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2013.06.10

■感想 古川日出男『南無ロックンロール二十一部経』

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古川日出男 新作『南無ロックンロール二十一部経』(Amazon)
河出書房新社 公式HP

" あのカルト教団事件と3・11後の世界との断絶。失われたものは何か? 浄土はあるか? 稀代の物語作家が破格のスケールで現代に問う、狂気の聖典。構想執筆10年。デビュー15周年記念作品。"

 2007年の『ロックンロール七部作』(当Blog感想)に続き刊行された新著、古川日出男『南無ロックンロール二十一部経』を読了。

 「輪廻転生」に「ロックンロール」とルビを打ち、自著『ロックンロール七部作』をリーインカーネーション。幻視の強度が深まりパラレルワールドとして語られた日本の崩壊前と後の描写、地中へ陥没した東京タワーとおよそ770匹の鬼と馬頭と牛人の被曝地獄図…。

 迫力の世界は、古川物語文学の新たな境地を切り開いたと言える力強さで、まさにゴツゴツとした岩隗のように読者の頭上にガツンと落っこちてきます。ファン必読。SFや奇想文学ファンにも是非読んで欲しい一冊です。

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 たとえば、この右に引用したページ、ロックンロールと20世紀の若者と動物の奇想!このページなんて、ラファティの短篇だよって言っても通じそうなんですが…w。
 もちろん全体の読後感はラファティとは明らかに別もの。ただし想像力の源流でその水脈はつながり、奇想の血脈がラファティファンの血も騒がせることは間違いないでしょう(^^;)。

 ここまでで感想は終えても良いと思うのだけれど、ひとつだけこれは記しておいた方が良いだろう。

ネタバレ注意。まったくの白紙で読みたい方は、以下、飛ばして下さい。
 ラストは賛否両論、大きく分かれるのではないだろうか。
 しかしここで記憶に留めておきたいのは、古川が敢えて自身と同じ名前の作家を登場させて、あの宗教との関わりを描き、まさに一人称のスタンスで潜入し一体化し、そして浄土への道を本書で歩んでしまっているところ。
 
 村上春樹が『アンダーグラウンド』『約束された場所で―underground 2』で被害者と加害者両方について、インタビューでルポルタージュしたのに対して、古川日出男が本書で、自身の土俵であるフィクションの場で、それを一人称で語ることの決意は大きいと思う。しかもあの教祖の言説を肯定的な筆致で描いた後に…。

 村上が自身の砦であるフィクションの中に敢えて直接は取り込まなかったものを、まさにその砦の壁を突き崩して、自らが入信し行為する現実を描いてしまった古川の覚悟に想いをはせる…。
 どれほどの重さをこの作家は引き受けてしまったのであろうか。そしてこの後の作品は…そんな凄絶なイメージに読後感じてしまったことはここに記しておきたい。これからも古川作品に僕は向き合っていきたいと思う。

◆各書について
 本書を構成する"第一の書"から"第七の書"について、簡単に以下。
 各書は、<コーマW>と名付けられた眠る少女を見つめる「私」の短い記述にはじまり、<浄土前夜>と名付けられた日本の崩壊を描くパート、そして『ロックンロール七部作』に通じる世界七大陸+αを描く<二十世紀>という三つのパートで構成されている。
 この<二十世紀>パートが、『ロックンロール七部作』の各話に相当し、物語は各々、リビルドされている。
 このリビルド(小説のリーインカーネーション?)の中身について、二つの本を詳細に分析することが必要だと思うが、今回は時間がなく、その比較は残念ながらできません。(興味のある方は、本Blog以前のレビューを読んで頂きたいですが、実は比較ができるほど詳細に書かれていない(^^;;))

●第一の書
 リトル・リチャード 「トゥッティ・フルッティ」"Tutti Frutti"(Youtube)を陽気に歌いながら、飢えた少女のために自ら焼き鳥になる雄鶏の「おまえ」。
 <浄土前夜>パートは、リーインカーネーションで動物に生まれ変わり、自分が何者か気づかない状態から、自分が動物であると気づく様を、二人称で描く興味深い描写。
 私小説がその名付けの通り、近代の「意識」を描写していたのに対して、二人称で意識のないはずの動物の意識らしきものを描く試み。
 古川の小説は、動物を描いたものが多くあるが、この意識外の存在を描く試みは、ここでも近代の小説を超えていく迫力を獲得していると思うが、どうだろうか。

