SF

2016.02.29

■感想 筒井康隆『モナドの領域』

筒井康隆『モナドの領域』 新潮社

" 河川敷で発見された片腕はバラバラ事件の発端と思われた。美貌の警部、不穏なベーカリー、老教授の奇矯な振舞い、 錯綜する捜査……。だが、事件はあらゆる予見を越え、やがてGODが人類と世界の秘密を語り始める――。
 巨匠が小説的技倆と哲学的思索の全てを注ぎ込んだ 超弩級小説。"

 筒井康隆『モナドの領域』読了。
 冒頭のミステリ的な謎からグイグイと読者を引っ張り、そして偏在するGODの深淵を描きだした巨匠円熟の作品。
 特に前半、謎の提示とGODの登場、そして法廷で裁かれる"神"の犯罪とそこで証明されるGODの実在。なんともスリリングな物語に手に汗握りながら一気に読ませる。法廷シーンは特に白眉で背筋にゾクゾクする興奮が走る。
 クライマックスの舞台は、筒井得意のマスコミなのだけれど、いまひとつ趣向が炸裂しなかったように思えるのは僕だけか。世界が見つめるその瞬間がどう世界に波及しているのか、そうした部分も描きだしていたら、壮大な物語になったのに、と少し残念な気持ちに。
 とはいえ、それをやらずに、一点集中して描かれる古今東西の神論とメタフィクションのカタルシスは素晴らしい。

 とにかくそこに実在するGODが語る様を描き出す筒井康隆の奇想は、ファンならずともSFの神テーマを好きな読者には必読でしょう。

 この作品、とりたてて特撮や大きな舞台装置を用いずに壮大でスリリングなSF世界を描くのに適した原作なので、映画化や舞台化されてもすごい作品ができるかも。そんな期待にもワクワクします。
 最後に表紙絵は、筒井氏の御子息の画家 筒井伸輔氏によるもの。偏在するGODを表現した絵として、とても似合う表紙です。

◆関連リンク
巨匠・筒井康隆が最後の長編小説『モナドの領域』を語る 「究極のテーマ『神』について書いたので、これ以上書くことはない」  | 日本一の書評 | 現代ビジネス [講談社].

"―それにしても、帯に「おそらくは最後の長篇」とあるのが気になります。

僕にとって最終的なテーマであり、おそらく文芸にとっても最終的なテーマである神について書いたので、もうこれ以上書くことはないんです。

まあ、ここからは冗談ですが、たとえばこれで文芸賞をとったら、主催社の雑誌に何か書かなくちゃいけない。しょうがないから「カーテンコール」というタイトルで、私の小説の主人公が次々と出てくる話を書きます。

それでもまだ注文をよこすようだったら「プレイバック」というタイトルで私の小説のあちこちの文章をぐちゃぐちゃに繋げたものを書きます。そうしたらさすがに編集者も呆れて、注文がこなくなるでしょう(笑)。"

 この小説の成り立ちの偶然性について、作者ご本人が語られています。大変に興味深いです。
 もちろん僕は「最後の長篇」にならないことを願っております。
筒井康隆最後の長篇か? 噂の「モナドの領域」最速レビュー

"〈このふらふらしておる眼だがね、これはわしの遍在に驚いてこの結野君のからだが反応しておるだけだ〉。

〈神というのはお前さんたちが勝手に作って勝手に想像しているだけだからね。実際にはお前さんたちの想像している神とはだいぶ違うよ〉"

モナド - Wikipedia

  • モナド (哲学) - ライプニッツが著書『モナドロジー』(『単子論』とも)において提唱した哲学上の概念。
  • モナド (超準解析) - 数学の超準解析において、ある与えられた超実数に対して無限に近い全ての超実数の集合。
  • モナド (プログラミング) - プログラミング言語の意味付けにおける完備な意味領域をモジュール性を持たせた形で分割するための枠組み。

ライプニッツ『モナドロジー・形而上学叙説』 (中公クラシックス)
 電子書籍もありますね。

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2016.02.24

■情報 ティプトリー『あまたの星、宝冠のごとく』、コーニイ『ブロントメク!』、コードウェイナー・スミス『スキャナーに生きがいはない』、スラデック『ロデリック:(または若き機械の教育)』、「SFマガジン16.4月号」

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア, 影山 徹, 伊藤 典夫, 小野田 和子訳『あまたの星、宝冠のごとく』 ハヤカワ・オンライン

