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2006年6月11日 - 2006年6月17日

2006.06.17

■2006年アヌシー国際アニメーションフェスティバル
  受賞作 と 歴代短編アニメベスト100

2006 PRIZE WINNERS 受賞作とその作品内容リンク。
 自分で言うのもなんですが、労作。根気が要る作業でした(^^;)。
 (リンクは、アヌシー公式サイトと、※の部分はアヌシー以外へのリンク)

Feature films
>> The Cristal for best feature  Renaissance  Christian VOLCKMAN 監督
 ※予告篇他。未来都市の造形が素晴らしいノワールフィルム。オススメ。

Short films
>> The Annecy Cristal &  TPS Cinceculte Award for a short film
  Histoire tragique avec fin heureuse Regina PESSOA 監督
  ※ムービー全編が観えます
>> Special distinction  Rabbit  Run WRAKE 監督
   ※スチル多数
>> Junior Jury Award for a short film  One D  Michael GRIMSHAW 監督
>> Audience award, FIPRESCI award &  Jury's special award
  Dreams and Desires - Family Ties Joanna QUINN 監督
>> Jean-Luc Xiberras award for a first film  Delivery  Till NOWAK 監督
 ※予告篇とスチル、メイキング
>> Unicef award  Cherno na byalo  Andrey TSVETKOV 監督

TV series
>>The Cristal for best TV production
  Pocoyo "A Little Something Between Friends"
  David CANTOLLA, Guillermo GARCIA 監督
>>Special award for a TV series   Zombie Hotel "First Day"
  Luc VINCIGUERRA 監督

TV specials
>> TV special award  Petit Wang  Henri HEIDSIECK 監督

Educational, scientific or industrial films
>> Educationnal, scientific or industrial film award
  The Birds & The Bees - A Secret You Shouldn't Kee
  Young Jin KWAK, Young Beom KIM 監督

Advertising films
>> Advertising or promotional film award
  Médecins sans frontières "Human Ball"  Andreas HASLE 監督
  ※エイズ撲滅のCM。全編観えますが、なかなかショッキング。

Music video
>> Award for best music video  Thomas Fersen "Hyacinthe"
  Sébastien COSSET, Joann SFAR 監督

Graduation films
>> Special distinction  Abigail  Tony COMLEY 監督
>> Junior Jury Award for a graduation film
  Ego  Louis BLAISE, Thomas LAGACHE, Bastien ROGER 監督
>> Award for best school or graduation film
  Astronauts Matthew WALKER 監督  ※ムービー全編
>> Jury's special award for a graduation film
  Walking in the Rainy Day   Hyun-myung CHOI 監督

Series for Internet
>> Netsurfers award  Unlucky in Love  Bernard DERRIMAN 監督

Annecy 2006 - Award winners - 100 films

 今年、アヌシーで30人のスペシャリストの投票で選ばれた歴代100本。
 このサイトでとりあげた監督のもの、日本、チェコ関連を抜粋。数字はたぶん順位です。シュヴァンクマイエルは「対話の可能性」が3位にランクイン!

• 3 : Moznosti dialogu, Jan SVANKMAJER, 1982, CZ
• 19 : Street of Crocodiles (Ulica krokodyli),
    Timothy & Stephen QUAY, 1986, GB
• 21 : Le Petit Soldat, Paul GRIMAULT, 1947, FR
• 25 : Ruka, Jiri TRNKA, 1965, CZ
• 43 : Vincent, Tim BURTON, 1982, US
• 45 : Dojoji, Kihachiro KAWAMOTO, 1976, JP
• 58 : Jumping, Osamu TEZUKA, 1984, JP
• 68 : Repete, Michaela PAVLATOVA, 1995, CZ
• 70 : Atama Yama, Koji YAMAMURA, 2002, JP
• 83 : Lev a pisnicka, Bretislav POJAR, 1959, CZ

◆関連リンク
animeanime news アヌシー・クリスタル賞に仏「Renaissance」など
animeanime news アヌシーが選ぶ 短編アニメベスト100

 こうした欧米の作品が中心となるなかで、日本からは4作品が選ばれている。川本喜八郎『道成寺』、手塚治虫は『ジャンピング』、『おんぼろフイルム』の2作品、それに選出作品の中では最も新しい作品となった山村浩二の『頭山』である。

