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2004.05.08

■矢作俊彦 『ららら科學の子』 (2003 文藝春秋)

 タイトル(言葉と本の活字体)に惹かれて、久しぶりに矢作俊彦を読んだ。『スズキさんの休息と遍歴―またはかくも誇らかなるドーシーボーの騎行』(1990)以来なので、もう13年ぶりになる。
 『スズキさん・・・』のドン・キホーテ的なファンキーさは、『ららら科學の子』にはなかった。現在と60年代の学生時代という扱っている内容はかなり似ているのだけれど、筆致は全く違う。『ららら科學の子』は非常に落ち着いたタッチで書かれている。同じ作者でも年齢的なものも影響しているかも。
 『ららら科學の子』というタイトルから期待されるSF的展開や溌剌としたイメージはない。学生運動で指名手配を受け/中国に夢を描いて密出国した19歳の主人公が、2000年32年ぶりに日本へ蛇頭の船で帰ってくる。主人公は中国の山村で32年間貧農の生活を過ごしてきた。そして現在の東京を探索。前半は未来にタイムスリップした主人公のみる世界のワンダーさが興味深い。中国の山村との対比で、自分たちの住む現代の異質さ、いかにクレージーなものかというのが読ませる。
 縦糸としては、主人公が妹と別れた日の回想が描かれているが、ここでカート・ヴォネガットの『猫のゆりかご』とエーリヒ・ケストナーの『点子ちゃんとアントン』が重要なキーとして出てくる。ドレスデン繋がりのこの2人の作家の作品のエピソードがとにかく泣かせる。(『猫のゆりかご』、ひさびさに読み返したくなった。)それと加えて、『博士の異常な愛情』やウルトラマンや東宝特撮、そして60年代の各種映画、学生運動、アトム、、、これら描かれているものが、懐かしいのと加えて今を逆照射する装置として機能している。
 最後に、ここだけ抜粋しても何かよく分からないかもしれないけれど、気に入った一節を引用。この描写を読んだ時、少しゾクリとした。

 「そんなものは、ありゃあしないんだ」と、彼は小さくつぶやいた。(略)
 今判った。俺はあのキャメロットの円卓にひとつだけ空いていた命取りの椅子に腰を下ろしたんだ。そのとき、俺たちはみんな科学の子だった。(略)
 彼は自分の音楽を聴いていた。

 空を超えて、ららら星の彼方、
 ゆくぞアトム、ジェットの限り、

 失った場所を、その歌がゆっくり満たすのを感じた。

punktchen_und_anton.jpg
◆関連リンク
 ・矢作俊彦自著を語る(五十歳の少年が見たニッポン)
――『ららら科學の子』というタイトルはどんな思いでつけたのでしょう。
矢作 タイトルは初めから決まっていました。「科學の子」という言葉を使おうと思っていていくつかアイディアを考えていたら、映画監督の川島透さんが「ららら」をつけた方が絶対にいいと言ったんですよ。ああ、なるほどと思ってその案を採用しました。
 ・『ららら科學の子』(Amazon)
 ・『スズキさんの休息と遍歴―またはかくも誇らかなるドーシーボーの騎行』(Amazon)
 ・『猫のゆりかご』(Amazon)
 ・『点子ちゃんとアントン』 映画DVD(Amazon)

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