"地球からの異星調査隊が不思議な共生生物と出会い深い関係を結ぶ「いっしょに生きよう」、神の死の報を受け弔問に来た悪魔の考えた天国再活性化計画が意外な 展開を見せる「悪魔、天国へ行く」、55年後の自分と2週間だけ入れ替わった男女が、驚愕の未来に当惑する「もどれ、過去へもどれ」など、その生涯にわ たってSF界を驚かせ強い影響を与え続けて来た著者による、中期から晩年にかけて執筆された円熟の10篇を収録。"

 ハヤカワ文庫版の表紙に英語タイトルが書かれていることから、1987年に亡くなったティプトリーの、死後 88年に出版された"Crown of Stars" Wiki の訳出ということでしょうか。リンク先のwikiによると、10篇の収録。85年から88年に発表された作品のようです(1作は70年の発表作)。ひさびさの新刊で楽しみです。

マイクル・コーニイ, 大森 望訳『ブロントメク!』 河出書房新社

"河出文庫 文庫 ● 432ページ
発売日:2016.03.08(予定)

宇宙を股にかける営利団体ヘザリントン機構に実権を握られた惑星アルカディア。地球で挫折した男はその惑星で機構の美女と出会い、運命が変わり始める……英国SF協会賞受賞の名作が大森望新訳で甦る。"

 『ブロントメク!』は大森 望の新訳で再刊。サンリオ版は1980年なので、何と35年ぶり。SF映像ファンも必読の傑作"恋愛"SFですので、お楽しみに(^^)!

コードウェイナー・スミス, 伊藤典夫, 浅倉久志訳『スキャナーに生きがいはない (人類補完機構全短篇1) 』
スキャナーに生きがいはない──人類補完機構全短篇1 | 種類,ハヤカワ文庫SF | ハヤカワ・オンライン.

"刊行日: 2016/03/09
コードウェイナー・スミス 訳 伊藤 典夫 訳 浅倉 久志
 SF史上最も有名な未来史の全ての短篇を集成 伝説の作家の未来史作品を年代順に収録する短篇全集第1巻。
本邦初訳2篇を含む全15篇を収録。
〈続巻〉2. アルファ・ラルファ大通り/3/ 三惑星の探求"

 コードウェイナー・スミスもひさびさの新刊。初訳は2篇ということで、他は読んだことのあるものかもしれないが、またあの世界に触れられると思うと嬉しい。

ジョン・スラデック, 柳下 毅一郎訳『ロデリック:(または若き機械の教育)』

"捨てられてしまった幼いロボット「ロデリック」の冒険を描く、スラップスティックなコミック・ノベル! 20世紀最後の天才作家スラデックが遺した、究極のロボットSFがついに邦訳。"

 2/26にはスラディックも新刊! この時ならぬ、SFラッシュは何なのでしょう(^^)。

『SFマガジン 2016年 04 月号』
S-Fマガジン2016年4月号 | 種類,雑誌,SFマガジン | ハヤカワ・オンライン.

"デヴィッド・ボウイ追悼特集 変わり続けた男の物語
2016年1月10日に69歳で亡くなった、デヴィッド・ボウイ。 音楽とSFを融合させたロックスターの追悼企画として、ニール・ゲイマンによる トリビュート短篇の本邦初訳のほか、評論・エッセイ・ガイドを掲載。 その生涯を通じて自らのスタイルを変え続けた男の軌跡に迫る。

【トリビュート短篇】
「やせっぽちの真白き公爵(シン・ホワイト・デユーク)の帰還」ニール・ゲイマン/小川 隆訳

【エッセイ・評論】
「屈折する星屑の上昇と下降、そして宇宙に帰るまで」丸屋九兵衛
「仄暗い宇宙のロックスター」難波弘之 
「永劫の旅人ジギー」巽 孝之
「新たなる音楽遺伝子の誕生――『★』解題」吉田隆一

デヴィッド・ボウイSF作品ガイド
デヴィッド・ボウイ オリジナル・アルバム・リスト
―――――
〈新連載〉
「幻視百景」酉島伝法"

 SFとの親和性は、確かに強いですが、それにしても追悼特集には吃驚しました。
 トリビュート短篇としてニール・ゲイマンの「シン・ホワイト・デュークの帰還」が掲載されているのですね。ボウイのSFといえば、『地球に落ちてきた男』も傑作でしたね。
 またこの号から、酉島伝法氏「幻視百景」の連載も始まるのですね。これは読みたい!

