終了時間は不明です。さらに実際はトークショー後もサイン会が深夜まで続けられたようで、凄いタフなイベントでした。
 遅くまで対応されたスタッフと柳下毅一郎に、貴重な機会をいただき感謝したいと思います。

 今回は、”It is Fine! EVERYTHING IS FINE.”上映後のトークショーと異なり、Q&Aからスタートしたのだが、語りたくてたまらないクリスピーにより、ほとんど質問は無視した話が続き、最後に申し訳程度にAが語られるという顛末に、、、。

◆ハンディキャプの人の映画出演について
質問「ダウン症の人について、いろいろ自分も考えたが、どう思っているか?」

 彼らはダウン症の役をやっているのでない。
 ハンディキャップの人は、もっと映画に出てもよい。彼らで表現が広がる可能性あるのに他の映画で出ていないのは残念。
 (”It is Fine! EVERYTHING IS FINE.”の映画の予告篇上映)
 スティーブンは重い障害を負っている。別な物を啓発しようとした。

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 自分の心理的反応を描いた。商業映画30年の、不快な物を排除しようという圧力が働いている。観客、こんなものが映画になっていていいかと、観客のタブーに触れることを目指した。

 こうした映画の描写が心に問いかける。もともとエデュケーショナルという言葉は、自分の問いを内側に問うていくこと。商業映画はそれをなくしてる。
 ”It is Fine! EVERYTHING IS FINE.”スティーブンの出演第2作は、まさにタブーを扱っている。内容は全く違うが、同じ問いかけをしている。

(ここからスティーブンの養老院、殺人ミステリTVの話。前回のトークショーレポ参照)

◆映画技術の”進化"について
質問「カナザワ映画祭は今年で終わり、ロキシー劇場も50年の歴史を閉じる。カナザワ映画祭をどう思うか?観客とカナザワの街について何か思うところがあればコメントを。」

 "What is it?”は、9年間かかって完成し、2005年にサンダンスでプレミアム上映した。
 以来11年世界中をツアーしている。その間のテクノロジーの進化は凄い。でも35mmはとても優れた技術だと思う。
 映画にニューデジタルテクノロジーが入ってきている。デジタルが35mmを置き換える。しかしデジタルで安くなるというのは嘘である。
 フォトカムというフィルムの管理所に、例えば"What is it?”のDCPはいくらかかるかと聞いたら1万ドル。35mmフィルムを焼くのと同じ値段。

 プリント持って回っているので独立系劇場の映写技師、オーナーと話す。往々にして彼らは35mmのコレクターである。2005-10年でDCPが義務化され、デジタル上映のため劇場に数千ドルの費用負担が課せられた。これがないと、新作が配給されない。大きな劇場はその予算なんともないが、独立系オーナーは、ポップコーン代で何とか劇場を維持していて、5、6干ドルの投資はとても大きい。
 またDCPは投影システムに付属するPCのアップデートのため、数年ごとに入れ替要。35mmは百年間一緒だった。デジタルのシステムは大会社と子会社が儲ける仕組みに組み込まれている。

 これは映画と関係ない様にみえるが、大きく関係している話。
 映画のシステムは芸術の一部のはずが、会社の商業に支配され、間違った方向へ進んでる。

◆映画を支配するプロパガンダ
 (クリスピンがスマホで検索し確認しながら)1928年、エドワード・バーネイズプロパガンダという言葉を英語で初めて使った。
 バーネイズはフロイトの甥。フロイトをアメリカヘ呼んだ。メディアが無意識をコントロールしていると言った人。民主主義、知識による操作、見えない政府、支配する力。

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 今年、アメリカの政治が大資本のコントロール下にあることに民衆は気づいた。民主党のバーニー・サンダース候補が訴えた。"What is it ?"も大資本の支配を訴えたものである。サンダースによってなされた様な民衆の動きはとても嬉しい。

 1984年『バックトゥザフェーチャー』に出演したが、疑問がありシリーズの2,3には出なかった。あの映画はプロバイダと近い。第1作のオーディションでエージェントと相談。2つの役、2人の父を一人の役として演じるということで、これは良い役と思い受けた。
 マイケル・J・フォックスの役は最初5週間、別の役者で撮っていたが、役者を変えることになった。同じシーンとりなおした。
 脚本もらってから監督のゼメキスと相談した。最初の脚本と映画のラストが変わっている。

 最初の脚本ではマクフライファミリーはお金持ちになり、黒人の召使いを雇うとなっていた。ゼメキスに意見した。これだと観客の好感が落ちる。私だけでなく他の人も疑問を言ったのだろう、ラストはビフが召使いになるものに変わった。映画としてその方が良かった。
 ただそれでも納得いかなかった。この映画はお金が主役になっている。最終目標はお金を儲ければ成功だと刷り込もうとしてるようにみえる。ゼメキスにもそう話したが、彼は怒っていた。君は変な映画好きだからネ、それで『ユーズドカー』は売れなかった、と。俺は金持ちに成りたい、とゼメキスは言っていた。

 怒ったのは彼もわかっていたからだろう。お金は映画を作り宣伝するメジャーにとって良いもの。リーマンショックでもプロバガンダした人は損してない。プロパガンダをし掛ける人がいつも儲けている。
 これと同じことをサンダースも言っている。政治家への献金は合法的買収。映画も作るための活動は正しいかもしれないが、これからも圧力は強くなっていく。

 アメリカを世界の警察、道徳基準と信じられる様、米大企業はミリタリーアクション映画を作っている。
 例えばメタファーとしてエイリアンの侵略に、どこにでもあるアメリカの一家が戦う。これはまさにプロパガンダ。ビジランテ物も、敵と戦って勝つ。独立戦争も。
 実際はアメリカが最大の軍事国家なのに、いつも(軍事支配する)帝国と戦う映画を撮っている。

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 もう一つの小さなプロパガンダは、非モラルとして描かれるぶち壊す快楽。
 こういうことを話すと、君は考えすぎだ、映画は楽しめばいいんだと言う人もいるだろうが、それこそ、プロパガンダにやられてる。
 サンダース負けて、クリントン、トランプとも(資本側の政治家で)だめだと思う。しかしアメリカはこの選挙戦で大資本のコントロールを知ることが出来た。

 (柳下氏と一緒に通訳に立たれていたスタッフから元の質問を再度尋ねられ) カナザワ映画祭は、大変重要。プロパガンダに抗うホール。
 映写のコントロールで、独立系はつぶされてしまう。一番好きなのは、50年代のボードヴィル劇場。そういうのが潰れている。前回来日した8年前より大きな映画祭に成長している。決まり切った大資本の映画でない物に観客が集まってくる。プロパガンダと言わなくても観客はわかっているのだと思う。

◆次回作
 チェコにNPOで現象所持っている。35mmフィルムで映画を続けられる様にする。
 デジタルプロジェクションは良い所ある。一世代焼く回数減って画質がよくなる。ただしフィルムの粒子とフリッカーは失われる。
 次回作は、ITトリロジーとは別の一本。

◆”What is it?”について
質問「映画に登場するハーケンクロイツの意味は? マンソンの曲も使用されているが、彼も一時ハーケンクロイツ使ってた。何か意味があるか?」

 96年に2人の脚本家が持ち込んできた企画。私が監督して、本も書き直していいならやると言った。それに合意して作業を始めた。
 当時はディヴィッドリンチがエグゼクティブPでお金を集めるはずだった。
(昨日の”It is Fine! EVERYTHING IS FINE.”の話の一部繰り返し)

 元々86分を72分にして、一部撮りなおした。
 ダウン症の役ではない役を演じている映画。タブーが何故なのかを問いかけている。
 主人公と対立構造を作るためのスティーブンの出演。そしてマンソンやハーケンクロイツはタブーを入れるためである。
 大資本の映画でもそれらは出てくるが、良い物と悪い物を明確に区分けして提示している。観客に考えさせない。映画は有機的で意図しない偶然がある。これを観客に具体的に指し示す様なことしたくない。

