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2019.07.15

■感想 劉慈欣『三体』( 立原 透耶 翻訳監修, 大森 望, 光吉 さくら, ワン チャイ訳 )

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劉慈欣『三体』刊行記念! 短篇「円」特別公開(早川書房公式)
三連休は『三体』を読もう! 読書のおともにどうぞ! 登場人物表(早川書房公式)

 劉慈欣『三体』読了。いや〜面白かった ! このワクワク感はたまりません。3部作の続き『黒暗森林』は来年翻訳出版予定、第3部『死神永生』が出るのはさらにその先で待ち遠しくてなりません。Wikipediaを覗くと三部作の粗筋が書いてあるようですが、読みたくてしょうがないけれど、もったいなくて読めません(^^;)。

 冒頭の文化大革命の近衛兵の少女の鮮烈なシーンからはじまり、軍の巨大施設での謎のプロジェクトと某仮想世界の話が並行で進む。スリリングな施設のシーンと奇想の仮想世界。そしてそれらの交点に炙り出されるある存在とのファーストコンタクト。

 中国の理論物理学者の苦悩と、それを伏線としたある重大な決断。ここの悲劇性から描かれるのは壮大な人類の暗黒。ノワールなその後の描写とクライマックスで描かれる人類の絶望感の共鳴が絶妙。そして、、、、。

 僕はこの前半の文革の描写と中国の政治的側面からのいろんな科学者の生活上の制約のドラマ部分、そして短編「円」に代表される奇想映像(ある意味バカSFの系譜)としてのSFアイデアに痺れながら読み進めました。
 
 もうひとつ面白い縦糸は、作戦司令センターの警察官 史強の追う謎。ミステリ的に、史強の直感が壮大な宇宙の企みを予測し、そしてラストで史強が示す人類の持つべき姿勢が小気味良い。

 あと最近エンジニアの本職仕事で分子原子スケールの物理学の話題が頻繁に出てきて、ロートルエンジニアは着いていけなくなっているのだけれどw、この人類の絶望感、そんなところからも共鳴して、ある部分実感として読み終わりました(^^)。

 テクノロジーのネクストレベルはミクロな粒子をマクロなレベルで操作する(原始時代の焚き火からナノテクまで)ものではなく、ミクロ次元の制御と操作なのではないか、本書のひとつの大きなテーマです(本書 P361丁儀のセリフ)。

 このテーマからいくと、本書のクライマックスで描かれた次元を操るテクノロジーのシーンは、さらに大きく拡大し、今回の奇想シーンを超える壮大な物理学絵巻が開陳するのではないかという期待が高まります。

 中国では3部作で2100万部、英語版とドイツ語版で110万部とか発行されているようだけれど、日本でも既に発売一週間で8刷とかのようなのでヒットも期待できそう(中国の約1/10の人口の日本だけれど、さすがに200万部とかは難しいでしょうかw)。

  中国ではITベンチャー系に受けたようだけれど、エンジニアの人数データだと2014で “日本:81.9万人、アメリカ:357.3万人、中国:327.3万人”ということなので(日本国内と海外のITエンジニア人口の推移 より )、日本の4倍で大きく見えますが、2100万部÷3冊/セット=700万人に対して、ITエンジニアで半分くらいですね。あとは学生たちかな。

 映画化は中国で撮影までトライしたが完成できず(以下、関連リンクに幾つかその断片情報を添付しました)、その後、Amazonでの映像化の噂があるようですが、確かにこんな本格SF作品が映像化されたら、本物のSFブームが到来するのかも。本作は20時間くらいの大長編としてじっくりと丁寧にこのワクワク感を映像化してもらいたいものです。

 最後に、映画化よりも、まずは素早い翻訳出版を、関係者の皆様、よろしく御願い致します。早く続きが読みたくてたまりません。

◆関連リンク
中国人SF作家・劉慈欣氏の小説「三体」がヒューゴー賞長編部門を受賞(15.8/24)

"中国人SF作家・劉慈欣氏の小説「三体」が第73回ヒューゴー賞長編小説部門を受賞した。
 ちなみに、劉慈欣氏がプロデューサーとして作った同名映画も撮影を終え、2016年7月に上映される予定だ。"

中国SF『三体』の映像化はいつ? 映画化とドラマ化はどうなった?

