« 2016年8月28日 - 2016年9月3日 | トップページ | 2016年9月11日 - 2016年9月17日 »

2016年9月4日 - 2016年9月10日

2016.09.05

■感想 ヤノベケンジ個展「CINEMATIZE シネマタイズ」 @高松市美術館


BOLT Teaser - YouTube

ヤノベケンジ個展「CINEMATIZE シネマタイズ」 高松市美術館 | 京都造形芸術大学ULTRA FACTORY

"ヤノベケンジ展 「CINEMATIZEシネマタイズ」
2016 年7 月16 日(土) ~ 9 月4 日(日) [会期中無休]
高松市美術館公式サイト
「シネマタイズ」とは、ヤノベがストーリー性とキャラクター性のある虚構的作品を様々な場所に設置するととで、空間や現実自体が映画のように変容する効果を意味しています。 初期から最新プロジェクトまでの実作の展示 に加え、資料展示やドキュメンタリー映像の上映を通して、ヤノベ作品によって「シネマタイズ」された様々な空間や現実の歴史を追います。さらに、展示室全体を映画セットにするインスタレーションが行われ、実際の公開映画のための撮影も予定されて います。まさに、美術館自体が「シネマタイズ」される画期的展覧会です。"

映画『BOLT』公開撮影を行います!

"高松市美術館特別展「ヤノベケンジ シネマタイズ」(9月4日まで)において、映画『BOLT』の公開撮影を以下の通り実施します。

2016年8月29日(月)~9月4日(日)9:30~19:00(日曜~17:00)※入室は閉館30分前まで

【 撮影の観覧方法 】
・企画展示室(2つ目の展示室)にお進みいただき、観覧スペースから撮影風景をご覧いただきます。"

Img_5042checker

 会期最後の週末9/3(土)に、高松市美術館のヤノベケンジ『シネマタイズ』展を、観て来た。ヤノベ作品の歴代広範囲の展示と、世界初と言われる美術館での展示作品をセットとして利用した映画撮影とその撮影風景そのものを展示物としてしまうというインスタレーション。

 今回の展示作品は、今までのヤノベ個展等でほぼ全て観ていたので、僕の関心は作品が作る今回の美術館の空間と、映画撮影である。まず展示レイアウトは以下の通り(拡大して配置図と作品リストを御覧下さい)。
(★今回の中心テーマは「映画撮影」ですが、それについては後半で述べます。)

Img_5074down2

Img_5074down3

◆歴代作品の展示 と 未来
 まず展示空間としては、美術館の広いエントランスホールを入ると、フローラとサン・チャイルドNo.2の巨大な姿。ホテルのような開放的なホールの近代的な建築とマッチして、華やかな未来的な空間を作っている。

 そして2Fへ上がって、時代ごとテーマごとにヤノベ作品の時代ごとの全貌を紹介している。時期ごとに初期から以下の順に展示されている。各時期の代表作が展示されていて、ヤノベ作品がどう推移しているのか、コンパクトに全貌が分かる。

Img_5019down_3

「1.誕生 Rebirth」
「2.サヴァイヴァル Survival」
「3.アトム・スーツ Atom Suits」
「4."未来の廃墟"への時間旅行 Time Travel to "The Ruins of the Future」
「5.未来の太陽 The Future Sun」
「6.リヴァイヴァル もう一つの太陽 Revival : The Another Sun」
「7.トらやんの大冒険 ヤノベケンジの代弁者 The Great Adventure of Trayan : The Agent of Kenji Yanobe」
「8.シネマタイズ CINEMATIZE」
「9.風神の塔 IITATE Monster Tower」。


 僕が今回の展示で、初めて観た作品は
「5.未来の太陽 The Future Sun」のコーナーにあった「太陽の島」(模型と構想図 右写真)。
 以前あいちトリエンナーレで「太陽の神殿 サン・チャイルド島」という神殿を模したアート展示場兼結婚式場というプロジェクトは、その模型と合わせて壮大な企画を見たことがあったけれど、今回はそれを超える壮大なもの。

 島全体がリゾートで、巨大なアリーナと宿泊施設、そしてアートギャラリーが一体となり、亀の島を形成している。

 ヤノベケンジによるプロジェクトは、どんどんと妄想を増し、ついに会場に浮遊する島。「太陽の神殿」という建築を超え、巨大な都市の創造へと向かっているようだ。
 次は宇宙を飛ぶ人工宇宙都市へと妄想の力を広げていくのかもしれない。(という僕の妄想(^^;))


◆インスタレーション 映画撮影

Black_sun_vs_iitate_monster_tower2

 特に林海象監督による映画撮影は、アトムスーツが福島原発事故の現場へ投入された虚構を、美術展の中で観客にも疑似体験させるという画期的な試みだったかと思う。


 実は最初、会場で撮影の準備を見ながら、撮影の待ち時間にいろいろと考えていたのは、以下のようなことであった。

 美の展示場に、映画の現場というバックヤードが現れて、会場を土方な現場に変貌させてしまう違和感がまずあった。
 
ハンドジャッキやディレクターズチェアやトンカチや電源コードやガムテープが存在する雑然とした美術展空間にまず違和感を持つ。

 違和感を異化作用として、作品のように変貌させる手がないかどうか。美術展での映画撮影という前代未聞のイベントはそうした課題を残したのかもしれない、なーんてことを思っていた。