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2016.02.15

■感想 筒井康隆『聖痕』

筒井 康隆『聖痕』(新潮文庫)

"五歳の葉月貴夫はその美貌ゆえ暴漢に襲われ、性器を切断された。性欲に支配される芸術に興味を持てなくなった彼は、若いころから美食を追い求めることになる。やがて自分が理想とするレストランを作るが、美女のスタッフが集まった店は「背徳の館」と化していく…。巨匠・筒井康隆が古今の日本語の贅を尽くして現代を描き未来を予言する、文明批評小説にして数奇極まる「聖人伝」。"

 遅まきながら2013年に刊行された筒井康隆『聖痕』読了。
 衝撃的な冒頭から引き込まれ、主人公とその家族の三十数年に渡る年代記をいっきに読み終えた。素晴らしく魅力的な小説である。

 思えば筒井の小説は、人の愚行をこれでもかとデフォルメして描くものと、『美藝公』のように静謐な魂が宿っている人物を描くものが両極端で存在している。
 本作は、『美藝公』を思い出すような清廉な主人公と、それをとりまく愚行含めて極めて人間臭い登場人物たちの物語である。特に主人公に代表される知的で冷静な人間の静謐な描写は筒井康隆の独壇場で、このここちいい生活描写は『美藝公』に勝るとも劣らない素晴らしい小説となっている。

 ある家族とその周囲の人々を描いただけなのだけれど、これは全体が人類のカリカチュアになっている。そして本書の最後に語られる一つの終焉の言葉。

 フロイト的な人類解釈をベースにしたこの物語のラストで語られるこの部分が、魅力的な物語全体と共鳴して、大きなパースペクティブを提示して終わる。

 主人公一族 葉月家の年代記として描かれるとともに、日本語の歴史を俯瞰するような、古語の描写が人類のある意味歴史を回想しているような筆致になっていて、物語は普通小説なのだけれど、極めて高度に人類と文明を俯瞰したものになっている。様々に混合される人称も、ある意味、神がいろんな人物にアクセスしてその内面を描くとともに、三人称描写をしているような雰囲気が漂う。

 あまり世間ではSFとみなされないのだろうけれど、この人類の俯瞰と滅亡の予感を描く部分が、本書をSFたらしめているところではないだろうか。まさに今なお進化する巨匠の最新の成果のひとつである。


続きを読む "■感想 筒井康隆『聖痕』"

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2016.01.27

■情報 ピーター・ティエリャス『日本合衆国』 : Peter Tieryas "United States of Japan"

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【画像あり】『United States of Japan(日本合衆国)』という小説が発売予定 | World Action

"2016年3月1日に発売予定の『United States of Japan(日本合衆国)』。この本は著者いわく、フィリップ・K・ディックの『高い城の男』の「心の続編」であるそうだ。違いといえば、『高い城の男』が大日本帝国とナチス・ドイツによって分割占領されている旧アメリカ合衆国領を舞台にしているのに対し、本作品では日本が唯一の支配国であることだ。それともう一つ大きな違いがある。日本が巨大ロボの軍を用いてアメリカを支配しているのだ。

今回ここにあげるファインアートは、著者のPeter Tieryas氏がJohn Liberto(商業的なゲームアーティストの中でも最高の1人)に描いてもらったものだ。この中の一つは表紙にも使われる。"

 『高い城の男』の「心の続編」(^^)、ストーリーはキワモノ的に見えますが、ディックと巨大ロボットって実は結構親和性が高そうなので、面白そうな小説ですね。
 John Liberto公式HPでこのイラストレーター氏の作品はいくつか見られます。

United States of Japan : Peter Tieryas : 9780857665348
 こちらに少し詳しいあらすじが書いてあります。

" 10年前に日本が世界大戦を勝利した世界。
 反乱軍は、アメリカが勝った世界を描いた違法ビデオゲームを拡散している。ビデオゲームを取り締まる、キャプテン石村紅子は..."