◆35mmブローアップ
質問「”What is it?”の16mmから35mmへのブローアップどうやったか?」

 16mmはHDより粗い。HDモニタに映してそれを35mmに撮った。現在、35mmネガをスキャンして簡易デジタル化している。

◆映画へのスタンス
質問「タブーにあらがうのにはエネルギがいる。そのエネルギはどこから?」

 13才からエージェントと契約し俳優をやっていた。俳優は仕事としていいと思ってた。その前、地質学者やりたかったが、岩を砕いて何か水晶とか見っけるのとは違う仕事だということがわかった。
 13才は子役としては年をとっていてそれほど仕事なかった。その後プロに。
 20才まで俳優学校で勉強、映画におけるアート、人に疑問を持たせる仕事としてやりたくなっていた。

 そしてその後、出る映画への欲求不満で仕事を選ぶようになった。心理的に満たされる役をやろうと思っていた。8,90年代役は役にめぐまれなかった。
 (2000年~ ”It is Fine! EVERYTHING IS FINE.”撮影後のスティーブンの入院の話。そしてチャーリーズエンジェルの話。
 この後、15分程度話は続いたようですが、僕が力尽き会場を後にしましたので、失礼します)

◆トークショー感想
(以下は2回分を聴いての、BP@究極映像研による感想です)

 とにかく素晴らしいサービス精神の表れか、はたまた自らの映画についてしゃべり倒さずにはいられない性分なのか。特に2日目のQ&AのQから逸脱した語りの世界は、ある部分鬼気迫るものがあった。

 終始落ち着いた、紳士的な口調であるが、特に映画のプロパガンダについて述べたくだりは、陰謀論的な色合いが入り、観客は少し引き気味であったことは否定できない。
 ただ、ハリウッド映画に関して、クリスピンが訴える様に、メジャーの意図であるかどうかはともかく、あのようなヒロイズムが前面に出た映画群が出来上がっているのは、僕も意識的にしろ無意識的にしろ、アメリカの精神性の表象であることは間違いないと思う。アメリカ映画論としてもこの切り口は興味深い。

 そしてそうしたことへのアンチテーゼとして彼の撮った映画は、ハリウッド映画に大きな疑問符を投げかけることを目的としているという。あまりに映画の意図を前面に語られると、映画自身が持ち得たいろんな可能性がスポイルされるようで、どうかとも思うが、彼の言っているテーマが映画から明確に伝わってくるのは確かな事実である。ただしどこかそんな見方だけでない、深みをあの映画たちは獲得しているように見える。

 グローヴァー監督があれほど熱意をもって語る理由は何か、なーんてことも思わざるを得ない。
 もしかしたら、アメリカでのタブーに触れてることで、何かそれについて論理を語らないと自分の気が済まないような西欧の縛りを彼自身が背負っている証明なのではないか? 日本人の僕にわからない、強固な西欧近代の持つ秩序。そんなものに対抗するのは、彼ほどの異端を覚悟した人にとっても重いものなのかもしれない。
 なので、彼は論理的に自身の映画をあれほど雄弁な言葉で語らざるを得ないのかもしれない。

 映画はもっと芳醇なイメージを持っているはずなのに、彼がそうした縛りに対抗するためにテーマを語るほどに、彼の映画も両極の片方である、ある種のプロパガンダを表現してしまうというジレンマも持ってしまっている様に感じられる。

 前回の記事 ”What is it?”の感想で述べたように、僕は日本映画が描いているアプローチ、『あん』とかの描写の方がテイストは全く違うけれど、同様なアンチテーゼを芳醇な映画として表現しているような気もするのだ。
 全然違う映画を比較することに無理があることは理解しつつ、、、書かずにいられないのが、ここの研究所の特徴だったりするので、悪しからず(^^;)。

 クリスピン・グローヴァーのとても刺激的な映画の語りに、カナザワ映画祭10年の成果を、最後の年で初の参加者ではありますが、肌で感じることができました。クリスピンの次回作の上映は、やはりこのカナザワ映画祭しかないような気がして、是非とも今後の復活を期待したいと思います。

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2016.10.05

■感想 クリスピン・グローヴァー監督『What is it?』

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"What is it?" 予告篇(クリスピン・グローヴァーFacebook公式ページ)

 先日から連続で記事にしているカナザワ映画祭、今回3回目はクリスピン・グローヴァー監督 ITトリロジーの第1作『What is it?』の感想です。
 これに続き、次回はこの映画上映後のクリスピンのロングトーク(2時間あまり)を紹介する予定です。

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◆映画概要
 猿の顔をした裸体の女が地中の穴から現れる世界、まるでそれ全体が地中世界のように見える空間には、象の顔をした裸女、ダウン症の俳優による人間と、そして監督 クリスピン・グローヴァーが扮し玉座に座る王(神?)が存在する。

 そしてダウン症児演ずる地上世界の生活が並行して描かれる。地上世界の登場人物たちはカタツムリを中心に置き、塩で溶けてしまう蝸牛のシーンとか、人間たちの争いが描かれる。

 かたつむりが塩により溶けるシーンでは、その溶けたかたつむりの仲間(妻? 彼女?)による悲痛な叫び声が印象的に繰り返される。この声が本作の基調の辛い雰囲気を形作るように繰り返し繰り返し奏でられる(予告篇のラストで聴こえる地の底からの様な声です)。

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 さらにもう一つ、印象的に挿入されるのが、この黒人(を模した)男の顔と独白。
 タップダンスとクローズアップ、独白は後で述べるようにこの映画のテーマを表現しているように見える。

◆感想 ネタバレありご注意を!



 クリスピンによって演じられる異世界の王座が、"Is it fine? EVERYTHING IS FINE."の主役である身体麻痺の男 スティーブン・スチュアートによって奪われる。

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 黒人の独白。黒光りする顔の中に白く浮かぶ唇から語られるのは、対称の腕を非対称にしたい、焦点の合わない眼になって霊長類から脱出したいというような魂の叫び。

" 注射を打ち続けて溶けてしまいたい。なめくじになって殻に入りたい。"

 この独白と何度も繰り返されるダウン症の役者による塩を振りかけてなめくじを溶かすシーンとその仲間による死を悼む絶叫。

 これらから自ずと観客の中にわき起こるのは、この映画の全体イメージ、秩序や社会の規制から解放されたい、という意志の横溢である。これはそういう映画。

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 登場人物で鼻の高い、唯一ハリウッド的な登場人物であるクリスピン。
 他の登場人物はダウン症の役者と猿の顔のマスクをした裸女であり、鼻は扁平で低い。あきらかに意図されているのは、ハリウッド映画的価値観へのアンチテーゼである。

 "霊長類の進化の主役"たる白人(ハリウッド俳優)に対して、鼻の低さと左右非対称なダウン症の役者が、この映画の視点で観るとどんなに自由に見えることか。

 秩序の先端で合理的自我にがんじがらめになっている現代人。それを象徴するようなクリスピン演じる王の苦悩に満ちた表情。繰り返されるナメクジの塩による溶解と黒人による独白。

 本作はこの息苦しさからの脱出を謳っている映画と捉えることができるだろう。
 (この感想が前日に見た"Is it fine? EVERYTHING IS FINE."の後のトークショーの影響を受けたものであることは否めないけれど、、、。)

 幻想的な地下世界とナメクジの溶解と叫び声。
 これらから換気される悲痛さが独特のイメージを形作っています。

 本作のルックスはまさにカルト映画である。地下世界を無意識の領域として描いたような、まさにアンダーグラウンド映画。
 アンチハリウッド的な価値観を描くテーマに対して、正直この表現方法だと極端に振りすぎている印象も否めない。本来そうしたテーマを受け入れる観客もカルト的ルックで拒絶反応を示す場合もあるのではないか。僕の趣味にはバッチリ合いますが、、、(^^;)。

 昨今の映画、たとえばハンセン病者を描いた豊潤な感性の映画 河瀨直美監督脚本の『あん』とかを超えているかというと、広い観客へのテーマの訴求力ということから考えて、疑問も出ないわけではない。ハリウッド的感性に縛られない映画として、鼻の低いw俳優を多数要し、感性の豊かな映画を生み出している日本映画(それは例えば北野武映画でもいいのだけれど、、、)について、クリスピン・グローヴァーの感性での受け止め方を聴いてみたいと思ったのは僕だけではないはずww。質問しようとして言い方を考えあぐねていて手を挙げそびれました(^^;;)。

