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2014.11.24

■感想 叶 精二『『アナと雪の女王』の光と影』(そして「宮崎駿とジョン・ラセター」)

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叶 精二『『アナと雪の女王』の光と影』
 七つ森書館 公式HP

" 世界アニメーション映画史上最高の興行収入を記録したディズニー作品『アナと雪の女王』。 映像研究家の著者が、ここまで支持された根拠とスタッフワークを多角的に検証する。
 第1部は、『アナと雪の女王』を技術・歴史・スタッフワーク・テーマ・背景・興行などの多角的な視点で分析。第2部は、ディズニーとピクサーの代表を兼務するジョン・ラセターとスタジオジブリの宮崎駿の出会いと交流が、日米のアニメーションに何をもたらしたかをラセター側を中心に展開する。2部構成でディズニー・ピクサー・スタジオジブリの諸作品が大衆的支持を集めた根拠の立体的解析を試みる。

第1部 『アナと雪の女王』の光と影
  序  世界記録を塗り替えたエポックメーキング的作品
 第1章 ディズニー・ミュージカルの新時代を告げる快作
 第2章 ヒロインのデザインと作画の斬新さを検証する
 第3章 ディズニー・プリンセス復活までの道程
 第4章 『雪の女王』映画化計画の推移
 第5章 アンデルセンから遠く離れて
 第6章 「ディズニー化」現象
 第7章 ソ連版『雪の女王』と宮崎駿をめぐる因縁
 第8章 『メリダとおそろしの森』との比較
 第9章 定型を崩した「考えさせない」急展開
 第10章 魔法と権力の行方
 第11章 心象で綴られた主観的な世界
 第12章 国境を越える日本型主観主義

第2部 宮崎駿とジョン・ラセター その友情と功績
  序  日本一の宮崎駿、世界一のジョン・ラセター
 第1章 米アカデミー賞・長編アニメーション賞の統計分析
 第2章 日本アカデミー賞・アニメーション映画賞の統計分析
 第3章 宮崎駿の功績
 第4章 ジョン・ラセターの功績
 第5章 ピクサーとディズニーの展望
 第6章 二人の時代"

■全体
 うちに家族が買ったディズニーの日めくりがある。これは毎日一枚づつの映画作品の映像、原画スチルと作品エピソードを掲載した日めくりで、今年一年、日々ディズニー作品について楽しんできた。
 そしてこの本の読後、日めくりを見る視点が少し変わった。
 一枚一枚の絵を見る時(特にCGアニメ)、その絵から作品の奥行きを今までより広く感じられるような気がしたのだ。

 僕は当ブログで触れている様にアニメ作品も好きで、特にスタッフと技術に興味を持って観ているのだけれど、それはほとんど日本作品についてで、ディズニー及びアメリカのCG作品については、そのスタッフ名も数名しか思い浮かばない様な薄いファンであるw(ピクサーのCGは『トイ・ストーリー』以来、大ファンであるが、なぜかほとんどアニメーター他、スタッフの名前を気にしていなかった)。

 それが本書によって、その作品を作ったスタッフたちの過去と現在、そして日本(宮崎駿ほかのアニメーター)との関係を知ることができて、奥行きを持った実存として頭の中にイメージできるようになったのである。
 それにより、冒頭に書いたように、ディズニー作品の絵に感じるイメージがとても奥行きの深いものとして観ることができるようになったのだと思う。

 そういう意味で最良のディズニー紹介本でもある。作っている人たちの熱い息遣いが伝わってくる。この本は、ディズニーが自社のアピールのために協賛しても良いくらいの一冊ではないか。「光と影」というタイトル通り『アナと雪の女王』の批判的な言説も含まれているが、それ以上にクリエイティブな評価として、最良のディズニー紹介本になっていると思う。そして広く映画ファンに読まれるべき本である。

 よくよく本の検索とかしてみてもピクサーとかディズニーの最近作に関する映画のノンフィクション本は日本人の手になるものは皆無。

 これも日本がいかに島国か、ということの証左なのかもしれない。
 特に日本のアニメ評論で抜け落ちているピクサーと新生ディズニー(ネオクラシックとラセター総指揮による近年のCG作品)について、その来歴と日本アニメとの関係について分析した貴重な一冊となっている。
 ともすれば2DセルアニメとCGによるセルルックアニメーションという限定的なアニメ作品で、閉じてその世界を捉えている日本のアニメファン(自分も含めて)にとって、明らかに世界の潮流となっているピクサーと新生ディズニーによるCGアニメーションの起源と現在に触れることができるため、新たなパースペクティブを獲得するための一助となる一冊。

 特に重要な視座は、ピクサーと新生ディズニーに日本の(そしてとりわけ宮崎駿の)アニメ作品の血が強く流れている、というものである。

■第1部 『アナと雪の女王』の光と影
 ここで著者の叶精二氏によって分析される『アナと雪の女王』。
 特に僕が興味深く読んだのは以下のような記述である。

 『塔の上のラプンツェル』でベテラン2Dアニメーターであるグレン・キーンが作画指導したことで、ついに人間を真正面から描くことを可能にした3D-CG作品が登場、その成果の次にスーパーバイジングアニメーター マーク・ヘンによる『アナと雪の女王』という一般観客に広く認められる作品が完成する。
 そしてその作品の、(世界よりもむしろそれ以上の)日本での大ヒットの要因の一つとして挙げられる、日本的キャラクター造形である「卵型輪郭に巨眼、極小の鼻、歯の見えない口」の取り込みと画面の「主観的な世界観の設計」(日本アニメの特徴の吸収)の指摘。
 叶氏のこの指摘は興味深い。CG作品の人間描写として、今までの日本アニメの文法がより人に(日本人に?)受け入れられやすい表現を実現しているというのは、今後のアニメ映像の将来について重要な指摘であろう。

