« 2020年4月 | トップページ | 2020年6月 »

2020年5月

2020.05.27

■感想 ポン・ジュノ監督『母なる証明』『殺人の追憶』『グエムル-漢江の怪物-』「シェイキング東京」


ポン・ジュノ監督『母なる証明』 BSジャパン録画初見。
 
 何だかスチルとかで出てくる母親の顔が怖くて、なかなか観られなかった作品。想像したのとは違ったけれど、これはジワジワ恐怖(?)が染み込んでくる話でした。凄い。

 凄いのは記憶に関わる物語であるところ。
 主人公の青年 トジュンとその母親の記憶の深淵を覗き込む様な映画である。コメディとも思える映画のタッチの中にこうした深淵が描き込まれるところ、まさにポン・ジュノの真骨頂である。
 
 冒頭とエンディングのダンスが凄い。映画の映像でしか表現できない表現が、その物語の深淵を象徴的に体現している様が素晴らしいです。怖いけど、、、。

200905190941461side
 『母なる証明』のあと、ポン・ジュノ作品を3作続けて観たので、まとめて感想です。


『殺人の追憶』 WOWOW録画初見。

 ポン・ジュノにしてはストレートなサスペンス。
 現実に未解決だった事件を扱っているだけに、犯人追及と捏造捜査のリアリティがなかなか。

 韓国の一つの闇を描いている。湿度の高い、息苦しい田舎の社会描写が迫真。ただ僕はストレートすぎて、ポン・ジュノ作品としては少し物足りなかったかなと。

『グエムル-漢江の怪物-』 BSフジ録画見。劇場で観て以来2回目。

 ウィルスシーンは、SaaSの影響下だけど、これが原題のホストに効いている。実際、これだけ異形の存在が街に現れたら、そこにウィルス的な恐怖を持つことは間違い無いはずで、その点を怪獣映画として突いたところは斬新かもしれない。

 映画館で観た時に、韓国映画に慣れていなかったので、あのギャグセンスに着いていけなかったけれど、今回、それほどそこが違和感なく観れた。韓国家族社会の絆を見事に描いている作品で、そこが率直に良い映画にしていますね。初見時より良い印象でした。

『TOKYO!』 WOWOW録画初見。3本の短編からなるオムニバス。いずれもなかなかの傑作で、これは拾いものでした。

ポン・ジュノ「シェイキング東京」
 引きこもりテーマ。誰もが引きこもりになってしまった都市 東京が現出する。まるで新型コロナウィルスの時代の様。『グエムル-漢江の怪物-』と合わせて、新型コロナ社会の予見の様にも観られる、なんていうのは後付けの感想でしかない訳ですが、、w。
 
 設定と香川照之の家のディテイル、蒼井優の演技が素晴らしいです。いつかジュノ監督の長篇にも出て欲しいものです。

ミシェル・ゴンドリー 「インテリア・デザイン」
 東京の町がゴンドリーのキッチュで切り取られる。藤谷文子、加瀬亮と伊藤歩の奇妙な同居。加瀬亮が作る不思議な自主映画、タイトルバックがゴンドリー印でいいです。

レオス・カラックス 「メルド」(フランス語で「糞」)
 3本の中で一番良かった。さすがカラックス。
 『ホーリー・モーターズ 』に出てきたメルドが東京の街でここでもゴジラのテーマ音楽のもと、大暴れ。こちらが先で、この後、『ホーリー・モーターズ 』で同じキャラクターを使ったとのこと。
 
 この異形のキャラクターにカラックス、余程愛着があったんでしょうね。そして気持ち悪いくらいにこのキャラクター、現代の東京を突いてきます。

| | コメント (0)

2020.05.25

■感想 ハズラフ・ドゥルール監督『ファースト・コンタクト』"The Beyond"


 ハズラフ・ドゥルール監督『ファースト・コンタクト』"The Beyond" WOWOW録画見。

 「未体験ゾーンの映画たち2019」の一本、イギリス映画で"ファウンド・フッテージ手法を取り入れたモキュメンタリー映画"。

Mv5bmjmxnzrkm2ytn2q1ms00ntviltk4ytktmwu1
 手法がテーマにもマッチしていて、低予算と思われるが時々NASA映像等も使われていて、なかなかリアルないい仕上がりになっている。

