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2018年12月23日 - 2018年12月29日

2018.12.26

■感想 ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『静かなる叫び』『灼熱の魂』


静かなる叫び PV - YouTube

 ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『静かなる叫び』WOWOW録画初見。モントリオールで起こった銃乱射事件を描いた09年のヴィルヌーヴ長篇3作目の作品。

 モノクロで描かれた乱射事件、過度のドラマ性は避けられ淡々とドキュメントのようにカメラが被害者と犯人に寄り添って記録され、まるでその現場に立ち会っているかのような感覚になる77分。

 そしてエンディングのクレジットでは現実に亡くなった14人の女性の名前が一人一人挙げられ追悼の言葉が捧げられている。

 ヴィルヌーヴ監督のベースにこうした社会派の作品があるのに何だか納得する一本。丁寧にそしてどこかクールに人間を描くヴィルヌーヴ演出はこうして作られた、という感じ。

 途中、凄いと思ったのは、犯人の学生が車で現場へ向かうシーンで、画面が天地を逆さまにして、凍りついたケベックの川を映し出す。この心象風景の描写が素晴らしい。
 天地が逆になるのは、他にも一シーン。惨劇後の学校のロッカーが並んだ通路を描いているところ。これは日常が裏返って生活空間が異様な光景を見せているシーンだけれど、こうした描写が素晴らしい。


映画『灼熱の魂』予告編 - YouTube.

 続けてWOWOWで録りためていたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の長篇第4作『灼熱の魂』初見。

 内乱となったレバノン(とは本篇では述べられていない)の焦土に描かれる、ある家族の血の物語。

 母親と双子の探索の旅がパラレルに描かれ、そしてだんだんと明らかになる真相。戦乱の地ゆえに起こった苛烈な現実の姿。しかしここでも前作に続いてその悲劇を過度な演出ではなく、事実の提示として描き、主人公たちの感情的なシーンはかなり抑えて描き出されている。

 ところどころにインサートされる焦土と荒野のレバノンの土地が登場人物の心象風景として雄弁に観客に悲劇を想像させる手腕が見事。のちに『ボーダーライン』でそのドラマを最大限に盛り上げるその演出力はこちらでも既に本格的に結実している。

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2018.12.24

■感想 高山羽根子『オブジェクタム』

高山羽根子『オブジェクタム』

"小学生の頃、祖父はいつも秘密基地で壁新聞を作っていた。 手品、図書館、ホレスリコード、移動遊園地――大人になった今、記憶の断片をたどると、ある事件といくつもの謎が浮かんでは消える。 読み終えた後、もう一度読み返したくなる不思議な感覚の小説集。

すばらしかった。
ふと気づいてもそのまま忘れてしまうことや、
自分では気づくことすらできずにいたあれこれを、
ひとつずつ丁寧に目の前にかざされているような読み心地だった。
酉島伝法(作家)

何度でも味わいたい、小説の魔法。
高山羽根子、文学の最前線に立つ。
大森望(文芸評論家)"

 名だたるレビュアー、そしてあの奇想の極北『皆勤の徒』を書いたSF作家 酉島伝法氏までもが絶賛する高山羽根子『オブジェクタム』を期待して読みました。噂にたがわぬ深い味わいの奇想小説3篇でした。

 まず「オブジェクタム」、過去と現在の日常から、少しずれた世界の断層を描いた佳作。子供の頃遊んだ草むらの秘密基地、学校で書いた壁新聞等々、久々に懐かしい記憶を思い起こしつつ、少し不思議な世界へ連れ去られて、街の裏に展開する幻のような世界を垣間見ることができる生活感のある幻想世界。

 「太陽の側の島」、僕はこの短篇集の中で本作が一番感銘を受けた。
 戦争に出た夫と残された妻との書簡。最初、現実的に描かれていた世界が、戦地の不思議な風習が描かれて、まるで想像していなかった世界へ連れて行かれる。この幻想の切れ味が素晴らしい。もっと他の作品も読んでみたいと思わせる傑作。

 「L.H.Q.Q.Q」、いなくなった犬を巡る不思議なユーモアに溢れた掌編。
 この雰囲気、癖になります。

 短篇「居た場所」が芥川賞候補になっているということで、今後の活躍が楽しみです。

◆関連リンク
旅書簡集 ゆきあってしあさって

"三人のものかきが旅の記憶を送りあう、幻想旅情リレー書簡集です。 (酉島伝法、高山羽根子、倉田タカシ)"

 幻想の旅先から、酉島伝法、倉田タカシ両氏とリレー書簡された「旅書簡集 ゆきあってしあさって」を以前に掲載。作風を彷彿とさせる素晴らしい奇想の旅情をお楽しみください。

いま〈SFを書く〉とは? – ゲンロンカフェ.

"今年、第2回ハヤカワSFコンテストにおいて、『ニルヤの島』で大賞を受賞した柴田勝家さんと、最終候補に選出され、12月19日に『鴉龍天晴』でデビュー予定の神々廻楽市さん、そして第1回創元SF短編賞佳作を受賞し、11月28日に『うどん、キツネつきの』でデビューしたばかりの高山羽根子さんをお招きし、いま「SFを書く」ということの意味、「SF作家としてデビューする」ということへの思いについてうかがいます。"

高山羽根子 - Wikipedia
オブジェクタム 書評|高山 羽根子(朝日新聞出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」  評者:町口 哲生(評論家)

"題名の「オブジェクタム」とは、前に投げる、前に置くから派生した「目的・対象」という意味のラテン語である。この語は中世以降、たとえばデカルトやスピノザの哲学においては、realitas obiectivaという風に使われたが、これは「表象された最低限の事象内容」という意味である。高山がこの用語を念頭において本作を執筆したと仮定するなら、その「最低限の事象内容」とは「主人公の主観において把握できた客観的事実」という意味合いになる。"


創元Genesisラジオ 第2回 ゲスト:高山羽根子さん - YouTube.

 こちらで高山羽根子さんの初長篇の話題が語られています(終わり部分)!
 何と「映画を使って人と人とが戦ってる話」でタイトルが『暗闇にレンズ』。映像SF小説に眼がないので来春の発刊が楽しみ!

 創元ラジオ、高山羽根子さんと東京創元社の編集者 小浜徹也さんの興味深いお話が聴けます。(第1回もありますがどちらから聴いても大丈夫です)

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