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2016.10.01

■レポート クリスピン・グローヴァーかく語りき@カナザワ映画祭2016 ”It is Fine! EVERYTHING IS FINE.”上映後トークショー


VICE interview with Crispin Glover - YouTube
(注. このインタビューはカナザワ映画祭とは関係ありません)

”It is Fine! EVERYTHING IS FINE.”上映後 Q&Aとトークショウ
 カナザワ映画祭2016 9/24(土) ”It is Fine! EVERYTHING IS FINE.”上映の後の、クリスピン・グローヴァートークショーについてレポートします。
 通訳を務められた特殊翻訳家 柳下毅一郎による言葉をその場でメモさせて頂きました。早いスピードで語られるクリスピン/柳下氏の言葉を聞き違えている所もあると思うので文責はBP@究極映像研です。

 今回は全文クリスピン・グローヴァーの語った内容。僕の感想は次回"What is it?"のトークショウレポートで書きたいと思う。

 このトークは、映画が23:30に終了し、その後、延々2時間に渡ってクリスピンが精力的にAM1:30まで語り続けたものである。遅くまで対応されたスタッフと柳下毅一郎に、貴重な機会をいただき感謝したいと思います。

✳︎以下で使用した画像はクリスピンの著作等の表紙画。文末にそれらのAmazon(日本と米国)へのリンクを掲載しました。

◆10年間の非痛な養老院生活
 まず映画の理解を深めるためにということで、本作の脚本と主演のスティーブン・C・スチュワートについて語りはじめた。

 彼はポリオでなく麻痺が続く難病。20歳で母が亡くなり養老院:ナーシングホームへ入れられる。
 彼がしゃべる言葉は、誰も理解できない。ただ一人だけは全部理解している人がいたが、それ以外の人には自分の意志をわかってもらえなかった。これを表わすために、スティーブンの会話は、映画の字幕で全て「×××」と表現されていた。

 彼は養老院を嫌っていた。体は不自由でも、本当は精神は健全だったが、言葉を理解してもらえずに、知恵遅れの扱いを受けた。出るまでの10年のホームでの苦痛。モルモン教で有名なユタ州にそのホームはあったが、彼にはモルモン教は何の助けにもならなかった。

◆映画化のきっかけ

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 彼は10年後にホームを出た後、そこでの体験を綴った文章を新聞に送った。
 その記事で彼を知ったドキュメンタリー監督ラリー・ロバートが撮ったスティーブンのドキュメンタリーがソルトレイクのテレビで放映された。

 その縁で、スティーブンのこの映画のアイデアが、ラリー・ロバートによって、後に本作の共同監督となる若手映画作家デヴィッド・ブラザーに紹介されることとなる。

 クリスピンは1983年「オーピリーキッズ」という実在人物のテレビドラマに出演。そこで二人の監督に知り合った。当時彼はスライドショーの本を短篇にしてデジタイズはしたが編集してない。
 ブラザーがスティーブンの脚本読んで、映画化しようとお金集めた。
 クリスピンがプロデュースしたいと申し出たが、1986年 映画の資金は簡単に集まらず、やっと16mmで2000年に撮影開始。映画は35mmにブローアップして上映している。

◆itトリロジー第一部 ”What is it?”

 1996年に ”What is it?” itトリロジー第一部が完成。脚本は”It is Fine! ”が早かったのだが、先にこちらを撮った。元は予定していなかったが、”What is it?”にもスティーブンに出てもらうことにした。
 元々の短篇はデイヴィッド・リンチがプロデュースする予定だった。短篇脚本が元になって、資金が集まらない映画としてはリンチプロデュースはいい。ダウン症の人が主役演じてる。

 短篇を長編に、スティーブンを第1作にも出演させ、次の長編に続く様にした。
(ここで”What is it?"予告編上映。ネットではFacebookのクリスピー・グローヴァー公式ページに動画があります→”What is it?"予告篇)。
 この2本は違うタイプの映画。第2部が自分の関わった映画の中でで一番良い。第1部も誇りに思ってるが...。中心テーマはダウン症ではない。ダウン症役でなく、ダウン症児が役者として出る映画。

◆商業映画の抑圧 it三部作の構想
 短篇撮る際に、メジャーがリンチの名(エグゼクティブP)もあるので、インデペンデントにも投資してくれると思ったが、メジャーはダウン症児に難色。大事なアイデアと説明したが、だめだった。
 短篇24ページを80分の映画にする予定だった。メジャーの意図は理解できてなかった。ダウン症児に演技させるのは難しいと言ってると思ってたが、コンセプト自体に不安を持っていたのだった。
 メジャーはダウン症児が健常者を演じるのがまずいと考えたのだ。

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 人を不安にさせるのが”What is it?”の問いかけ。メジャーは、観客がダウン症児を利用してると思うのではないか、とそこに懸念を持たれた。こうしたタブーの要素を、商業映画は嫌う。自分がどう思うかを映画にすべき。それを長編のテーマにした。35年間やってきたハリウッドに思うサイコロジカルな気持ちを込めた。

 観客がタブーと思う要素を省くのはよくない。これは何なのかと思わせないといけない。それがまさに"What is it?"である。タブーを取り除くのは、自然な疑問を抱かせることをしないことであり、それは映画でなくプロパガンダとなってしまう。

 スティーブンの脚本の影響が、短篇を長編にしてく過程で知らないうちに要素として入ってきた。なのでスティーブを出演させて三部作にしようと考えた。”What is it?”は1996~3年で完成。

◆”It is Fine! EVERYTHING IS FINE.”の撮影
 スティーブンは60歳となり肺炎とか体弱ってた。映画は彼が62才の時に撮った。
 2000年に(クリスピンは)チャーリーズエンジェルに出演し、そのギャラでこの映画を撮った。2000年にソルトレイクでこの金で撮れるぞと二人に話した。撮影は6か月間セットに籠って撮った。

 2001年初頭ロスに戻ったら、もう撮り残しはないかとスティーブから問い合わせがあった。彼はその時、入院して生命維持装置を付けていた。映画は完成できるかと心配してくれ、そして追加撮影がもうないなら自分は生命維持装置を外してもらうつもりだと言ってきた。生命維持装置を外して良いかと聞いてきた。彼はとても優しい人である。映画制作の完成保険もかけてなく、私が大損するのを知ってて心配してくれていたのだ。

 デイヴィッド・ブラザーとの共同監督はそれぞれが得意分野を抑えていて、上手くいった。

◆”It is Fine! EVERYTHING IS FINE.”の完成

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 映画は完成し、07年のサンダンス映画祭で上映。
 会場の質問でスティーブンは映画に出て何を得たか、と聞かれたが、やり尽くしてこの世を去ることができたと思う。

 これはドキュメンタリーでなくファンタシーだが、現実を描いている。
 人が映画を単に撮るのでなく、この映画は(スティーブンが)自分のファンタシーを映画の中で実際に生きたということが、貴重なものとなっている。

 この脚本を読んだ時、お金を集めないといけないと思ったのは、スティーブンが求婚して断られるシーン(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の映画に出てる女優マルギット・カルステンセン)。これはスティーブンの実際の人生であったことと直感した。

 このシーンが映画の感情的中心だと思う。これを何としても映画にしたいと考えた。
 出来上がった映画は上手く表現できていると思う。感情が表現されている。その感情の表現を日本でもお見せできて嬉しい。

◆次回作 “タイトル未定" 完成間近!
 次回作は今、作ってる。2003年からチェコで撮っている。これはitトリロジーの三作目ではなく独立した作品。父と初めて共演している。

 チェコに地所を得て、そこにセットを作った。あと1日の撮影で撮り終わる。35mmフィルムで撮るため現像所も買った。
(ここで予告篇。チェコの街だが色がデジタル的に鮮やかなシーン。石畳のプラハっぽい街。機関銃を撃つギャング風の黒帽子の男等)

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 観客との Q & A


質問 「感情的解放あった。タブーのバイアスは、当時に比べ現在、どうか」
 スティーブのビジョンを映画の形にする。商業映画がやらなかったことを商業映画にしたかっただけ。モラルは考えてない。

