SF

2009.11.05

■感想 山田正紀の超冒険小説 『白の協奏曲』

山田 正紀『白の協奏曲』(amazon) (公式HP)

1978年に「小説推理」誌に発表されていながら、今まで単行本化されることのなかった“ファン垂涎幻の作品”。オーケストラ団員が、東京をまるごとジャックするという奇想天外かつ大胆なストーリー。頭脳プレイ重視、ゲーム性抜の冒険小説。

 『謀殺のチェス・ゲーム』、『火神(アグニ)を盗め』で日本の冒険小説を切り開いていた頃の山田正紀作品。当時の僕がこんな小説を知っていたら一にも二にもなく読みたかったはずで、出版から一年ほどたってますが、やはり読みたくなって図書館で借りてきました。

 ずっとお蔵入りになっていたのは山田自身が気に入っていなかったものと考えられますが、この本も十分に楽しめます。ひさびさに山田正紀の冒険小説を読んだので、あの頃のワクワク感を思い出した。

 いやー、でも大好きだった山田正紀の70年代超冒険小説を新作で読めるとは幸せ。『白の協奏曲』は若書きの良さもあってお薦め。

Submarine_biber  これ、読後に、もしかして押井守『パトレイバー2』の元ネタ?と思ってしまった。
 東京に情況を作る雰囲気と、
情況を起こす目的の虚構性が似てる。

 そして存在しない架空の人物を描くところの雰囲気は『パト1』だったり。

 長いこと未刊だった作品なので、雑誌掲載で読んだ押井がごく一部のネタを使ったのかも。無意識的に??
押井守は山田正紀との対談で『神狩り』からのファンだと言ってるので、あり得ないことはない、と邪推。

◆関連リンク
submarine Biber – Wikipedia
 右上の写真は、本書で活躍するドイツの一人乗り特殊潜航艇『海狸』。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2009.11.04

■感想 ジョージ・R・R・マーティン, 中村 融訳『洋梨形の男』

ジョージ・R・R・マーティン, 中村 融訳
 『洋梨形の男 (奇想コレクション)』
(河出書房新社)

身勝手な男が痩身願望の果てに“猿”に取り憑かれる「モンキー療法」、変わり果てた昔の友とのおぞましい再会譚「思い出のメロディー」、ひとりの作家の内面に巣くう暗黒をあぶり出す「子供たちの肖像」、酒場のホラ話ファンタジー「終業時間」、チェスの遺恨を晴らそうと企む男のSF復讐劇「成立しないヴァリエーション」の全6篇を収録。ネビュラ賞・ローカス賞・ブラム・ストーカー賞受賞。

 実は『サンドキングス』も未読のマーティン初心者(何故かいままで読む機会を逸していた)ですが、このアンソロジー、しっかり楽しめました。
 
 今回も名アンソロジスト中村融氏の目利きが素晴らしい一冊。奇想コレクションにしてはいずれの作品も読みやすいストレートな作品。(ただイメージは鮮烈で「奇想」を外している訳ではないので御安心を。)

 例によって(久々だけれど)、僕の好みの作品から短評です。

■成立しないヴァリエーション(1982)

 過去のチェスの大会を起点にした同窓生たちの物語。
 SFネタが何かはここで書かない方がいいと思うのだけれど、そのSFテーマとがっぷり四つに組んだ主人公達の姿勢の物語がここち良い。そして夫婦の回復の物語も。(チェスを知らなくてもこんなに楽しめたんだから、チェス好きにはさらに堪らないでしょうね)

■子供たちの肖像 (1985) ネヴュラ賞ノヴェレット部門受賞

 これが一番余韻をひいた。ある作家とその娘(画家)の物語。ふたりの人間関係が、実体化する登場人物達とともに描かれ、後味のわるーい読後感を残す。
 本当は父親を理解していて、物語の本質を読み取って絵画化していく娘と父親のアンヴィバレントな関係。他の超現実的な恐怖に対して、この作品は人間関係の闇が前面に出ていて鬼気迫るものがある。

■終業時間(1982)

 掌編だけれど、鮮烈なラストがとてもいい。
 いきなり加速度的に展開するところがまさにSF空間を構築している。

■思い出のメロディー(1981)

 これも「成立しないヴァリエーション」と同じく、アメリカ映画/文学で定番の同窓生もの。
 この悪夢はリアリティがある。現実にこれに近い形で友人に悩まされるアメリカ人って多数いるんだろう。そこの恐怖を超自然的にうまく描いている。

■洋梨形の男(1987) ブラム・ストーカー賞ノヴェレット部門受賞

 イラストレータの主人公にじわじわと染み込んでくる隣人の恐怖。
 絵に影響が出たり、嫌悪しつつひきづられていく感覚が怖い。平山夢明作品をなんだか想起した。これを読んだ後、カールおじさんの顔を思い出した。カール(スナック菓子)が食べられなくなります。

■モンキー療法(1983) ローカス賞ノヴェレット部門受賞

 最後のビジュアルはなかなかおぞましい。まさに悪夢。
 この手法、なんでもありダイエット健康雑誌に来月載ったりして(^^)。

◆関連リンク
ジョージ・R・R・マーティン - Wikipedia

当Blog記事
『願い星、叶い星』アルフレッド・ベスター/中村 融訳
『輝く断片』シオドア・スタージョン/大森望編
E・ハミルトン『フェッセンデンの宇宙』中村融編訳
エドモンド・ハミルトン『反対進化』中村融編
テリー・ビッスン『ふたりジャネット』中村融編訳

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.11.02

■フィリップ・K・ディック  ドキュメンタリー
  "The Penultimate Truth about Philip K. Dick"
 『P.K.ディックに関する最後から二番目の真実』

The_penultimate_truth_about_philip_
YouTube - PHILIP K. DICK DOCUMENTARY PART 1 OF 9

"The Penultimate Truth about Philip K. Dick"
「フィリップ・K.ディックに関する最後から二番目の真実」

In 2007 I produced this documentary about the mystical experiences of sci-fi writer Philip K. Dick.
2007年に、私はSF作家のフィリップ・K.ディックの神秘的な体験に関するこのドキュメンタリーを製作しました。

 ディックに関するドキュメンタリーがYoutubeにあったので、御紹介。
 まず一本目は彼の神秘体験に関するドキュメント。例の『ヴァリス』のペースになった体験を扱っているのか?
 ディックの講演風景と、2番目,5番目の奥さん、高校の同窓生、セラピスト等へのインタビューで描かれていくディックの真実。
 まだ9本に別れたファイルの1本しか観てません。僕のヒアリングではしっかり紹介できないので、お好きな方、是非ご覧になって、コメント欄で解説いただければ幸い(他力本願(^^;))。

Philip_k_dick_a_day_in_the_afterlif YouTube - Philip.K. Dick - "Arena" 1/6

"Philip K. Dick A Day in the Afterlife"
Philip.K. Dick documentary on BBC's "Arena" originally broadcast on 9th April 1994. 

 こちらはBBCが1994年に制作したドキュメント。『フィリップ・K・ディックの来世の一日』?

 いきなりテリー・ギリアムがPKDスプレーを持って現れる。これ、「ユービック・スプレー」だよね(^^)。

 そしてトーマス・M・ディッシュが語る。動くディッシュ、初めて観ました。あとキム・スタンリー・ロビンスンとか。

 こちらも1/6しか僕は観てません。後日、じっくり観る予定。

 こうしたドキュメントが作られ放映されているのは、ディックって欧米では日本よりメジャーで、それなりの視聴率がとれるということなのかな。日本じゃBSでもこんな番組は成立しないよね。
 でも翻訳版、是非日本での放映を期待したい。

◆関連リンク
フィリップ・K. ディック, ロランス スーティン『フィリップ・K・ディック 我が生涯の弁明』

ディッ クは1974年2月から不思議な体験を重ね、これらを解釈しようとする企てに邁進し、日々展開する持論を日誌のように書きとめて、後にこの記録を釈義と呼 ぶにいたった。(中略)八年以上にわたって不断に継続された考察は、八千ページ、二百万語におよぶ。本書はこの膨大な釈義の枢要を示す初の精選集にあたる。

フィリップ・K・ディック - Wikipedia

当Blog記事
フィリップ・K・ディック アンドロイド・プロジェクト

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2009.10.23

■ヒガ・ブラザーズ『留之助商店開店3周年記念アニメ』

飛騨高山 留之助商店 店主のブログ
: 留之助商店開店3周年記念アニメ by 比嘉Bros.

