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2008.12.08

■三谷幸喜監督 『ザ・マジックアワー:The Magic Hour』
  『ザ・マジックアワー』と『サンセット大通り』と『マルホランドドライブ』

Magic_hour_taneda オフィシャルサイト
種田さん(blog「三谷幸喜の、みちたりた1日」)
プロダクションノーツ
 美術監督アレクサンドル・トローレネル 

 三谷監督が、敬愛するワイルダーに取り組むなら、私はトローネルに挑もう(略)

 上記の言葉は、『ザ・マジックアワー』の美術監督 種田陽平氏の言葉。

 ここで美術監督の挑戦が宣言されているのが、『天井桟敷の人々』等の美術監督アレクサンドル・トローネル(Wikipedia)。残念ながら僕はほとんどこのブタペスト生まれのトローネル氏による美術を論ずるほど氏の作品を観たことがないが、Alexandre Trauner (Google イメージ検索)でデザイン画を観ることができる。

 映画『ザ・マジックアワー』の美術の素晴らしさにまずため息をついた。
 ノスタルジックなセットがとても良い雰囲気を出して、冒頭からもうこの映画独特の世界を見事に表現している。そしてそれは、プロダクションノーツに記されているこの映画のキーとなるこんな言葉にダイレクトにつながる。

 「まるで映画の世界。ここにいるといつも思うんです。あのビルも、あっちのホテルも、でっかいセットに見えません?」綾瀬はるかさん演じる鹿間夏子のセリフだ。
 一方ワイルダーの『サンセット大通り』では、撮影所で働く女性ベティーが主人公のシナリオライターといっしょにオープンセットを歩きながらこんなことを言っていた。
「この通りを見て!ベニヤづくりのまがい物の街よ。私は世界のどんな街並みよりも、この偽物の通りが好きなの」

 現実と虚構/現実と映画の狭間を描いた『ザ・マジックアワー』と『サンセット大通り』の関係を見事に表現したセリフである。

 『ザ・マジックアワー』の前半の素晴らしさには舌を巻いた。
 守加護(すかご)町のギャングの現実世界に、売れない役者 村田大樹が映画の虚構世界を混入させていく姿がとにかく凄い。50,60年代映画のギャングをリアルに描いた世界に、村田が幻の映画キャラクターとして迷い込むことによって生まれる極上のコメディ。
 笑いの本質は価値観の転倒だと言ったのは誰だったか知らないけれど、その本質を見事に描き出したシチュエーションコメディの傑作となっている。若干の設定の強引さも気にならないくらい凄みのある映画世界がスクリーンに現出する幸運な瞬間がとにかくこの映画の前半に溢れていた。

 守加護というケイタイがあるのにクラッシックカーが走るレトロな映画セットのような街で繰り広げられるセンス・オブ・ワンダー。三谷幸喜の本気がみなぎる。前半は世界コメディ映画の頂点に到達したような錯覚を持たせるくらい凄い(と言ったら言い過ぎだろうか(^^))。

Magic_hour 後半、もっとこの現実と幻想の狭間を過激に突き進んで欲しかったのだけれど、三谷はあくまでエンターテインメントとして踏みとどまって、感動話に持って行ってしまったのが実は残念でたまらない。

 とてもエンターテインメントの枠では収まりきらないワイルダーの傑作『サンセット大通り』に挑むのなら、もっとそのまま幻想と現実の拮抗へ脚を踏み込んでも良かったかも。

 そのチャンスはあった。村田大樹のマネージャー長谷川謙十郎が撃たれたまま生きているシーンである。この映画では極めて現実的な落ちがつくのだけれど、ここはそのまま、そこが映画世界と思いこんでいる長谷川が自分の現実の死を実感できずに生き続けるというシュールな展開にしてほしかった。ここをキーポイントにして、もうひとつの幻の『ザ・マジックアワー』が僕は観たかった。

◆ディヴィッド・リンチの『サンセット大通り』との関係

 同じ『サンセット大通り』にインスパイアされて制作されたのが、リンチの『マルホランド・ドライブ』である。『ザ・マジックアワー』は、いわば『サンセット大通り』を父とした『マルホランド・ドライブ』と姉弟の関係にあるのかもしれない。

 多くの映画的引用に満ちた三谷のこの映画には、『マルホランド・ドライブ』から引かれたシーンはたぶん一か所もない。ここから考えると、三谷は『マルホランド・ドライブ』を観ていないのかもしれない。もし知っていて、まるで雰囲気の違う「姉」『マルホランド・ドライブ』に挑むことも画策していたら、もしかしたらもっと幻想に寄った作品になっていたかもしれない。
 蛇足であるが、北野武の『TAKESHIS'』は、その『マルホランド・ドライブ』の子供のような作品。美輪明宏のヨイトマケの歌が、泣き女Rebekah Del Rioの「Llorando (Crying)」に相当する(全くとんでもない「子供」である)。いわば『TAKESHIS'』は『サンセット大通り』の孫である(^^;)。

◆関連リンク
マルホランド・ドライブ : そう。ハリウッドでは何でも起こり得るのさ!(2) - 映画のことならeiga.com 町山知浩氏によるディヴィッド・リンチインタビュー。サンセット大通りとマルホランド・ドライブについて。
独占!三谷幸喜、最後のインタビュー 三谷幸喜は、今、何を思うのか。 - BRUTUS - X BRAND
サンセット大通り (映画) - Wikipedia
  『ザ・マジックアワー』に市川崑監督がでているのも、『サンセット』のセシル・B・デミル監督の出演シーンによっているのでしょうね。
ビリー・ワイルダー監督『サンセット大通り』(amazon)

種田 陽平『TRIP for the FILMS ARTWORKS from”Shikoku” to ”The Magic Hour” featuring ”KILL BILL Vol.1”1998-2008』(amazon)

『ホット・セット 種田陽平 美術監督作品集』(amazon)
 

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