質問「スティーブンのファッション等へのディーテイルのこだわりは?」
 出来上がった映画は、彼の元の脚本とはだいぶ違う。いつかオリジナル脚本もなんらかの形で紹介したい。脚本はもっとセックスと殺しのシーンが多かった。それだとトリプルXXXのレーティング、ポルノになってしまう。ポルノでも良かったが、女優が親密に感情を通わせるような映画にしたかった。
 セクシャルなグラッフィックを取り除くのはNG。映画を本当の体験にしたかった。女優優れてて感情を通わせた。
 スティーブンは完成品見てない。観たらきっと喜んでくれ、誇りにしてくれたと思う。

質問「8年ぶりに観た。入れ子のドキュメンタリーになっている。殺す憎しみの感情は?スティーブンが自分の出演料を女優に贈ったということだったが、どの女優に贈ったか?」

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 制作費は20万ドル。
 夢落ちでなく映画の中で、(スティーブンの妄想が)本当に起こってたら面白い。
女性嫌悪の映画だという反応も無理もないと思う。
 スティーブンはここにいたら喜んでくれただろう。彼はとても女性を尊重してた。
10年間の閉じ込めらてた怒り。怒りに満ちた映画。そこが女性嫌悪に見えるかもしれない。

 70年代のTVでミステリームービーウィークといって『ロックフォード事件メモ』 『刑事コロンボ』とか放映されてたものをナーシングホームで見てた。その経験から殺人ミステリーが一番ぴったりきたのではないか。
 (スティーブンが物語を作る際に)定型のドラマに落とし込んだがそこに深みが出たのではないか。

質問「スライドショウと映画の関係は?」
 コラボレーションになっている。今日のよりも明日の方が関係は明確だと思う。
 クリスピンの書いた本が映画のテーマにも繋がっている。今日のはスティーブンの作った話で関連は薄い。
 15万ドルの費用を6年のツアーで元をとるために色として、ビッグスライドショウを付けている。

質問「好きだと言われてたファスビンダーの影響?」
 ファスビンダーの映画は、”What is it?”を編集していた90年代後半から観ていた。感情的知性の表現で優れている。凄い。
 キューブリックは映像は凄いが、感情が一つの画面に結実することはない。
 元はクリステンセンでなく80年代のUSのテレビ女優を使うつもりだった。USテレビ的美。脚本送って露骨なセクシャルシーンがあると言ったらこれはダメだという反応。
 そこでファスビンダーの映画をちょうど観てたためカルステンセンに申し入れ、すぐ出てくれるとなった。

質問「日本のバラエティで障害者を笑いにしたり、感動的にしたり描いている。これをどう思うか?」
 現実は冷たい。
 今作は、啓発する映画として作ったわけでない。
 次作もハンディキャップの人に結局、出てもらうことにしたが、私はそれにより彼らの独特のカルチャーを出すのがいいと考えている。

質問「タイトルはスティーブンによるものか?」
 スティーブンのタイトルは別のものだった。
 Everything is fine.という時は、絶対大丈夫でない時に使う。
 スティーブンの脚本は、エンディングも違う。ヘロンウィルス(?)とかホラーっぽいラストだった。

◆関連リンク
クリスピン・グローヴァー - Wikipedia
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー - Wikipedia
マルギット・カルステンセン

Amazon.co.jp: Scarling : Crispin Glover/Love Becomes a Ghost [Analog] - ミュージック
Amazon.co.jp: Rat Catching: Crispin H. Glover: 洋書
Oak-Mot : Crispin H. Glover : 洋書 : Amazon.co.jp
What It Is, And How It Is Done: Crispin Hellion Glover: Amazon.com: Books

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2016.09.26

■感想 デヴィッド・ブラザーズ, クリスピン・グローヴァー監督 スティーブン・C・スチュワート脚本主演『It is Fine! Everything is Fine.』


Crispin Glover Film "It's Fine" Trailer - YouTube

クリスピン・グローヴァーが金沢に帰ってくる!! カナザワ映画祭2016で「ビッグ・スライドショウ」を開催 - カナザワ映画祭主宰者のメモ帳

" 「クリスピン・グローヴァーのビッグ・スライドショウ」とは、 ハリウッド・メジャー大作で活躍する俳優クリスピン・グローヴァー。彼は、ライフワーク「ビッグ・スライドショウ」のため、自らフィルムを抱えて全米各地と欧州各国を興行。
 そして、2008年以来満を持して、今年ハリウッドから金沢まで帰って来る! ショウは、グローヴァー本人によるスライドショウに始まり、映画の上映、Q&Aと続き、サイン会で幕となる。
 これまで誰も見たことのないイメージの連続、片時も目が離せない! この機会を見逃すな!

9/24(土)
・ビッグ・スライドショウ
・『It Is Fine! Everything Is Fine.』上映
・Q&A ・サイン会"

 クリスピン・グローヴァー監督の It トリロジー第2作である本作を、カナザワ映画祭2016で観た。今回、日本での上映は8年ぶりの2度目。前回、見逃して物凄く残念な思いをしたので、今回は是が非でも、と金沢で初めての映画祭参加となりました。

 まずは参加した1日目に観た『It Is Fine! Everything Is Fine.』について。
 そして次回の記事で、参加2日目 金沢映画祭10年の歴史の幕引き作品になった It トリロジー第1作『What is It?』について感想を書きます。
 最後に、両作品上映後に実施され、1.5時間と2時間たっぷりと語られたQ&A(というかほとんどがクリスピン・グローヴァーの想いがたっぷりと詰まったトークショー)について、膨大なメモを取ったので、その内容についても別に記事として御紹介予定。

 このトークショーについては、映画の成り立ちとそのテーマがこれでもかというくらいに語られて、今回、最初に書く感想はできるだけ自分の鑑賞後の受け取り方を中心に書くつもりですが、トークの内容に影響されていることを予めお断りしておきます。

 今回この二度目の貴重な機会に参加できなかった方に、記事からこの奇想映像と語りを少しでも体感頂ければ幸いです(メモの整理に時間がかかるため来週以降の公開となります)。

◆感想 『It is Fine! Everything is Fine.』

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 噂のカルト映画初見。
 評判通り、確かに今までどこにもない奇矯なドキュメントのような映像記録であり、そしてフィクションでもある唯一無二(少なくとも僕は知らない)の映画。

 まず円形の鏡(カーブミラー)に映し出されたスティーブン・スチュアートの姿。カメラが引いていくと、鏡全体とその下に老婆の顔。手前に車椅子が倒れて顔を床に付けたスティープンの姿。
 ここのカットが、実相寺ばりのショットで、その後もトリッキーな画面レイアウトで見せる冒頭になっている。

 後の記事に感想を書くIt トリロジー第一作 クリスピー単独監督でクレジットされている "What is it?" には、こうしたショットはないので、この作品からスタッフとなった(撮影?)人の趣味か、もしくはクリスピンが実相寺を観たかのどちらかだろう(ここはジョークですw)。以上、予告篇にも一部入っているが、映像のルックとしてはこうしたトリッキーなシーンもあるものの全体のテイストは、それほど奇異な映像表現があるわけではない。

 では今までどこにもないというのは何処か。
 それは、脚本主演を務めたスティーブン・スチュワートという身体麻痺のハンディキャプを持った人物が、自らの死の一ヶ月前(正確にはトークショーで語られたが彼はクリスピンの映画の完成に自身の撮り逃しのシーンがないか、クリスピンに確認し、完成できると聞いた後、生命維持装置を止める様に入院していた病院関係者に言って撮影の一ヶ月後になくなったという。もし追加撮影が必要であるなら彼はその責任感から意地でも生き続けたであろう)、まさに命を削るようにして演じたポール・ベーカーという自身を模した人物の思考と行動である。

 思考と書いたが、彼の言葉は麻痺のせいでほとんど観客に聞き取れず意味不明。字幕は彼の言葉は全て(意味がわかる極少ない言葉も含めて)「×××」と表示される。なので実は思考は本当のところ不明で、その行動と彼の言葉をわかっているかもしれない、他の登場人物の反応を見ることからしかそれを推定することはできない。