 YouTubeに中子真治氏自らの手でアップされていたので、動画掲載。
 沖縄在住のSFXマン 比嘉一哲・比嘉之典両氏によるコマドリアニメ。オブジェモチャと飛騨が登場し、心温まる作品になっています。

higabros.com コマ撮り日記
ヒガ・ブラザーズ プロフィール

比嘉一哲・比嘉之典 Kazutetsu Higa & Yukinori Higa
 子供の頃より人形アニメや漫画が大好きで、ハリーハウゼンの『シンドバット』シリーズ、デビット・アレンの『おかしなおかしな石器人』等に多大な影響をうける。 80年代SFXブームの頃よりアメリカでSFXの仕事がしたいと思い始め、高校卒業後バイトをしアメリカ留学。 英語を勉強した後、本格的にSFXの仕事を探すため拠点をLAに移す。スタジオ面接をして回り、スクリーミング・マッド・ジョージ氏の元で働き始める。 その後色々なスタジオを渡り歩き、ついに念願のデビット・アレンの元で働く事が出来る。(略)

 留之助商店 店主のブログには、この記念アニメの返礼として、特別な作品が贈られる様子も書かれていて、SFXファン必見です。

◆関連リンク
留之助商店 店主のブログ : オンラインから生まれた最上級のアート・マガジン。
BLUECANVAS Art Gallery, Online Art Gallery
 ここで紹介されているアートマガジンがなかなか素晴らしいです。おまけ。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2009.10.01

■サム・スコギンズ監督 J・G・バラード原作『夢幻会社』
 Sam Scoggins: 'Unlimited Dream Company' Film

Ballardian » Sam Scoggins: 'Unlimited Dream Company' Film.

Cast:J.G. Ballard, Tom Pollock.
Camera, Ian Duncan; Assistant Camera, Bryan Morgan;
Art Director, Charlotte Humpston;
Sound, Tom Pollock..
16mm, 24 mins, color, 1983.

 SFマガジンのJ・G・バラード追悼特集で知って、『夢幻会社』の映画化作品があるということで、調べてみました。Balladianというバラードファンのマニアックなページにその短編映画がアップされていました。見つけたのは下記のサイト経由。

Jgballard_unlimited_dream_company 夢幻会社 - Flying to Wake Island
 (岡和田 晃氏のBlog)

 1983年、 Sam Scogginsによって撮られた"Unlimited Dream Company Film"では、バラード自身の語りと、最小限の技術補正によって表現されたイメージ画像によって、小説とはまた異なる観点から、『夢幻会社』の成立して いる物語論的な位相が、見るも鮮やかに浮かび上がってくる。もとは16mmで撮影したという映像そのものも、味があっていい。
 23分という時間が短いくらいだ。

 SFマガジンP269で掲載されているのは、この映画のバラードによる脚本の一部。

 イメージシーンは、右の引用のようななかなか鮮烈な画像で構成されている。

 僕はずっとバラードって理解できずにいたのだけれど(『結晶世界』も『クラッシュ』も、、、。さすがに『ヴァーミリオン・サンズ』の詩情はよかったけれど、、、)、でも4年ほど前に読んだ『夢幻会社』は最高に良かった。

 ので、この映画、楽しみに観てみた。
 小説とは違った形での表現だった。短編では惜しいなー。
 『夢幻会社』ってもっともっとイマジネーションに溢れた作品なので、いつか本格的なシュールレアリステックな映画として誰か長編映画化して欲しいものである。CGを駆使すれば、サイキックで凄い傑作ができると思うのだけれど、、、。『太陽の帝国』が傑作だったスピルバーグが、老齢になりエンターテインメントを離れてメチャクチャにイメージに走って作る、ってぇのはどうでしょうか(^^)。

◆関連リンク
YouTube - ballardiandotcom さんのチャンネル

BALLARDIAN: "(adj) 1. of James Graham Ballard (J.G. Ballard; born 1930), the British novelist, or his works (2) resembling or suggestive of the conditions described in Ballard's novels & stories, esp. dystopian modernity, bleak man-made landscapes & the psychological effects of technological, social or environmental developments". (Collins English Dictionary.) The Net's only dedicated Ballard TV channel, where 'history is just a first-draft screenplay' (JGB, The Greatest TV Show On Earth). Note that 'premium subscribers can experience transexualism, paedophilia, terminal syphilis, gang-rape, and bestiality (choice: German Shepherd or Golden Retriever)' as decreed by JGB in A Guide to Virtual Death.

S-Fマガジン 2009/11 (柳下氏の映画評論家緊張日記)

リストを見ていただくとわかりますが、ぼくもだいぶ宿題を抱えているので、できるだけ早くに返せるように頑張っていきたい。 

『S-Fマガジン 2009年11月号』

J・G・バラード追悼特集
[特集内容]
○「太陽からの知らせ」 J・G・バラード/柳下毅一郎訳
○「メイ・ウエストの乳房縮小手術」 J・G・バラード/増田まもる訳
○「コーラルDの雲の彫刻師」 J・G・バラード/浅倉久志訳
○「ZODIAC2000」 J・G・バラード/増田まもる訳
○追悼評論「真珠湾攻撃の内宇宙―バラードまたはSF史の変容―」 巽孝之
○読書ガイド「やさしいバラード」 牧眞司
○追悼エッセイ マイクル・ムアコック/荒巻義雄/伊藤典夫
○J・G・バラード著作リスト&自作コメント[改訂版] 柳下毅一郎=編訳

J・G・バラード『夢幻会社』

空を飛ぶ夢にとりつかれたおれは、ある日空港からセスナを盗んで飛びたった。だがセスナは郊外の閑静な町シェパトンに火だるまとなって墜落する。住民たち の救助で一命をとりとめるが、なぜかこの町から脱出できずに過ごすうち、身のまわりには奇妙な出来事が起こり始め…。やがて町は熱帯のジャングルと鳥たち の楽園へと変貌してゆくのだった。鬼才バラードの到達点を示す傑作。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.09.02

■昭和少年SF大図鑑展― S20~40'ぼくたちの未来予想図 ―

堀江 あき子『昭和少年SF大図鑑』 (河出書房新社)

宇宙旅行、空を飛ぶ高速車、超高層ビル群。雑誌に描かれた未来予想図、空想科学特集を中心にSFマンガ、少年少女SF全集等、昭和の少年少女たちが胸躍らせた世界を再現!!

Sf_daizukann この本は僕たち昭和生まれのSF少年の魂の故郷である、なんちゃって。
 でも本書を手にとって、まず感動したのは、子供時代に何度も飽きずに眺め憧れていたSFイメージの世界(漫画雑誌の広告とかプラモの箱とか(^^;))がここに存在したこと。

 そして本書によれば、下記のような展示会が開催されているという。(というか順番が逆で、展示会の図録として本書が発刊された。著者の堀江あき子氏は弥生美術館学芸員)

昭和少年SF大図鑑 展
― S20~40'ぼくたちの未来予想図 ― (弥生美術館)

2009年7/3~9/27
午前10時~午後5時
休館日: 月曜日
9/15~9/27まで無休
料金: 一般900円/大・高生800円/中・小生400円

 本展覧会では、小松崎茂伊藤展安梶田達二高荷義之中島章作中西立太南村喬志等が描いた雑誌表紙・口絵を中心に、冒険科学絵物語、SF漫画、少年少女SF全集、宇宙・SFブームから生まれたプラモデルなどの玩具・文具等の展示から、昭和20~40年代の空想科学世界へとご案内いたします。日本がまだ夢見る力に溢れていた時代、子ども達が憧れ、胸躍らせた未来の姿をお楽しみ下さい。

 近くなら是非行ってみたい素晴らしい企画の展示会。
 上記に名前の挙がった昭和のSF絵師たちの作品が観たい方は、名前にGoogle画像検索のリンクをはったので、クリック!

◆関連リンク この展示会の感想リンクです。
昭和少年SF大図鑑展|アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

何なのでしょう?この圧倒的な世界観は?! まぁ、おそらくこんな未来は来ないでしょうが (←夢がない…) 、 それでも、 “もしかしたらあり得るかも♪” と思わせてくれる説得力があります。

弥生美術館『昭和少年SF大図鑑 展』: まったり・気まぐれ日常記.

緻密なタッチの原画を目の前にすると、たちまち幼少期の記憶が鮮明に甦る。お兄さんお姉さんの読んでいた本に描かれていた絵だ!と感激である。

昭和少年SF 大図鑑展・弥生美術館 - 本間正幸の少年画報大全新.