・アニドウ 会長日記: アヌシーですとシャク

ちょっと前になるけれど、アヌシーの事務局からメールが来た。なんでもこれまでのアニメーションのベスト100を選出するので、投票しますか、という問い合わせだった。

EBSの性教育アニメ、アヌシー国際フェスティバルで受賞

(株)キャラクタープランとEBSが制作した性教育アニメーション『子供たちが住む城』(The Birds & The Bees - A Secret You Shouldn\'t Keep)が2006年アヌシー国際アニメーションフェスティバルの教育部門で賞を受賞した。

・当Blog記事 アヌシー国際アニメーションフェスティバル2006 候補作

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2006.06.15

■原將人『父と子の長い旅』

原 将人『父と子の長い旅』(Amazon)

 映画と音楽に自由を求めて家庭を捨てた父と、いまは別々に暮らす中学3年生になった息子が辿った夏の旅。 その二人の心の交流と信頼の回復を描く感動のオフロード・ノンフィクション。映画「百代の過客」ができるまでの記録。

 原監督のインディーズドキュメンタリーフィルム『百代の過客』の制作日記というか、息子「まるじゅ」くんとの芭蕉『奥の細道』をたどる旅日記。
 「伝説の自主映画監督」ゆえ、その作品は手軽に観られる状況ではない。僕のような『20世紀ノスタルジア』で原将人を知ったファンは、新作も観えないし、欲求不満がつのるつのる。『百代の過客』も5万円ほどでビデオは出ているらしいのであるが、、、。しかたなく本やCDを購入するわけである。

 でもこの本、正解。
 原監督の映画への視線、人となり、そして『20世紀ノスタルジー』の原型である『夢の彼方の旅』の構想についても語られる。

 『夢の彼方の旅』は、事故で死んでしまった男の子が残した膨大なテープを、好きだった女の子が、カメラで再生して見ながら旅をする話である。

 この父と子の夏休みの旅の中で、『百代の過客』が撮られ、そして次の初商業映画の企画が立ち上がってくる。『20世紀』の「遠山杏」のカメラワークは、この旅でまるじゅが撮ったDVカメラの映像が参考にされている。そしてまるじゅの感性の一部がきっと「片岡徹」へ移植されている。

 「うん、だから、俳句っていうのが映像的だから、すごく人気があったんじゃないの。今のコンパクトカメラだよ。今の人たちがカメラを持って楽しむように、俳句を楽しんでたんじゃないの。江戸の人たちは。」P140原監督のコメント

 徹底して映像作家である原將人氏のこんな分析がここちいい。

◆関連リンク
山形ドキュメンタリーフィルムライブラリー
 YIDFF 貸出作品リスト  百代の過客
   The Eternal Traveller
   1995/16mm/219分/英語字幕あり/山形県内貸出
   (県外上映についてはお問い合せください)
講演講師: 原 將人 講師紹介なら講演依頼.com
・本書に登場する「まるじゅ」こと原丸珠氏は、その後、下記のような映画の製作をされていました。
 日本心中 針生一郎・日本を丸ごと抱え込んでしまった男 (公式HP)
 スタッフ詳細 ポスター
   制作・原 丸珠(はら まるじゅ)
   1978年東京生まれ。10代より、作曲などの音楽活動を開始する。
   12才の時、父 原将人監督の「百代の過客」に出演し、親子共演を
   果たす。近年は音楽活動と共に、映画制作にも携わる。

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2006.06.14

■ハイビジョンレポート 蛍ナイトショット

0606hotaru
 うちから車で五分の小川のほとりに蛍が生息していると聞き、さっそく行ってきました。本当にいました(^^;)。やっぱりこの辺、田舎なんだ、とちょっとショックだけど、手頃にホタルの風情を楽しめて実に嬉しい。

 写真は、HDR-HC1による赤外線写真。このハイビジョンハンディカムには、SONY得意のナイトショットという機能があって、暗闇のハイビジョンムービーが撮影できます。
 今までナイトショットって何撮るんだ??と品行方正な私には謎だったのですが、やっと活躍の場を見出しました。実にくっきりと夜間の生態を記録に残せます。クリックすると、拡大できるので、光っている様子も楽しんでもらえるかと思います。
 