 もしかしたら彼の思考は他の登場人物にもわかっていなかったのではないか、という解釈すら映画からは感じられる。それぞれ彼と言葉を交わす女たちは、自身のほしい答えを勝手にポールの言葉から受け止めているだけである可能性がある。そうして彼に気持ちを預けて行くわけであるが、時々挿入される彼の頭の中の妄想は、彼女らがハンディキャップの彼に持つ素朴な善意とは全く無関係の性的な妄想である。

 そして彼との性的な関係を結び、そのさなかに彼の麻痺した腕で絞め殺されていく女たち。実はこの映画、連続殺人鬼を描くミステリータッチの物語を持っていたのだ。

 そして映画の中で、スティーブンはポールとして演技であるとともに、自身としてもたぶんセックスをしている(映画はノーカットで彼の局部を写してその実態を映し出している)。
 これが初めてだったかどうかはともかく、彼はこのフィクションで明らかに自分の積み上げてきた妄想を実現しているのだ。ここが映画に異様さとして、ドキュメンタリーがドラマに深みを与えている部分である。

 映画の使用している音楽はクラシックとどこかで聴いたことのあるポピュラーミュージックを使っていて、使い方を含めて、正直斬新ではなくTVドラマ的。
 そこはトークショーで語られた様に、養老院で精神的に幽閉されたスティーブンがTVで観ていたミステリードラマをなぞっているのがもしれない。

 異様なスティーブンの妄想がフィクションと、他の俳優たちとの現実の行為による彼のリアルとしての体験によって、他のどこにもない奇矯な映像がスクリーンに現出し、観客に異様な迫力をもたらす。

 後日アップするトークショウでクリスピーからその映画としてのテーマが語られるのであるが、それはまた別の話。映画そのものの迫力とは、もしかしたら別かもしれない監督の狙ったもの。もし後日の記事も含めて、その狙いの実現とギャップの両方を体感頂ければいいのですが、、、。 

◆関連リンク
It Is Fine! Everything Is Fine. (2007) - IMDb

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2016.09.21

■情報 芸術暗黙知の言語化 「森山威男 スイングの核心ー1970年代日本におけるフリージャズの創造」

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森山威男 スイングの核心ー1970年代日本におけるフリージャズの創造 | 先端芸術表現科|Intermedia Art

" 70年代のジャズシーン、日本に出現した特異なフリースタイルとは、いかなる身体性をそなえていたのか。
 山下洋輔トリオのドラマー・森山威男本人が、若き日の実験を語り、実際の演奏でフリージャズの核心を伝える実践的講義を行います。"

KAKEN — 森山威男のフリースタイル奏法のデジタルアーカイブ作成および対話を通じた分析と考察

"ジャズドラマー 森山威男氏が「山下洋輔トリオ」在籍時に編みだし、世界的な評価を得たフリースタイルの演奏技術は、現在は継承する者もなく、当人の身体に暗黙知として埋め込まれたままとなっている。"
" 森山氏単独の演奏と分析を撮影することまでが初年次の課題だったが、それは夏に終了し、その後に予定外の山下氏・坂田氏とのデュオを収録することができ た。今回の研究目的を超えることではあるが、デュオ映像を収録したことだけでも大きな研究成果であり、音楽界にとっても貴重な貢献ができたと考える。"

 毎年参加している「森山威男ジャズナイト」で告知されていた興味深い講演。
 音楽の分野では、芸術の暗黙知の言語化がこのように進められているのですね。この講義、聴きたいです。

 凄まじい勢いで自由に奏でられる森山ドラム。その秘密が解き明かされようとしています。山下トリオの映像記録から何がわかってくるか、今後の研究もとても楽しみです。

 音楽だけでなく映像の分野でもこうした暗黙知の言語化という研究は今後ますます重要になるように思います。
 例えば、アニメーターの暗黙知もこうした研究が望まれます。
 もし金田伊功氏の在命中に詳細なインタビューとあのアニメートの技が暗黙知から言語化され解析されていたらと残念でなりません。言語化されていたら、天才の仕事は何らか次代に引き継がれ、その作画芸術の遺伝子は、引き継がれていたのではないか。金田モドキという作画は世に多いですが、その本質から離れている形式的な模倣のように観えます。あの作画の本質を正当に引き継いだアニメートをどこかでみたいと思うのは僕だけでしょうか。

 また監督としてでなく、あの独特のリズムを持った動画作画家としての宮崎駿氏のアニメートについても、いろいろ制作中の映像は残ってますが、今のうちにNHK Eテレの漫勉のような、その描き方を映像と本人のインタビューから紐解くようなアプローチが望まれます。

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2016.09.18

■邪推 『シン・ゴジラ』は、由比ガ浜 から 東京電力 福島第一原子力発電所を目指していた

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由比ガ浜海水浴場 から 東京電力(株) 福島第一原子力発電所 - Google マップ

 シン・ゴジラの進行ルートについて、何故「東京駅/皇居」を目指すのか、というのをつらつら考えているのですが、ふと思いついて、東京電力 福島原発を目指していた経路の途中にたまたま「東京駅/皇居」が存在した、という可能性を検証してみました。

 上陸地点と言われている由比ヶ浜から原発を目指してひたすら進むとその直線上に東京駅/皇居があるのではないか、と。
 結果はピッタリ直線でないものの、ほぼ直線上であることがわかりました(赤線はGoogleマップに追記)。
 またGoogleの徒歩経路検索では、福島原発を目指してほぼ東京駅を通過する(下図 拡大地図の連続した青丸を参照)経路を、ゴジラに指し示していますw。

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 牧悟郎元教授の「修羅」が、彼の妻の悲劇に由来するとして、それが福島原発事故に関係するものだったと仮定。
 牧悟郎は、放射能を感知してそちらに向かうようなこの生物の習性を利用して、シン・ゴジラを福島原発へ向けて東京湾で解き放った。東京湾で開放すれば、巨大不明生物は原発事故現場へ直進するコースを選び、東京都心部を破壊した上でそこへ向かうことになる。

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 ゴジラが明確な目的地を持つ、というのはあまりに人工物的で違和感があり、不気味な生物がその習性でただ無目的に進行する、その生物の習性を利用して牧元教授が復讐を図った、という設定の方が相応しいように考えられるので、この仮説もありえるのではないかと(^^;)。

 この映画の時代、原発の放射能がゴジラの感知機能に引かかるほどのレベルか、という問題はありますが、、、そうした想像も可能性はありますね。、、、となると続篇は解凍したシン・ゴジラ第五形態が原発を目指すことになるのか、、、??

◆関連リンク
ゴジラは庵野自身であり、現天皇でもある:日経ビジネスオンライン

"ゴジラとは一体?
 色んなものでありうる。日本人の「無意識の器」みたいな存在だといってよい。

『シン・ゴジラ』には、ほぼ悲惨な姿の死体、負傷者が出てきません。1度だけ瓦礫の下に埋もれた犠牲者が見えたという話がありますが、それも、血は流れ ず、身体の一部が見えるだけのようです。これは災害時の日本のテレビ・新聞報道を正確になぞった表現ですね。明らかに意図的な演出でしょう。ではこれはな ぜか。死者たちと負傷者たちはどこにいったのか。日本の主要メディア・エンターテインメント界の表現は、いまや自主規制の極致にあり、見えない文化的コー ドの制圧下にある。

 死体はいっさい出てこない。血もどこにも流れない。汚濁、見たくないものは全部、視界から隠され、抑圧されている。その抑圧されたものが全部、ゴジラに集約されている。そしてそのゴジラが、すべての画面に現れないものの体現者として、大量の血を流し、苦しみながら歩む。"

 この加藤典洋氏の分析は興味深いです。
 無意識の器として、ゴジラは日本人にとっての「天皇」でもあると解釈されています。ゴジラが何故「東京駅/皇居」を目指したか? 何故なら彼は「天皇」だから、、、と典洋氏は直接書かれてはいませんが、この説から読み解くこともできます。
 いろいろシン・ゴジラ論を読んでいますが、「東京駅/皇居」を目指した理由について書かれた最も鋭い評論だと思いました。