8月9日(日)午後2時より、関係者を交えたギャラリー・トークを行います。 (昨日FAXで届いた、日本出版美術研究会の案内によれば、ギャラリートークのゲストは、根本圭助氏、梶田達二先生、伊藤展安先生、伊藤秀明氏がご出席の予定。もしかしたら、高荷義之先生も・・・とのこと。)

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2009.09.01

■「SFマガジン神林長平特集」 「神林長平+新世代作家トークショー」

『S-Fマガジン 2009年 10月号』

神林長平・谷甲州・野阿梓特集
1979年にデビューし、日本SF界に確固たる独自の地位を築く3人の作家――神林長平・谷甲州・野阿梓。彼らのデビュー30周年を記念して、それぞれの作家特集を送る。

 先日『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』のレビュウを書いたところだったので、この特集を興味深く読んだ。特に神林長平へのメールインタビュウ「破魔の矢はいかにして放たれたか?―神林長平の30年」(インタビュアー&構成 前島賢氏)。

「機械の意識」をダイレクトに言葉でもって描写するというのは今の自分の力では無理だ、ということですね。人間の意識の流れを言語表現する、できる、というのは近代小説における発明でしょうが、意識があるかどうかもわからない対象が「考えていること」なんぞ、どう表現すればいいのだと、連載時、(略)悩みました。(略)雪風の意識にいちばん身近な深井零の視点での三人称形式によって、「雪風の意識」の代弁をさせようということで雑誌連載時の「アンブロークン アロー」を書きはじめた。(略)
出来あがった小説空間は、雪風という「機械知性」が捉えている世界像を、零という人間の意識によって翻訳しながら、それを日本語という言語によって描写する、という非常に複雑なものになった。(P12-13)

 神林の当初の構想(「人間篇」と「機械篇」の二部構成)と、書いていくうちに「奇跡的」に「発見」された新しい構造について語られている。

 「機械の意識」を描いた画期的小説として記録に残されるべきものだと、思う。ロボット研究者、必見(^^;)。

神林長平氏デビュー30周年記念イベント第二弾
 「神林長平+新世代作家トークショー」
(青山ブックセンター)

■2009年9月6日(日) (開場12:30~)
 一部 13:00~14:00  二部 14:15~15:15
■会場:青山ブックセンター本店内 カルチャーサロン青山
■定員:140名様 ■参加費:1,000円(税込)
■参加方法:2009年8月20日(木)10:00より
  [1] ABCオンラインストアにてWEBチケット販売
  [2] 本店店頭にてチケット引換券を販売

 神林長平氏デビュー30周年を記念したトークショー。
 イベントは二部構成で、一部は神林長平氏の作品を愛する作家にお集りいただき、神林作品との出会い、作家として受けた影響などについて語っていただきます。(出演: 円城塔 桜坂洋 辻村深月)
 第二部では神林長平氏ご本人にも加わっていただき、第一部で出た質問への回答を含む、ご本人の語りを中心としたフリートークを予定しています。 トーク終了後に神林長平さんのサイン会を予定しております。
 <出演者>  神林長平  円城塔  桜坂洋  辻村深月

 円城塔と神林の取り合わせが凄い。聞きたい。是非、早川書房と青山ブックセンターには、こうした貴重なイベントを東京地区のローカルなイベントにしないため、ポッドキャストでの公開を望みたい。iTune Storeで1000円で販売でも買います(^^;)。

◆関連リンク
『敵は海賊・短篇版』
『アンブロークンアロー―戦闘妖精・雪風』
アンブロークンアロー - 読書メーター

07/23:EnJoeToh "だが恐れるな、友よ/何も失われていない"

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2009.08.18

■解読 神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』

Photo

『アンブロークンアロー―戦闘妖精・雪風』(ハヤカワ・オンライン)

(昨日の感想から、以下続く)

★★★ネタばれ注意★★★
(内容が思弁的なだけにこの程度の記述じゃ、本当のネタばれにはならないけれど為念)

◆エビグラフ と 人称

 すべては変わりゆく
 だが恐れるな、友よ
 何も失われていない

 このエビグラフは、まさに本書を体現している言葉である。
 つまり小説の人称を自在に混在させ、一人称の部分が全体のほとんどを占めるのに、その一人称自体がいろいろな登場人物視点にスライドしていく。読者はこれにより結構な眩暈を覚えることになる。
 本書のテーマの一つである人それぞれで現実が違う=不確定性という概念の文体化。
 まさに視点によって「すべては変わりゆく」。しかしどこかで表現される「失われていない」「リアル」。
 これは神林の作品で今までも何度も語られているモチーフであるが、今回以下の観点を持ち込むことで、さらに破たん寸前だけれど、ギリギリ戦端を広げることになっている。

◆無意識の思考 と 擬似的な思考システムである言語

 文章を書いたり言葉で思考するというのは、その本来は意識できない思考の流れを擬似的に再現しようとしているに過ぎないのであって、言葉による思考は本物の思考ではない。われわれの思考というのは無意識になされているのであり、意識するのは、生きている限り寝ても覚めても休むことなく無意識になされている膨大な思考計算の、そのほんの一部の結果にすぎない。われわれが意識するのは、瞬間瞬間のそうした「結果」「結果」「結果」の羅列なのであって思考そのものではない。
 それでもヒトであるわれわれには、無意識の思考の流れをあたかも意識的に追跡しているかのように感じられるが、それは、擬似的な思考システムを持っているためだ。それが、すなわち言語能力というものだ。(リン・ジャクソンに宛てたアンセル・ロンバート大佐の手紙より P23)

「無意識の思考や意思というのは<自分>ではない(略)」
「では<自己>はどこに発生するんだね」
「だから、言語上に、ですよ(略)。脳なんかなくても言葉さえ存在すればそこに自己が発生する。」
「いまきみが言ったことは、おそらくジャムの人間観を表している。ジャムは、人間とはそういうものだととらえているに違いない。」(ロンバート大佐 桂城少尉 P118)

 ジャムが、われわれの、おそらくは言語感覚を操作することによって、ある種の錯覚世界を生じさせているんだ。(桂城少尉 P136)

 記憶が虚構ならば、それをもとにして構成される自意識というのは仮想、すなわち本心とは異なる、仮の想いだ。普段のわれわれは、そうした仮想の自分といういわば代理人(エージェント)でもって世界を認識し、他者との意思交換を行っているのだ。(ロンバート大佐 P150)

 長文の引用になってすみません。
 P23から既にスロットル全開、冒頭でのこのテーマ提示にはびっくりした。先に書いた村上春樹『1Q84』の感想に直結していたから(全くの我田引水で申し訳ない(^^;))。

 この部分、池谷裕二『単純な脳、複雑な「私」』で述べられている脳科学の実験データで検証されつつある自由意志の仮想性というテーマと、ダイレクトにつながる。
 そうしたデータの引用は本書にはないので、あくまでも言語テーマを追求してきたこの作家による空想の結果として、ここに記述されているのだろうけれど、、、。

 そうした脳科学の知見に、神林がデビューからこだわり続けているテーマである「言語」に関する観点を導入すると、上の引用のとおりの認識が生まれるのではないか。

 そしてそれを、ジャムという異種知性体の攻撃概念に外挿したストーリー展開。
 ここが本書を「異種知性体 戦闘哲学SF」と呼びたくなる根拠である。

◆人間に自由意志はない

 今までの神林作品でも、自由意志の不安は常に描かれてきたが、それは「言語」による自由意志の拘束性、というテーマだった(と僕は記憶している)。

 本書が神林のそのコアテーマの戦端を広げたと思えるのは、引用部分にあるように、「無意識の思考の流れをあたかも意識的に追跡しているシステム」として「言語」を規定した点である。今までの作品では「言語」が人間の限界を規定している原因だったのが、さらにその根本原因に言及したのではないか、というのが戦端の拡大。

 <自由意志は言語があるから拘束されている>という今までの概念を否定し、<もともと自由意志はない。自由意志は、瞬間瞬間の無意識の「結果」を仮想している言語が作り出している>という認識へ転換しているのだ。(ありゃありゃ、こんがらがった表記でわかりにくくてすみません。)
 つまり、今回新しいのは<もともと自由意志はない>と意識を否定しているところだ。

◆では無意識は、本当に自由意志ではないのか

でも、おれは、そうは思わない。自意識というのは、筋肉と同じレベルで実存しているとおれは感じる。そんなものは自意識ではないと大佐はいいそうだが、では別の言葉にすればいい、自意識ではなく自我意識とか。そういう意識は、筋肉が身体を動かすように無意識の本心そのものをドライブすることができる、と思う(深井零 P157)

 さすが主人公深井零(^^;)。
 ここで語られるのは、前項で書いた<もともと自由意志はない>という概念への疑問と、さらに新しい概念の提示である(弁証法での正反合の「合」ですね(^^;)) 。
 (自由意志と自意識を同義と捉えていいのかという問題はありますが、、、)。

 筋肉に例えた零の表現はいかにも戦闘機乗りの視点である。言語に頼らず戦場を生き抜いている零に言わせたことが本書のひとつの肝である。
 無意識の意志決定を、自由意志とも自意識とも呼べない新しい概念として述べたいため、神林はここでは「自我意識」という用語を用いている。この言葉が的確な用語であるかどうかは大変微妙であるが、ここで筋肉の動きに例えていることから、神林が述べたいのはイメージできる。

