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2004.04.29

■山本義隆著『磁力と重力の発見』(みすず書房刊)

   『磁力と重力の発見〈1〉古代・中世』
   『磁力と重力の発見〈2〉ルネサンス』
   『磁力と重力の発見〈3〉近代の始まり』

 多くの人は、昔の人たちは迷信深い非科学的な連中だったと思っている。その非科学的な部分、たとえば魔法だの錬金術だのを切り捨てることで、現代科学が成立したのだ、と。  本書『磁力と重力の発見』全三巻は、この通念をひっくり返してくれる快著だ。本書は説く。科学は魔法を切り捨てたのではない。むしろ科学は魔法の直系の末裔(まつえい)なのだ、と。それも極端に言えば万有引力というニュートン力学の根幹こそ、魔法の最大の遺産なのだ、と。
                          (山形浩生氏 朝日新聞書評より)

 この文を読んで、ワクワクして本書のページを開いた。
 重厚な筆致で描かれた古代から近代までの自然科学(自然哲学)史。磁力と重力を前面に描いているが、それ以外の各時代背景の説明に相当なボリュームを割いている。そうした丁寧な分析によってこの本は、古代から魔術を経て近代科学が立ち上がってくる臨場感を獲得している。この3冊に含まれる情報は膨大であるが、さらにこの情報にたどり着くまでの著者の労力を思うと気が遠くなる。古代~近代の文献に一つづつあたって、その中から物理の記述を拾い出す。一冊の本から何も得られないことの方が多いはず。たいへんな労作である。読む時、思わず襟を正してしまうような、本当に丁寧な仕事。ここまでできるのは、著者はたぶんこの探索が好きで好きでしょうがないのだと思う。淡々とした表現で、キーとなる記述を見つけた時の喜びについては全く触れられていないが、行間から感じてマニアの探索の喜びも疑似体験させてもらった。

 全体としては、現代の科学視点からみて、まるで異世界かと思うような当時の認識が語られ、良質のSFを読んだ時と同様のセンスオブワンダーが漂ってくる。

 磁力に関して、いろいろと面白い逸話が紹介されている。
・磁力は、ダイヤモンドやニンニクで打ち消されるとか、女性の貞操を確認できるものとか、古代から近代の入り口まで信じられていた。
・近代磁石論の祖と言われているウィリアム・ギルバートは実は静電気で新しい知見を発見している。磁力については、実験を踏まえた磁石論を初めて書いた『新しい引力』のロバート・ノーマンが先。ノーマンは学者ではなく、航海用機器の製造と販売の仕事にたずさわる技師のような職業で、経験から知見を得ていた。 
・魔術はダイモン魔術と自然魔術という二つの大きな区分があった。ダイモン魔術はダイモン(精霊)の業と権威による邪悪なもの。自然魔術は自然哲学(科学とほぼ同義)を絶対的に完成させる自然的原因によるもの。で、ルネサンスの魔術思想の新しさは、この区分における後者を「中性化し容認した」ことにある。(P349)
・ケプラーは惑星の軌道を計算から求めたが、その運動の源の力は惑星の持つ磁力だと考えていた。

 こんな話を授業でしてくれる先生がいたら、科学好きの子供がきっと増えるだろう。

 A・C・クラークの有名な言葉がある。
 Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic.
  「十分に進歩した科学技術は魔法と区別が付かない」(初出:『未来のプロフィル』)

 この本で描かれている地球の過去から言えるのは、もともと魔法(遠隔力の捉え方)をその生まれとして科学技術は発達しているわけだから、近未来において進んだ科学が再び先祖がえりするのも全く不思議はないのかもしれない。

◆関連リンク
山形浩生氏「マグル科学の魔術的起源と魔術界の衰退に関する一考察。」
                      (『CUT』2003 年 7 月)
三中信宏氏目次抜粋と書評 1巻2巻3巻

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 ロバート・ゼメキス監督、ジョディ・フォスター主演で映画化された「コンタクト」。 [続きを読む]

受信: 2004.05.05 08:30

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