 ビデオゲームで描かれる幻想のアメリカ合衆国。そして動き出す巨大ロボット、、、まずはワクワクする設定かと。

 ディックと日本アニメの親和性も実は高いと思うので、ハリウッドだけでなく、日本でのPKD映像化も期待したいものです。

◆関連リンク
Peter Tieryas: 洋書『United States of Japan』
 日本のAmazonでも予約できます。アメリカ本国のAmazonでは$9.6です。
 おもしろいようなら、是非翻訳版の日本での出版を望みます。

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2015.11.30

■情報 酉島伝法『隔世遺傳 『皆勤の徒』設定資料集』

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【緊急告知】――酉島伝法『皆勤の徒』設定資料集発売!|お知らせ|東京創元社

"内容は『皆勤の徒』に出てくる数々の造語を著者みずから徹底解説した〈用語集〉と、構想段階のスケッチを含む50点以上のイラストを収録した〈イラスト集〉の二本立て。巻頭には著者・酉島伝法による序文を、巻末には担当編集者・小浜徹也による解説を収録しました。用語集は、各用語の説明文から、別の語へリンクをたどることのできる仕組みになっています。"

隔世遺傳『皆勤の徒』設定資料集 - つながりで読むWebの本 YONDEMILL(ヨンデミル)

 電子書籍として発行された『皆勤の徒』の設定資料集。すぐ上のリンク先、「ヨンデミル」というところでごく一部が試し読みできます。

 この超絶労働者幻想小説は、本当に圧巻の傑作でしたが、僕はまだ感想をこのブログで書けていないので、本書を前にすると何だか宿題を積み残している気分になるのです。とにかく日本語による奇想小説としては、おそらく最高峰であることは間違いのない作品ですので、もしも未読の方がいらっしゃったら是非にお薦めします。この設定資料集の用語辞典を使用して、さらにイメージを膨らませながら読んでみて下さい。

◆関連リンク
皆勤の徒 - 酉島伝法|東京創元社.

"円城塔氏推薦――「地球ではあまり見かけない、人類にはまだ早い系作家」"

 最高の推薦文ですね。
酉島伝法 - Wikipedia
棺詰工場のシーラカンス 
 「注釈の注釈による超現実詩小説」と銘打たれた、酉島氏のブログ。
酉島伝法『皆勤の徒』 - Togetterまとめ
Making of アルバム『N/Y』新垣隆/吉田隆一 Part 4 - YouTube 

 "4.皆勤の徒~酉島伝法に~( 作曲:吉田隆一)"

 『皆勤の徒』、何と音楽化されています。以下のAmazonでこの曲のみの購入もできますね。
酉島 伝法『皆勤の徒 (創元日本SF叢書)』
新垣隆 吉田隆一『N/Y』

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2015.09.23

■感想 神林長平『だれの息子でもない』

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『だれの息子でもない』神林長平|講談社ノベルス|講談社BOOK倶楽部

"本人(オリジナル)の死後も、ネット内を徘徊する人工人格(アバター)。 彼らを消去することが、市役所に勤めるぼくの仕事だ。 撃ち抜けるのか。記録と、記憶を、跡形もなく。

「当たり前の現在(いま)から始まる、隣り合わせの未来(あす)の怪談」

日本には、各家庭に一台、携帯型対空ミサイル、略称:オーデン改(カイ)が配備されている。
安曇平市役所の電算課電子文書係で働くぼくの仕事は、故人となった市民の、ネット内の人工人格=アバターを消去することだ。しかしある日、ぼくの目の前に、死んだはずの親父の人工人格が現れた 。

編集担当者コメント

<敵は海賊>、<戦闘妖精・雪風>シリーズなど数多くの著作を発表し、SFファンの圧倒的な支持を受ける作家、神林長平さんの最新作が登場です! 舞台は、インターネット上に集積された個人情報が、本人(オリジナル)の死後、もう一つの人格としてネット上を徘徊してしまう近未来の日本。そんな故人の人工人格(アバター)を消す仕事を生業としている「ぼく」と、死んだはずの父親の人工人格の冒険譚です。私自身、普段の生活で片時もスマートホンを手放せないことにふと怖さを感じるのですが、この物語はとても鮮烈に、ウェブに依存する私たちの「あり得る未来」を描いてくれています。さらに、父と息子、そして母親の家族小説としても、素晴らしく面白い傑作です。ぜひお読みください。"

 講談社の「小説現代」に連作として掲載された中編を3本集めた作品集。といっても3本でひとつの物語を構成していて、これは長編と呼んだ方が良いかもしれないひとつの物語である。
 すでに昨年出版された本だが、遅まきながら読んだので簡単に感想。

