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2005.05.21

■栗本慎一郎『パンツを脱いだサル』

mystery_train  20年以上前の学生時代、日曜日の大学の研究室。研究室のラジオで「経済人類学」という聞きなれない言葉を語る学者の話をたまたま聞いた。学者がDJにリクエストした曲Mystery trainが静かな部屋に流れる。これが僕の栗本慎一郎とのファーストコンタクトであった。
 それから20年あまり、ずっとそのMystery trainに乗って、ブタペストから旅をはじめトランシルバニア、紀州、ナッシュビル、ついにはカザールという謎の帝国にたどり着いた。本書は東欧に存在したというカザールの物語である。

 似合わない感傷的な文章ではじめてしまったけれど、脳梗塞に倒れてもう刺激的な本は書かないのではないかと思っていた栗本慎一郎が『パンツをはいたサル』の完結編を書いたことがとても感慨深い。この本に書いてあることの真偽は僕には確かめようもない。
 んが、一編のフィクションとしてみた時になかなかのイメージ喚起力があることだけは否定できない。

 物語は地殻変動で陸が海に飲みこまれる670万年前の中近東ダナキル地塁からスタートする。陸から海に出ていかざるえなかった類人猿が我々ヒトの始祖となる。いわゆる水棲類人猿仮説なのだけれど、ここに経済人類学の過剰蕩尽理論を用いて、ヒトの本性がどう形付けられたのかが語られる。飛躍があってわかりにくくはあるが、大地が割れ海が侵入し山が火を噴くイメージがヒトの誕生の原初的イメージとして残っているという描写がいい(P59)。

 その人類が貨幣というパンツをはき、市場経済を発展させる。そして語られるマルクス主義の発生、ロシア革命、冷戦とその終結の物語。冷戦終結によって発生した浮遊貨幣5000兆円の「資金資本」という暴走自走するパンツが人類の終焉を招くのか、、、、。荒い論理展開に不満の声もあちこち(下記リンク)で聞かれるけれど、これもひとつの架空の人類史として読むと、そのダイナミズムにはワクワクする。オラフ・ステープルドン『最後にして最初の人類』を思い出させるセンス・オブ・ワンダーがあると思った。(陰謀史観部分は軽く読み飛ばしましょう(^^;))

 そして何故か付け加えられたビートルズについての一章。
 ここは僕はふたつの読み方が出来ると思う。ひとつは深刻な話をした時のクリシンのいつもの表面の冗談と諧謔の一種。(誰が壮大な人類史を語った後に真面目にビートルズをけなす文章を加えるか?これによる効果は狙ってやっているはず。だってここで触れる本はあの胡散臭いウィルソン・ブライアン キイの『メディア・セックス』なんだから。いつも彼の本はこう。だからヒトは安心してこの本を批判できる)。

 そしてもうひとつが栗本の学生時代への郷愁。P228にある戸田勝義のくだりにあるなんとも言えない心の襞に触れている文章である。栗本妻の兄って、こういう人だったのですね。これは本では初めて書かれたのではないだろうか。そして吐露される栗本のヒトの革新への想い。結局ヒトは若い日の幻影をしょっているものなんだな、っていう感慨と、この人の本のコアにいつもあるこの想いを再び読めたことが感慨深かった。

kurishinn_at_transilvania
                    『血と薔薇のフォークロア』よりトランシルヴァニアの栗本

 アーサー・ケストラーが『第13氏族』を書いて死んだように、この本が栗本の遺書にならないことを祈るばかりである。もっとも『光の都市 闇の都市』の頃から、「これは、私の遺書である。ブタペストとトランシルヴァニアに二日後に出発せねばならぬ時に書いている。つまり、"いしょ"がしいときに書いているということだが、それだけではない」なんて言いつづけている人だから、きっと大丈夫でしょう。『カフカスの短剣』も是非読みたいし、まだ隠して書いていないと著作で述べていた近江とか紀州をキイワードにした日本の根源の話(『シリウスの都 飛鳥-日本古代王権の経済人類学的研究』がそれになるのか?)も書いてほしいものである。

◆関連リンク
日々の雑感(tach雑記帳はてな版)さん 詳細紹介
・donaldさんの千種通信
2ch 哲学板 パンツを脱いだサル
 2chにしては真面目な議論になってますが、浅田彰ははっきり言ってどうでもいいので、もっとこの本のことを語ってほしい。
・Amazonリンク 栗本慎一郎『パンツを脱いだサル』 栗本慎一郎本 マイケル・ポランニー
たちばな出版|近刊案内 『シリウスの都 飛鳥 日本古代王権の経済人類学的研究』 栗本慎一郎著(四六ハード05年7月\2,100)

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コメント

「水」の等価交換、楽しみにしています。

投稿: 石原秀郎(いしはらひでお) | 2011.02.04 04:44

 ivressquestionさん、はじめまして。

>>栗本さんかっこいいです、いつまでも元気でがんばってもらいたいです。

 同感です。マスコミに登場し始めた頃のかっこよさは特に印象的でした。あの頃の諸作のインパクトはとにかく忘れられません。最近では匹敵する書き手はいるのでしょうか。

 たとえば京極夏彦が小説内で中尊寺に語らせる哲学は、同根ですね。いや、京極が栗本を読んでいるということではなくて、言語とかを、まじめにラディカルに考えると同じ答えに行き着く、ということだけですが、、、。

