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2015.03.09

■感想 岩井俊二監督『花とアリス殺人事件』


「キットカット」 x 「花とアリス殺人事件」スペシャルコンテンツ - YouTube

"『花とアリス』はサウンドトラックのファンも多いことで知られていますが、岩井監督自身がメンバーでもある音楽ユニット「ヘクとパスカル」が本作の音楽を担当。作品の大き­な見所のひとつとなっています。このショートフィルムでは、「ヘクとパスカル」が歌う­主題歌「fish in the pool」に『花とアリス殺人事件』特別編集の短編動画です。"

 まず上の動画の紹介。
 絵コンテの(映画エンドクレジットで流れたものと同様の)映像と、ヘクとパスカルの主題歌「fish in the pool」が聴けます。ヘクとパスカルの歌は『なぞの転校生』のラストで流れた「風が吹いてる」に惹かれて感心を持ってますが、この主題歌もいいです。

 で、ここから映画の感想。
 岩井俊二監督『花とアリス殺人事件』、新しいアニメ映画の登場って感じでした。
 ロトスコーピングと3D-CGを使った独特の映像と、岩井俊二監督らしい、リアルで(そして数奇!で愉快な)きめ細かい学生生活の物語に爆笑しつつ、グッと来るのを抑えつつw、観終わりました。

 世間で岩井監督作は「リリカル」という言葉で表現されるけれど、実はあまりこの言葉は岩井作品のコアを射抜いていない。この映画も「リリカル」ではなく中学生の生活を「リアル」に描き、そして結構ブラック。
 人物のきめ細かい感情の動きを丁寧に追っているところがたぶん「リリカル」と言われる所以であろうが、そのディテイルで描かれるのが、実はリアルでブラックな人の有り様であるのは、あまり語られていない。
 もちろん詩的な側面もそのきめ細かさの中から前面に出てきているが、そこだけを取り上げるのは岩井監督のコアを掴んでいないと思うのだけれど、いかがだろうか。例えばこの映画の「ムー篇」に現れている中学校のリアルを象徴的に描くワンカット。学校にある子供達にとってのリアルな痛み/ストレスをブラックに痛々しく、そして滑稽に象徴的に描き出した出色のシーンで岩井監督らしさ全開と思うのだけれどw。
 そして次に独特のアニメ映像について。

岩井俊二 僕の「やぶにらみの暴君」 - 映画「王と鳥」公式サイト

"  個人的には最近の日本のアニメの「動き」にどうも辟易していて、こういう海外の古いアニメの方が好きなんですが、その理由のひとつには、動きがリアルだから、というの があります。いわゆるフルアニメとリミテッドアニメの違いというのはあるんでしょう。トレーシングという技法のせいもあるでしょう。しかしそれだけではなく、この時代のアニメには、こういう動きにはこのパターン、という「型」がまだ確立していない気がして、それが妙な生々しさを生んでいる気がするわけです。たとえば人間が歩く。どう歩くのか。人を歩かせてみる。それを描いてみる。こういうプロセスがいちいち存在し、しかもそれがまだ荒削りなので妙に生々しく見える。この生々しさがいまや逆に新鮮というか。

 アニメ界では実写をなぞるなんていうのは邪道だという風潮があると誰かから聞いてがっかりしたことがあります。それは本末転倒だろうと思いました。アニ メの原点とはなんなのか? それはそもそもモノがどういう風に動くのかなぞることじゃなかったのか?

 進化しすぎたアニメ界はまるで現実から得るものはもはや何もないと思っているのか?
 まあそんなこともないんでしょうが、現在のアニメが大友克洋の絵と宮崎アニメの動きを手本に進化したのは否定できないことでしょう。"

 この言葉に現れているように、本作は岩井監督による新しいアニメ映像へのトライ作品である。ここで書かれているのは、大友宮崎らによって定式化されて、現実からある部分乖離した今の日本のアニメに対するアンチテーゼの提示である。そして本作は、、、。

 奥行きを感じさせる映像/映画のレンズによる効果をアニメで再現したようなシーンは、とくに遠近の移動する部分でパースの変化が心地よく、今までのアニメにない、独特の質感を獲得している。(リンクした動画からもそこは感じて頂けるかと。)
 加えて人物を一定の距離離れて捉えた、全身作画のシーン。人の歩きのランダムさや、定式化されたアニメと比較するとグニャグニャと動くシーンは独特の作品のリアルを支えている映像だ。
 これが岩井監督がロトスコープにこだわった理由かも知れない。

 もう一つ特筆すべきは、滝口比呂志美術監督の背景。ロトスコープと合わせるかのように、実写映像をトレース(もしくは画像変換処理)した水彩/HDR写真のようなリアルで、現実強化した風景が素晴らしい。(滝口美術監督は『言の葉の庭』も担当されたとか。あの作品の背景も素晴らしいものでした)
 一部その背景が3D的に回り込んだシーンもあり息を飲みました(^^)。

 あとあまりネットでも書かれてませんが、エンドクレジットに「作画協力 磯光雄」の文字が!
 素晴らしい動きのアニメートがあったけれど、磯光雄氏の超絶作画の血が注がれているのだろうか。 『電脳コイル』後、久々の正式クレジットだけに、岩井監督と磯光雄作画のコラボレーションにも注目。
 ロトスコーブ映像の、手描きによる修正が磯氏ほか手描きアニメーターによって実施されたのであろうか。どこをどう修正されたか、そうした面も今後紹介されたら嬉しいと思う。そこまでやった時に、現代アニメへのアンチテーゼがしっかりと提示されることになるのではないだろうか。

▶ 花とアリス殺人事件 ショートカット「ムー篇」 - YouTube
▶ 花とアリス殺人事件 ショートカット「走る篇」 - YouTube
▶ 花とアリス殺人事件 ショートカット「花篇」 - YouTube
▶ 花とアリス殺人事件 ショートカット「タクシー篇」 - YouTube
 映画のシーンが4つ紹介されています。映画を観るかどうか迷っている方は、これでまず合うかどうか、確認してみるのをおススメします。
 特に「ムー篇」が僕の推奨(^^;)。

◆関連リンク
ヘクとパスカル『ぼくら』

"映画監督の岩井俊二、女優でシンガー・ソングライターの椎名琴音、作編曲家の桑原まこで結成された“ヘクとパスカル”のデビュー作。岩井俊二が企画・脚本を手掛けたTVドラマ『なぞの転校生』の挿入歌となった岩井俊二作詞作曲の「風が吹いてる」、岩井俊二監督の短編アニメーション『TOWN WORKERS』のエンディング・テーマ「ぼくら」他を収録"

 岩井俊二の音楽ユニット、初CD。僕のiPhoneはiTunesで入れた「風が吹いてる」ヘビロテしてます。
岩井俊二が運命的に結成した音楽集団 ヘクとパスカルインタビュー - 音楽インタビュー : CINRA.NET

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 続いてリンクレーター、PKディックとその新映像の融合ということで期待したのですが、こちらはイマイチでしたw。

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