 神林長平の住む新潟の隣県 長野県が舞台。これだけ現実の地名が出てくる神林の小説はすごく珍しい。現実に根付いた設定は、中間小説誌掲載というところが影響しているのだろうか。

 本作は、『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』『いま集合的無意識を、』『ぼくらは都市を愛していた』といった近作に連なる「意識」をテーマにした作品の最新作。

 どちらかというとこの作品は、神林の『敵は海賊』シリーズのような、ユーモラスなシリーズに近く、軽妙な語り口で綴られている。

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 まず設定が面白い。各戸に対空ミサイルが配備され、ネットワーク内のインターフェースに、自己の記憶を複写して擬似的な意識を持たせた個人個人のアバターが存在する2029年頃の世界(あと14年!)。

 ネットとのブレインマシンインターフェースを介して、ネットの中のアバターが主人公の脳にアクセスし、ゴーストのように彼の意識に介入。あたかも幽霊が過去から蘇って、そばに寄り添い主人公に語りかけ続ける。ホラーストーリーの背後霊との会話が、現代的なITインフラを通して、テクノロジーの問題として浮上する。
 ここはまるで磯光雄監督『電脳コイル』のSF小説版。
 そして神林の筆は、近作のテーマとして書き続けている「意識」の存在について、アバターを通して思索を深めていく。

 今回は、神林のデビュー以来のテーマである、「言葉」「言語」のキーワードは出てこない。わざと封印している気配もあるが、今回はそれらと「意識」を絡めず、ネット上に生まれた「意識」の意味について、探索が進む。

 ファンとしては、それらのキーワードと「意識」をつなぐ、神林長平のミッシングリンク(^^;)にあたる、人類の「意識」と「言語」に切り込む大作が、今後書かれることを想像せずにはいられない。

 伊藤計劃が、その残された作品群でアプローチし、盟友・円城塔が『屍者の帝国』でその探求を進めた「意識」と「言語」の問題。
 これに決着を付けられるのは、神林長平だけではないかと、デビュー当時から「言語」の問題に注目して読み続けてきた僕は思うのだ。

 そのテーマにふさわしいのは、『戦闘妖精 雪風』シリーズではないかと考えるのだけれど、神林ファンの皆さんは、どう思いますか。
 本作で肩慣らしをしたテーマを、昇華される神林の入魂の一作が書かれるのを、こころして待ちたいと思う。楽しみにしています(^^)。

◆関連リンク
神林長平『だれの息子でもない』(Amazon)

当Blog関連記事
■解読 神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』
■ネタバレ感想 伊藤計劃×円城塔『屍者の帝国』: The Empire of Corpses
■感想 円城塔『道化師の蝶』そして「松ノ枝の記」

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2015.06.24

■情報 オーディオブック スタニスワフ・レム『ソラリス』Stanislaw Lem - Solaris [Audiobook]


▶ Stanislaw Lem - Solaris [Audiobook] - YouTube
 7時間45分におよぶ英語版でのオーディオブック大作の全篇がYoutubeで公開されていたので、ご紹介。

[AUDIOBOOK] Stanisław Lem - Solaris - YouTube
 こちらはポーランド語(?)のオーディオブック。(正確には(^^;)ポーランド語かどうか、よくわからないが、少なくとも語感は東欧のようであるw。)


Solaris (1972) trailer - YouTube
 アンドレ・タルコフスキー監督の映画『ソラリス』の予告篇。
 音楽が本編と異なるようで、イメージが全然違う。もう観たのは20年以上前で記憶は薄れているが、タルコフスキーはこんな映画を撮るはずはないでしょう、、てな予告。
 ひさびさにタルコフスキー版も見返したくなりました。

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2015.06.22

■感想 スタニスワフ・レム著、沼野 充義訳『ソラリス』: Stanislaw Lem "Solaris"

Solaris

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ソラリス | ハヤカワ・オンライン

"惑星ソラリス――この静謐なる星は意思を持った海に表面を覆われていた。惑星の謎の解明のため、ステーションに派遣された心理学者ケルヴィンは変わり果てた 研究員たちを目にする。彼らにいったい何が?ケルヴィンもまたソラリスの海がもたらす現象に囚われていく……。人間以外の理性との接触は可能か?――知の巨人が世界に問いかけたSF史上に残る名作。レム研究の第一人者によるポーランド語原典からの完全翻訳版"

