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2016年6月12日 - 2016年6月18日

2016.06.15

■感想 スティーブン・スピルバーグ監督「VR技術は伝統的な映画作りを脅かす」


Airbus VR Experience - Mars 360 Release - YouTube
 冒頭の動画は、以下の本題とは少しズレますが、火星のVR体験を狙った360度動画。今日はこのVRについてです。スピルバーグ監督が以下のような映画とVRの関係について述べているのを読んで、そこから思ったことを徒然なるままに。

スティーブン・スピルバーグ監督が「VR技術は伝統的な映画作りを脅かす」と警告 - Engadget Japanese

"スピルバーグ氏は、VRという新たなフォーマットが、映画監督の作品に対するコントロールを脅かすのではないかと指摘。この技術がもたらす視野の自由により「作り手が見せたいもの」より「観客が見たいもの」が優先されること。そして「全方位を見渡せて、どちらを見るか決められる世界に没入したとき、ストーリーが忘れられなければよいが」と懸念を述べています。

映画界とVR技術とはもっか距離を縮めつつあり、『ブレードランナー』などのリドリー・スコット監督もGear VR向けコンテンツ『The Martian VR Experience』にプロデューサーとして参加。『マダガスカル』などのエリック・ダーネル監督も、今年のカンヌ映画祭でVR映像の『1/8Invasion!』を上映しています。

当のスピルバーグ氏も、VRを題材にしたSF小説『Read Player One(邦訳:ゲームウォーズ)』劇場版の監督に決定しているほか、VRコンテンツを制作する会社The Virtual Reality Companyにアドバイザーとして迎えられています。そうした経験を踏まえた上での、重みのある発言なのでしょう。"

 確かにVRは映画に変革をもたらしそうですね。スピルバーグが気にしているのは観客に対して決まった視点を提示することでストーリーを描く今までの映画がVR技術導入でどうなってしまうのだろうか、と映画界からの不安を表明しています。
 果たして本当にそうなのでしょうか。僕は映画と演劇の差をここで想起しました。

 映画は一定の画角で映像を提示し、観客にある一定の体験を感じさせます。それに対して演劇はある場面を提示しますが、観客の視点は絞るわけではなく、観客のある程度の自由な視点を許容しています。
 それによって演劇の物語が発散するかというとそんなことはない。ただし演劇は映画よりも観客の視点の差で、微妙に体験としての差異があるような気がしています。たとえばある俳優のみに着目して演劇を観ると、観客には必ずしも主人公の体験をトレースするのではなく、その役者の物語を体感していたり、といった違いが出てくるのではないかと。

 次にPOV:Point of View Shot映画というものがある。
 これは観客の視点を主人公の視点に固定するものである。

 VR映画というのは、このPOVと演劇的な視点の自由が融合されたようなものになるのではないか。つまりカメラの位置(観客の位置)はPOVのように主人公の位置に固定される。しかしその視線は360度の自由が許容される。
 物語とともに観客は、主人公としてその映画のストーリーをなぞっていくのであるが、その視線は映画の360度空間の中で自由に自分の好きな画角を、演劇のように切り取れる。そうした時にひとつのストーリーなのだけれど、観客は圧倒的なリアリティとともに映画の中である程度の主体的な映像体験を記憶に残すのである。

 スピルバーグには、VR版『ジョーズ』『プライベート・ライアン』を撮って欲しい。その際にどのような新しい映画体験がもたらされるか、そこに凄く興味がある。

 そろそろアメリカではVR映画の制作が始まっているのではないかと思うのだけれど、このあたりから新しい映像体験を想像することができるのではないか、と思っているのでまずは雑記。
 
 次にそんなVR映画でキーになる超臨場感についてもメモ。

◆VRによる超臨場体験のメカニズムについて
 最近、テレビでVR体験をしている人を映し、その臨場感の凄さをアピールする番組が幾つか出てきているけれど、バラエティではある程度大袈裟に演じているにしても、NHKのクローズアップ現代でも、相当のインパクトを体験者が受けているところを放映していた。

あなたの脳を改造する!? 超・映像体験(バーチャルリアリティー) | NHK クローズアップ現代.

"ソニー・インタラクティブエンタテインメント 吉田修平さん
「いろいろ研究した結果、(頭の動きと映像のずれが)0.02秒より短くなると、ほとんどの人がふだんの生活で見ている感覚と変わらなく感じるという結果が出ています。」(略)

クロスモーダル現象、とても不思議に感じるが?

クロスモーダル現象とは、五感が刺激された時、そこにはない音やにおいなどを感じてしまう錯覚現象です。 宮本さんの場合、女子高生との距離が縮まったことで、実際には聞こえないはずの吐息を感じたのです。

暦本さん:人間って怖いですね、視覚とか聴覚と一緒に来ると、いろいろとないものが聞こえちゃったりするというのが、クロスモーダルで、記憶にも依存するんですよね。(略)

暦本さん:例えば、トロってありますよね。
VRで、お寿司のトロを出すんです。
実は、アボカドだったりするんですけど、食べると本当にトロの味がしたりする。感覚が変わっちゃったりするんですね。"

 僕はまだ電気店店頭で、SamsungのGear VRを体感したことしかないけれど、それでもその臨場感はなかなかのものであった。その臨場感の秘密はどこにあるのだろうか。そこらにすごく興味がある。

