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2006.02.07

■中沢新一『森のバロック』 第一章,第二章

◆第1章 市民としての南方熊楠 (太字、リンク : 引用者)

 バロック哲学では、世界はひとつの巨大な連続体として、とりあつかわれている。この楽天的な哲学は、世界のどんな微小部分も空っぽではなく、無数の襞と無限小のモナドによって充実しきっている、と考えた。(略)
 もともとのシステムに収まりのつくものは、それでいいとして、システム内部におさまらないが、さりとて外の世界に悪魔払いもできないものも収容できる「中間性の領域」を設置して、拡張をとげる彼らの知識世界の全体性を、かろうじて維持しようとしたのである。「中間性の領域」は別名「幻想の領域」でもある。古代イラン哲学は、ここをmundus imaginalisと呼んでいた。この領域で人間の創造力が、自由に羽ばたくことができるからである。のちに二十世紀のシュールレアリストたちは、そこに芸術家の自由な創造力の貯蔵庫を、みいだそうとした。もろもろのヘテロジニアスを収容するための、この「中間性の領域」の設置によって、博物学は、近代科学にはない、芸術的な魅力を獲得することになった。(P33)

hodaka 世界はいたるところで、同一の経済システム、同一の物質生活、同一のメディア、同一の音楽、同一の教育、同一の思考、同一の感情、同一の罠におおわれつつある。そこには熊楠が沈潜することができた、深い森も現実から失われようとしている。空間の外もなく、また深遠への入り口も、いたるところで閉鎖されつつある。今では世界の内臓は、メディアと政治の明るい光の中にさらされてあり、(略)。このような世界にあって、なおも私たちには、原生林のような「自由な空間」を創造する可能性が、残されているのだろうか。(P45)

自分は狂人にならないために、生物学の研究に没頭したというのだ。(略)内部からわきあがる力が強すぎて、それを受け入れる器を、外の世界の仕事にみつけることができなかった。また欲望の多様は、現実にぶちあたるたびに、その単調さに耐えられず、癇癪となって爆発した。彼の欲望の多様と強度を受け入れ、それを人格の内側に屈折させていくことのできるものを、熊楠は探していた。(P46)

 「幻想の領域」の誕生とシュールリアリストの関係、自由な空間の希求というところが、凄く面白かった。
 熊楠の知の欲求強度、これを受けとめた博物学と森。甲状腺と暴れる好奇心の関係とか、自分の関心のあるポイントに近い記述で、言われていることの意味がよく伝わってくる。

 ここで想起したのが、現代の奥深く迷宮なウェブの知の空間と森の関係。
 熊楠のような強度ではなくても好奇心という想像力の暴れ馬を我々現代人も内蔵している。それらを受け入れる器としての電脳空間。文字通り蜘蛛の巣の網の目のように奥深くたどっていける知の空間としてのウェブ、これが受けとめている欲望の多様さを思うと眩暈がしてくる。
 森をなくした21世紀人の新たなバロックな空間としてネットを位置づけると、ITバブルの正体とか21世紀の知の方向がなんとなく見えてくるような気がする。この視点でネットの進化形態を空想、、、ワクワクしてこれらの文章に刺激されて感じたわけ。(もちろん、ITバブルの正体は、経済のメカニズムだとか、新領域への単なる期待とか、そうした要因が大きいことは認めた上で、この森の代替としてのネットっていう視点の面白さを指摘したいわけです。少なくとも僕がネットサーフィンで得る快感は、この欲求とリンクしている。)

◆第2章 南方マンダラ

 「物」と「心」の間に生ずるものを「事」と呼ぶ。そしてその抽象活動である「印」。これらがスパイラルを描いていくことで、作られていく脳内のイメージ。物と心の二元論でなく、このように考えた時の人のイメージについての視点が新鮮で心地いい。

 例えば、先日書いた「レイモンド・カーヴァー ファースト・インプレッション」。
 いくつかの短編を読み進んでいった時にある種、衝撃的に感じたカーヴァーの根底にある(と僕が感じた)イメージ。これが生成するプロセスを上の視点で考えると、とてもスッキリとおさまりがいい。つまり一つ一つの短編との間で「事」が発生し、その抽象化としてカーヴァーの根底イメージとしての「印」が私の中に生まれる。

 このBlogで映画や本によって生じるイメージについてゴタクを並べているわけだけれど、確かに抽象化されてスパイラル状に積層していくことで、ある作家や監督の持つ独特のイメージが我々の頭の中に転送されていく過程があるわけで、脳内の図式化として熊楠のとった方法は、しっくりとはまりました。(これで拘束はされたくないけどね)

◆関連リンク
Heterogeneous(wikipedia)
■中沢新一『森のバロック』 総論: ★究極映像研究所★

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