 一部、安っぽいCGがあるのもご愛嬌で、かなり真正面からのSF映画として、楽しめました。タイトルのみから少し不安を持ちつつ観たのですが、拾い物でした。
Mv5byzezzjc3zjatzgvhos00ntcxlwe0mtktmjg2
 物語も不可思議な存在がISS軌道上に現れ、その探査にヒューマン2.0と呼ばれる、まるで攻殻なサイボーグが送り込まれ、さらに、、、とありそうで観たことのないSFものになっている。落としどころも、このポジティブさは好きです。

Mv5bnzdmytnlnwitmznhyy00ztawlwe2ztgtnjhi
 映像的に特に良かったのが、地球上空に現れる黒い球体。写真だと少々わかりにくいけれど、表面が蠢く様がなかなか。
 CG的には煙のエフェクトを球体に配置しただけかもしれないですが、この異様な光景は素晴らしい。

◆関連リンク
Hasraf Dulull(wiki)
Project Kornos Trailer
 『ファースト・コンタクト』の元となった短篇とのこと。
“The Beyond” — VFX Q&A (CINEFEX Blog)

 30分に渡るメイキング

| | コメント (0)

2020.05.20

■感想 ハイファ・アル=マンスール監督『メアリーの総て』


『メアリーの総て(すべて)』予告編
 ハイファ・アル=マンスール監督『メアリーの総て』WOWOW録画初見。
 エル・ファニングの(メアリー・シェリーというか) メアリー・ウルストンクラフト・ゴドウィンの悲しみを湛えた瞳が素晴らしい。

 『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』がバイロンらとの怪奇談義から生まれたものだ、ということは知っていたが、その実像がこの様な人と人の悲劇の中から生み出されたものであるのは知らなかったので、そうした部分も興味深かった(薄くってすみませんw)。

Maryshellyside
 このバイロンとのディオダディ荘の怪奇談義については、ディテイルがもっと知りたいのだけれど、映画はかなり端折って描かれている。この辺りはケン・ラッセル『ゴシック』とかにもっと描かれているのだろうか。

 この映画は、サウジアラビアの女性監督ハイファ・アル=マンスールが撮っているのだけれど、この方独自の女性の描写、特にメアリーの凛とした知的な姿が素晴らしい佳作でした。

| | コメント (0)

2020.05.18

■感想 山田尚子監督『聲の形』、高坂希太郎監督『若おかみは小学生』

 ずっと在宅勤務とGW中、1日1本の映画鑑賞を続けていますが、しばらく感想をサボってしまって、メモが溜まっていますw。

 で、この二日で観た、巷で評判のアニメ映画(WOWOW初見)が、とにかく素晴らしかったので、まさに今更で恥ずかしいんですが、他を飛ばして感想です。どちらも年間ベスト級の傑作で、2日連続観賞というのは至福の時間でした。

 両作は脚本 吉田玲子つながりですが、どちらも機微を抑えた人物描写の脚本と、感情表現含めた作画の丁寧さが相まって、見事な映画になっています。

◆山田尚子監督『聲の形』

『聲の形』 ロングPV
 岐阜映画でもある、見知った光景の大垣市の風景で描かれるシビアな現代の学生生活の物語。胃が痛くなる様なこうした人間関係の映画をアニメでは観たことなかった様な。あと自分の経験にはこういうのは幸いに(?)ないけれど(時代も違う?)、自分の娘たちの学生時代を思い出すと、長期連休中とその後の新学期始まる前の表情とかが全然違っていて、この映画の様な学校生活のストレスを何らか感じていたのかもしれないですね。

 ラストシーン、友人たちの顔の明るい映像から、画面全体がブラックアウトして、中心にだけ二人の人物の小さな影が映るシーン。3回ほど繰り返し、この映像効果が最後に独特の効果/余韻を作っている。