 僕の解釈はこうだ。神林ははっきりと書いていないが、以下のように表記するとわかりやすいのではないか。

◆戦闘機のシステムアーキテクチャと意識/無意識

 戦闘機の制御を想起してほしい。それはおそらく下記の構成を持つのではないか。

A. 周辺検知、エンジン制御、機体運動制御、攻撃制御、乗員安全制御、、、といった各サブシステム/制御機能。
B. 雪風のように高度な機械知能を持った機体は、これら制御を上位階層で統合制御するシステム機能を持っているはず。
C. さらにその制御の状態を客観的にとらえ(俯瞰し)、乗員もしくは基地の戦術コンピュータへ伝えるインターフェース部分が必要。

 つまり零が説明したことを戦闘機の上記システムアーキテクチャで表現すると、人間の筋肉の動きがA.の階層(無意識のレベル)、自由意志/自意識がB.とC.の階層ということになる。
 人の自由意志/自意識が瞬間瞬間の無意識の「結果」をとらえているだけというのは、戦闘機では、応答性のニーズから瞬時瞬時は各サブシステムのA.レベルが実行し、それをB.レベルで後追いで認識し(次の行動を大まかに統合制御し)、それをC.レベルが言語化し他者に伝える、というプロセスになる。

 最新の脳科学の知見では、人の行動は、下記のようになっているという(当Blog記事 池谷裕二『単純な脳、複雑な「私」』より引用)。

認知レベル   ①動かそう ②動いた
脳活動レベル ③準備      ④指令
実験結果
 認知レベルと脳活動レベルの関係
 ③準備→①動かそう→②動いた→④指令 (P251)

「自由は、行動よりも前に存在するものではなくて、行動の結果もたらされるもの」
自由意志は「動かすのを中止することしかできない(P258)」という概念が実験的に確認されているという。

 なんだか禅問答のような記述にみえるかもしれないけれど、これは各種実験で確認されている事実と、そこから抽出される概念。

 まさに上で述べた戦闘機のシステムアーキテクチャを想定すると、わかりやすいのではないだろうか。

 これって実は戦闘機で書いたけれど、我々の身近の家電とか自動車とかのシステムも、意識的であれ無意識的であれ、現在、これに近いものになってきていると考えられる。A.B.C.のB,Cがどの程度進化しているかが異なるが、近未来にB,Cがこれらのシステム構成に追加されていくのが時代の趨勢といえると思う。
 さらに脱線すると、これを徹底して意識的に実行すれば、特にB,Cをいかに人間の言語に近いシステムとして導入するかで、人工意識みたいなものが出来あがってくる可能性があるんじゃないか、と思ったり(^^;)。もちろんそんなに単純な話ではなく、言語学とか認知学の知見をぶっこんで、意識的に作り上げることが重要だろうけれど。

車のNAVIって一部音声認識発語が可能なので、実はこの視点から既にミニミニ人工意識の萌芽となっている(現にうちの子供たちは車のNAVIが喋るのに刺激されて、彼女(女性声)に名前を付けて呼称している(^^))。
 NAVIが車両内部の各周辺検知情報や制御機能について、上記先端の知見を入れたうえで、俯瞰して語り出したら(A.を自己観察して語るということ)、人工意識としてのレベルはかなり上がるのではないか。単純だが、これをどうユーザー(特に子供たち)が認識するかで、意識の問題は装置のレベルで、生活の中で検証されていくのではないか。チューリング試験的に(^^;)。

 閑話休題。
 零が述べていることの新規性は、A.について、人間の無意識と呼んで自由意志から切り離して考えるのではなく、これも「自我意識」と呼んで人間自身と考えればいいのではないか、という概念だと思う。先の戦闘機の制御で言えば、A.B.C.ともにそれは雪風自身であって、B.C.のみを切り離して雪風の自我意識と呼ぶのは変だよね、ってことだと思う。

 これが池谷本の時に書いた、近代の意識偏重主義の突破、と同じ概念だと僕は思った。神林のような鋭利な文学者と、脳科学の先端知見が同様の結論を推定してきているのが、とても興味深い。(そして現代の機械システムの制御アーキテクチャもまた、そこに近づいているのが面白い)

◆意識を生み出す進化圧力と鮮やかなラスト

 かなり本書から脱線してしまったが、神林長平は下記のとおり、続けている。

 環境におけるそうした自己の時空的定位を認識する能力というのは、生物に特有なものではなかろうか、自分がいまどこにいるのかを捉える感覚器を持っているというのは。それは認識対象との関係性を能動的に測る能力に繋がるだろう。そうした能力が、いわゆる<自我>というものを発生させたのではなかろうか。(略)それらは無意識的にやっていることだろうが、意識的にやれた方が有利だという状況があって、そのような進化圧力が加わり人は意識を持つようになった、というのはありそうなことだ。(深井零 P223)

 意識(=言語)というものの成り立ちの推測である。
 前項の文脈で言えば、B,Cの俯瞰機能と他者へのコミュニケーション機能のために、意識と言語が進化した(というかそれを持たない者が淘汰された)、ということになる。

 終盤、雪風のエージェントとしてエディスが出てくるシーン(P280)がある。
 まさにコミュニケーションのために雪風が作り上げた機能がこのエディスである。雪風がジャムと戦うために、人間を分析し、人工意識を作り出したシーンと言える。

 そして鮮やかなラストシーン。

「雪風は魔を祓うために来たのだ」。

 不確定性にまみれたフェアリイの地からの雪風の飛翔とそれによる現実の定位。哲学的な世界が、本書世界で確固たる存在である戦闘機により、リアリティを獲得するスリリングで確信に満ちた神林の筆致が見事である。

続きを読む "■解読 神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.08.17

■感想 神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』

『アンブロークンアロー―戦闘妖精・雪風』(ハヤカワ・オンライン)

 そんな少佐がいまやそれ、「哲学的な概念」がジャムを殺す武器として使える、レトリックではなくミサイルと同じ次元での直接的な武器になるのだ、と言っ ている。(略)<いままでにない概念>そのものが、ジャムを殺す、消滅させる、すなわちこの戦争を集結させる可能性がある、ということだ。(エディス・フォス大尉 P58)

 『アンブロークン・アロー』読了。凄い。今回異種知性体 戦闘哲学SF度、さらにアップ。 思弁の固まりのような作品になっている。
 思索のレベルは、言語から意識や無意識のレベルへ深まって、ジャムとの戦闘はさらに複雑怪奇なものに、、、。

 脳科学の知見から意識について新たな分析が進んでいる昨今、神林長平は戦闘SFの中で、言語からスタートして人間に関する哲学領域へ戦端をどんどん広げているって感じ。
 冒険しすぎてはっきり言って破たんしているところも散見。ただしそれがエッジを効かせることになっているのも確かな事実。この冒険心は紛れもない本格SFの財産だ。

 この先端的な文学について、是非、哲学とか心理学、脳科学方面から専門家の分析/アプローチを試みてほしい。
 神林って、SFジャンルだけでなく、もっと広く読まれて良い作家だと思う。
  例えば『ユリイカ』。アニメや音楽に浮気をしないで、こうした文学をしっかりと特集してほしい。最近、売れ線狙いでアニメ・漫画方面に浮気している雑誌な のでしょうがないか(^^;)。神林じゃ、ジブリの1/10も雑誌は売れないだろうから(残念ながら1/1000かも(weep))。

★以下、詳細ネタばれレビュウは、明日の記事へ続く(長文でーーす)
 →■解読 神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』

◆関連リンク
『 戦闘妖精雪風 FAF航空戦史 [DVD]』

星雲賞」受賞の傑作SFをアニメ化したスカイアクションが“EMOTION PLUS”に登場。本作は、本編の軍事映像を「軍事評論」の視点から再編集。軍事評論家・岡部いくさによるフェアリー空軍の航空戦史解説BOOK付き。

『戦闘妖精雪風 1/100 スーパーシルフ雪風Ver.1.5』

| | コメント (0) | トラックバック (2)

2009.06.16

■ジェームス・ティプトリー Jr. : James Tiptree Jr の絵画

Tiptree_paint

James Tiptree Jr.: The Double Life of Alice B. Sheldon by Julie Phillips
 彼女の描いた絵

James Tiptree Jr.: The Double Life of Alice B. Sheldon by Julie Phillips
 写真多数

 20代前半、画家を志したというティプトリーの描いた油絵と水彩画。
 凄みのある彼女の小説群をイメージしながら、じっくりとこれらの絵を鑑賞していただきたい。

 ある部分にはアリスが幼いころに両親と旅したアフリカの影響が見られるかもしれない。
 また14歳から読み始めたというSFの影響はどうだろうか。

 好きな作家の若かりし日の作品は感慨深い味わいを我々読者に与える。
 しばし黙考。

◆関連リンク
メアリー・ヘイスティングズ ブラッドリー『ジャングルの国のアリス』

 今から80年前、まだまだ「暗黒の大陸」と呼ばれていたアフリカの大地を行く少女アリス。河のワニ、カバ、大草原のライオン、ジャングルのゴリラ、火を噴く 山…。6歳の少女アリスの胸おどるホントのアフリカ探検物語。(略)
 12点の写真とアリス手書きの地図、新たな挿絵25点を収録。この少女アリスこそ、(略)ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアその人である。その幼き面影を目の当たりに できる本書は、SFファンにとっても必読の書である。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.06.13

■映画 『ジェームス・ティプトリー・ジュニア : James Tiptree Jr.』
  企画進行中 2011年公開か!?