 CGが「不気味の谷」を超える時、従来のアニメ手法(グレン・キーンの2D技巧であったり、日本アニメのキャラクター描写だったり)が効果的に 働く。それは人の人間認識のDNAが成せる技なのか、はたまた文化的な慣れの問題なのかはわからないが、映像文化の進化と、ロボットの「不気味の谷」超え のための重要な示唆があるように思う。

"『アナと雪の女王』は<思い入れ>の比重を増大させながらも、<思いやり>の要素も残すことで、アニメーション慣れした日本の観客にも新鮮に映ったのではないか。"(P85)

 続いて<思い入れ>と<思いやり>という言葉で、さらに深い精神的な部分での日本アニメとの関係が解説されている。

"アンデルセンを起点として、アタマーノフ版『雪の女王』のモチーフが宮崎作品となり、それらがディズニースタッフに影響を及ぼし、『アナと雪の女王』に結実したと言えるのかもしれない"(P84)

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 そして描かれた作品の文脈。アンデルセンの物語の分析に始まり、それを映画化したソ連のアニメ『雪の女王』、その宮崎駿への影響。
 アンデルセンの原作の複雑に織り込まれた物語の魅力と、冒頭のスピーディな展開に代表される『アナと雪の女王』の"終始「考えさせない」加速度的かつ他動的な急展開"の対比の指摘(他作品と比べた時間分析が興味深い)。
 宮崎駿経由でラセター他へその影響が間接的に流れ込んでいるという指摘。
 このくだりで、はるか昔に観たきりの『雪の女王』を観たくなるのは僕だけではないはず。


レフ・アタマーノフ監督『雪の女王 ≪新訳版≫ 』

 『アナと雪の女王』にもうかがえる無菌化されたディズニーの世界。
 これについては、赤貧でアメリカの自然に徹底的に苦しんだウォルトの幼少期に起因するという説(能登路雅子『ディズニーランドという聖地』(1990))が紹介されているが、ディズニーアニメが今ひとつ大人の観客に魅力を発揮できていない理由としてこの無菌な感覚があるため、本書からディズニーへの何らかのフィードバックがあればいいなぁ、と思ったり。
 良書なので、アメリカでの翻訳出版というのも可能性があれば面白いと思うのだけれど...。

 その他、CGアニメ技術の丁寧な分析。 日本2Dアニメでの「考えさせる」客観的傑作への期待等、映像作品への言及がとても刺激的で興味が尽きない。

"光を拝み讃えるのであれば、影も存分に讃えられて然るべきだと考える"

 第一部の最後の一文。表紙カバー内側に潜む『SNOW QUEEN』のアメリカ版ポスターがそれをひっそりと主張していて装丁としても素晴らしい構成である。

■第2部 宮崎駿とジョン・ラセター その友情と功績

"世界アニメーション史上、宮崎駿のような演出法で11本もの長編を単独で監督した人物は存在しない"

 宮崎駿が世界的にも稀有なアニメ監督であることの表現である。
 長編アニメーションが過酷な労働と莫大な資金を要するため、ポール・グリモーが『王と鳥』1本のみ、フライシャースタジオが『ガリバー旅行記』『バッタ君町に行く』の2本だけ。ディズニーで史上最も多く監督したのはウォルフガング・ライザーマンの8本(単独は4本))という指摘は不明にして知らなかったため、対比して描かれると宮崎駿という才能の凄さが響いてくる。

 『ホルスの大冒険』から『アルプスの少女ハイジ』『未来少年コナン』の頃からの、その超人的な作品への宮崎の特異な関与の仕方が詳細に描かれる。

 そしてそんな制作の現場から生み出された宮崎作品によって、ラセターが受けた影響と、逆にラセター作品から宮崎が受けた影響。
 作品を思い出しながら読む、ふたりのクリエータの共鳴の記述がとてもエキサイティング。

 またそのふたりの仕事の仕方の違いも興味深い。
 ピクサーの「ブレーン・トラスト」と呼ばれる制作支援集団の存在(P200)。そしてラセターの現在、ビクサーと二つのディズニースタジオをコントロールする、前人未到の二十四時間指揮体制(P218)も凄い。

 宮崎駿とラセターという、現在のアニメ映画を牽引してきたふたりの関係と、カルアーツ含むアメリカのCG映像作家たちの最新のアニメ映画での胎動に触れられることは、映画ファンにとって、とてもエキサイティングな読書体験である。

◆関連リンク
「宮崎駿とジョン・ラセター」連載裏話・叶精二氏 Hayao MIYAZAKI and John Lasseter - Togetterまとめ
 さらに叶さんが書かれた裏話がこちらで読めます。
『アナと雪の女王』の光と影★裏話・叶精二氏(「宮崎駿とジョン・ラセター」収録) - Togetterまとめ
ジョン・カース監督「Paperman」 & カルアーツ ラセターとアニメ作家たち - Togetterまとめ
『アナと雪の女王』の光と影(1)――ディズニー・ミュージカルの新時代を告げる快作 - WEBRONZA 本書の元になった連載記事。
【宮崎駿とジョン・ラセター(1)】 日本一のスタジオジブリ、世界一のピクサー - WEBRONZA 同連載記事。
叶 精二『『アナと雪の女王』の光と影』
・マーク・ヘン
 Mark Henn - Wikipedia

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