 アニメートでは特に、足、靴の丁寧な描写が妙に印象的でした。いずれのシーンもなかなか見事なアニメートと演出で、素晴らしい完成度。

 人物描写も、西宮硝子は確かに異質な存在としてクラスに現れ、こういう書き方は誤解を招きそうだけれど、はっきり言って「気持ち悪く」描かれている。この演出で小学生たちのいじめる側の視点も観客に感情移入できるものになっている。

 硝子の母親と石田将也の母親の関係とか、こうした映画にありがちな描写でなく、鮮烈で独特。この辺も素晴らしくうまいですね。

 Wikipediaにこんな記述がある。
「劇中でも登場する養老天命反転地の「極限で似るものの家」があり、そこから、「イコールではないが、無限に同じものへ近づいて行くことを表す"極限値"」というものが一つのコンセプトとして制作された」

 劇中にも出てくる養老天命反転地は何度か行ったことがある好きな場所なのだけれど、ここの傾斜した不安な/危険を感じさせるアート施設をコンセプトとして使っているのも面白い。

◆高坂希太郎監督『若おかみは小学生』

劇場版『若おかみは小学生!』予告編
 こちらは『聲の形』と比較すると、陽性の魅力に溢れた傑作。
 主人公の眼に抵抗感があって、なかなか観られなかったのだけれど、地上波放送の前に観ておこうという、、、(^^;)。

 登場人物の多層的な描き方、うりぼうとみよちゃん、鈴鬼といった”異界”キャラクターによる想像力の自由さがとてもいい作品。物語も重いテーマを描いているのだけれど、いずれのエピソードも主人公の陽性に救われるところが素晴らしい。こういうのって、漫画映画の王道って考えたいですよね。

 エンドタイトルのイメージスケッチの絵もとてもいい。気持ちいい映画をありがとう、って感じですね。

 上記引用画像は、本田雄原画パートとのこと。(関連リンクに元映像)
 回想シーンなので他と少し違うタッチにしているが、おかみ 峰子の子供時代、素晴らしくスマートでかわいい。

 うりぼうのアクションもいいし、この作画は、宮崎駿がアニメーターとして嫉妬するレベルと思う。このままこの二人の子供時代を描いた映画も見てみたくなる出来ですね。

◆関連リンク
きゅうでれ (sakyuuga) さんツィート

 "劇場版 若おかみは小学生!の回想シーンは本田雄さんの素晴らしい原画です、小黒さんが本人から確認をもらいました。"

| | コメント (0)

2020.05.11

■感想 マーク・チャンギージー、柴田裕之訳『ヒトの目、驚異の進化 視覚革命が文化を生んだ』THE VISION rEVOLUTION:How the latest research overcomes everything we thought we knew about human vision

Vision-revolution
『ヒトの目、驚異の進化』「視覚の進化革命」がここから始まった (文庫解説)
 進化神経生物学者のチャンギージーによる、人間の視覚の驚異についてのノン・フィクション。元の自身の学術論文から平易に図解含めて、分かりやすく不思議なヒトの視覚が述べられている。

 もともと視覚に強い関心があるので、4つの章立てで述べられる認知科学的な視覚の分析を、とても興味深く読みました。
 本書の興味深い観点は、以下の4章のタイトルに現れています。「感情を読むテレパシーの力」「透視する力」「未来を予見する力」「霊読する力」、ヒトの視覚が既に、テレパシー、透視、未来予知、霊視能力を持っていると書かれている、とだけ書くとトンデモ臭も感じられるでしょうが、本書はこの章タイトルで読者の興味をまず惹きつつ、丁寧にデータを挙げて、一つづつ視覚の不思議を説明していく。

◆ テレパシー
 視覚の色のスペクトル分析から始まり、ヒトの顔がその皮膚内部の血液量と酸素濃度によってフルカラーディスプレイとして感情等をコミュニケートする機能があり、それを繊細にとらえるために眼の3種の錯状体が進化して、黒白/青黄/赤緑の色彩を感知できる様になったと説明する。