 子供たちは、ホタルが手にとまるので、とにかくそれで喜んでました。いったん飛んで行っても、また舞い戻ってくるし、あげくには額にまで落ち着くし、、、人に警戒心のない純朴なほたるたちです(^^;)。下は娘の手で光っているホタル。ムービーではこの後、見事に光りながら飛び立っています。

 それにしても、ホタルの光って、電気の光に近い感触だけど、エジソンが電球を発明する前の人類って、この光をどう受けとめていたのでしょうね。きっと我々が感じるより、ずっと貴重で美しいものと捉えていたのでしょう。しばし空想。

◆関連リンク どうやって光るのか、ちょっと調べてみました。
ゲンジボタルの発光現象の仕組みをとらえる(理研)

 0606hotaru02ホタルの発光に関わる酵素(タンパク質)「ルシフェラーゼ」をはじめとする生物発光に関与する物質はすでに知られていましたが、今回、大型放射光施設(SPring-8)の理研構造生物学ビームラインI(BL45XU)と理研構造生物学ビームラインII(BL44B2)を用いて、ルシフェラーゼの立体構造を解明し、さらに発光色を決定しているメカニズムを明らかにしました。(略)
 ゲンジボタルのルシフェラーゼの遺伝子を大腸菌に組み込み、大量に作らせるという遺伝子工学の手法を使いました。大腸菌に作らせたルシフェラーゼを高純度に精製したところ、非常に良好な結晶が得られました。

 1960年には、精密測定により、化学反応によって得られたエネルギーが発光のエネルギーに使われる変換効率(量子収率)は約9割であることが明らかにされました。この効率は、現在知られている発光システムの中でも最高の効率といえます。今回明らかになった立体構造情報から、「なぜホタルの発光反応がこのように変換効率が良いのか?」ということがさらに明らかになれば、この一連の研究から省エネ型バイオナノマシンの開発などへの応用が期待できます。
 (略)さらに研究が進み、青色発光するルシフェラーゼを作ることができれば、光の3原色である赤、緑、青がそろうことになり、青色発光ダイオードが産業界に革命をもたらしたように、生物発光を利用したバイオイメージング等の分野でさらに応用が拡がることが期待できます。

 東京ドーム30ケ分の敷地で超強力なX線を発生できるSPring8という大型放射光施設の成果として発表されています。
 ルシフェラーゼという物質の化け学的反応による発光現象なのですね。で、最近、理研でその結晶の精製にも成功したということのようです。この化学発光の三原色を用いて、今後、映像装置としての探求も進むと面白いですね。ホタルの夢幻の光を使った幻想映画プロジェクタ。光の質が違うことで、映写された映像自体が幻想的な映画の誕生を見てみたくなりました。

 「バイオイメージング」という言葉も初めて知ったので、さらに以下探索。そうか生物の可視化技術のことなんだ。
日本バイオイメージング学会
蛍光プローブを用いたバイオイメージング 第1回

 電極により細胞の局所でしか測定できなかったイオン濃度変化が、蛍光顕微鏡とカメラを組み合わせたイメージングシステムにより多次元的に捉えることができるようになり、数多くの新生物現象の発見に繋がりました。

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2006.06.13

■レイモンド・カーヴァー『頼むから静かにしてくれ Ⅱ』

Raymondcarverrose01
 デビッド・リンチ監督の『ブルー・ベルベット』の世界を想いだしてみてほしい。アメリカのサバービアに噴き出てくる人間の業。美しい芝生の庭を映すカメラ。郊外の美しい光景が、知らないうちにカメラのクローズアップで切断された耳の映像に変わっていく。
 クローズアップであの耳が映らないで、もしかして耳があるのか、、、というところからカメラが先へは行かないのがレイモンド・カーヴァーの作品だと思う。

 そして、そこから先が読者の想像にゆだねられるため、逆にかえって凄いイメージを予感させる。そこがある意味、リンチを超えているところかもしれない。一番怖いのは、人の想像力。瑣末な事実だけど、カーヴァーが製材所に勤めていたというところも当然のように『ツイン・ピークス』の世界を想起させる。

