« ■SFマガジン編集部編『SFが読みたい!2008年版』
   & 究極映像研 2007年SFベスト
| トップページ | ■巨大ロボットCG 『テコンV:TaekwonV』 »

2008.02.18

■筒井 康隆『ダンシング・ヴァニティ:Dancing Vanity』

筒井 康隆『ダンシング・ヴァニティ』(amazon)

この小説は、 反復し増殖する、驚愕の文体で書かれています。この作品を読んだあとは、人の世の失敗も成功も、名誉も愛も、家族の死も、自分の死さえもが、全く新しい意 味をもち始めるでしょう。そして他の小説にも、現実生活にさえも、反復が起きる期待を持ってしまうかもしれません。

冒頭部分掲載 雑誌『新潮』編集長・矢野優氏から (新潮公式)

「一般読者や同業者が首を傾げたり、もしかすると「錯乱の産物」として眉を顰めるかもしれないような小説を創ることこそわが使命」。これは本号掲載の「ダンシング・ヴァニティ」(長篇第1部130枚)を予告した筒井康隆氏の言葉だ

 「反復し増殖する、驚愕の文体」は、時に「錯乱の産物」として読者の眼前に現れ、過去の記憶と現在を混沌とさせる。

 「自分の死さえもが、全く新しい意 味をもち始める」というのは、ちょっと大げさではあるけれども、しかし後半のネタばれ部分で述べるように、まさに「死」を想像する時の自分のイメージを少し拡張されたような気になるのは、確か。

 いきなり冒頭から反復するシーン。
 内容はほぼ同じなのに、少しづつ表現が変えてあることで書かれているそのひとつづつの時間が、少しだけ別の小世界として立ち現れる。小説の構造に切り込んでいる作家の実験を感じる。少しづつの表現の違いで、読者の想起する小世界を自在にコントロール熟練の作家の技に舌を巻く。

 齢73歳の筒井、この年齢でここまでの文学的な冒険を実現できることに驚嘆しながら読み進めていたのだが、それは大変失礼な感想。

 読み終えた時には、まさにこの年齢だからこそ、死を間近なものとして切実に感じているだろう作家の想像力が描き出した世界であることがわかる(ある番組での「未来は死ぬんだよ、俺は」の発言が生々しく思い出される)。

 反復の意味。読者は本書の最後でそれに気づくことになる。たぶん。

★★★★★★★★以下、ネタばれ注意★★★★★★★★★★

 Dancing Vanityとは、直訳すると「踊る空虚/虚飾」。これは何か。
 死の直前で自分のありようを認識する主人公のシーンがまず思い出される。

 反復する文章は、死の直前の時制の混乱を示しているのだろう。反復しているのは、主人公の記憶。そしてあり得たかもしれない自分の人生。走馬灯のように、死の直前の錯乱した精神の中に立ち現れる光景がこの小説全体なのだろう。

 だから僕たちはそれを疑似体験する。正確には作家筒井が思い描く、死の直前の精神がさらされる状況なのだが、、、。虚構を究めようとしている作家が挑んだこの今回の作品のターゲットは、恐ろしく巨大なものだ。

 それが成功しているか、少しだけその尻尾を掴んだのかは、実は僕らには今は判断できない。そしておそらくそれをわかって、この本の書評を精度よく書ける人間はどこにもいないだろう。
 なぜならそれは、死に直面してみないとわからないから、、、。

 キトクロ キトクロ キノクトロ キクラト キクラト キノクラト

 果たして僕ら読者は、この言葉を自分のその瞬間に思い出すことがあるのだろうか。

 、、、、と何やら誇大妄想な感想になってしまったけれど、読んでいる間はいろいろな趣向が散りばめられていて楽しく読めるいつものスラプスティック。狂騒的に描かれるいくつものシーンの切れ味は相変わらず鋭い。

◆関連リンク
asahi.com:「場面反復」の実験的小説 筒井康隆氏 新作『ダンシング・ヴァニティ』

 「人間の記憶は、大事な部分が強調されたり、いやなことが省略されたり、回想するうちに歪曲(わいきょく)されていくもの。だけど失敗も含めて通過してきたことで現在の自分がある。どの道を通っても完成された死はない、と主人公は知るのです」

 2/20追記、筒井氏のインタビューがありました。まさにテーマについて語られています。
・筒井康隆公式サイト
BSアニメ夜話 細田守『時をかける少女』
 筒井康隆、アニメにおける文学の可能性を毒とともに語る

 この小説は雑誌『新潮』07年2,5,8,9月号に発表されたもの。
 一方、細田守の『時をかける少女』が公開されたのは06年7月15日。
 反復する小説を思いついたのは、実はこの映画を観て文学とゲーム的リアリズムの関係を描く手法を思いついたから、ということはないだろうか(邪推)。
 

|

« ■SFマガジン編集部編『SFが読みたい!2008年版』
   & 究極映像研 2007年SFベスト
| トップページ | ■巨大ロボットCG 『テコンV:TaekwonV』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/24373/40158090

この記事へのトラックバック一覧です: ■筒井 康隆『ダンシング・ヴァニティ:Dancing Vanity』:

« ■SFマガジン編集部編『SFが読みたい!2008年版』
   & 究極映像研 2007年SFベスト
| トップページ | ■巨大ロボットCG 『テコンV:TaekwonV』 »