« ■池谷裕二 『進化しすぎた脳
   中高生と語る「大脳生理学」の最前線』 感想・1
| トップページ | ■ジブリ 宮崎駿監督新作『崖の上のポニョ』 »

2007.03.19

■池谷裕二 『進化しすぎた脳』 感想 2
   無意識の脳活動と芸術家の「半眼」

 感想2は、こんなタイトルにしてみた。「半眼」は浦沢直樹氏の話につながるはずなのだけど、どうなることか。(自分でも書いてみないとうまくつながるか自信ない(^^;))

 まずは『進化しすぎた脳』から面白かった部分をポイントで紹介。

◆無意識の活動と意識

・病気(水頭症)で通常の脳体積の10%しかない人でも、大学の数学科の首席をとり通常以上の思考活動ができる例がある。病気にかかったとは知らずに検査で初めて気づいた。「進化しすぎた脳」はその一部だけでも充分な仕事を果たす(P84)

・ボールが投げられてからキャッチャーがうけるまで0.5秒。人間はものを見て判断するまでに0.5秒かかる。野球選手は視床から視覚野に入った映像を意識して行動をおこすのではなく、「上丘」で原初的だけど素早い視覚処理をして意識することなくダイレクトに行動してボールを打っている。意識はあとでついてくる。(P138)

・ボタンを押すという行動と脳波の関係を調べると、「動かそう」という意識が現われる1秒前に、すでに「運動前野」という運動をプログラムするところは動き出している。「動かそう」としたのは無意識の脳活動が先で、それを後追いで意識が確認している。
 「動かそう」と脳が準備してから「「動かそう」と自分では思っている」クオリアが生成されている。自由意志というのは実は無意識の脳活動の奴隷(の場合がある)。(P171)

 一番眼からウロコだったのは、意識より前に脳は行動を開始しているという部分。それを並行で意識が確認していく。そして生成されたクオリアが本末転倒な認識を形作る、というところ。これって、ものすごーく深い内容のような気がする。

 意識というものの正体が、こうした実験からある程度あぶりだされてくるのではないか、という予感に溢れている。ただ著者の池谷裕二氏はこれ以上の推測を学生たちに突っ込んで語ることはない。(別の箇所では「意識とか心というのは多くの場合、言葉によって生まれている。意識や心は言語が作り上げた幽霊、つまり抽象だ」「意識とか心は<汎化>の手助けをしている」「人に心がある<目的>は汎化するためなんだろうね」(P196))

Urasawa◆半眼のメカニズム

 さてここで、先週のNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」(創造性を生む「半眼」の境地)インタビューイ浦沢直樹氏に登場いただこう。

 クオリティーの高い作品を絶え間なく生み出し続けている漫画家の浦沢直樹さんは、アイデアを生み出す時や非常に大切な1本の線を描く時に、座禅で言う「半眼」の状態に自分を置くと言う。

 ここで面白かったのが漫画を描く時の「半眼」。一本の線を引く時に、意識が介在するよりも少しぼんやりとした「半眼」の状態の方がイメージに合ったいい線が引ける、という話。

 これと上記の意識より前に脳は行動を開始しているという部分をあわせて読むと、「半眼」の正体が見えてくる。ここまで書いたら言わずもがなだけれど、豊かな描線を無意識の脳活動が描こうとしていて、それを邪魔してしまうのが、この時、後追いで生成された「描こう」と自分では思っている」クオリアとそれにより無意識の活動に介入する意識なのだろう。

 それを意識をぼんやりさせて「半眼」で動き出した脳活動にまかせる、というのが、池谷的に表現した浦沢の描線の豊かさの秘密なのかもしれない。

 僕はイラストをちょこっと描いた経験しかないけれど、最初の鉛筆でささっと描いたネームの方が自分ではうまくみえる(脳内のイメージに近い)というのは、なんとなくこの脳活動と意識のメカニズムを想起するとよくわかる。

 天才というのは、積み上げた経験訓練が無意識の能力として高いレベルにある人のことをいうのだろう。剣豪の「半眼」というのは聞いたことがある話だけれど、まさに努力によって作り上げた脳内の回路による活動と、それを阻害しないで「半眼」の意識でうまくコントロールする状態を作り出すことが漫画家や剣豪の優秀さと直結しているのだろう。

◆蛇足 そして無意識の脳活動を恐れる人々

 例えば、P・K・ディックが小説やエッセイで描く「自分が何者かに操作されているのではないか」という強迫観念は、上で記述した意識が持つ無意識の行動への恐れみたいなものと考えると理解できるような気がする。
 実は自分がコントロールしているのではなく、脳内の無意識な情報処理、行動指示が自分の体を操作している場合があるということを過度に意識してしまったらどうなるか。クオリアという意識を騙す伏兵のようなものがいくら頑張っても、一度疑いの気持ちを持ってしまったら、自分の脳の活動と意識が乖離してひどいことになりそうだ。
 本来、全部が自分の脳活動だと、しっくり理解/体感すればいいことなのにネ、、、。

 という蛇足はここまでにして、次回は『進化しすぎた脳』から視覚の秘密をご紹介の予定。やっと究極映像研らしいネタに回帰できて、めでたしめでたしとなりますか??

◆関連リンク
Neuron池谷裕二のホームページ 東大薬品作用学教室 (公式HP)
 池谷裕二は何を研究しているのか、何を目指しているのか

 ここから神経細胞の発火パターンの映像 →

 池谷氏が開発した世界最高のリアルタイムニューロン観測。手法としては多ニューロンカルシウム画像法というものだそうです。同時に1000個の神経細胞の発火現象をとらえることが可能とか。チカチカしているのがリンク先で確認できます。

・当Blog記事
 『進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線』 感想・1

|

« ■池谷裕二 『進化しすぎた脳
   中高生と語る「大脳生理学」の最前線』 感想・1
| トップページ | ■ジブリ 宮崎駿監督新作『崖の上のポニョ』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/24373/14300824

この記事へのトラックバック一覧です: ■池谷裕二 『進化しすぎた脳』 感想 2
   無意識の脳活動と芸術家の「半眼」
:

« ■池谷裕二 『進化しすぎた脳
   中高生と語る「大脳生理学」の最前線』 感想・1
| トップページ | ■ジブリ 宮崎駿監督新作『崖の上のポニョ』 »