 以前書いた記事でこのあたりについて、説明できる脳の仕組みについて記述された本がある。

■池谷裕二著『進化しすぎた脳』 感想 3 脳のトップダウン構造と視覚

" 視覚野のシナプス活動のうち、視床から入ってくる視覚情報は15%に過ぎない。さらに視床そのものも眼からの情報を中継する部分(外側膝状体)は視床全シナプスの20%。
 つまり視覚野が処理する外の視覚世界の情報は、わずか15%×20%=3%。我々の観ている画像は、そのわずか3%が外の視覚世界でそれ以外は脳が処理した別の視覚情報なのである(例えば上述の止まっているものを動いていると知覚する脳内の活動情報等)。(P351)"

 人間の視覚認識についての興味深い記述がこの本になされていた。
 ここからVRを考えると、クローズアップ現代等のテレビで用いられるジェットコースターのVRであるが、その臨場感の秘密は、視覚が外界情報として処理している情報はわずか3%で、実は脳内で生成された映像がその3%を補完して100%の視覚認識になる、ということがVRのリアリティ生成に大いに役立っているのではないだろうか。

 つまりCGとして決して緻密でもないコースターの映像が、人間の頭の動きに連動した視覚情報として入力されると、頭の動きやそれに同期して動く3%の3D-CG世界の映像情報から、脳内でリアルな映像が残り97%の情報として追加され、両眼から入ったCG情報は見事にリアリティを持った外界として認識されるのではないか。

 これを現時点体験できる視覚認識で試すことができる。
 それはどこにでもある何かのハイビジョン等の動画を再生して、その映像に生々しい存在感を持ったとする。次にその映像を途中で止めて、あるコマだけを観てみてほしい。するとその1コマの画像だけ観ると、さきほどの生々しさは大きく劣化しているのがわかると思う。
 この生々しさの劣化は、おそらく動画再生している時に、3%の画像入力のコマとコマの間を補完する脳内の97%の視覚認識が、生々しさを生み出しているまさにその正体だからではないだろうか。

 VRにおいては、頭の動きに連動する両眼の立体映像から、さらに強いリアルな(現実で我々が外界を見ている視覚認識と同等に)脳内補完映像を生成し、凄く臨場感のあるまさに生の現実感が生成されている、と思うわけである。

 そしてさらに上で述べられているようなクロスモーダル現象で、視覚以外の感覚も脳内でその現実感を補完しているのだと考える。

 まだ自分でしっかりVRを試していないので、あくまでも机上の空論だけれども、このあたりから今後もVRの臨場感について、究極映像としての分析をしていきたいと思っている。

◆関連リンク
ソニー、上位版PS4「Neo」を認める。現行プレイステーション4と併売するハイエンド版 - Engadget Japanese
 PS VRに向けて、PS4導入しようと思ってたんですが、これは待ちですね。VRの場合、マシン性能に依存する部分が多いので、マシンパワーと5Kの性能は確保しておいたほうがよさそうな気がします。
リドリー・スコットのVR映像の予告編がGear VRで配信(北米のみ)。本編は2016年公開 | 国内外のVR最新情報 - Mogura VR
これら8つのVR作品が、トライベッカ映画祭で注目を集めた|WIRED.jp.
【随時更新】POV方式で撮影された映画まとめ【60本】

"「POV方式」とは「Point of View Shot」の略で、 日本では「視点ショット」「主観ショット」などと訳されます。"

"1/8Invasion!|Baobab Studioによる短編アニメーション。イーサン・ホークのナレーションによる、エイリアンの侵略から世界を救う1匹のウサギのストーリー (いや2匹かもしれない…観てからのお楽しみ)だ。キュートな作品で、家族みんなで大きい耳になって没入体験を楽しめる。"

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2016.06.13

■写真レポート 藤森照信設計デザイン「モザイクタイルミュージアム」

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 藤森照信氏デザインの「モザイクタイルミュージアム」が多治見市にオープンしたので行ってきました。今回はその写真レポートです。

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 先日の記事で紹介した茅野市にある藤森氏の初建築作品である「神長守矢家祈祷殿」にも通じる周りの緑と建物の調和が見事な景観。

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 それにしても高さ20mほどの絶壁(角度90度)になった、土塗りのように見える両側の壁は圧巻(写真右は玄関から見上げたその絶壁)。タイルミュージアムなのに外観は屋根のみがタイル貼り。
モザイクタイルミュージアムとは | tmtm28

"藤森照信  ふじもり てるのぶ(建築史家、建築家)
建築物を構成する素材の中で最も根源的なものは何か、という問いに、藤森氏は「土」と答えています。タイルもまた、土を焼成して作る建材のひとつ。その原料となる粘土を掘り出している採土場の風景から、今回のタイル館のイメージは出来上がりました。"

 というのが土の絶壁の意味のようです。

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 内部、4階はタイルが映えるのは屋外であるという藤森氏の考えで、展示会場天井に5mほどの大穴が開いている独特の空間。上の建築模型で構造はわかって頂けると思うが、まさに天井に大穴が開いている。これはガラスが嵌っているわけでなく、まさに天井から外の風が吹き込む穴なのである。
 雨も風も吹き込むが展示物がタイルだからこそ出来た、美術館として特異な空間。

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 ということで4F展示場の作品は全てこのようなタイルに描かれた絵とタイルの造形。それにしても大雨と風の酷い日は、展示場としては閉鎖されるのではないかと心配してしまう。

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 各階を結ぶ階段スペースも吹き抜けになっていて気持ちの良い演出。ここでも温もりのある土の感覚が活かされているのはまさに藤森建築の真髄。
 この建物、実は近所なのだけれど計画も全く知らなくて、新聞でオープン記事を観た時も何だか藤森作品に似ているな〜とぼんやり思ったのだけれど、まさにズバリで驚きました。
 2ヶ月ほどの間にその作品を4点拝見できて、奇想建築ファンとしては眼の至福でした。

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