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2007.01.20

■対話がアニメを作り出す~監督 神山健治~
      (NHK にんげんドキュメント)

対話がアニメを作り出す~監督 神山健治~(NHK にんげんドキュメント)
                   (★しばらくはこちらでしかリンク見えない)
 当Blog記事 NHK にんげんドキュメント 神山健治監督の現場ルポ

◆シナリオの強度

 脚本作りに焦点を当てたドキュメント。
 これは神山監督の監督術のコアに当たる部分。きっとNHKとの事前の話し合いでここを中心に番組を構成することは監督もしくはI.G側から提案したのではないかと邪推。通常のアニメメイキングと違った切り口で面白い内容になっていた。(作画自体については語られていないので、少々寂しいが主役が神山監督ということでは正解なのだろう。)

 脚本作りを徹底的に討論で強度を上げていくやり方は、まさに黒澤明の映画術と共通する。(黒澤の脚本作りにもいくつかの変遷があったようで、こことかに整理した記述があるのでご参照→蒼穹の回廊 書評 橋本 忍『複眼の映像-私と黒澤明』) 『攻殻機動隊SAC』の緊密なストーリーが、こうした作り方で出来上がっていたことがリアルに体感できた。

 ただひとつだけ気になったのが、今回の物語で女性ライターがいないこと。30歳の女性主人公を描くのに、40代くらいの男性ライター中心、しかも(ちょっとむさくるしい(失礼)雰囲気の)討議で、、、というのが少し女性的な感覚の部分を描くのには、もしかして不安要素かと。
 え、草薙素子の場合はうまくいった、あの方は電脳とサイボーグによる変容した女性ということで別格では?(もしかしてバルサも剣というテクノロジーで変容した女性なのか??すみません、ストーリー知りません。)

Kamiyama_pc◆アニメ制作支援システム

 神山氏がコンテを描くところを直接映像で観れたのもよかった。こうした思案の仕方、鉛筆の動きから今までの作品も生み出されたわけだ。そして机の周りの張り紙。
 「刀の錆は砥石で落とす。人の錆は対話で落とす」とか、「自分の仕事を見出せた人は幸である」。説教くさくもみえるが、こうした律し方が神山監督らしさだと思う。

 そして絵コンテをきる作業の時にデスクトップで動いていたのが右のようなシステム。切れてしまっているが、上からキャラクター、ストーリーボード、発注表、用語集、と推定される。この画面ではクリックされてストーリーボードが表示されている。
 htmlで書かれているのか、なんなのかは画面からだけではわからないが、単なる共有サーバのフォルダでの管理でなく、制作にこうしたシステムが構築されていることがわかる。I.G独自のものか業界でツールとして普及しているものか、これも不明だが、演出の援用システムが存在するわけだ。(絵コンテは岩井俊二氏のようにPCの人もいるけど、神山氏は鉛筆手書き。)

◆原作とオリジナル

 画面にストーリー構成と原作のページとの関係が出ていたので、せっかくなのでメモメモ(なんと暇な作業をしているのか>>自分(^^;))。原作はシリーズだけれど、1冊目だけがアニメ化されるということがわかる。企業秘密でストーリーのポイントはぼかしが入っていた。今回、オリジナルストーリーが約半分。

1話 P   6- 35     2話 P 36- 68
3話 P  68- 94    4話 P 94-108
5話 P110-148    6話 P116-122, 149-165
7-18話 オリジナル
19話 P166-184  20話 P186
21話 -P201       22話 オリジナル
23話 P211-248  24話 P202-210
25話 P248-289  26話 P290-325

◆没企画書

 押井塾等での神山監督の企画書が映像で数点映し出された。イラストや物語のシノプシスが興味深い。データ的にタイトルを挙げると、『隣室のヒットラー』、『エイジアン・マトリックス』、『大転換期家族 ラブタンバリン』、『隣のお嫁さん』。最後のはなんかやけくそな企画に見えますが、その他の3本は、観てみたい感じ。

◆物語の核心

 最後にテーマのコア部分について語られた。
 自分の娘ではないバルサを育てた剣豪ジグロ。ひとつも自分の得にならないことをなぜジグロはやったのか、ここの理由をはっきりと出すことが、物語の核心であろう、と監督が語っている。

