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2005.07.03

■セオドア・ローザック『フリッカー、あるいは映画の魔』

flicker_review
 これは傑作。久々に読書の快楽に身をゆだねました。「このミス」1998年度ベストワンになった小説なので今更薦めるのも何ですが、映画ファン、映像ファン、伝奇(?)ミステリファン、んでもって究極映像ファンは必読。上下2段、560ページの大作ですが、読み終わるのがとにかく惜しい、そんなエンターテインメント。

 特に私、このようなタイトルのBlogをやっている手前もあり、途中から居住まいを正して読んでしまいました。なにしろ私の似非「究極映像研究」とは桁違いの、「究極映像研究」小説としか名づけようのないような物語が本書なのですから。

 主人公はB級のお色気映画から映画ファンになり、とあるきっかけから名画座のオーナーであり敏腕の映画研究家の女性と知り合う。そして映画英才教育を彼女からベッドの中で手ほどきを受け、そのうち大学の映画学科の教授になる。映画研究だけで飯をくっていけるというこのなんとも羨ましい主人公に、感情移入して読んでしまう市井の映画ファンは数多いことでしょう。

 彼の研究の対象は、超絶技巧を持つ幻のドイツ人映画監督マックス・キャッスル。この監督の失われたフィルムの数々を探索し、手に入れる過程が、また映像ファンのこころをくすぐる。映画ファンなら、自分の好きな監督の作品を探して一本づつ鑑賞し、その監督について技法やらエピソードやら、いろんなことを発見していく楽しさを一度や二度は経験していると思う。未見のフィルムを紐解く時の感動の拡大版がこの小説のひとつの読ませどころになっている。これに感激しない映画ファンはいないと思う。

 そしてマックス・キャッスルの超絶技巧についての探索。登場するキャッスル映画のカメラマンだった小人の老人により語られる数々の究極映像。ゾーエトロープ、稲妻ライティング、サリーランドと言った彼独特の映像魔術が、ローゼックの筆致で描かれている。喉から手が出るほど、これらの映像の実物を観たいと思った読者は数知れないと思う。悪魔に身を売ってでも観たい、というほど映画ファンのコアを揺すぶる描写である。

 歴史学者であり環境心理学者である著者ローゼックは、相当な映画ファンなのだろうか。下記のリンク先の著書をみると、本書後半で重要な役割を担う神秘主義、カルトに関する専門書もある。なおかつ映画マニアであることが彼に本書を書かせたのであるとしたら、我々はローゼックを映画の魔へと導いた監督(誰なんだろう?)に特大の感謝を捧げなければならない。本書はローゼックのみに出来た、映画と文化人類学/精神科学の千載一遇の幸福な出会いから生まれた傑作である。

◆関連リンク
ヘレン・ケラ一Presents:世界のポン引きショー(ここの書評が素晴らしい)
すみ&にえ「ほんやく本のススメ」-「フリッカー、あるいは映画の魔」
作家 池澤夏樹氏の書評
・『フリッカー、あるいは映画の魔』(文春文庫)(Amazon)
セオドア・ローザックの本(Amazon) 面白そうな本が他にもあります。
『意識の進化と神秘主義』セオドア・ローザク著、志村正雄訳

20世紀後半の「精神世界」の中心テーマである霊的進化論,神秘主義,新しい意識を求める運動の思想的潮流を探り,豊富な題材と巧みなレトリックでその全体像をつぶさに描き出している。真の神秘主義と,エセ・神秘主義(カルト集団を含む)を峻別する「鑑識眼」,判断基準を説得力をもって提示した先駆的な著作

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