Tiptree_alice Nicole Kidman Lives A Secret Life As A Man
ニコール・キッドマンがある男の秘密の人生を生きる(cinemablend.com)

Nicole Kidman is preparing to live a secret life as a man. Production Weekly claims that she’s been cast in James Tiptree Jr., a movie based on the real life of a female science fiction writer who used a male pseudonym to break down genre gender obstacles. 

2009-04-05 15:56:47
UPDATE! I've just spoken with Nicole Kidman's reps who say that Production Weekly's report is absolutely wrong and that Nicole is not involved in this project. Production Weekly further confirms that they made a mistake. Nicole Kidman is not involved in this project.

 SF作家ジェームス・ティプトリー・ジュニア、その人を映画化する企画が進んでいるようです !
 彼女の書いた小説の映画化でなく、その生涯を描く映画。Plan B Entertainmentというプロダクションが企画中とのこと。

 主演はニコール・キッドマン。
 という情報だったけれど、上のアップデート部分を読むと、どうもこれは誤報だったようです。

James Tiptree, Jr. (2011)(IMDb)
 IMBdには、制作中の作品として、タイトルがそのままズバリの『James Tiptree, Jr. (2011)』 という映画が記されています。

  この映画がJulie Phillipsによる伝記『James Tiptree, Jr.: The Double Life of Alice B. Sheldon』の映画化かどうかは不明。
 アメリカでこの伝記は全米批評家協会賞を受賞し、評価され広く読まれているようなので、その可能性は高いかも。

 ぜひ映画化されて、そして伝記本もそれに合わせて翻訳されるといいなー。
 映画もだけれど、どっちかというと本の日本語版の出版をとにかく期待!!

◆関連リンク
Julie Phillips『James Tiptree, Jr.: The Double Life of Alice B. Sheldon』洋書

レビュー By mcmc
 (略)引きこもりがち の著者の人生とクロスするエリスンもディックもル=グウィンもみんなかっこいい。当時のSF会の状況を知るにも最適。最後の方でハンカチが必要でない人は 人類ではないですな。ぼろぼろに泣きました。
 著作がほとんど絶版なアメリカでさえ相当の話題を生んだ本なので、日本で絶賛されることは確実。翻訳出れば星雲賞は間違いないでしょう。

James Tiptree Jr.: The Double Life of Alice B. Sheldon by Julie Phillips.
 伝記の著者Julie Phillips:ジュリー・フィリップス氏のサイト。
The Double Life of Alice B. Sheldon' - New York Times.
 第一章がウェブに掲載されている。
The New York Times Book Review - New York Times.
 ニューヨークタイムスによる書評。

BookReviewOnline: James Tiptree, Jr.: The Double Life of Alice B. Sheldon.
 岡本俊弥氏によるレビュウ。
岡本俊弥氏『ティプトリー再考』(岡本家記録とは別の話)

京都SFフェスティバルが終わって、これで1年が暮れました――と言うにはまだ3ヶ月早いのですが、25年の習慣もあるので。

 さて、今月は京フェス復習編です。当日(本会企画その3)のプログラム『ティプトリー再考』に使用したパワーポイントを再録して、当日のおさらいをしてみましょう。

Macmillan: James Tiptree, Jr.: The Double Life of Alice B. Sheldon Julie Phillips: Books.
Kidman plays a man?! | Zoopy | Share videos, photos, audio and notes.

Joe Dante,James Tiptree Jr.『Masters of Horror: The Screwfly Solution』 [DVD] [Import]
ジョー・ダンテ監督『13 thirteen 「男が女を殺すとき」』 [DVD]

<ストーリー> 人類史上最悪のウィルス発生。全ての男が凶器と化す! 人気作家ジェイムズ・ティプトリーJr.のネビュラ賞受賞作「ラセンウジバエ解決法」を脚色。 突然、男性が無差別に女性を殺しはじめるという現象が、世界中に拡大、その原因は恐ろしいウィルスにあった。 郊外に住む母と娘は、夫から逃げてさまようが…。 監督:ジョー・ダンテ 原作:ジェイムズ・ティプトリーJr. 脚本:サム・ハム『バットマン』

 ティプトリーの「ラセンウジバエ解決法」がジョー・ダンテで映画化されていた。
 昔、「接続された女」がTV化されていたはずだけれど、これは知りませんでした。観たい。
・当Blog記事
■ジェイムズ・ティプトリー・Jr. /浅倉久志訳  『輝くもの天より堕ち』  Brightness Falls from the Air, James Tiptree Jr.
■『すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた』  ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/浅倉久志訳

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2009.05.06

■デヴィッド デュビレ『魚の顔図鑑』
 David Doubilet "FISH FACE"


デヴィッド デュビレ:David Doubilet『魚の顔図鑑』

 偶然、本屋で見かけた魚の写真集。
 タイトル通り、顔のアップばかりの写真集なのだけれど、これがすばらしい。

 ひと言でいうと「極彩色と無表情」。
 このふたつから、知能のあり方が人類と異なる異星生物感が漂っている。「無表情」ということでは、吾妻ひでおの「のた魚」を思いだす。そんな眼が誌面いっぱいに広がる。この眼に見つめられると異次元にトリップできます(^^;)。

 「極彩色」ということでは、映画やアニメに出てくる宇宙生物は、もっと極彩色でもいいのではないか、と思ってしまう。「極彩色」の宇宙人というと、ジョー・ダンテの『エクスプローラーズ』があったけれど、あれはコメディ。(映画としては傑作と思うけれど、)宇宙人はおちゃらけで極彩色だった。だけれど、地球の魚たちの色の素晴らしさを見ていると、リアルを狙った異星生物ももっと色鮮やかでもいいのではないか、と思ってしまうのだ。

 ここに出てくる現実に地球上に存在する生物たちの方が、映像クリエータが作った異星生物よりもずっとイマジネーション豊か。それはディテイルと色彩に秘密があると思う。
 SFXのクリエータは現実のこれら奇想な生物に学んで、さらに奇怪な生き物を生み出してもらいたいものです。

◆関連リンク
David Doubilet『Fish Face』
David Doubilet『Fish Face』
 英語版が何故か二つあります。前者は在庫も有、日本語版よりずっと安いので、これを購入することにしました。
David Doubilet Home Page:  Underwater Photography: Assignment, Stock and Fine Art 海洋写真家デヴィッド デュビレ氏のHP。ストレンジなだけでなく、美しい写真が見られる。ショップもあり。
fish face - Google 画像検索
ジョー・ダンテ監督『エクスプロラーズ』
・当Blog記事
 幻想植物シリーズ リトープス:Lithops 他
 新美直写真集『アリゾナの青い風になって』~Spiritual Journey~
 前者は同じく地球生物の驚異。後者は極彩色の地球。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.03.30

■円城塔 複雑系・ライトノベル『ホワイトスペース』ネット連載中

White_space ホワイトスペース 作品詳細
(YOMBAN:読むバンダイビジュアル)

空白を見聞きする少女、幼馴染の少年、空白データの少年少女、そして衛星の僕が出会う。学園都市RANではじまる青春SFファンタジー。

実体をもつってなんだろう。

文学界の新鋭円城塔がおくる、複雑系・ライトノベル。

バンダイビジュアルのウェブマガジン
 SF、文学好き 若者が支持
 (FujiSankei Business i.)

 コンピューターのプログラミング言語から生まれた、2つの異なる意識が争うという難しい設定もあるが、主人公たちの行動に沿って物語を追っていきやすい。

 あの『Self-Reference ENGINE』の円城塔氏の連載小説がウェブマガジンで無料で読める!

 しかも「複雑系・ライトノベル」で「プログラミング言語から生まれた、2つの異なる意識が争う」!!

 『Self-Reference ENGINE』の少年少女版ですか??

 引用した右の画像は、その冒頭。
 文体は円城塔文体。難解(というか独特の物理的数学的文体!?)だけれど、今回はさわやかなイメージが付与されている(?)。これは注目の「軽量文学SF」の誕生か。

◆関連リンク
円城 塔『Self-Reference ENGINE』(amazon)
・当Blog記事
 円城 塔『Self-Reference ENGINE』

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.03.23

■Sync Future | S-F Magazine 50th Anniversary Special
 磯光雄×飛浩隆『グラン・ヴァカンス―廃園の天使』予告

Sync_future

Sync Future | S-F Magazine 50th Anniversary Special

次の50年を担う遺伝子へ向けたメッセージ!
日本を代表する25人のクリエイターと25冊のSF小説が
コラボレーションを果たしたアートブック誕生!