 「(剣豪として)極めようとしていたが、自分のためだけではそのモチベーションが続かなくなることを知ったんだと思うんですよ、ジグロは。人のために奮うことでモチベーションが続くのだということを知ったんですよ、絶対。全てはそれは他者のため。自分のためだけではないというところに帰結していくんだと思う。この話は。ここがこの物語の肝になる。自分でもやりたいところはここのような気がする。」

「他人のために懸命に頑張るところ。自分の行動を振り返ると、自分のためだけではこんな苦しいことは続けられない。義務感みたいなものも頑張れるモチベーションになってる。 そこが100人ものスタッフでやるアニメーションの最大の面白さでもある。(略)(自分は)そういうのはどっちかというとやだった。」

 これを説教くさくない形でやりたいと言う監督とシナリオスタッフ。今の時代とフィットするように思えるこの部分が物語で果たしてどう描かれるのか、楽しみにスタートを待ちたい。

◆蛇足

 上のディスカスを見ながら僕が思い出したのは、最近人から聞いたアインシュタインのエピソード。

Einstein_1  アインシュタインが来日した際に、ひとりの学生が質問した。「人は何のために生きるんですか?」
 アインシュタインは吃驚した顔でこう言った。「他人を喜ばせるためです。そんなこともわからないのですか?」

 伝え聞きなので、なかなかニュアンスをうまく表現できてるかわからないが、このエピソードは、ストレートで眼から鱗に感じられた。実際に彼がそうできていたかはともかく、舌を出す有名な写真とか、その行動原理がなんか理解できる(^^)。

 こうしたことが自明のものとして子供たちに話される世の中というのも良いのかもしれない。

◆関連リンク
アインシュタイン格言集 のページにはこの話はでてないです。
押井塾課題提出の企画書(Production I.G)
 『隣室のヒットラー』、『大転換期家族 ラブタンバリン』、『隣のお嫁さん』が課題テーマに基づいた企画だというのがわかります。
・shamonさんのひねもすのたりの日々
 NHKにんげんドキュメント「対話がアニメを作り出す~監督 神山健治~」
『攻殻機動隊S.A.C.Solid State Society (大型本)』 (amazon)
・当Blog記事 神山健治監督 新作『精霊の守り人』

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コメント

 shamonさん、こんばんは。

>>ジグロを掘り下げるのは続編「闇の守り人」の要素ですね。

 そーなんですね。ということは「闇の守り人」からも一部ストーリーを持ってくるのかな?

>>今回の物語で女性ライターがいないこと
>私はあまり気になりませんでした。制作会議には原作者も何度か参加しておられる
>らしいので大丈夫でしょう。それに女性がいればうまくいく、というものでもない
>し今は脚本家チームを信頼したい。

 たしかに「女性がいればうまくいく」わけではないですね。ただあのおっさんたちの討議の映像を観ていて、ときどき奥さんとか身近な女性をイメージするくらいで本当に女性を描けるのか、と思ったわけです。でもshamonさんの視点で見たら、SACは充分女性心理を描けていたということなので、大丈夫なのでしょうね。

>>原作は多くの教訓が説教臭くなく含まれています。

 オリジナル部分をあとはいかにソフスティケートして描けるか、ですね。

投稿: BP | 2007.01.21 23:34

こんばんは^^。リンク感謝ですm(__)m。
原作を読んだ時のエントリをTBさせていただきます。

原作は軽装版しか持ってないため詳しい比較はできません(ページ数が違うみたい)が脇役にもかなりスポットが当てられる気がします。バルサとチャグムの逃亡生活に並行して宮廷での政治闘争も出てきそう。
ジグロを掘り下げるのは続編「闇の守り人」の要素ですね。ちらっと映ったバルサの叔母の名前も「精霊~」には一切出てきません。

>今回の物語で女性ライターがいないこと
私はあまり気になりませんでした。制作会議には原作者も何度か参加しておられるらしいので大丈夫でしょう。それに女性がいればうまくいく、というものでもないし今は脚本家チームを信頼したい。

原作は多くの教訓が説教臭くなく含まれています。
その中で私が一番強く感じたのは
「誰かにきちんと受けとめられて育った人は、必ず誰かをしっかり受けとめられる人間になる」
です。
人と人を繋ぐ一番大切で難しいことを監督は描こうとしているのではないでしょうか。

投稿: shamon | 2007.01.21 20:41

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