 冒頭の画像は、Stanislaw Lem "Solaris" - Google 画像検索によるもの。いずれも書影のようで、世界各国でこの名作が読まれていることがここからもわかる。

 今回、僕は本書3度目の読書。
 以前は、飯田 規和訳『ソラリスの陽のもとに』を二度。今回、はじめて沼野充義訳を読みました。
 もちろん、今回も異星の存在の不可知性とソラリス学という架空の学問体系のディテイルは圧倒的で、傑作の感を再度体感したのだけれど、今回、僕が違和感を持ったのが、世にラブ・ストーリーと称される、ケルヴィンと幽体Fのハリーとのシークェンス。

 これは本当にラブ・ストーリーなのだろうか、という疑問。ここで登場するハリーは、あくまでもケルヴィンの記憶から抽出し「ソラリス」によって再構成された物体でしかない。ハリーというケルヴィンにとっての他者ではなく、あくまでも彼の記憶に刻まれた、情報としてのハリーに過ぎない。

 多くの男性作家によって書かれたラブ・ストーリーが、男のイメージで描かれた女性像でしかない、と言って仕舞えば、まさに本書はラブ・ストーリーそのものかもしれないw。ケルヴィンの内部的な存在が実体化した幽体F ハリーが、自身の有り様に気づき悩むところ、ここも男の夢想としての恋人の悩みを描いているとみれば、なかなか味わい深いストーリーであるが、今回僕がモヤモヤと感じたのは、以下のような別の夢想である。

 本来、男と女(もしくはひとりの人類と別の他者でも良いけれど、、、)という、ある種異質な存在同士の交接を描く物語がラブ・ストーリーの本来の語義であるわけで、そうしたものと正に異なるのが、「ソラリス」上空でのケルヴィンとハリーのシークェンスなのである。

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 異星生命体の徹底した異質さを描いたレムが、もし人類のペアの異質な存在性をも深相まで沈んで書き上げていたら、、、というようなことを夢想しながら今回は読み進めた。

 例えばハリーの情報は、ケルヴィンの記憶からだけでなく、地球との通信ネットワークを用いて、別の情報もソラリスが捉えていたとする。その情報によりケルヴィンが体感する、自身の記憶の存在と、他者ハリーの異質性。
 あくまで言語的な記憶(意識かな)により構成された幽体F ハリーが当初ケルヴィンの前に現れる。そしてその後、更新され、言語的情報以外(例えば映像による身体的情報かも)も含めて、新たに表現された幽体F' ハリー。

 異質な知性である海と対比して、ステーション内でもそうしたものに徹底的な異質をケルヴィンが感じ、そして人類の認識の限界を両面で体感する。
 フラクタル的に描写されて、異質な知性への幻惑が、ミクロな2人の関係とマクロな惑星レベルの両面で、圧倒的なパワーで読者の脳内に解凍されるそんなSF。レムが現代の作家であったなら、もしかしてそうした意識と意識以外の知覚の両面の描写で描いたかもしれないなぁ〜と、そんな夢想をしながら読んだのでした。

 ラブストーリーを中心に描いたソーダバーグでは期待しようもない、そんな解釈の3度目の映画化、というのもあっていいかもしれないですね(^^;)。

◆関連リンク
ワルシャワのバラエティ劇場で開催された『ソラリス』の舞台(Google 翻訳)
 すぐ上の写真はここから引用しました。
【受付終了】『ソラリス』解説文アンケートのお知らせ|SF MAGAZINE RADAR|SFマガジン|cakes(ケイクス)
 牧眞司、菊池誠、中野善夫、島村山寝、岡本俊弥、大森望各氏による『ソラリス』解説文。

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2015.06.03

■情報 大伴昌司の生涯を描いた 幻の映画シナリオ 池田晴海『OH 星に還った男』 電子書籍(Kindle)無料配信

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幻の映画シナリオ『OH 星に還った男』 電子書籍としてKindle無料配信!