磯光雄×飛浩隆 『グラン・ヴァカンス―廃園の天使』
菅原芳人×山田正紀 『神狩り』
森本晃司×伊藤 計劃 『虐殺器官』 他 全25作品

 SFマガジンの50周年(!)記念として、面白い企画が発表された。
 早川書房より2009年刊行。本来、SFマガジンの50周年ということであれば、小松左京、筒井康隆といった大御所の登場もあるべきだけれど、彼らの名前はない。過去の経緯で早川書房との関係は復旧されていないようだ。日本のSFにとってとっても残念。

 作家は若手中心に構成され(といっても光瀬龍とか神林長平もいるわけだけど)、特に僕が楽しみなのは引用した3作品。

 磯光雄氏の作品としては、『電脳コイル』完結後の初作品ということになる。
 そして飛浩隆氏のHPにこんな記述が、、、、。

2009-03-08 - 題材不新鮮 SF作家 飛浩隆のweb録

■磯光雄氏といろいろ お話できました
 贈賞式パーティーで磯氏とお話ししていて、イズモのことをいろいろ訊かれたりしました。 それで思ったのは、「土地の力」についてかなり強く意識されているのかなあ、ということ。(略)
 古い、根源的な力を蓄えている場があり、その上にかぶさった(本作で言えば電脳空間の)レイヤがある種の配置を取るとき、その力が浮上する、そんな感覚が この作品の――というか作者の――底に流れているのではと感じました。このような、作品の表面的なテイストや主題やネタやシノプシスのずっと以前にある、 作者の、なんというか欲望のみなもとみたいなもの、それをこそ「世界感」(誤字ではなく)、あるいは作家性と呼ぶべきでしょう。

 飛浩隆作品と磯光雄『電脳コイル』は、下記の記事で書いたように、電脳アイテムでシンクロしている部分があるので、このコラボは楽しみ。

・当Blog記事
『電脳コイル』探索 第2話「コイル電脳探偵局」
  ポストンくんと『グラン・ヴァカンス』グラスアイ

◆ メタバグと硝視体(グラスアイ)
 不思議な力を持つ電脳物質メタバグ。メタバグで思い出したのは、飛浩隆のSF『グラン・ヴァカンス』に出てくる硝視体(グラスアイ)と呼ばれる電脳世界の魔法の宝石。
 ミックスド・リアルな『電脳コイル』の世界と異なり、『グラン・ヴァカンス』は「数値海岸:コスタ・デル・ヌメロ」と呼ばれる完全電脳空間が舞台なのだけど、硝視体と呼ばれる宝石のようなものが町のここかしこで見つかる。そして電脳空間内の超能力ツールとして使用されていて、それを職人的に扱える特殊能 力者が登場する。
 硝視体の僕の脳内映像イメージは、まさに『電脳コイル』で映像化されたメタバグそのもの。

 『グラン・ヴァカンス』とそれに続く『ラキッド・ガール』は、それこそ磯監督で映像化されたらいいかも。(というより本当は早くオリジナル作品第二弾が観たいのだけれど、、、)

◆関連リンク
飛 浩隆『グラン・ヴァカンス―廃園の天使』
飛 浩隆『ラギッド・ガール ―廃園の天使』

| | コメント (3) | トラックバック (1)

2008.12.24

■新刊メモ ウィリアム・ギブスン『スプーク・カントリー』
  ギブスン、磯光雄に挑む!?

ウィリアム・ギブスン『スプーク・カントリー』

 1990年代にカルト的な人気をはくしたロック・バンド〈カーヒュー〉のヴォーカルだったホリス・ヘンリーは、バンドの解散後、フリーのジャーナリストになっていた。そんなホリスに、広告業界の大物ヒュベアトス・ビゲンドが創刊する新雑誌〈ノード〉に取材記事を書いてほしいという依頼がきた。それは、仮想現実用の特殊バイザーをつけると、現実の光景に重ねあわせるように別の光景が見られる一種の臨場感アートの取材だった。〈ヴァイパー・ルーム〉の前に倒れているリバー・フェニックス、ヘルムート・ニュートンに捧げるヴァーチャル・モニュメント……。このアートの制作に協力している天才ハッカー、ボビー・チョンボーに紹介されたときから、ホリスは謎の事件へと引きこまれていく。

 邦訳は『パターン・レコグニション』から既に4年ぶり。
 前作も「フッテージ」と呼ばれる「究極映像」を描いた当Blogネタにピッタリの題材だったけれど、なんと今度は『電脳コイル』のようなミックスド・リアリティもの。

 ギブスンは果たして『電脳コイル』を観ているか? 巽先生、是非DVDを送ってあげてください。

 というわけで、本日Amazonからこの本、到着。今週読みます。(『TAP』はちょっと脇において(^^;))

当Blog記事
『パターン・レコグニション』

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.12.11

■新刊メモ 『機甲天使ガブリエル』 『TAP』
  『エンジン・サマー』 『人造人間エルヴィス』

加藤 直之, 宮武 一貴『機甲天使ガブリエル』(amazon)

(略)ハインライン『宇宙の戦士』のパワードスーツを宮武と私の2人で世に送りだしてから8年後の1985年。宮武は『機甲天使ガブリエル』で様々なパワードスーツを考え出した。(略)大学や企業や軍隊で実物のパワードスーツが生み出されつつあるこの時点でも参考になるアイデアが、ここにはある。

機甲天使ガブリエル(公式HP) デザイン画&設定資料集。

 学生の頃、スタジオぬえファンだったので、こういうの見るとワクワク。

グレッグ イーガン, 山岸 真訳  奇想コレクション『TAP』

脳に作用して言語能力を向上させる極小マシンTAPを使用していた老詩人が、密室で死んだ。これは殺人事件か? その真相は……表題作「TAP」ほか全10編を収録した、現代SFの最先端作家イーガンの日本オリジナル傑作選。

 イーガンの短編集。これはさっそく購入!

ジョン クロウリー, 大森 望訳  奇想コレクション『エンジン・サマー』

 はるかな未来。機械文明は崩壊し、さまざまな遺物のなかで、独自の文化が発達した世界。少年“しゃべる灯心草”は、みずからの旅の顛末を語りはじめる。聖人になろうとさまよった日々、“一日一度”と呼ばれた少女との触れあい、“ドクター・ブーツのリスト”との暮らし、そして巨大な猫との出会い―そこからじょじょに浮かびあがってくる、あざやかな世界。彼の物語は、クリスタルの切子面に記録されていく…いまも比類ない美しさを放つ、ジョン・クロウリーの幻想文学の名作、ついに復刊。

 これ、実は未読。また紹介文で読みたくなったので、今回は必ず読みます(^^;;)。

奥田鉄人『人造人間エルヴィス』

 エ ルヴィス・プレスリーの魂とブルース・リーの身体機能を持つロボット、東京に降臨。 「マトリックス」+タランティーノ+ロックンロールなソウルセイバー・ストーリー。

 現代の日本。巨大芸能コングロマリット総帥の思惑により製造された、人造人間エルヴィス・リー。「エニタイム喧嘩上等」のやくざやミュージシャン、彼に惚 れ込んだ者たちに囲まれ暮らしたハッピーな日々は長く続かなかった。エルヴィスを造り上げた先端技術を軍需企業が狙い始めたのだ──。

 こりゃすごい。僕はここから実在したP・K・ディックのアンドロイドを思い出した。

◆関連リンク
夏目房之介の「で?」   奥田鉄人(ロボット)『人造人間エルヴィス』

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.12.03

■リー・タマホリ監督 『NEXT -ネクスト-』
  原作 「ゴールデン・マン」フィリップ・K・ディック

Next 「NEXT -ネクスト-」公式サイト
公式ブログ

 ネットではかなり否定的な意見が多いようだけれど、この映画、僕はなかなか楽しめた。

 冴えないアメリカ人を演じさせたらアメリカ一(?)のニコラス・ケイジがフィリップ・K・ディックに妙に合う。

 この映画の見所は、ささやかな予知能力を持つ極めて善良な市井の主人公が、好意を寄せた女性のためにテロとの戦いを決意する姿である。ためらいながら、2分前の未来予知能力を最大限に活かして、行動する姿が良い。ニコラス・ケイジでないとこの味は出ないだろう。

 2分後をみることができるというルールが、彼女の存在により途中で変わっている。ここは賛否わかれるところだろう。
 そしてラストは「えっ」。ここから先はオープンエンディングとして観客の想像力にゆだねるということか。Amazonでの評価はこのエンディングで相当ひどいものになっている。
 でもある意味、上に書いた「決意する物語」という視点で観れば、これも佳作なラストかも。ディックらしさはこちらがいいかも。(それにしてもスタッフたち、ハリウッド映画でこの終わり方は非常に勇気がある。)

◆関連リンク
ゴールデン・マン:ハヤカワ・オンライン.

