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2008.05.26

■飛 浩隆『ラギッド・ガール―廃園の天使Ⅱ』

飛 浩隆『ラギッド・ガール―廃園の天使Ⅱ』

人間の情報的似姿を官能素空間に送りこむという画期的な技術によって開設された仮想リゾート“数値海岸”。その技術的/精神的基盤には、直感像的全身感覚をもつ一人の醜い女の存在があった―“数値海岸”の開発秘話たる表題作、人間の訪問が途絶えた“大途絶”の真相を描く書き下ろし「魔述師」、“夏の区界”を蹂躙したランゴーニの誕生篇「蜘蛛の王」など全5篇を収録。

 硬質な文体で綴られる幻想的でシュールで、そして痛い傑作。
 飛 浩隆氏、きっとジェームス・ティプトリーJr.「接続された女」とかジョン・ヴァーリー「ブルーシャンペン」とか好きなんだろうなー。阿形渓というキャラクターの造形とかサイバーな感覚とか、直接的ではないにしても同様のイメージを感じた。

 ということで調べてみたら、下記のような記事が。

2006年度第6回Sense of Gender賞 大賞
飛浩隆『ラギッド・ガール―廃園の天使2』)

短編「ラギッド・ガール」は、露骨に「接続された女」の影を匂わせているにもかかわらず、実は執筆にあたり(その後も)一度も読み返さないままでした。
というのも「ラギッド・ガール」に専念した七ヶ月のあいだ、私の視野をおおっていたのは阿形渓嬢の圧倒的印象であり、それと格闘するだけでいっぱいいっぱいだったからです。
格闘の相手は印象であり質感であって、つまりは言語化以前の領域でした。そして、阿形渓の質感とこすれ合うことによって、さらなる怪物、安奈・カスキがしだいしだいに飛の中から研ぎ出され形を得ていった、という記憶があります。(略)

 AIの描写とか意識について深く考察した記述が多く、「質感との格闘」というのが的確に物語の雰囲気を表現している。作家の頭の中の「質感」として立ち現れた登場人物や物語を文章として紡いでいく「格闘」。このような意識的な「質感」の表現が丁寧にひとつひとつ硬質な言葉づかいをされた物語に結実している。

 官能素空間について、「感覚器官のふるまいを律儀に計算し、その延長上に人間の意識を描きだそうとすれば、少なくとも体内で生起するあらゆる電気的、化学的反応を逐一計算しなければならない。とうてい実現不能なその難事を正面から解決せず、間に合わせの便法で済まそうとするのが、情報的似姿の本質だった」(P166)と記述されている。

 感覚器官と意識の間に横たわる人間の世界認識のメカニズムが、人それぞれ固有の世界像を形作っていて、それが個性の大部分を占めるような気もしている。少し違和感を持ったのは、そこを官能素として統一してしまうと、各個人がそれぞれに把握する世界像の差がなくなってしまうのではないか、ってこと。そこのところの違和感について、次作『空の園丁』で描きこまれていたら面白い、と個人的に思った。

◆「夏の硝視体(グラスアイ)」
 漁師ジョゼと少女ジュリー、グラスアイの発見『グラン・ヴァカンス』の前日譚的物語。
 『グラン・ヴァカンス』と同じ<夏の区画>が舞台。

◆「ラギッド・ガール」
  官能と残虐の描写が冴えている。ヴラスタ・ドラホーシュ教授のキャラクターが秀逸。「人間の意識と感覚は、秒40回の差分の上に起こる」。小説の読者と登場人物の関係の本質と、そこを伏線としたラスト。特に終盤の6ページの変転は素晴らしい。

◆「クローゼット」 
 死んだ恋人の残された似姿の再生。多重現実と“数値海岸”の組合せで現れる新たなイメージ、ここからまだまだ多くのワンダーを生みだせそうだ。

◆「魔述師」 
 〈数値海岸〉の〈大途絶〉の真相を東欧(チェコ?)を舞台にして描いた一編。
 このタイトルの原題はLATERNA MAGIKA:ラテルナ・マギカ。本書では〈数値海岸〉を運営する会社がラテルナ・マギカ社。そして飛氏のHPのタイトルがラテルナ・マギカ。あれ、HPは確認したら題材不新鮮というタイトルに急に変わってる。
 僕の知っているラテルナ・マギカはチェコの劇場とそこで上演される映像と演劇を融合したパフォーマンスの名前(日本の大阪万博にも来てたらしい)。(当Blog記事 チェコプラハ ラテルナマギカ)。
 映像とリアルが混在するチェコの舞台に刺激されてこのネーミングを付けたのだろうか。
 似姿が体験してきた仮想世界を再生して体感する<数値海岸>とチェコの映像を再生して演じられる舞台。どこか近いものがある??

 この短編、鯨の映像的なイメージとAIの人権問題というネタが効いている。

◆「蜘蛛の王」 
 『グラン・ヴァカンス』の〈夏の区界〉に登場したランゴーニのエピソード。〈汎用樹〉区界という世界設定も素晴らしい。

 『空の園丁』の刊行が待ち遠しい。

◆関連リンク
ラテルナ・マギカ Laterna magika Národní 4, Prague 1(CSA-jp.com)

ラテルナ・マギカの歴史は、1958年ベルギーはブリュッセルで開催された万国博覧会までさかのぼります。当時のチェコ・パヴィリオンにおいてのプログラムがラテルナ・マギカと呼ばれ、後にこの劇場の名前として与えられました。プログラムは言葉を使わず、フィルム・プロジェクターに、ライヴの動きであるダンス、音と光、パントマイム、ブラックライトシアターの要素をからめたパフォーマンスで、劇場は世界中を巡りました。

 「ラテルナマギカ」は、言葉の意味としては、元々「幻灯機」のことのようですね。

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