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2016.09.12

◼︎感想 ヤノベケンジ個展 「CINEMATIZE シネマタイズ」図録DVD @高松市美術館

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 先週観てきた「ヤノベケンジ シネマタイズ展」の図録について、紹介する。上の写真がそのパッケージ。この中に4枚のDVDと10ページのリーフレットが付いている。

 今回の図録のメインはDVDディスク4枚。企画展のコンセプトである作品の映画的な物語性、というところに合うような、動画化されたヤノベ作品の記録である。まさに図録自体が、「シネマタイズ」されたものとなっている。
 各4枚のディスクについて、以下、簡単な紹介と感想です。まず全体のコンテンツは以下の画像を参照。

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 ディスクには、「CINEMATIZE」の文字とチェルノブイリへ入ったアトムスーツの画像。各ディスクの内容は、以下ディスクごとに、そのメニュー画面でコンテンツを紹介する。

◆Disc.1

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 これが今回の展示を紹介するメインディスク。会場でも流されていた「映画 "BOLT" 予告映像」「"CINEMATIZE" 予告映像」、そして「CINEMATIZE メイキング映像」のロング版。合わせてそのメイキング映像にも含まれている「林海象インタビュー」と「永瀬正敏インタビュー」。そして最後に福島ビエンナーレについて「渡邊晃一インタビュー」。

 「CINEMATIZE」に込められたもの、「BOLT」でのヤノベと林海象のコラボレーションの詳細がとても興味深くドキュメントとして述べられている。
 ヤノベファン、林海象ファンはもちろん、アートと映画のコラボレーションについて興味のある向きには必見。

◆Disc.2

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 こちらの冒頭は、まず「シネマタイズ」についてのヤノベ氏の説明。ここではヤノベが「大阪万博会場の未来の廃墟」で受けた子供時代の影響から、初期の作品、そしてサヴァイバル、リヴァイバル、トらやん、そして311後の作品へと繋がっていく。
 そして「"シネマタイズ"ガイドツアー」ヤノベ氏本人による会場各作品の詳細解説。これは高知が遠く来訪できなかったファンには、展示会の全貌がわかる擬似ツアーとなっていて、たいへん貴重。のちに詳細を述べるように本DVD図録は、高知市美術館のショップ通販でも購入できるとのことなので、ファンは是非お申し込みを。

 僕が興味深かったのは、Disc.1,2で述べられているヤノベケンジの福島でのプロジェクトについて。よく知らなかったのだけれど、福島の地元企業(酒造)と太陽電池ファーム(会津電力と飯館電力)にオブジェクトを制作する企画とのこと。
 「シネマタイズ展」でも展示されていた「風神の塔 : IITATE Monster Tower」は、飯館電力に建てる予定のモニュメントとして企画されたものの、1/2像とのこと。"IITATE"と銘打たれていた理由がここでわかった。

 このプロジェクトが実現したら、僕も福島現地へ是非行ってみたいものだ。

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 Disk.2の後半は、過去作の動画。ここはデビュー作「タンキングマシン」にはじまる最初期作品の展示紹介動画。初期作は、現在、ヤノベケンジ作品の動画を撮影編集されている青木兼治氏と別の、石橋義正氏による映像(「TANKING MACHINE」「妄想砦のヤノベケンジ」)。
 現在の落ち着いた雰囲気とは別の血気盛んな若々しい(かなりやんちゃな)ヤノベ氏作品の雰囲気が興味深い。

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◆Disc.3

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  「アトムスーツ」プロジェクトから、「ウルトラ - 黒い太陽 -」、「ザ・スターアンガー」、そして あいちトリエンナーレ「太陽の結婚式」「パンテオン - 神々の饗宴 - 」まで。近作の記録映像である。
 僕は2004年からこの究極映像研でこのあたりの作品について、追いかけているので、それぞれにとても懐かしい想いも湧き、当時のことを思い出しつつ拝見した。

◆Disc.4

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 こちらは過去作から近作まで幅広い時代作品をまとめて観られる、ある程度長めの動画。ヤノベケンジ作品の全体像をつかむには、優れた映像記録になっている。
 特にやはりメイキング映像がとても興味深い。ここらあたり、特に京都造形芸術大ウルトラ・ファクトリーの学生さんたちの活躍が見られて、近作がウルトラ・ファクトリーなしには成立しない関係性が制作プロセスを見ることでとてもよく理解できる。

図録の通信販売 | ショップ | 高松市美術館公式サイト

"高松市美術館では、開催された展覧会図録及び収蔵品図録のうち、在庫があるものについて通信販売を行っております。

「ヤノベケンジ シネマタイズ」   

発行年:2016年7月
重量:206g 価格:1,980円 送料:¥215"

 こちらのサイトで、通信販売が開始されています。
 興味を持たれた方は、詳しくはリンク先のショップページをご覧になって、ご購入を検討ください。値段も手頃で、とても充実した映像記録なので、お薦めです。

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2016.09.05

■感想 ヤノベケンジ個展「CINEMATIZE シネマタイズ」 @高松市美術館


BOLT Teaser - YouTube

ヤノベケンジ個展「CINEMATIZE シネマタイズ」 高松市美術館 | 京都造形芸術大学ULTRA FACTORY

"ヤノベケンジ展 「CINEMATIZEシネマタイズ」
2016 年7 月16 日(土) ~ 9 月4 日(日) [会期中無休]
高松市美術館公式サイト
「シネマタイズ」とは、ヤノベがストーリー性とキャラクター性のある虚構的作品を様々な場所に設置するととで、空間や現実自体が映画のように変容する効果を意味しています。 初期から最新プロジェクトまでの実作の展示 に加え、資料展示やドキュメンタリー映像の上映を通して、ヤノベ作品によって「シネマタイズ」された様々な空間や現実の歴史を追います。さらに、展示室全体を映画セットにするインスタレーションが行われ、実際の公開映画のための撮影も予定されて います。まさに、美術館自体が「シネマタイズ」される画期的展覧会です。"

映画『BOLT』公開撮影を行います!

"高松市美術館特別展「ヤノベケンジ シネマタイズ」(9月4日まで)において、映画『BOLT』の公開撮影を以下の通り実施します。

2016年8月29日(月)~9月4日(日)9:30~19:00(日曜~17:00)※入室は閉館30分前まで

【 撮影の観覧方法 】
・企画展示室(2つ目の展示室)にお進みいただき、観覧スペースから撮影風景をご覧いただきます。"

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 会期最後の週末9/3(土)に、高松市美術館のヤノベケンジ『シネマタイズ』展を、観て来た。ヤノベ作品の歴代広範囲の展示と、世界初と言われる美術館での展示作品をセットとして利用した映画撮影とその撮影風景そのものを展示物としてしまうというインスタレーション。

 今回の展示作品は、今までのヤノベ個展等でほぼ全て観ていたので、僕の関心は作品が作る今回の美術館の空間と、映画撮影である。まず展示レイアウトは以下の通り(拡大して配置図と作品リストを御覧下さい)。
(★今回の中心テーマは「映画撮影」ですが、それについては後半で述べます。)

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◆歴代作品の展示 と 未来
 まず展示空間としては、美術館の広いエントランスホールを入ると、フローラとサン・チャイルドNo.2の巨大な姿。ホテルのような開放的なホールの近代的な建築とマッチして、華やかな未来的な空間を作っている。

 そして2Fへ上がって、時代ごとテーマごとにヤノベ作品の時代ごとの全貌を紹介している。時期ごとに初期から以下の順に展示されている。各時期の代表作が展示されていて、ヤノベ作品がどう推移しているのか、コンパクトに全貌が分かる。

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「1.誕生 Rebirth」
「2.サヴァイヴァル Survival」
「3.アトム・スーツ Atom Suits」
「4."未来の廃墟"への時間旅行 Time Travel to "The Ruins of the Future」
「5.未来の太陽 The Future Sun」
「6.リヴァイヴァル もう一つの太陽 Revival : The Another Sun」
「7.トらやんの大冒険 ヤノベケンジの代弁者 The Great Adventure of Trayan : The Agent of Kenji Yanobe」
「8.シネマタイズ CINEMATIZE」
「9.風神の塔 IITATE Monster Tower」。