投稿: BP | 2006.04.19 01:35

はじめまして。栗本さんかっこいいです、いつまでも元気でがんばってもらいたいです。みなさんの記事も読ませてもらいました・

投稿: ivressquestion | 2006.04.15 12:38

 nobuさん、はじめまして。コメント、ありがとうございます。クリシンでコメントもらえると、とても嬉しいです。

 2ch栗本板、最近、あまり見てませんでした。ブックマークはしてますので、また覗かせていただきます。

 『シリウスの都 飛鳥』、私も読了。ここに感想を書かなきゃと思い続けていますが、つい書きそびれてます。本に載っている緯度経度でGoogle Earthにより、古代日本の太陽ネットワークの各地をチェックして、何か分かったら、写真をのっけてみようとやり始めたのですが、なんかいくつか見た限り、面白い写真が出てこなくて挫折気味(^^;)。

 切り口考えて、そのうちレビュウしようと思います。

 ではでは今後ともよろしくです。

投稿: BP | 2006.01.17 23:57

私もかつては、クリモトさんの本は片っ端から読んでいたので(最近「シリウスの都 飛鳥」を読みました)、復帰したときは非常に感慨深いものがありました。

・2ch 哲学板 パンツを脱いだサル
 2chにしては真面目な議論になってますが、浅田彰ははっきり言ってどうでもいいので、もっとこの本のことを語ってほしい。

とありましたが、この後私が出てきたせいか(?)かなり「整理」されたか、真摯な意見が多くなった。
http://academy4.2ch.net/test/read.cgi/philo/1128570906/
http://academy4.2ch.net/test/read.cgi/philo/1136567023/l50
ご存知かもしれないけど
http://mentai.2ch.net/philo/kako/1013/10137/1013755852.html
元栗本慎一郎自由大学の生徒も参加してかなりレベルの高い意見も出ている。
私は愛知県に住むしがない元トヨタの従業員です。

P・S 栗本慎一郎「YOUは半日で読破できるか!」を問う100冊の本を現在77冊まで読破、あと23冊。ここまでくるとやるしかないと思う今日このごろ。

投稿: nobu | 2006.01.16 23:36

 wellさん、はじめまして。コメント、ありがとうございました。遅レスすみません。

>>小生、栗本氏に導かれてマイケルポランニーを知ったのが
>>もう20年ぐらい前のこと。今では「暗黙知」が私のライフワ
>>ークと言えるぐらい重要な価値を持っており、ただただ栗本氏やポランニーとの出会いに不思議な感慨
>>を持つ今日この頃です。

 「不思議な感慨」。僕も栗本氏の本を初めて読んだ感慨は忘れられず、この文章の冒頭のように、柄でもない追憶的描写をついしたくなってしまったのです。それだけ自分のコアへ侵攻してくるよーなものなのでしょうね。

>>トランシルヴァニアの栗本氏の写真、良い顔してますねぇ。

 ひさびさに本棚からクリシンの本を取り出してみてたら、思わず掲載したくなってしまいました。このどっか知的戦闘的な雰囲気が、僕らが好きだった栗本慎一郎を象徴していますよね?

>>「パンツ3部作の完結編」今度、読んでみます。

 一見後期デンパ系の入ってる本ですが、ギリギリでコアへ迫ってくる部分があります。また感想を聞かせていただければ、嬉しいです。ではでは。

投稿: BP | 2005.08.11 03:45

良い文章ですね。思わずなにかコメントしたくなりました。駄文ながら書きこみ、失礼致します。

小生、栗本氏に導かれてマイケルポランニーを知ったのがもう20年ぐらい前のこと。今では「暗黙知」が私のライフワークと言えるぐらい重要な価値を持っており、ただただ栗本氏やポランニーとの出会いに不思議な感慨を持つ今日この頃です。

栗本氏は私が16歳の頃は最も尊敬できる人でしたね。その後、結構デンパ系?と思えるような本も出したり、大学を追われたり病気に倒れたり、と苦労されているようで、思想への共感という点ではここ10年遠ざかっていました。

が、最近引越しのために本棚を整理していたら出てきた「意味と生命」。今読み返してみると、栗本氏の暗黙知の理解の深さに改めて驚いた次第。センセイ、元気かな?と Google してみたら、最近また本を出されているようですし、このサイトにも出会った、というわけです。

トランシルヴァニアの栗本氏の写真、良い顔してますねぇ。

「パンツ3部作の完結編」今度、読んでみます。


投稿: Wells | 2005.08.06 01:03

 donaldさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

>>自分の共感できる範囲でクリモトの切実さを受け止めれば、それで充分なのかなと思います。

 同感です。クリシン(クレシンと紛らわしい)は昔から本質を本音で語っているところが魅力ですよね。

>>自分のようなサラリーマンが読むには

 私も東海地方のしがないサラリーマンですがや(^^;)。終末Bloggerとしてお互いがんばりましょう。今後ともよろしく。

投稿: BP | 2005.05.22 19:47

トラックバック、リンク有り難うございます。「パンツを脱いだサル」、陰謀論云々は別にして、自分の共感できる範囲でクリモトの切実さを受け止めれば、それで充分なのかなと思います。こちらのブログ、自分のようなサラリーマンが読むには内容のレベルが高いのですが、また来てみようと思います。

投稿: donald | 2005.05.22 15:04

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じっくり読み返してみたい『パンツをはいたサル』光文社の第二版を本日ブックオフにて105円でゲット。将来において栗本教の聖典となるであろうことを予感させる、伝説の名著である。経済人類学という枠をとっぱらって読んでみたい。 この本に一つだけ文句があるとすれば、著者の変なコンプレックスが出てしまっていることだった。いかにも大きな裏がありそうに対象を曖昧にぼかす語り口、そして不可解かつ不必要と思われる、へんな自信過剰っぷり。過剰な自信は過剰な自己防衛意識の裏返しなのではないか、そこに何か妙なもの嗅ぎとっ... [続きを読む]

受信: 2005.09.01 22:53

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