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2005.10.12

■古川日出男 『LOVE』

 今回も才気走った古川の文体が楽しめます。
 とにかく詩的で現代的で戦闘的なこの文体のリズム/魔力をまず体験してみてください。

 そして、きみだ。ゼロ地点にいるきみだ。きみたちだ。カナシーと秋山徳人だ。
 きみたちは、長い、長い、長い話をしている。
 それは意気投合だった。奇跡的に邂逅して、きみたちは意気投合した。カナシーは我知らず、じゃ、つぎの曲、と言った。秋山徳人は、演奏を傾聴するカナシーを前に、真剣に心をこめて演奏して、それから、いろいろ話した。演奏の合間に、雑談した。真剣な無駄話だ。(略) どうして、そんな展開になったのか。カナシーは秋山循人の名前を知り、ノリヒト君、と呼び、秋山徳人はカナシーの名前を知り、椎名さんとも可奈ちゃんとも呼ばずに素直に、カナシー、きみさぁ、と呼びかけた。その時、すべてははじまっていた。すべてだ。全部だ。そこはゼロ地点で、だから世界の中心で、そこから一切が弾けている。

 一〇〇メートル。
 ドナドナは「玄人」と言った。バイク便の男にむかって。無名の、配達の男にむかって。
「おい、ちゃちな銃、使ったって、無駄だぞ」と言った。
 男は答えない。
「お前だろ?」とドナドナは細い、細い声で囁いている。「わたしのビジネスを邪魔したな?お前だろ? 正直になりなって」
 男は答えない。
「行方不明事件にも、からんでるだろ?なあ、わたしは暴力の痕跡を追ってるんだから、わかるって。おい、あんたは業者だろ?なあ、最後にひと言だけゆうよ。わたしは、フリーだ」
 ドナドナはなにかを投げている。なにかが、無名の男の胸に刺さっている。ドナドナは男にむかって走っている。それから銃を奪い、それから、瞬時に処分する。

 二人称で切り取られた主人公たち/動物たちの鮮烈な日常。地上に降りた神の視点から眺めた現代のスケッチという短編連作。現代を否定的に描く文学はたやすいかもしれない。だけど、こんな風に崖っぷちで立ち止まって、日常を鮮烈に描写してしまう切り口がとても魅力的で、お薦めです。
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当Blog記事 
■『中国行きスローボート』 ■『gift』  ■『ボディ・アンド・ソウル』
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ほんの森:この人に聞く 『LOVE』古川日出男さん
【本のはなし】作家の読書道-第46回:古川日出男

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» △「LOVE」 古川日出男 祥伝社 1680円 2005/9 [「本のことども」by聖月]
 単行本内巻末の紹介に“前作◎◎『ベルカ、吠えないのか?』に対する猫的アンサー”と書かれているが、その前に◎『アビシニアン』という猫的小説には手をつけているわけで、そういう意味で前作に対するアンサーでもあり、『アビシニアン』に対する派生形としても受け止められる。いや、本書『LOVE』を読んでいると、どちらの作品のことも考えてしまうような小説作法を内包しているので。  『アビシニアン』との共通性は、猫がモチーフというだけに留まらず、滑り出しのシュールで不可思議な描写が酷似している。そして、多場面... [続きを読む]

受信: 2005.10.13 06:11

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