 村上春樹はカーヴァーのタイトルの付け方にこだわって、訳者あとがきを書いているのだけれど、どうやら「変てこなセンス」とひとくくりにまとめている感じ。「ジェリーとモリーとサム」とか「他人の身になってみること」等々。でも、小説の内容とほとんど関係のないこんなタイトルを付けることで、やっと作品と拮抗していたカーヴァーの感性を想像すると、闇が垣間みえる。

 例えば想像してほしい。
 ある昔の知人が精神的にまいって企業を退職。しばらく話もしていなかったのに夜、重い電話が突然自分にかかってくる。切実に語られ、そして飲むことを約束して電車に乗る。その電車の中で読んでいる本が『頼むから静かにしてくれ Ⅱ』というシチュエーション。そんな現実から遊離したような気分で読むレイモンド・カーヴァー。そうすると何だかこのタイトルの奇妙さが実にしっくりくる。このタイトルでなくてはいけなかったカーヴァーの精神を想う。
 人生のそこかしこに転がる闇。これをさりげなく、軽く当たり前の生活のすぐ近くのものとして描いているカーヴァーの筆致はやはり凄い。

◆関連リンク
サバービアの憂鬱 第13章 中流の生活を見つめるミニマリズムの作家たち
・当Blog記事 レイモンド・カーヴァー:Raymond Carver ファースト・インプレッション

☆写真は、近所のバラ園で撮ったイギリスの薔薇「レイモンド・カーヴァー」。育苗家がカーヴァーのファンだったと思うけれど、この赤はカーヴァーには似合わない。もっと薄い色の花がふさわしいように思う。

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2006.06.12

■ガンダム展「GUNDAM 来たるべき未来のために」@高浜市
  GUNDAM GENERATING FUTURES

ガンダム展(公式HP)

「GUNDAM 来たるべき未来のために 高浜特別展」は、6月10日9時より、高浜市やきものの里かわら美術館にて開催!(6/10-7/23)
 2005年夏、大阪天保山を皮切りに、東京、仙台にて注目を集めつづける展覧会。「GUNDAM 来たるべき未来のために」が、[高浜特別展]として愛知県高浜市で開催されることになりました。
 話題の「リアルサイズ コアファイター」をはじめ、気鋭のアーティストたちによる熱のこもった作品群が「From GUNDAM」をキーワードに再構成され、これまでとは違う「ガンダム展」をご覧いただけます。

 貞本義行氏が住んでいるという縁なのか、大阪、東京、仙台に続き、愛知県高浜市で開催。なんか大阪、東京、仙台、高浜って、街の大きさにずいぶん高低差がある(^^;)。
 高浜って、下記リンクにもある「貞本義行の仕事展」をはじめ、アニメに重点政策をとっているのでしょうか、、、?? 
 以前は近くに住んでいたので、かわら美術館へはよく行ってましたが、ひさしぶりに行ってみようかな。リアルサイズコアファイターも観たいけど、巨大セイラ・マスもやはり『ガンダム』世代としては話の種に見たいものです。コンセプトを作者の西尾康之氏が下記のように書いています。この気持ち悪さが作品にも出ているようですね。写真は→ここ

 ガンダムの作中に流れる理不尽な力。それを強調し、さらには克服しようという自己内実験を試みます。私の歴史を振り返ると、心のダメージを克服する最短最強のアイテムは「リビドー」の活用のようです。機動戦士ガンダム作中にその活用ポイントを見渡すと、もっとも象徴的且つリビドー的なのがセイラ・マス。

◆関連リンク
新世紀エヴァンゲリオンのクリエーター 貞本義行の仕事展
コアファイター 1/1 メイキングレポート
ガンダム展 更新情報&制作日記[blog version]
 : 篠山紀信&大河原邦男、コアファイターに出会う

「GUNDAM」アート展 最大の彫像「crash セイラ・マス」作者 西尾康之氏に聞く
MSN-Mainichi INTERACTIVE ガンダム展:
 原寸大コアファイター、巨大セイラ像登場 東京・上野の森
写真多数
Exciteエキサイト:アニメ ガンダム展リポート