"実は撮影も完了していた

2015年には『三体』の実写映画化が進められ、撮影が完了したという報道もされていた。ポスターやトレイラーも公開され、中国のSFファンは映画版『三体』の公開を今か今かと心待ちにしていた。当時は『さまよえる地球』ではなく、『三体』の公開が中国のSF映画を取り巻く状況を一変させると大きな期待を受けていた。"


“The Three Body Problem” movie: sci-fi made in China? 
 上のリンク先にあったメイキングらしき映像。
 
オバマも絶賛! リュウ・ジキンの登場がSFを変える

"オバマ氏は、2017年12月に北京で開催された国際教育サミットでリュウ・ジキンとの面会を果たした。オバマは、この年の1月にニューヨークタイムズのインタビューで、『三体』を絶賛していた。今回、オバマはジキンの次回作について質問し、ジキンは自身の作品の映画化についてオバマへ話をしたという。"

世界が注目する中国人SF作家、リュウ・ジキンの肖像 (Wired)

"その作風は、荒涼とした現代的なテーマへと向かいがちな最近のSFの傾向とは異なっている。彼はこうした違いの原因を、近年の中国の科学技術の向上からくる高揚感によるものだと考えている。
「中国の新しい世代は、前の世代より広い視野をもっています。彼らは自分自身のことを、単に中国人であると考える代わりに、人類の一部として考えています」とリュウは言う。「彼らは地球全体に関する問題を、よく考えているのです」"


 《三体·起源》 the three body problem · origin 中国での映画化の断片映像が見られます(フェイクかも)。
Transcript: President Obama on What Books Mean to Him (NY Times)
 オバマ元大統領インタビュー。『三体』についての部分。

"It’s interesting, the stuff I read just to escape ends up being a mix of things — some science fiction. For a while, there was a three-volume science-fiction novel, the “Three-Body Problem” series —

— which was just wildly imaginative, really interesting. It wasn’t so much sort of character studies as it was just this sweeping —

Exactly. The scope of it was immense. So that was fun to read, partly because my day-to-day problems with Congress seem fairly petty — not something to worry about. Aliens are about to invade. [Laughter]"

【緊急開催!】陸秋槎×大森望「劉慈欣『三体』日本語訳版刊行記念イベント」【大森望のSF喫茶 #30】

"主催: ゲンロンカフェ 東京都品川区西五反田1-11-9 司ビル6F
2019/07/19 (金) 前売券 1ドリンク付 ¥2,600"

◆若干のネタバレ感想
 僕は本書を初めから最後までとても面白く読んだのですが、唯一ダメだった部分は以下。
 ネタバレなので、文字をホワイトアウトしますので、読後の方は、カーソルで文字反転させてみてください。

 後半クライマックスの三体星人の会話のくだりはダメでした。感想して干物のようなペラペラの存在になる生命体が、あのように地球人と同じメンタリティで会話していてはダメかと。あれじゃまるでガミラス星人です(^^)。(『宿借りの星』を読んだ直後なので、特に大きな違和感が…)

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コメント

 明日からマのつく自営業さん、おひさしぶりです。

 ハリウッド受けというよりは、本格SF的小説かと。wiredの冒頭は、小松左京を彷彿とさせるかな。

 ケン・リュウ、複数本は買ってあるのですが、積ん読になってまして、『三体』の勢いで読んでみます。

投稿: BP(明日からマのつく自営業さんへ) | 2019.08.04 10:08

三体のさわりだけwired.jpで読みました。確かに中国大陸からこんなSF作品が出てきたのは驚きです。でもハリウッド受けという点では悪く言えば類型的かと。むしろリュウ・ジキンを英訳したケン・リュウの"紙の動物園"がお勧めです。彼自身はアメリカ人作家ですが、繊細で叙情的な新しいアジアのSFを感じさせます。

投稿: 明日からマのつく自営業 | 2019.07.24 15:18

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