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2006.07.16

■小松左京 谷甲州著 『日本沈没 第二部』

Okino_tori_shima『日本沈没 第二部』

 33年ぶりの続編。既に第一部に感動していた私の脳細胞もほとんどが新しく更新されてしまっていると思うのだけれど、とても感慨深く読みました。前作の登場人物が何人か出てくるが、まずその段階で涙(^^;)。「渡」「邦枝」という名前を想い出したのはきっと20年ぶりくらいかもしれない。いまだかろうじて生き残っている中学生時代のニューロンが反応している。

 そうした感慨で読み進めた物語は、当時続編としてイメージしていたものとは、少々ニュアンスが異なった。すでに物語世界では沈没から25年が過ぎ、混乱のピークから歳月が流れている。列車でシベリアを行く小野寺のラストシーンから第二部の物語が始まるとイメージしていたのだけれど、、、。

---------以下ネタばれ注意------------

 本書のテーマは、海の底の日本への郷愁と、コスモポリタニズムであると思う。この二つについて思ったことを書いてみたい。

◆日本への郷愁

 まず潜水艇からの映像がグッとくる。

 映しだされたのは、既視感のある風景ばかりだった。電柱の列と道路標識、二階建ての木造家屋、壁面に時計のあるコンクリートの校舎、そして田圃の畦道と用水路。
 ありふれた風景だった。日本のどの地方なのか、映像から判断することは不可能だった。それだけに、叫びだしたくなるほどの郷愁をかきたてられた。映しだされているのは典型的な日本の風景であり、誰もが心に思い描いている故郷の姿だった。(P75)

 日本の典型的風景であるが、沈没後25年のこの時代はこうしたものが限りなく郷愁を誘うイメージとなっている。25周年の式典でこの実映像が流されるシーンは圧巻。水没した都市、ここに残るのは昭和四十年代の日本であり、第二部で世界中に散らばっている日本人にとっても、物語第一部を想い出しながら読む我々読者にも、ともにあった自分たちの昭和とイメージがオーバーラップする。
 郷愁というのは、現在と過去のギャップを体感した時にうみだされるイメージなのだけど、本書では物語世界の物理的に失われた日本と、現実世界のあまりに40年代から変貌した日本の二つが別の郷愁をうみだして複雑な感慨をもたらす。物語世界の日本人の方が、現実世界の日本人より、日本人らしいと感じてしまったのは僕だけだろうか。

 水の底に沈んだ都市というのは、まるで記憶の奥底に沈んでいる過去のようなもの。第二部が映画化されることは、恐らく地味すぎる物語であり得ないように思うけれど、もし映画化されたらここが最も美しいシーンになるだろう。(既に樋口監督の映画にはそんなシーンが仕込まれていたが、、、。) 

◆コスモポリタニズム

 もうひとつのテーマは日本人の持つコスモポリタニズムについて。

 これはようやく後半の中田首相と鳥飼外相のディスカッションで明確になるビジョンである。ほぼこれが本書の日本人論のコアである。長くなるが引用する。

中田首相の言葉
 我々が真に継承すべきなのは、日本人という集団の有り様ではないのか。誇りをもって語れる日本という存在を、次世代の若者たちに残していくべきだろう。さもなければ、数世代をへずして日本は・・・日本人は消滅する。すでにその兆候は、いくつか報告されている。年ごとに日本への帰属意識はうすれ、日本国籍を放棄するものは増加しつつある。(P386)

鳥飼外相の言葉
 宗教には寛容であるはずの日本人が、なぜ既成の宗教を受入れようとしないのか。それほど日本人は、強烈な信仰を持ちあわせていたのでしょうか。
 これについては、日本人の生活様式そのものが宗教である、との指摘もあります。ユダヤ人が心の拠り所としたユダヤ教は、実は祖先から受けついだ『生活の知恵』を集大成化したものでした。それと同様に日本人も、自分達の生活様式を信仰の対象としていたのではないか。
 無論その行為は、無意識のうちにおこなわれます。それも当然で、ここでいう『日本人の生活様式』とは単なる社会常識でしかないからです。たとえていえば『嘘をつくな』とか『借りた金はかならず返せ』といった社会常識を、宗教的な行事とは誰も思わないでしょう。
 ですが日本人のアイデンティティを考える場合、これは充分信仰の対象となりえます。(略)
 均質化された社会で培われた日本の生活様式は、どれもみな含蓄があって美しい。(P392)