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2006.06.11

■田草川 弘『黒澤明vs.ハリウッド
 『トラ・トラ・トラ!(虎 虎 虎)』その謎のすべて』 

Kurosawa_vs_hollywood_2 文藝春秋社 自著を語る 田草川弘×野上照代対談 (公式HP)
田草川 弘『黒澤明vs.ハリウッド―『トラ・トラ・トラ!』その謎のすべて』(Amazon)

◆注意!
 この本を読もうと思っている黒澤ファンは、本のあとがきと上記リンクの著者と野上氏の対談を先に読まない方がよいです。著者があとがきに仕掛けた素晴らしいエッセンスを体験できなくなります。

◆総論
 映画のメイキング本が好きで、中でも黒沢明の現場が知りたくて関連本は20冊近く読んでいると思う。それらいくつもの本でミステリアスに語られていた『トラ・トラ・トラ!』の黒澤明監督降板。この本はその38年前(1968年12月)の謎に迫った一冊。黒澤ファンとしては、その真相/深層を切実に知りたいと思っていたけれど、既に本人も亡くなり真相は既に藪の中と思っていただけに出版に驚くとともに、大いに期待して読んだ。

 読了、結果は素晴らしいの一言。いままで読んだ黒澤ドキュメント本の中でもベスト1ではないだろうか(上記リンクの対談で、黒澤の盟友 野上照代氏も絶賛されている)。黒澤の映画づくりの現場のルポとして、そして問題の降板の謎について迫真のドキュメントとなっている。

 謎の解明の深度と多面的分析の素晴らしい完成度。日本国内では情報を得ることができず、アメリカへ資料探索と関係者インタビューに赴いた著者の行動力と、センセーショナリズムに傾かない真剣な筆致がとてもいい。多数の関係者の気持ちを尊重しながら、客観的に丁寧に描いた一級のルポルタージュになっている。

◆黒澤版『虎 虎 虎』
 本書はまずロサンゼルスのAMPAS(映画芸術科学アカデミー) マーガレット・へリック図書館のエルモ・ウィリアムズコレクションで発見された黒澤と小国英雄、菊島隆三による脚本第一稿(準備稿)を紐解いて、読者に幻の黒澤版『虎 虎 虎』の映像イメージを提示する。シナリオの一部採録と田草川氏の解説により、脳内投影された黒澤版は圧巻である。

 『虎 虎 虎』は「誤解の積み重ねによる、能力とエネルギーの浪費の記録」であり、運命的な「悲劇」である、と黒澤監督はつねづね語っていた。(略)
 「おそろしい運命が待ち構えている。そのことを知って、避けよう避けようと懸命に努力する。それなのに、かえってその運命に引き寄せられてしまう。これだけはやるまいと苦労していた人間が結局その最も恐れていたことを自分でやってしまう。」 P23

 戦争の本質をまるごと描こうとした黒澤のコンセプトがイメージとして立ち上がる。
 どこかに悪役がいたからという単純な図式ではない、戦争へ至る人間たちの怪異なメカニズム。その全体像が提示される素晴らしい映画になっていたような印象である。
 ずっと黒澤が撮っていたらどんな映画になっただろうという幻を想い描いていたファンには、この部分だけでも、第一級の贈り物になっている。
 具体的には、山本五十六の人物像に関する黒澤の解釈と描写が面白い。そしてファーストシーンとして構想された山本の長官としての新任式「登舷礼」の演出プラン。音と映像の黒澤マジックがシナリオと解説で、読者に素晴らしいイメージを伝えている。

 巨大で無気味な圧迫感、その運命から逃れられない人間、それを天から俯瞰する目。具体的映像で表現できるはずもなく、スクリーンには映っていない何か恐ろしいものを、観客は想像することになる。「(観客が)想像したものよりいいものを撮るのは、僕は不可能ではないかと思うのです」という黒澤の言葉がある。自分の撮る映像は凄い。そしてそれを超える映像は、自分が観客の脳裏に想像させてみせる、という強烈な自信の表れだ。P109

