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2007.12.15

■アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』CHILDHOOD's END
  人類の未来 映像の未来

Childhoodsendtile
アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』(amazon)
                    (光文社古典新訳文庫ラインナップ)

初版から36年後に書き直された新版、初の邦訳。
SFを超えた「哲学小説」!

この改稿版には、時代の趨勢にかんがみ作品の再調整をして、そのつど人類の平和のありかたを考え直す、クラークならではの未来のヴィジョンが貫かれている。

(解説より) 地球上空に、突如として現れた巨大な宇宙船。オーヴァーロード(最高君主)と呼ばれる異星人は姿を見せることなく人類を統治し、平和で理想的な社会をもたらした。彼らの真の目的はなにか? 異星人との遭遇によって新たな道を歩み始める人類の姿を哲学的に描いた傑作SF。

 1953年に刊行され1999年に若干改稿された新版の初日本語訳。話題の古典新訳文庫にこの作品が入るというのが少し以外だったけれど、なんだかSF文庫以外で刊行されるのはとても嬉しい。

 改稿部分は第一章で、米ソの宇宙開発競争を背景としていた旧版に対して、冷戦終結後の世界情勢を反映し書き換えられている。だけれども読んだ印象はそれほど変わらない。現代からのリアリティを補ったくらいの改稿。

◆人類の未来

 今回読んだのが、たぶん中学、大学時代に続く3回目になるはず。年齢をとって読む感覚が多少変わるかと思ったけれど、異星人カレルレンと国連事務総長ストムグレンの会話がクラークにして若干若書きな印象があるくらいで、終盤の素晴らしい人類視野の展開は今だ古びていない。(新訳では「カレラン」になっているが、旧読者にはやはり「カレルレン」でないと(^^;))。この作品、クラークは36歳の時に執筆しているわけで、もう凄いとしか言いようがない。当時すでにオラフ・ステープルドン『最後にして最初の人類』といった思弁的に人類の進化を描いたSFがあったわけで、それらがクラークのこの作品に影響していることは間違いないにしても、こうした筆致で異様な人類の未来を描けているのは、全く凄い。

◆映像の未来

P285 ニューアテネで行なわれた実験のなかでもっとも目覚しい成果を上げたのは、無限の可能性を持つアニメ映画の分野だった。ディズニーから百年が経過しても、この何よりも柔軟な表現様式はまだ本領を発揮していなかった。純粋な写実主義を追求すれば実写と区別が付かない作品の制作も可能になっていたが、アニメ映画を抽象主義にそって進化させようとしている人々からは大きな軽蔑を買った。(略)

P286 そのチームの研究テーマは、"トータルアイデンティフィケーション" -完全な一体感だった。着想のもとは映画の歴史にあった。まず音が、次に色が、立体映像が、シネラマが、古い"活動写真"を着実に現実に近づけた。その発展の歴史の終着点はどこか。それは言うまでもなく、観衆が観衆であることを忘れ、映画の一部になることだろう。それを実現するには、五感のすべてを刺激したうえで、おそらくは催眠術も利用する必要がある。(略)映画を観ている間はどんな人物にでもなれる。現実のものであれ架空のものであれ、想像の及ぶ限りの冒険に参加できる。人間以外の生物の感覚印象をとらえ、記録することさえ可能になれば、植物や動物にもなれるだろう。

 こんな描写にも奮えます。映像の未来に関してもやはりこのフューチャリストの視点は素晴らしい。催眠術を援用した究極映像。この方法で映画を進化させるテクノロジーが開発されたら凄い。(ダグラス・トランブルの『ブレイン・ストーム』の世界か?) 

◆関連 対談『新世紀エヴァンゲリオン』の世界 SFマガジン 1996年8月号

  この対談は、4月28日に開催された「SFセミナー’96」でのパネルディスカッションをもとに再構成したものです。   

大森望 ぼくは逆に、光瀬龍ってのはあんまり思わなくって、やっぱりクラークの『幼年期の終り』から、小松左京を経て、最近でいえばグレッグ・ベアの『ブラッド・ミュージック』に至る、人類進化の階梯をひとつのぼるための物語として解釈してたんですが。

庵野秀明 わかんないですね。そこまで大仰なもんじゃないと思うんですけどね。やろうとしたことは。

 『幼年期』のクライマックスで現出する無表情な無数の子供たちの異様な姿。このシーンは明らかに映画版『新世紀エヴァンゲリオン』に影響している。

 そしてこの映画は、たぶん『2001年宇宙の旅』を超えて、今のところ『幼年期の終わり』の不気味な進化に最も近いイメージを映像化した作品といえるだろう。たぶんリビルド『ヱヴァンゲリヲン』の最終話が作られるまでは。

アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』(amazon) ルビ訳

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