 白人から黄色人種、黒人の色スペクトルが実はほとんど同一で、その微細な差を捉えるために、ヒトの眼はその周波数帯で繊細な感度を持っているとか、顔がディスプレイであるとか、刺激的。

◆ 透視
 眼が顔の前方に2つあるのは何故か。
 立体視のためと当然の様に思っていたが、そこに疑義を唱えながら(片眼でも風景の分析から脳が立体視は形作れる(つまり2D映画でも人は立体感を得られる))から真の2眼の目的(進化の淘汰圧)があるのでは?と問いかけて説明が始まる。

 森の中で行動するために、私欲仏の葉の間から前方を知覚するために、片眼の前にある障害物に対して、複数の葉の間隔からずれた位置でもう片方の眼が障害物の向こうの映像を捉え、脳内で2眼の複合された視覚を構成し、擬似的な透視能力を得ているのではないか、という論。

 この透視能力は今すぐ貴方も確かめられます。
 片方の眼の前に手の平を置いて、両眼で前方を観てください。手の平を「透視」して向こうの景色が見られますね(^^)。

 これもなかなかのコペルニクス的転換。
 頭の両側1mの位置にカメラを左右付けて、その映像を眼に映し出せば、車や街中の人々の姿も透視して、安全に前方の視野が得られるのではないかというアイデアも書かれていて、大変興味深い。

Side_20200510204601
 以前にヒトの目に上下を逆にした映像を映しても、人の視覚認識は少しの時間で慣れて、普通に行動できる様になる、という実験を観たことがある。この両側1mの、ペガッサ星人(上図左)かメタリノーム星人(右)という両眼が横に配置された様な新たなヒトの視覚形態も、すぐに慣れて、新たな「透視能力」がヒトに簡単に備わるのではないだろうか。(本書に従うと、ペガッサ星人とメタリノーム星人は、大きな葉の植物が群生している惑星の出身と推定できるw。)

 ARやVRデバイスの持つ、新たなポテンシャルがこうしたところからも拡大するかもしれない。

◆ 予知
 ここで述べられるのは、錯視の数々とそれらを統合して説明できる統一理論。

 簡単に述べると、視覚の認知が持つ0.1秒という遅れを補正して行動するため、「知覚の神経的遅れを先取りして埋め合わせ、前方への動きにおい て現在時を先取りするメカニズムを備えている」ことにより、その能力の副作用として、数々の錯視が説明できる、としている。

 錯視というのは、視覚認識系の研究で数々古来から研究されている分野とのことだが、ヒトが自身の視覚認識能力の不備を補うために、長い期間でそれを補う脳内の情報処理メカニズムを創り上げてきた(淘汰圧で)、というのが錯視で証明できるというのが、なかなかの眼から鱗の知見でした。

◆ 霊読
 ヒトは何故これほど素早く文字情報を読み解けるのか、という謎に挑んだのが、本章。

 多様な言語ごとの文字の画数とその形態の特徴分析から、チョムスキーの普遍文法ならぬ、文字の生成原理分析(視覚言語学と名付けている)を試みているのが、とても面白い。

 自然にある事物の形から、普遍的な文字の形を導き出して、それによりヒトの文字読解が「霊的」な速度で実行される原理を解き明かす手並み(下条信輔氏との世界93言語の文字の平均画数と文字総数分析)が素晴らしい。

◆ 付記
 映画や文学による人間の脳内イメージの形成の観点で、おそらく今後この視点は、アニメや実写映画評、はては小説の分析に援用されるのではないだろうか。

 個人的にはヒトの視覚の立体視(両眼の視差効果だけでなく多様な認知による)と、言語と意識の関係とか、VR/ARへの援用とか、いろいろと考え続けている究極映像研究テーマがあるので、そことつなげてこの研究者の知見は今後も注視していきたいと思っています(^^)。

◆関連リンク
ヒューマンファクトリーラボ human factory lab
Mark Changizi HP

| | コメント (0)

« 2020年4月 | トップページ | 2020年6月 »