◆降板
 そして謎の真相。ここについては多面的な見方がされており、いくつかの複合的偶発的な要因が大事を引き起こす過程が生々しくルポされている。登場人物は、20世紀フォックス社長のダリル・ザナック、プロデューサー エルモ・ウィリアムズ。黒澤プロ青柳哲郎氏等々。
 今まで読んだいろいろな本で述べられていたことが、全てある視点からみたら原因として正しかったようにみえる。そうしたいろいろな要因が複合的に「降板」という一点に収束していったということである。ただ上記対談で田草川氏が要約して語っている。

 原因は配役にあった。素人俳優の起用というのは、現場からみたらたいへん危険なことで、三船敏郎さんもこれを批判されていました。

 田草川氏は多面的な原因ではあるが、特にキーとなったのは、黒澤がリアリティにこだわり戦略としてとった主要人物への海兵出身素人俳優(「社会人俳優」)の起用だと分析する。それにより撮影が順調に行かなかったことと、東宝の黒澤組を離れた慣れぬスタッフとの京都太秦撮影所での気苦労、そして日米の映画の撮り方の文化的ギャップとそれへの認識不足と黒澤への伝達のディスコミュニケーション、、、これらによる現場と黒澤の混乱が真相だったようだ。
 現場での黒澤の奇行も描かれているが、これがプレッシャー故だったのか、いつもそうしたことは程度の差こそあれあったことなのか(他のドキュメント本でも出てくるが、この行動はかなりのもの。通常の黒澤組スタッフからはここまで露骨な描写はソフトにされて出てきていなかったのか)、これはよくわからない。

※ここで僕は事件を「降板」という表現で書いた。田草川氏は本書で「解任」という表現をしているが、P298とP302のエルモ・ウィリアムズの発言と書簡を読むと、アメリカ的契約社会のドライな「解任」という表現は適切でないと思う。エルモが配慮しつつ語ったことは、「何より大切なのはあなた(黒澤)の健康である。だからこそ、あなたには東京に帰り、十分休養していただきたいのです」というもの。「更迭」という表現もあるが、この時のエルモの心情はドライな「解任」ではなく、辞任を促したという感じなので「降板」という表現としました。

◆もうひとりの主役 エルモ・ウィリアムズ
 この本で、著者が黒澤以外で非常に丁寧な描写をしているのが、プロデューサのエルモ・ウィリアムズ。むしろ読後の印象は、このエルモの映画への粉骨砕身がテーマだったのではないかとも思える。
 アメリカの映画プロデューサーの仕事のリアルな中味を知りたいならば、このドキュメントはその理想形を見せてくれるかも知れない。それにしても残念なのは、ダリル・ザナックとは映画という共通言語で心を通わせていた黒澤が、もっとも身近で黒澤作品を愛し、人一倍『虎 虎 虎』実現のため、苦労していたエルモを理解していなかったこと。

 どこでボタンが掛け違ったのか、そこは書かれていないが、この二人に良いコミュニケーションがあったら、われわれはもう一本の黒澤作品を観ることができていたはずで、残念でならない。
 歴史にもしもはないが、ハリウッドでの成功があったとしたら、その後の黒澤フィルモグラフィは全く違ったものになっていただろう。ファンなら読後、ため息とともに、そんなパラレルワールドを空想し、黒澤究極映像をイメージしてしまうだろう。残念。

◆関連リンク
・ジャーナリスト 田草川 弘氏の本(Amazon)
Tora_tora_tora
Tora! Tora! Tora! TRAILERS 『トラ!トラ!トラ!』予告篇
James Elmo Williams Web Site(公式HP) 
Elmo Williams - Filmography - Movies - New York Times
EI > Interviews > Elmo Williams
 ここにはエルモによる黒澤降板のコメントがあるが、本書のニュアンスとは随分異なっている。
AMPAS(映画芸術科学アカデミー) (日本サイト) 
Special Collections Manuscripts - Margaret Herrick Library - Academy of Motion Picture Arts and Sciences Elmo Williams Collection
 ここへ行けば、準備稿が読めるようです。この本が当たって、どこかの出版社が著作権関係を整理して、是非準備稿または黒澤版撮影台本を刊行してほしいものです。黒澤生誕百年の2010年に実現されることをファンとして期待したいものです。

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