 続く<二十世紀>パートは、南極大陸。
 シカゴのロックンロールスタジオに生まれた「小さな太陽」による、南極基地の虐殺と聴力の喪失。描かれた青年のやり場のない怒りが鮮烈。

●第二の書
 折れた東京タワーと鬼を狩る虎とヘリの戦闘部隊(P123)。
 流れるのは、チャック・ベリー「ジョニー・B・グッド」"JOHNNY B GOODE"(Youtube)。
 いきなりのSF展開に実は頭が/体がついていかない。
 この展開の違和感が第七の書へと…。

 <二十世紀>パートは、ユーラシア大陸。大蒜料理にまつわる食べる秘史列車"ロシア号"の様々な時代の、人々の連環。禁止されていたソ連で、レコードの材料がなく、レントゲン写真に刻まれたロックンロール (P128)をBGMに大陸縦断鉄道は走る。

●第三の書
 "穢土"と呼び変えられる"江戸"。
 <浄土前夜>は狐。KFCとカーネルより背の低い人形。鶏となって焼かれる夢。
 老人である塾長との出会い。謎のブックマンの登場。ヘリによる狐の襲撃(P194)。BGMはエルビス・プレスリー「監獄ロック」"Jailhouse Rock"

 そして南米大陸。"武闘派の皇子"は、父の遺言で遺産獲得の為に決闘の勝利を強いられた男。ブラジルでのカポエィラの修業と勝利(?)。
 BGMはチャック・ベリー「ロール・オーバー・ベートーヴェン」"Roll Over Beethoven"

●第四の書
 馬頭人身の二人称。しゃべれるが鏡には馬が写る。そして転生し再び出会う少女。BGMはエルビス・プレスリー「ハウンドドッグ」"Hound Dog"

 そしてオーストラリア大陸。"ディンゴ"は、実の母から疎まれ、義父のトラックが第二の子宮。怠惰な実母と義父の不仲により現実逃避としてプログラミングにのめり込む。
 義父の死。レム睡眠がなくなり現れる幻視。蛸の腕とカンガルーの尻尾。
 発明された脳波によりチューニングするラジオ受信機を動物に取り付ける。
 アカカンガルー、エミュー、群れる野犬ディンゴ。
 『ロックンロール七部作』でも最も印象的だったオーストラリアの彷徨は今回も僕の好みでしたw。

●第五の書
 10歳に満たない少女の地獄日記と山羊。紙を食む。
 山羊のヘッドフォーンで聴くチャック・ベリー「ロール・オーバー・ベートーヴェン」"Roll Over Beethoven"。描かれる新型爆弾の爆発と少女の被曝。

 北米大陸。祖父が倒した巨大鰐の腹の中から出たスティールを弦に手づくりしたギターを持つ1セント。ファンに殺されギターは次の若者2セントに…。そしていつか1ドル1セントへと。ヴードゥーのマジックリアリズム世界が蒸し暑い。

●第六の書
 被曝した東京。塾長。地下鉄のひすい。770匹の鬼の包囲とブックマン。

 アフリカ大陸。ニジェール川のフィールドワークをする文化人類学者"牛の女"。
 アフリカに落ちた飛行機からのロックンロールと民族音楽の融合(ここは『ロックンロール七部作』の「あなたの心臓、むしゃむしゃむしゃ」を持ってアフリカ大陸へ不時着したボーカル「曇天」の物語の次の話)。
 生まれ変わり、河川の「砂のロックンロール」。
 禁忌に触れ惨殺された女がニジェール川を流されカセットテープを空腹ヤシに拾われ、それが歌い継がれていく。この歌が実際に聴いてみたくて堪らない。映画化の際は是非実現をw。

●第七の書
 昏睡するW。実行犯。当局に見張られている。身体を六大陸に見たてている。

 ここは<浄土前夜>パートでインド亜大陸が描かれる。
 770匹の鬼に包囲されたブックマンの輪廻転生(ロックンロール)の物語。
 エルビス・プレスリーのジャンプスーツを着たインド映画のヒーロー23人。ザ・プロデューサーとザ・ディレクターとザ・ライターによる七本の映画から再編集された構成される反政府映画『インドびより』とその裏面『ダンスびより』。
 奥地に立てられた5mのエルビスの神像と白いジャンプスーツ。
 映像的にもっとも鮮烈なイメージを持った一篇。

