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2006.02.20

■アヴラム・デイヴィッドスン 殊能将之編
   『どんがらがん』   bumberboom

 物語を楽しむというより、その情景や雰囲気が前面にでている小説が多いように感じた。で、自分としては、そうしたものより物語が前面に出ている傾向のものに惹かれた。

 ただ「尾をつながれた王族」は物語というより雰囲気ではあるけれど、別格で凄かった。雰囲気でその背後の大きな物語を予感させるというか、、、。
 個々の喚起されたいイメージとディビッドスンの狙ったタッチがマッチすると凄いあたりになる、って感じか。

 以下、一編づつ、短評です。(3ヶ月前に読んで、なかかな書けずにようやくアップ。すでに随分忘れてしまっているので、ご容赦(^^;)) 

◆「ゴーレム」 SF

 老夫妻の日常と、非日常のゴーレムのすれ違い。そして日常への取り込まれ方がユーモラスな一編。テレビのコメディでフランケンシュタインのネタはかつてどこかで観たような気がする。う、ん?ドリフだっけ?(失礼) でも会話が軽妙で楽しい一編。

さもなくば海は牡蠣でいっぱいに」 SF 奇想小説

 F&O自転車店の共同経営者と赤い自転車と無くなる安全ピンと増えるハンガーの擬態をめぐる話。
 日常にもぐり込む奇妙な存在を端正にまとめている。タイトルによるイメージの拡がらせ方がうまい。

◆「ラホール駐屯地での出来事」 ミステリー

 軍の駐屯地での三人の兵隊と女と手紙の計略の話。これもうまい短編ミステリー。
 酒場での語りの趣向が効いている。

◆「物は証言できない」 ミステリー

 黒人問題を痛烈に皮肉った一編。奴隷仲買人ベイリスの陥る事態は、短編ミステリーの結構としてきっちりまとまっている。

◆「さあ、みんなで眠ろう」 SF

 未開の星のヤフーという生物と彼らを連れ帰った主人公ハーパーの苦悩。

 スウィフトは発狂した。ちがいますか?彼は人類を憎んだ。彼の目には、人間がみんなヤフーに見えた・・・・・。ある意味では無理もないと思いますよ。みんながこうした原始人を軽蔑する理由は、そこにあるんじゃないかな。自分たちのカルカチュアに見えるからですよ。

 ラストが胸に染みる一編。

◆「クィーン・エステル、おうちはどこさ」 ホームドラマ(!?)幻想小説

 西インド諸島のスパニッシュマーン出身のお手伝いさんクィーン・エステルのお話し。言葉のすれ違いや異質な者への差別やらが描かれるホームドラマにそっと忍び込むマジックリアリズム。
 
短いけれども、独特の雰囲気が漂よってくる。

◆「尾をつながれた王族」 SF

 これが本短編集の僕のベスト。わずか13ページの作品に炸裂する奇想。簡潔に削った文章で異質な世界の一端が描かれる。全貌が全くわからない。だからこそ想像力を刺激するこの異世界。本書を読もうか、悩んでいる方、まず立ち読みでもいいのでこの一編を読んでみてください。このイメージ喚起力は凄い。

 悪夢に限りなく近い。目覚めるとその世界のロジックが理解できないけれど、見ている間は迫真のリアリティある悪夢。

◆「サシェヴラル」 奇譚

 奇妙だけれどこれは削られすぎてよくわからない。「わざとわかりにくく書いてあるシリーズ」とのこと。
 
読んでから3ヶ月ほど感想書くのを貯めてたので、ますますわからなくなっている(^^;)。

◆「眺めのいい静かな部屋」 ミステリー

 老人ホームの男女関係。よぼよぼの老人たちのミステリー(ボケで事件がよりわかりにくくなる)って、案外面白いネタかも。

◆「グーバーども」 幻想

 おじいの嘘のグーバーが現実化。「おれ」の一人称で書かれた語り口が楽しめる。

◆「パシャルーニー大尉」 幻想

 ハートウォームなファンタジー。こういうのもいいですね。
 
似たネタだけど、「グーバーども」より好きな一編。

◆「そして赤い薔薇一輪を忘れずに」 普通小説

 アジア系移民の書店主が開陳する祖国のいろとりどりの書物。都会の殺伐とした雰囲気に紛れ込む異国情緒。

◆「ナポリ」 幻想

 これも雰囲気と情景描写を読ませる話。「ナポリ」という単語が時々挟み込まれて、独特の雰囲気を醸し出している。
 
でもなんだか苦手な小説でした。

◆「すべての根っこに宿る力」 ミステリー?

 メキシコの首なし死体と呪術。これも苦手。ここらで僕は濃厚な密度に着いていけなかったようです。

◆「ナイルの水源」 奇想

 これは一転、凄く好きな話。物語が起動しているというか、、、。謎の「ナイルの水源」という言葉がドライバになって読ませる。作家が酒場で知った謎の言葉。それを狙う男たち。不思議な雰囲気と語り口がいい。好きです、これ。この短編集で二番目に好きな小説。

◆「どんがらがん」 奇想

 これぞ奇想小説。どんがらがんとやってくる「なにやら奔放な想像力の生みだした巨大な吹き矢筒を思わせる」ガジェット。登場人物たちの突飛な行動やユーモラスな様子が楽しめる。続編も是非訳出してほしいものです。

◆関連リンク
SFセミナー SEMINAR 2005「異色作家を語る」 出演者の推薦図書リスト
『どんがらがん』勝手に広報部
アヴラム・デイヴィッドスン作品リスト
殊能将之氏の『どんがらがん』宣伝的雑談

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