美 しい黄金像のような姿の青年、クリス・ジョンソンには驚くべき能力――未来を見る能力がそなわっていた。だが、現人類にはない超能力をもつクリスを執拗に 追う組織が迫っていた……映画『NEXT―ネクスト―』の原作「ゴールデン・マン」をはじめ、豪雨の夜に妖精たちに出会った男の不思議な冒険「妖精の 王」、名作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の原型となった「小さな黒い箱」など、7篇を収録する傑作集

 20年ぶりに「ゴールデン・マン」を再読。
 映画とは未来が予知できることを利用した脱出シーンが少し似ているぐらいで、ストーリーと設定は全く違う。この金色のしゃべらない新人類を描いた静かな映画も観てみたいものだ。
 でも映画は原作とは異なるけれど、ディックっぽさは結構良かったと思う。

フィリップ K.ディック『ゴールデン・マン』(amazon)
 08.3月に映画に合わせて新装版が出ていたのが、既に在庫なし。
 リー・タマホリ監督 『NEXT -ネクスト-』(amazon)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.11.06

◆新刊メモ 『光車よ、まわれ!』『神獣聖戦 Perfect Edition』
 『たったひとつの冴えたやりかた 改訳版』『マウリツィオ・カテラン』

天沢 退二郎『光車よ、まわれ!  』(amazon)

 当Blog記事 天沢 退二郎 『光車よ、まわれ!』で書いたように、『電脳コイル』に影響を与えた幻想児童文学の傑作。祝復刊。

  山田 正紀『神獣聖戦 Perfect Edition』(amazon)
 徳間書店

鏡 人=狂人は、人類から派生したミュータントともいうべき存在。その特異な能力によって相対性理論のくびきから解き放たれ、非対称航行によって背面世界、虚 空間へと移行した。そしてそこでは、人類と鏡人=狂人の中間種である悪魔憑きとの時空を越えた戦いが繰り広げられることとなった……。 伝説の名作となっていた本格SFが、いま、鮮やかに甦る!

 森下一仁氏 惑星ダルの日常『神獣聖戦 Perfect Edition 』 

で、驚いたのが表紙の挿画。作者は山田日南子――山田さんの娘さんなんですね。以前から絵を描かれていることは知っていて、作品も拝見したことがあったのですが、こんなに立派になられるとは……。  折りよく、山田日南子さんの個展が開かれています。13日から始まっていて、18日の土曜まで。場所は中央区銀座2丁目11-4富善ビル1階「アートギャラリー銀座」(電話:03-3545-1139)。  時間を作って観に行かなくては。

  ちょっと迷子に

生命力を感じさせる抽象図形をカラフルな色彩で描く幻想画は日南子さんならではの世界。

 山田正紀の二十数年の取り組みの成果。
 この表紙が、山田氏の娘さんの作品であることをリンク先の森下一仁氏のBlogで知りました。個展は残念ながら既に終了しています。

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『たったひとつの冴えたやりかた 改訳版』(amazon)

 いわずと知れた傑作の単行本版。以前の文庫と異なり、短編一作のみの掲載です。
 でもティプトリーファンとしては、欲しくなるわけです。

フランチェスコ・ボナーミ『マウリツィオ・カテラン (コンテンポラリーアーティストシリーズ)』(amazon)

1990年代、国際舞台に登場したイタリアの著名アーティスト、マウリツィオ・カテランの作品集。ウィットに富み、非正統的なオブジェ、パフォーマンス、写真作品を紹介。本人へのインタビュー、批評家による概説なども収録。
* 大型本: 160ページ     * 出版社: ファイドン (2006/06)

 剥製を利用したアート等、ショッキングなものもあるのでご注意を。
 表紙のコミカルなイメージに騙されてはいけません。

◆関連リンク
美術家DATAマウリツィオ・カテラン

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2008.11.05

■飛騨高山留之助商店プロデュース 徳信尊作『留之助ブラスター』

Photo 店主55才、玩具道(オモチャミチ)の光と影
: 留之助ブラスター・アップツーデート-15。

留之助ブラスター(略) キットの価格は、7万円台に収めようと算段中です。

現在、The First Edition=200挺分のパーツがあり、発売日までにはキットと完成モデルを各50挺お渡しできるようにします。 発売日についても、あらかじめ当ブログで告知しますが、11月下旬〜12月上旬を予定しています。

 ため息の出るほど素晴らしいブラスター。
 2007年10月以来、その制作レポートが掲載されていた工芸品がいよいよ発売されるとのことです。

 この素晴らしい試みを紹介しないわけにはいきません。この重量感と未来感覚。写真だけですが、ずっしりとしてた手触りが伝わってくるリアル感。

 最初の100挺を手に入れる幸福なファンは、どなたなのでしょう。僕も喉から手が出るほどほしいのだけれど、この金額は残念ながら私には手が出ません。

◆関連リンク
留之助ブラスター(制作記録)
 留之助商店店主さんをはじめ、プレランファンの熱い想いが溢れた素敵なレポートになっています。
ブレランをめぐる暴言 3/3 「徳信尊の挑戦」

徳信尊さんからメールが舞い込んだのは今年2月上旬のことだった。 “デッカードブラスター”で検索をかけたらこのブログに辿り着き、読み進んでいくうちに彼が高校生のころ親しんだSF映画関係の記事や本の執筆者と店主が一致したとかで、自己紹介をかねた数点の画像付きメールを送ってきたのだ。

(略)工芸品とでも呼びたくなるような高い完成度、そしてその向こうに垣間見えるひた向きで情熱的な個性。 デッカードブラスターを検索したぐらいだから、その名SF銃に興味があるに違いないし、だったら1挺、個人的に決定版を造ってはもらえないかと思ったのが事の始まりだったか。

店主55才、玩具道(オモチャミチ)の光と影 : もうじき来る期待のブラスター。
 ここに掲載された他社製ブラスターと比較すると、その秀逸な出来が一目瞭然。
徳信尊 - Google イメージ検索
詳細が徐々に明らかに。|ALL THAT BLADE RUNNER
 アドバイザー ブレランのに~ぜきさんのBlog。
ブレードランナーブラスターを語ろう! (2ch)

・当Blog記事
 ・飛騨高山 留之助商店 本店  訪問記
 ・オブジェモチャ専門店  飛騨高山 留之助商店 本店

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.08.15

■諸星 大二郎『未来歳時記・バイオの黙示録』

諸星 大二郎『未来歳時記・バイオの黙示録』
 諸星大二郎のひさびさのSFものと聞いて、さっそく読んでみました。

 タイトル通り、バイオテクノロジーによる奇怪な未来の地球の黙示録的世界が描かれている。連作短編6篇(「野菜畑」「養鶏場」「案山子」「百鬼夜行」「シンジュク埠頭」「風が吹くとき」)と、その間にはさみ込まれ、全体にひとつの物語の流れを作っている幕間劇5篇(「難民」「サトル1」「花」「サトル2」「サトル3」)で構成。

 植物と動物と昆虫と人のDNAの融合により、生物相が入り乱れて発生する奇妙な世界。

 初期の代表作「生物都市」を思わせるどろどろな生物の融合状態。発現してくる潜伏DNAとそこで生まれるさまざまなドラマがドタバタだったり悲劇だったり、どれも印象的。特に僕は、「風」が象徴的に描かれ、狂言回しとして登場したサトルが重要な役割を果たす全編の最終話「風が吹くとき」で描かれる異様なイメージが心に残った。特にエリアを深いところへ侵入して行く過程がイマジネーションを刺激する。

 21世紀、遺伝子工学が産業として拡大することは間違いない。
 今世紀末に地上に現出する黙示録的な世界は、こんな様相かもしれない、とどこか思わせる奇妙なリアリティがある。

◆関連リンク
諸星大二郎『バイオの黙示録』-夏目房之介氏の「ほぼ与太話」

この人の絵は、じつに奇妙な「現実」と「神話」のあわいを描ける不思議な絵なんだが、それがいかんなく発揮され、DNAが種を越えて混じってしまう世界を描いている。

・本Blog過去記事
 諸星 大二郎 短編小説集 『蜘蛛の糸は必ず切れる』
 諸星大二郎の「影の街」と磯光雄アニメート

| | コメント (11) | トラックバック (1)