 僕が今回の展示で、初めて観た作品は
「5.未来の太陽 The Future Sun」のコーナーにあった「太陽の島」(模型と構想図 右写真)。
 以前あいちトリエンナーレで「太陽の神殿 サン・チャイルド島」という神殿を模したアート展示場兼結婚式場というプロジェクトは、その模型と合わせて壮大な企画を見たことがあったけれど、今回はそれを超える壮大なもの。

 島全体がリゾートで、巨大なアリーナと宿泊施設、そしてアートギャラリーが一体となり、亀の島を形成している。

 ヤノベケンジによるプロジェクトは、どんどんと妄想を増し、ついに会場に浮遊する島。「太陽の神殿」という建築を超え、巨大な都市の創造へと向かっているようだ。
 次は宇宙を飛ぶ人工宇宙都市へと妄想の力を広げていくのかもしれない。(という僕の妄想(^^;))


◆インスタレーション 映画撮影

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 特に林海象監督による映画撮影は、アトムスーツが福島原発事故の現場へ投入された虚構を、美術展の中で観客にも疑似体験させるという画期的な試みだったかと思う。


 実は最初、会場で撮影の準備を見ながら、撮影の待ち時間にいろいろと考えていたのは、以下のようなことであった。

 美の展示場に、映画の現場というバックヤードが現れて、会場を土方な現場に変貌させてしまう違和感がまずあった。
 
ハンドジャッキやディレクターズチェアやトンカチや電源コードやガムテープが存在する雑然とした美術展空間にまず違和感を持つ。

 違和感を異化作用として、作品のように変貌させる手がないかどうか。美術展での映画撮影という前代未聞のイベントはそうした課題を残したのかもしれない、なーんてことを思っていた。

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 しかし、撮影が始まり展示場の照明が消され、映画の照明が原発の高濃度放射能汚染水のタンクに模した「黒い太陽」と永瀬正敏の黄色いアトムスーツ姿に照射された時、会場は一瞬にして虚構の原発事故現場に変貌したような(錯覚かもしれないが)感想を持った。

 監督が観客に説明されたのは、このシーンは、映画「BOLT」のクライマックスで永瀬正敏と金山一彦が、原発事故(展示されていた企画書には2011.3/11と明確に書いてあったが説明ではある原発と言われていた)で臨界を超えて
紫のチェレンコフ光を放つ空間に、アトムスーツで決死の作業に向かうシーンだという。

 暗くなって雑多な準備品が見えなくなり、まるで映画フィルムが現場のカメラのカットでのみ切り取る映画空間に近いものが照明の効果によって展示会場に現れたのかもしれない。


 そしてその時に僕が思ったのは、以下のような感想である。
 チェルノブイリにアトムスーツで潜入し、事故を作品として芸術に取り込むことに、
そこに住む住人と会ったことで罪悪感を感じたヤノベが、今回、初めて展示の形として、アトムスーツを福島原発事故の現場に投入したのはとても画期的ではないか、ということ。

 福島でもいろいろな活動をするヤノベケンジであるが、チェルノブイリの時のように、安易にアトムスーツで原発事故現場周辺に行くようなことはしていない。それはそこに住む/住んでいた住人の人々の感情を慮ってのことではないだろうか。

 それが今回、アトムスーツがチェルノブイリに続いて、原発事故の現場に立つ。
 虚構の映画空間を利用することで、ひとつ芸術としての昇華を達成し、禁断としていた原発事故に直接切り込むような表現が可能となったのではないだろうか。

 そこらあたりの作家の感情的な変化については、どこかで是非伺ってみたいものである。ただ、映画という虚構とヤノベの「妄想」の掛け算ではじめて実現した画期的な出来事であるように、その映画撮影風景を観たときに僕には思えた。

 そして撮影現場では、その「黒い太陽」に対峙するように、観客側には「風神の塔:IITATE MONSTER TOWER」がその巨大な姿を現している。
 福島に伝わる伝承(
オンボノヤス,大多鬼丸)に見立てた「風神の塔:IITATE MONSTER TOWER」は、風を「黒い太陽」に送り、150人程の観客を放射能から守る形になっていたのではないか。

 原発事故で戦うアトムスーツ姿の男たちの虚構のシーンを、見守る観客を守る風神の名は、飯館村から取られた「イイダテ・モンスター・タワー」。ヤノベが原発事故によって感じてきたいろいろな事象がこの展覧会会場に込められていたのではないかと思う。



 今回の展示と撮影は、京都造形芸術大と東北芸術工科大の大学生がボランティアスタッフで大いに活躍されたとか。彼らは近所の神社に合宿して撮影に参加したとのこと。暑い夏に本当にご苦労様でした。末筆ではありますが、素晴らしい作品をありがとうございます。

 予定されている2017年の映画公開、楽しみにしています。またその映画と美術作品とを展示した新たなる「シネマタイズ」展も期待しています。


◆その他 メモランダム

・SF番組からスタートしたヤノベのものづくり(仮面ライダーのコスチュームとかガメラを学生時代に作っていたとか)が、ここで映画と融合する必然w。
 
・美術館の天井に合わせて無理矢理円錐部を切り取られた黒い太陽が痛ましい。もう少しあの会場の天井が高かったら、もっとあの空間の異質さは増していたのではないかと残念。

実は出演者としてクレジットされていた、(林監督作品「濱マイクシリーズ」の脚本を担当した)天願大介の作品に最近良く出ている月船さららを会場で観ることを楽しみにしていたのだけれど、残念ながら既に撮影シーンは終了していた様で、姿はもう会場で上映されていた8/29,30の撮影風景のビデオのみ。

 それはタンキングマシーンに洋服で入るシーンで、物語の中で、どういう位置付けのシーンになるか、想像力を刺激する。

・林海象監督はデレクターズチェアに座り、スタッフが準備する間、じっと何かを考えていた。あの探検隊の帽子はトレードマークなのかな。短パンと白いハイリックスに帽子が妙にマッチしている。
・撮影会場は永瀬正敏と金山一彦といった俳優ファンの女性たちが多数いらっしゃったようです。僕のようなおじさんは少なく少し浮いた感を持ったのだけれど、会場で少しだけ山形浩生氏に似た方を見かけたのは気のせいか。たぶん違うだろうけれど、以前からヤノベ作品を評価している山形氏がもしあの撮影インスタレーションを見られていたらぜひ感想を聞いてみたいものです。

・金山氏のあいさつが面白かった。会場の
3歳児とやりとりしながら「今からピカチュウみたいな服を着て現れるよ」。アトムスーツは確かに黄色くて似ている(^^)。
禍々しい黒い太陽が安全をアピールすべき原発で、冷却水タンクの意匠として採用されることはありえないだろう。但し、原発の禍々しさを心象風景として表現する抽象かの結果としてはありえたかもしれない。

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2016.08.29

■感想 新海誠監督『君の名は。』


「君の名は。」予告 - YouTube

 新海誠監督『君の名は。』初日観てきました。今日はネタバレなしの感想です。


 ★★★ 一部、物語の舞台については具体的に触れているので、前知識なしに観たい方は御注意ください。 ★★★




■劇場の客層
 実は、新海作品を劇場で観るのは今回初めて。全作観ているのだけど、いまひとつ波長合わないので劇場までは行ってなかった。でも前作の『言の葉の庭』が今までと作風は延長上なのだけど、何処か印象が違って作品の昇華度が高かった。そして今作は素晴しく前評判が良かったので、最近癖になってる週末、会社帰りにいつものイオンシネマ大高で初日の18:35回を観て来た。

 劇場はこの映画館では中程度の広さで、7割の入り。ほぼ20代男女。『シン・ゴジラ』の初日の年令層との差は歴前。きている方々が新海ファンなのか、それとも楽曲を提供しているRADWINPSのファンなのかは、判然としない。うちの娘がラッドファンなので、聞いてみようかとw。