" 『OH 星に還った男』は、あまりにも熱く激しく生きた、不世出の天才クリエイター大伴昌司の生涯を描いた映画用シナリオである。

 本作は2005年に立ち上げられ、生前の内田勝が切望しながら完成しなかった幻の映画企画だ。

 内田勝が著した本シナリオの案内書『OH あの日、あの時』を併録。
 永遠の少年・大伴昌司と、盟友・内田勝の大宇宙をお楽しみください。

 シナリオ:池田晴海 表紙イラスト:加藤礼次朗
【配信について】
 池田晴海, 内田勝『OH 星に還った男』 (kindle)
・配信開始:2015年5月30日(土)~ ・価格:¥0"

 映像研究の偉大なる先達、大伴昌司氏の生涯を描いた映画シナリオの刊行!!
 シナリオを書かれた池田晴海さんという方は、シナリオライターとして2本ほどの映像作品があるようです。

 寡聞にして、このような素晴らしい映画企画があることも、このニュースを見て、初めて知ったのだけれど、2005年に企画され映画化は未だ実現していないということだが、この電子書籍の無料配信を機に、ぜひとも映像化が実現してほしいものである。

 映画が望ましいけれど、場合によったらNHK等でのドラマ化も期待できないだろうか。今までも円谷プロ等、いろいろと怪獣関係の実録物がテレビ化されたことがあるので、ここは切に期待したいものである。
 もし映画化のために、クラウドファンディング等が動き出すようであれば、僕も微力ですが、是非協力したいと思います。

 それにしてもこの本で使われている大伴氏と内田氏の内部図解のイラストが素晴らしい。シナリオの映像化の折には、是非ともこの内部図解の映像化も実現して頂きたいものである。
 立体映像研究でも当時最先端を探索されていた大伴氏の図解映像化は、3D-CGで立体視できるトータルスコープ(完全なる映像)で観せてほしい(^^)。

◆関連リンク
大伴昌司 当Blog関連記事 検索
 

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2015.06.02

■感想 フィリップ・K・ディック、佐藤龍雄訳『ヴァルカンの鉄鎚 : Vulcan's Hammer』

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ヴァルカンの鉄鎚 - フィリップ・K・ディック/佐藤龍雄 訳|東京創元社

"20年以上続いた第1次核戦争が終結したのち、人類は世界連邦政府を樹立し、重要事項の決定を巨大コンピュータ〈ヴァルカン3号〉に委ねた。極秘とされるその設置 場所を知るのは統轄弁務官ディルただ一人。だが、こうした体制に反対するフィールズ大師は〈癒しの道〉教団を率いて政府組織に叛旗を翻した。ディルは早々 に大師の一人娘を管理下に置くが……。ディック最後の本邦初訳長編SF!"

 フィリップ・K・ディック『ヴァルカンの鉄鎚』読了。
 ディック最後の邦訳長篇ということなのだけれど、充分に面白いですw。
 滝本誠師が訳出を試みられたとのことで、ノアール風味を期待したのだけれど、そういう小説ではなく、まさにハリウッドアクションSFになりそうな、エンターテインメント。
 師がSF翻訳されるということは他では聞いたことがなく、よほど気に入られたのでしょう。師の好みのシーンは、マリオン・フィールズという名のロリータ登場シーンかなw...と邪推。

 引用した画像は各国出版の『ヴァルカンの鉄鎚』表紙。
 それにしてもあまりに直接的過ぎませんか。空を飛ぶハンマーには笑うしかありません(^^)。小説でも確かに鉄鎚の表現はあるけれど、これはあくまでも人々にある種の神が鉄鎚を食らわせる比喩のはずなので、もう少しいい感じのイラストをお願いしたいです。

 僕的には読んでいる間、ハンマーのイメージは、『電脳コイル』の「2.0」でした。こんなやつ→ http://dic.pixiv.net/a/2.0

 それにしても最後の邦訳長篇とは寂しい。
 僕はディック長篇はほぼ読んできているので、あとは何故か読みそびれていた『宇宙の眼』を残すのみ。大事なディック最終長篇としてこれをいつ読むか、まずは老後の楽しみかと思いますが、すぐ来月にも手を出してしまいそうで、、、(^^)。

 主人公バリスの綴りは"Barris"、"VALIS"とはなんら関係はないですw。

◆関連リンク
牧眞司/フィリップ・K・ディック『ヴァルカンの鉄鎚』(佐藤龍雄訳)解説全文
フィリップ・K・ディック、佐藤龍雄訳『ヴァルカンの鉄鎚』
荒川水路訳『ヴァルカンズハマー』別翻訳 電子書籍
フィリップKディック/ 三分小説 備忘録-SF短編小説のあらすじ

Vulcan’s Hammer | Philip K. Dick Reading Club
 こちらに各国で出版された『Vulcan’s Hammer』の表紙画が掲載されています。
ディック 当Blog関連記事  Google 検索

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