 誤解をおそれずにいえば、パトリオティズムやナショナリズムも捨てるべきです。そんなもので共同体を維持できるのは、せいぜい三世代-おそらく百年までです。それをすぎて四世の時代になると、急速に現地化がすすむものと考えられます。(略)
 日本人の特異さ-均質でありながら内部に別組織を抱えこみ、ときには国家よりも帰属する組織の利益を優先する点は、コスモポリタニズムにこそふさわしいのです。インターナショナリズムやグローバリズムではなく、ましてやパトリオティズムやナショナリズムでもない。そのような枠組で、自分たちの行動に枷をはめるべきではないのです。
 まして我々の同胞は、世界中に分散しています。この好機をとらえて、コスモポリタニズムに移行すべきではないでしょうか。(略)
 コスモポリタニズムには別の側面もあります。宇宙から地球を俯瞰する視点を、この考え方は持ち合わせているのです。(P393)

 生活様式とコスモポリタニズム、この二点で日本人の美点を表現しているが、わずか二人の会話で、しかもここから深化した議論がなされていないのが、凄く残念。また本来小松左京が持っている宇宙的な視点での人類/日本人考察というのは、もっと哲学的であったように思うのだけれど、それが充分に表現されているようには読めなかった。

 本来、ラストのあのシーンへいたるコスモポリタニズムを具体的に描写する世界各地での日本人たちの行動がもっと描かれていたら、芯のとおったストレートな感動につながったのではないだろうか。メガフロートとかそれをめぐる中国とのいざこざを描くよりも、書かれるべきことは他にあったのかも。

 物語を読み進めるためのドライバが前半非常に曖昧-ストーリーの目的地がなかなか提示されず、分散した日本の状況を羅列的に描くシーンが長く続くのであるが、この二人のディスカスを冒頭に持ってきて、この周辺の事象や議論で縦糸を作り出していたら、物語はリーダビリティとダイナミズムをもっと獲得していたのではないか。
 
Earth_simulator  あと蛇足的に(もうひとつの物語の縦糸なので「蛇足」というのも変なのだけど)、自然科学SFの部分では、今回、地球シミュレータが面白かった。日本沈没の地球的規模での影響がヘッドマウントディスプレイで3Dで映像として描かれるシーンがあるが、ここは脳内映像として興奮。合わせて、こうした最先端技術が軍事的な意味を持つところも面白かった。

 あと最後に、先日のラジオ<アヴァンティ>で、第三部について小松左京がこう語っていた。是非期待したいものです。
 http://www.avanti-web.com/thisweek2.html

「もしこれが出版として成功したら、今度は本当に2人の合作で第三部を書こうと約束している。もし第三部を書くとしたら、宇宙にメガフロートを作って、そこを「日本」にしようか、なんて。今度は日本人を「宇宙人」にしちゃおうって。」

◆関連リンク
・本書のパラレルワールドにある地球シミュレータ。(右の写真)これ、映画『日本沈没』に協力した海洋開発研究機構:JAMSTECに属するのですね。複雑性シミュレーション研究グループの動画で研究成果の映像が観られますが、残念ながら立体映像ではない(^^;)。

沖の鳥島の映像。沖の鳥島写真集。沈没後の日本領土はこのように守られたのでしょう。

mixiコミュ 『日本沈没 第二部』 なかったので、自分で立ち上げました。初コミュ(^^;)。
吾妻 ひでお他『日本ふるさと沈没』 

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コメント

 なっぱくん、お久しぶり。
 亀レスですみません。PCが修理から戻ってきたはいいけど、HDが壊れてたってことで、再インストール等面倒な作業にはまってます。

 そ、だよね、イントロって感じ。
 小松先生には長生きしてもらって、第三部をしっかり出してほしいものです。

投稿: BP | 2006.07.23 00:57

自分も読みました。
ほぼ同じ感想です。
ただ、日本沈没→氷河期への展開が まあ前作とのつながりか とは思ったけれど25年は長すぎるのでは?
イントロだけで終わった感じでものたりなく感じました。
ハードカバーは、「リングワールドの子供たち」以来です。
もっとも、その前も「リングワールドの王座」だし...
最近は、ライトノベルの比率が高くなっている。
もっと我に、ハードSFを...
終わり。

投稿: なっぱ | 2006.07.19 21:12

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