Img_5041

 しかし、撮影が始まり展示場の照明が消され、映画の照明が原発の高濃度放射能汚染水のタンクに模した「黒い太陽」と永瀬正敏の黄色いアトムスーツ姿に照射された時、会場は一瞬にして虚構の原発事故現場に変貌したような(錯覚かもしれないが)感想を持った。

 監督が観客に説明されたのは、このシーンは、映画「BOLT」のクライマックスで永瀬正敏と金山一彦が、原発事故(展示されていた企画書には2011.3/11と明確に書いてあったが説明ではある原発と言われていた)で臨界を超えて
紫のチェレンコフ光を放つ空間に、アトムスーツで決死の作業に向かうシーンだという。

 暗くなって雑多な準備品が見えなくなり、まるで映画フィルムが現場のカメラのカットでのみ切り取る映画空間に近いものが照明の効果によって展示会場に現れたのかもしれない。


 そしてその時に僕が思ったのは、以下のような感想である。
 チェルノブイリにアトムスーツで潜入し、事故を作品として芸術に取り込むことに、
そこに住む住人と会ったことで罪悪感を感じたヤノベが、今回、初めて展示の形として、アトムスーツを福島原発事故の現場に投入したのはとても画期的ではないか、ということ。

 福島でもいろいろな活動をするヤノベケンジであるが、チェルノブイリの時のように、安易にアトムスーツで原発事故現場周辺に行くようなことはしていない。それはそこに住む/住んでいた住人の人々の感情を慮ってのことではないだろうか。

 それが今回、アトムスーツがチェルノブイリに続いて、原発事故の現場に立つ。
 虚構の映画空間を利用することで、ひとつ芸術としての昇華を達成し、禁断としていた原発事故に直接切り込むような表現が可能となったのではないだろうか。

 そこらあたりの作家の感情的な変化については、どこかで是非伺ってみたいものである。ただ、映画という虚構とヤノベの「妄想」の掛け算ではじめて実現した画期的な出来事であるように、その映画撮影風景を観たときに僕には思えた。

 そして撮影現場では、その「黒い太陽」に対峙するように、観客側には「風神の塔:IITATE MONSTER TOWER」がその巨大な姿を現している。
 福島に伝わる伝承(
オンボノヤス,大多鬼丸)に見立てた「風神の塔:IITATE MONSTER TOWER」は、風を「黒い太陽」に送り、150人程の観客を放射能から守る形になっていたのではないか。

 原発事故で戦うアトムスーツ姿の男たちの虚構のシーンを、見守る観客を守る風神の名は、飯館村から取られた「イイダテ・モンスター・タワー」。ヤノベが原発事故によって感じてきたいろいろな事象がこの展覧会会場に込められていたのではないかと思う。



 今回の展示と撮影は、京都造形芸術大と東北芸術工科大の大学生がボランティアスタッフで大いに活躍されたとか。彼らは近所の神社に合宿して撮影に参加したとのこと。暑い夏に本当にご苦労様でした。末筆ではありますが、素晴らしい作品をありがとうございます。

 予定されている2017年の映画公開、楽しみにしています。またその映画と美術作品とを展示した新たなる「シネマタイズ」展も期待しています。


◆その他 メモランダム

・SF番組からスタートしたヤノベのものづくり(仮面ライダーのコスチュームとかガメラを学生時代に作っていたとか)が、ここで映画と融合する必然w。
 
・美術館の天井に合わせて無理矢理円錐部を切り取られた黒い太陽が痛ましい。もう少しあの会場の天井が高かったら、もっとあの空間の異質さは増していたのではないかと残念。

実は出演者としてクレジットされていた、(林監督作品「濱マイクシリーズ」の脚本を担当した)天願大介の作品に最近良く出ている月船さららを会場で観ることを楽しみにしていたのだけれど、残念ながら既に撮影シーンは終了していた様で、姿はもう会場で上映されていた8/29,30の撮影風景のビデオのみ。

 それはタンキングマシーンに洋服で入るシーンで、物語の中で、どういう位置付けのシーンになるか、想像力を刺激する。

・林海象監督はデレクターズチェアに座り、スタッフが準備する間、じっと何かを考えていた。あの探検隊の帽子はトレードマークなのかな。短パンと白いハイリックスに帽子が妙にマッチしている。
・撮影会場は永瀬正敏と金山一彦といった俳優ファンの女性たちが多数いらっしゃったようです。僕のようなおじさんは少なく少し浮いた感を持ったのだけれど、会場で少しだけ山形浩生氏に似た方を見かけたのは気のせいか。たぶん違うだろうけれど、以前からヤノベ作品を評価している山形氏がもしあの撮影インスタレーションを見られていたらぜひ感想を聞いてみたいものです。

・金山氏のあいさつが面白かった。会場の
3歳児とやりとりしながら「今からピカチュウみたいな服を着て現れるよ」。アトムスーツは確かに黄色くて似ている(^^)。
禍々しい黒い太陽が安全をアピールすべき原発で、冷却水タンクの意匠として採用されることはありえないだろう。但し、原発の禍々しさを心象風景として表現する抽象かの結果としてはありえたかもしれない。

| | コメント (0)

« 2016年8月28日 - 2016年9月3日 | トップページ | 2016年9月11日 - 2016年9月17日 »