■何と地元が舞台
 冒頭予告篇にもある流星のシーンが素晴しい。そこにかぶる新海節の独白にはじまり、急展開な物語、と何かどこかで聞き覚えのある方言。何とこの映画、飛騨が舞台。うちは同じ岐阜でも南の東濃なのでイントネーションは結構、違うけど、明らかに親近感のある言葉、そしてところどころ出てくる「高山ラーメン」の看板とか見知った光景(^^)。

 twitterで検索すると、この夏の長編劇場版アニメは、岐阜ブームらしいので、また吃驚。
 『聲の形 』の舞台が大垣市、『ルドルフとイッパイアッテナ』が岐阜市に帰る話、そして『君の名は。』の舞台が岐阜県飛騨市(古川駅が出てくる)付近に設定された架空の街。

 飛騨を舞台にしたという山の中、何もない感はなかなかの親近感でした。飛騨の山々と星の流れがとてもマッチしている。特集本をみると企画書では山中の村か島の設定とのことでしたが.....。

 新海監督自身山の国である長野出身だけれど今回何故岐阜を舞台にしたのか聞いてみたい。雰囲気としては山深い森の多いシーン、そこにある少し神秘的な情景を持つ山村というのが飛騨にイメージが合ったのかもしれない。ちなみにカミオカンデがあるのは飛騨市神岡。そうした宇宙とのつながりのイメージも影響したのかもしれませんね。

 あえて岐阜県人としてひとつ苦言を呈すると、「あほ」という言葉は「たわけ」と言ってもらった方がより地元感が出たかと(^^)。

 それにしてもこの映画が岐阜県の北部 飛騨地方では上映されていないのが残念でならない。現在、飛騨には映画館が実はないのですね。

■総論 
 と以上は映画そのものに大きく関係するわけでないどうでも良い話地元話なんですがw、ここからが本題。

 物語の不思議の提示とある危機をめぐるサスペンス、そしてそれを裏打ちする日常の確かな登場人物の息遣いの聞こえてくるエピソードのてんこ盛りで映画は息つく間もなくクライマックスへ。ここの捻り方が絶妙で、上手い構成に涙腺をやられます。
 SF映画としても、よくある設定を重層的に重ねることで、新しい緊迫感が生まれていて、壮大な流星の光景とともに見事なSFの「絵」を構成しています。

■映像について
 これ以上書くとネタバレになるのでストーリーについては止めておきますが、映像は超絶な背景とかは今回少し薄味。全体が110分と長いので、新海監督自らによるあの超絶な光と影による光景描写はある一定程度の領域に留まり、冒頭とか山の中の紅葉シーンとか絶品なシーンはあるのですが、そこは今回少なくて、一般的なアニメの背景的シーンも多かったかな、と。

 今回の見所のもう一つはアニメーターの作画シーン。作画の良いパートは何とも素晴しい出来。
 エンドタイトルを見てると作画監督のジブリ出身安藤雅司氏の他に、沖浦啓之、橋本敬史、松本憲生、井上鋭、黄瀬和哉氏といったスーパーアニメータの名がクレジットされ、さらにジブリの名アニメータ 稲村武志、田中敦子、賀川愛氏といったの方々の名前がある。あのアニメーターはこのシーンかな、とかいろいろ思い致るも想像でしかないので、担当シーン情報が知りたいものです。twitterで検索すると幾人かの人が幾つか予想していて面白い。

 橋本敬史、松本憲生氏は流星のシーンとか、途中の抽象画的シーン、沖浦啓之氏は主人公たちが駆けるクライマックスのどこかかな、とか。沖浦氏は、例によって(?)ミニスカートのシーンかもしれない(^^)。

 いずれにしても今までの新海作品の良い部分と、ジブリ、IG等の日本アニメの財産が結晶化したような映画作品になっています。そして前述した丁寧な日常の積み上げとひねりの効いたクライマックス。新海作品で波長の合わなかったセンチメンタルに振ったシーンも、緻密で稠密な重層的物語構造によって、自然に流れに身を任せて物語に惹き込まれて観ることができる、なかなかの傑作です。

 ラッドの歌も、少し五月蝿いかな、と思うところもあったけれど、映画の雰囲気に合っていて、作品の厚みを増していてとても良かったです。

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2016.08.24

■感想3 (後半ネタバレ) D-BOX 庵野秀明 総監督/脚本, 樋口真嗣 監督/特技監督, 尾上克郎 准監督/特技総括『シン・ゴジラ』

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 『シン・ゴジラ』3回目@イオンシネマ大高、DBOXで8/16(火) 21:20回を観て来た。さすがにこの時間帯、客は2割の入りで、DBOXがその半分くらい。

D-BOX(ディー・ボックス)|イオンシネマ
 DBOXは初体験だったのだが、席が上下前後左右に動く仕組みで、4DXの様なにおいや水、スモークと言った演出はない。そして4DXの様に大きな音や、画面の中で何かが動くとめったやたらに振動する様な事はなく、演出が落ち着いている。

 感覚的には画面のすぐ手前に自分がいてその場所が振動する様なシーンでのみ椅子が動く。ほぼ振動するのはゴジラの破壊シーンと戦闘兵器の部分のみ。なのでかなり体感度は高いと言える。

 特にその振動効果により、最初のゴジラ上陸シーンの衝撃が、過去2回より相当インパクト大。
 ただし映像の臨場感はIMAXが圧倒的。DBOXはスクリーンから席が後へ離れているため、IMAX映像への巻き込まれ感に対して、今回は情景を景めてる感じ。両方の相乗効果を試してみたいので、DBOXのIMAX版をどこかでやってほしいものだ。

★★★以下、ネタばれ注意★★★








シン・ゴジラを楽しむための地図を作りました - QuZeeBlog@Hatena


 この図は、上記リンク先の、ゴジラ上陸後の経路を地図上に示されているHPからの引用。
 今回、観てチェックしたのは、タバ作戦の行われる武蔵小杉駅北。ここで自衛隊の攻撃によりゴジラは進行方向を一旦、西へ変える。しかしこのあとあきらかに進路を前のコースへ戻す様な動き方をしている。そしてそのコースの先には東京駅と皇居が存在する。

 今回も、やはり疑問は本当にゴジラは皇居を目指していたのかどうか、というところ。今のところ、この点について明確な解釈をしている感想は見当らないので気になってしかたない。

 『ゴジラ』(54年版)は太平洋の英霊が宿っているという解釈で理解できるのだけれど、何故、54年版と関係のない初代『シン・ゴジラ』が皇居を目指すのか?
(別に映画のテーマとしてはそこはどうでも良いところのような気がするのだけど、これだけ緻密に組立ててある構造の作品で、その行き先の謎が全く考えられてないと言うことはないはずで、この謎が読みとけてないのは、映画を体感するための重要なピースがひとつ欠けているような宙ぶらりん気持ちで、ひっかかってしようがないのだ。どなたかこの経路の解釈について、何か情報あれば教えて下さい)

 東京の都心へ向かうという意味だけか、東京駅を目指す意味があるのか、その先の福島を実は目指していたのか...とか考えるのだけれど、やはりどれもしっくりこない。

 牧元教授の奥さんの死と、目的地が何らか関係している、という謎の設定くらいしか思い付きません。少くともドラマの中では、そうしたことに触れている部分は皆無だと思うけど、、、。

 あと気になったのは、ラストの、ゴジラの皇居に対する向き。
 矢口蘭堂とカヨコ・パターソンの会話の背景には、東京駅と皇居とそしてシン・ゴジラの姿。このシーンの冒頭では、科学技術館に背を向けているように観えたシン・ゴジラだが、その後、カヨコが蘭堂に「あなたも好きにしたら」と言って去って行く背景のシン・ゴジラはこちらを向いているように見えた。これは僕の見間違いか??
(ちなみに、この「好きにしたら」は牧元教授の言葉に引っかけたセリフだが、そこにシン・ゴジラの姿が映像として映っているのは、明らかに、牧が巨大完全生物になった/もしくは融合したことを暗示しているのだろう。蘭堂が巨災対の室で、「どう好きにしたんだ?」とつぶやくシーンも同じことを暗示している描写かと)

 このシン・ゴジラの最後の向きの謎も含めて、まだまだ噛み足りない奥行きのある怪獣映画『シン・ゴジラ』です(^^)。

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