 昇る太陽であり"日出男"であることが明かされたブックマン。
 彼が読むのはエイモス・チュツオーラのマジックリアリズム文学。
 初めて書いた短篇「機械の夢」(P530)はSFそのもの。
 そして…物語の大団円は、<浄土前夜>につながる1998年か1999年のもうひとつの東京。これは我々20世紀の日本人が一度は体験したデザスターである。
 今、我々はその後の21世紀を生きる。

 古川が21世紀ロックンロールを語ることはあるのだろうか。

◆関連リンク
古川日出男『ロックンロール七部作』
図書館で本を借りよう!~小説・物語~「ロックンロール七部作」古川日出男
 前作の粗筋が詳細にまとめられています。
Kawade Web Magazine|古川日出男 | ロックンロール二十一部作 浄土前夜
 ベースとなったと思われる雑誌「文藝」連載の『ロックンロール二十一部作』の一部がここで読めます。
「サマーライト 」ANIMA with 益子樹(ROVO)+古川日出男@SHIBUYA O-nest 2012/10/13 - YouTube
 古川日出男、朗読以上。ついに歌っていますw。シャウト!
古川日出男、大長編『南無ロックンロール二十一部経』を語る (1/2) - ITmedia eBook USER

"今“ロック”っていうと一つの音楽ジャンルになってしまったけど、本来“ロックンロール”は世間が認める音楽に対してアンチを唱えるもの、強い力にあらがうものであって、単なるジャンルではなかった。
 自分の小説にしても権威的なことをやろうとしているわけじゃなくて、読んだ人が自分の感覚をバージョンアップして、目の前の日常に向き合えればいいと思っている。そういうところでロックンロールは自分の根源にある表現力に近いものだと思う"

古川日出男、大長編『南無ロックンロール二十一部経』を語る (2/2) - ITmedia eBook USER

"「過去は変えられないとか、歴史は学校で習った通りだとみんな思っているけど、過去だってエディットし直せば、隠ぺいされていた歴史やなかったことにされている過去が見えてくる。この作品の中の3つの物語の1つに『20世紀』というパートがあって、ほとんど史実であるにもかかわらずフィクションのようなお話になった。このように過去や歴史が改編可能なんだから、未来は無限に選択可能なんだということを伝えたかった」

「小説に対して、作家は神 様だと多くの人は思っている。でも、おそらくそれは間違いで、僕を通して作品が生まれるけど、すべてを自分がコントロールしているわけではないし、自分がこれまでに聴いた音楽や読んだ本や、見た映像が自分を通過ごして出てきただけ。自分が小説を作ったわけじゃなくて、小説が自分を通過ごして出てきた、自分が小説に利用されているという感覚がある。それを見せるためには作家自身が作品に巻き込まれ、蹂躙されてみることが必要だと思った」"

エイモス・チュツオーラ - Wikipedia

"ナイジェリアの小説家。『やし酒飲み』などヨルバ人の伝承に基づいた、アフリカ的マジックリアリズムと言われる著作で知られる。"

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コメント

お忙しいところ、ご親切な返信ありがとうございます。
頑張って読み進んでみます。
そのうちアラビアの時と同じように、罠に陥って
どっぷりつかるかもしれません。
それを期待して読みはじめます!
ありがとうございました。

投稿: ポコマム | 2014.01.07 11:21

七部作の再話的な位置付けが二十一部経にはありますが、必ずしも七部作を先に読む必要はないと思います。
ただ七部作328頁、二十一部経576頁なので、肩慣らしに前者から入るのもないわけではありません。

いずれにしても、読み始めはアラビアより少しハードルが高い気もしますが、少し読めば割と読みやすい物語なので、二十一部経からでも大丈夫かと(^^)

投稿: BP(ポコマムさんへ) | 2014.01.06 00:30

はじめてコメントいたします。
ポコマムと申します。
実は今、古川さんの南無ロックンロール二十一分経を読み始めたばかりなのですが、「七部作を書いたんじゃなかったか」という箇所にあたりました。
そこでお尋ねしたいのですが、二十一分経を読む前に七部作を読んだ方がいいのでしょうか。
私は古川さんはアラビアの夜の種族しか読んでいないのですが、凄い物語作家だと感動した者です。
この南無は書評で「小説でここまでできるのかと驚いた」というのを読み、今回手にとりました。
が、
とても難解そうで果たして自分が読了できるか自信がありません。
七分作を読んだ方がよいか、もしよかったらお教えください。

投稿: ポコマム | 2014.01.04 16:54

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