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2015.07.13

■感想 細田守監督『バケモノの子 : The Boy and The Beast』


▶ 「バケモノの子」予告2 - YouTube 公式サイト 

 日本テレビの細田監督作キャンペーンwで放映された『サマーウォーズ』を観て、改めて傑作の感を強くし、新作の初日にどうしても観たくなって『バケモノの子』を観てきた(この週末は一晩で『マッドマックス』と『バケモノの子』を連続で観た)。(実は細田作を劇場で観るのは初めてである。今までは失礼なことに、傑作をDVDで観ている)。

 観たのは、初日のラスト回(21時から)。そのシネコンの最大スクリーンでの上映で、350席のほぼ半分の入り。若者のカップルが多く、通常その映画館の初日で埋まっている座席数と客層とは異なる盛り上がりで、ヒットを期待させる状況だった。

 まず冒頭、これは細田版『千と千尋の神隠し』を狙ったと思わせるような、宮崎作を模した導入になっていた。
 この日本の街のどこかから、道に迷ったような状況で眼の前に現れる並行した異世界。食物のぶら下がる幻想のような街、そして千尋と九太と名付けられる、千と蓮。
 ここらは明らかに明示的に『千と千尋の神隠し』を狙っていますよね。

 映画の後半のテーマ展開を考えても、この映画はある部分、細田監督が宮崎作に持った違和感を、自分の問題意識として解答作成したような印象を、僕は持ってしまった。自分の本当の世界に戻った後が描かれない『千と千尋』に対して、細田は迷い出た先の、この日本の物語として結末を描き出している。

 その企てが成功しているかどうかというと、テーマ自体はメルヴィル『白鯨』を補助線として描くことでうまく対『千と千尋』を実現しているが、今回、演出上、細田監督の手元に珍しく狂いがいくつかあり、後で述べるディーテイルの不和で、映画自体のカタルシスは残念ながら、過去作に及んでいない、というのが僕の感想。

 劇場内の、観終わった後の高揚感も今ひとつの印象で、もっと期待して映画館に入っただろう若い観客たちが、どこか自分たちの期待が満たされていないような、中途半端な違和感を持っているような印象だった。(『ヱヴァンゲリヲン新劇場版 Q』の時の雰囲気にとても近かったと書いたらわかってもらえるだろうか。) 今までの作品の成果として(& 日本テレビのキャンペーンで)一定数以上の集客はあるだろうが、残念ながら口コミで爆発的に観客が増える現象まではいかない、というのが僕が観終わって劇場内で感じた印象だ。

 新しい国民的なアニメ映画監督の誕生は、期待していたのだけれど、残念ながら次回作以降に持ち越されるのではないか、というのが僕の印象。(『ヱヴァンゲリヲン新劇場版 Q』は今確認したら、『破』の興収40億円に対して『Q』が52.6億円で伸びていたんですね。劇場での印象と異なりますが、自分の映画への感想がまさに「鏡」になってそのように感じていたのでしょう。が、映画上映中の会場の沸き具合も含めて『バケモノの子』が宮崎アニメ規模のヒットになる印象を持てなかったというあくまでも僕の感覚です。細田監督一番のヒット作『おおかみこどもの雨と雪』が興収42.2億円、『バケモノの子』が『Q』を超えるかどうかがひとつの注目点ですね。今回テーマが『Q』の描いた人の心の闇であるだけに、、、。)

◆映画の詳細について(★ネタバレ注意★)

 ビジュアルは、アニメートも背景も、画面設計も力作だったので(九太の熊徹の技の継承、気の遠くなるような数のモブシーン、武闘シーンの演出と作画の迫力等々)、この後、いきなり欠点をあげつらうような感想となってしまい恐縮だけれど、映画を観終わった後の自分のモヤモヤを言語化して箇条書きにしてみます。

・バケモノ(もしくは英語タイトル"The Boy and The Beast"の「野獣」)が、"らしく"ない。熊徹のビジュアル、特に動物化する戦いのシーンの形態は、まさに『美女と野獣』のビーストを参照しているように見えるが、、、、バケモノの街 渋天街の様子が、宮崎の『名探偵ホームズ』の犬の街みたいに見えてしまうのがとても残念。あの種族が「バケモノ」とか「野獣」とか呼ばれるというのは違和感が、、、。

・熊徹の周りの二人のキャラクターが今ひとつ。コメディリリーフなのかもしれないが、その効果が十分活きていない。今までの細田作の魅力的な脇役と比べると今一歩。

・物語の中盤でキーとなる、一郎彦の変容が十分描写されていない。弟の二郎丸の描写に比重が置かれて(それによる影としてわざと描いていないのかもしれないが)、肝心の一朗太の闇がうまく描かれていないのが残念。牙の件とかはあるけれどもそれがどう闇を拡大させたかが描かれていれば、クライマックスのスペクタクルはより観客に響いていたように思う。映像としての鯨のシーンは、街に異様なものが現れて破壊をもたらす、デジモンに通じる迫力のあるシーンなだけに、一郎彦の変容が充分描かれていたら、テーマ的なカタルシスの規模は大きく違ったと思う。
 (少年の闇が渋谷の街に広がるところ、同じく超常能力を持った、闇を抱えた少年がそれを東京の街に解き放つ橋本治『暗夜』を思い出したのは、ロートルファンの僕だけであろうか。ここはヴィジュアルの魅力含めワクワクする)

・ラストのカタルシスは、熊徹が付喪神になってしまい、その場で九太と一緒にキャラクターとしての熊徹が戦うシーンがないのは残念。一緒に戦っていると言えば戦っているが、細田作の他と比べて、共同して働きかけることによるカタルシスが弱かった。

 あと蛇足ですが(メルヴィルの『白鯨』を読んでいない僕が書くのも変なのだけれど)、文学論で時々取り上げられる『白鯨』を物語の補助線として描いている中で、メタフィクションの文脈につながるような部分が感じられなかったのは、少し残念かも。

◆関連リンク
『白鯨』アメリカン・スタディーズ:みすず書房

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コメント

 情報、ありがとうございます。

 残念な結果ですが、この批評はうなづける部分がありますね。

 細田監督には、今後も活躍の機会が多くあるので、批評をフィードバックして、さらにいい作品を撮っていただきたいものです。

投稿: BP (  さんへ) | 2015.09.27 20:50

第63回サン・セバスチャン国際映画祭のコンペティション部門に出品された
「バケモノの子」だが厳しい意見に晒され無冠に終わった

審査員による「バケモノの子」への批評
・特に人間のキャラクターたちにまったく面白みがない
・楓がいいかげんな恋愛対象としてしか描かれない
・終盤で悪役の一郎彦が下品に扱われる
・脚本が主題からそれ、不可解で超自然的な馬鹿げた展開に脱線する
・残念ながら熊徹が脇に追いやられてしまう

投稿: | 2015.09.27 20:05

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