2008.07.29

■M78星雲の正体 「南の那覇」or「那覇の南=南風原」

 先日TVのバラエティで都市伝説として語られていた話。

「M-78」の意味は、「南」の「那覇」である。

 金城哲夫絡みのネタですが、ウルトラマンでもファンに知られていないこういう事実がまだ出てくるんですね。ちょっと感動。 そこでネット検索してみました。

南島妄想見聞録vol.18 『うるとら哲夫』(藤木勇人公式ホームページ「ゆがふ」)
Baby a gogo!  : 藤木勇人’ひとりゆんたく芝居’「南島妄想見聞録vol.18」

Ultra_tetsuo_2 「南島妄想見聞録vol.18」の演目(略)
今回の目玉「うるとら哲夫」でした。

「うるとら哲夫」は知る人ぞ知る、あの「ウルトラマン」の生みの親・沖縄は南風原(はえばる)出身の金城哲夫氏の物語です。(略)

ウルトラマンの故郷・M78星雲、これは実は南風原のことだったりします。 Mは南、78は那覇。 つまり那覇の南=南風原、というわけです。 そんな金城氏のエピソードを、沖縄の歴史、その光と影に重ねて語る・・・とても素晴らしいひとり芝居でした。

 と、もうひとつの説が見つかりました。
 『ウルトラマン』のあの独特な雰囲気を金城哲夫のシナリオが作り出していたことを否定する人はいないでしょう。そして数々語られてきた具体的エピソード。(「キングジョー」とか「チブル星人」とか。)

 そのひとつとしては、いかにも、らしいエピソードでこれが真実である、とどこか信じたくなる郷愁をさそう話です。

M78星雲 - Wikipedia

 ただ元々は「M-87」だったものがシナリオの誤植で「M-78」になったというのも有名な話なので、どっちが真実かは、真相は藪の中、ですね。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2008.07.14

■アーサー・C・クラーク『宇宙島へ行く少年:Islands in the Sky』

Inland_in_the_skytile_2

アーサー・C. クラーク, 山高 昭訳『宇宙島へ行く少年』(amazon)

司会のエルマー・シュミッツが、スポットライトをあびながら叫んだ。「それでは、優勝者をご紹介しましょう。ロイ・マルカムです!」興奮で体がしびれた。え、なぜかって?ぼくの名前だったからさ!それに、このワールド航空主催の航空クイズ番組に優勝したものは、世界中のどこへでも、ただで旅行させてもらえることになっていたからだ。もちろん、はじめから行き先は決めてあった。ぼくの行きたいところはただひとつ―地上500マイルに浮かぶ島、宇宙ステーションだった!大宇宙にあこがれる少年の夢と冒険を、巨匠クラークが生き生きと描きだした傑作宇宙SF!

 クラークが亡くなって何か未読の作品を読もうと思っていた。
 主要作品はだいたい読んでいたので、積読になっていた1952年のジュヴナイル作品である本作を読んだ。

 上の紹介文でわかると思うけれど、ストーリーはまさに少年の初めての宇宙体験を描いたジュヴナイル。

 ストーリーははっきり言うと、いまでは見慣れてしまった風景で面白みはない。
 しかしディテイルの書き込み、宇宙旅行を臨場感を持って描く手腕がとにかく素晴らしい。まだ人間が誰も宇宙へ出ていなかった時代に、クラークは脳内で確実に宇宙を体験していた、と思える描写。無重量と真空の描写が克明。

 さて最後に表紙について。どれも少年なのかよくわからないイラスト。
 特に右上の2枚目は凄い(^^;)。それにしても流線形の宇宙船と球形の宇宙島がノスタルジーを誘います。リアルにこんなデザインの宇宙船で映画化してほしかったりします。(『宇宙のランデブー』の映画化はどうなっているんでしょうか。)

◆関連リンク
・スペースコロニー - Wikipedia   
・Island in the Sky (1953) これはジョン・ウェイン主演の飛行機の映画。同名。
・Atomic Rocket: Space Suits.
 '50,60年代の宇宙服のイラストを集めたページ。なかなかいいですよ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.06.23

■マイクル・コニイ『ハローサマー、グッドバイ』の続編
   Michael Greatrex Coney "I Remember Pallahaxi"

I_remember_pallahaxi I Remember Pallahaxi (PS Publishing Current Catalogue).

Synopsis / Contents: I Remember Pallahaxi is the previously unpublished sequel to Michael Coney's classic Hello Summer, Goodbye. Set hundreds of years after the events recounted in Hello, I Remember Pallahaxi is a mystery story: a murder mystery on one level, and on another level a mystery about the origins of the native aliens.

 山岸真さんのコメントで『ハローサマー、グッドバイ』の続編があるという情報をいただき、調べてみました。
 右の表紙のハードカバーが、コニイが亡くなった2005年のあと、2007年12月に500部、電子出版されたようです。

 下記に出版の経緯がコニイの家族とのメールという形で記されています。

Michael Coney'--I Remember Pallahaxi.

Dear Friends, Neighbours and Fans,
(略)
When Mike knew he was terminally ill and that his time was very limited he decided to put some unpublished novels on his website as a gift to his readers to download free. As you will see, since then Peter Crowther of PS Publishing and Dorothy Lumley, Mike's agent have decided it would be a much greater gift to publish two titles "I REMEMBER PALLAHAXI" and "HELLO SUMMER GOODBYE" in a deluxe slipcase containing both titles. 
(略)
  Sincerely, 
  Daphne Coney and Family

Michael G. Coney『I Remember Pallahaxi』(amazon)

 500部発行らしいけれど、日本のAmazonでも購入可能。

 山岸真さんのコメントによると、日本でも今回の『ハローサマー、グッドバイ』の売れ行き次第では続編の翻訳出版の可能性があるとのことですので、是非、コニイファンは新訳を購入しましょう。

 またコニイ未読の方も、瑞々しい筆致で書かれたコニイの物語世界はお奨めですので、お手にとられて至福の読書体験を。

Hello_summer_goodbye ◆関連リンク
Michael Coney 作品リスト (PS Publishing)
 右の書影は電子出版版『Hello Summer, Goodbye』。
 この表紙ならsay*3さんもOK?
・ネットでダウンロードできるコニイの作品
 コニイの5短編他
 長編 Flower of Goronwy

Author's Note: An impossibly perfect young woman appeared in my novels Charisma and Brontomek and generated a lot of fan mail. People asked if she was based on a real person; and if she was, what a lucky guy I was to know such a woman. Well, unfortunately she was not real, and I emphasized this point by having her disappear into nothingness at the end of each novel. She was an impossible male dream. Her physical appearance was based on the movie star Susanna York (a clue to that is her fictional name Susanna Lincoln) but her personality was all my own erotic imaginings.(略)

 非常に興味深いコニイの女性キャラクタについてのコメントです。
 『ブロントメク!』のキャラクタは特別本編の主題と密接に関係しているので、このコメントと照らし合わせてじっくり再読してみたいものです。
・そして上の文章の末尾でコニイがモデルにしたと語っている英国の女優
 スザンナ・ヨーク(Susannah York) のプロフィール - allcinema

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2008.06.20

■マイクル・コニイ 『ハローサマー、グッドバイ』 山岸真新訳 !

Hello_summer_goodbye『ハローサマー、グッドバイ』(amazon)
             河出書房新社

マイクル・コーニイ 著  山岸 真 訳
定価893円・本体850円

内容紹介
戦争の影が次第に港町を覆うなか、少年と少女は出会う。惑星規模の機密計画が姿をあらわす日が近いことは、いまだ知らずに……少年の忘れえぬひと夏を描いた、SF史上屈指の青春恋愛小説、待望の完全新訳版。

 復刊.comのメールで知りました。
 なんか無性に懐かしいマイクル・コニイ 『ハローサマー、グッドバイ』が、山岸真の新訳で読めるとはたいへん嬉しい。

 にしてもこの表紙は、さすがに照れくさい。
 思わず書店で「娘へのプレゼントなんです。包んでください」といいわけしながら、自分の分を買ってしまうかも(^^;)。

 ネットで誰か何か書いていないかと思ったら、同世代の殊能将之氏が書いてました。
 殊能氏とコニイは、アンマッチな感じなんですが、、、(^^)。

a day in the life of mercy snow. 

オレもおっさんだからさ、「心の故郷」が復活するのはうれしいんだけど、若者たちはなにをやっとるのかね。オレが知らない新しくおもしろいSFやミステリってないのか?

マイクル・コニイ 復刊特集ページ

ブロントメク! マイクル・コニイ  復刊リクエスト投票.

 惑星アル カディアを回る六つの惑星が五二年に一度揃って空にかかる時、高潮に乗って何兆というプランクトンの群れが、海面にカタツムリの足跡のように輝いた。この マインドと呼ばれるプランクトンと巨頭鯨は共生関係にあった。マインドは密集することにより人間のテレパシー能力を増幅させる、リレー効果を持っていた。 人々は催眠術にかかったように次々に海に入り、やがて黒いヒレの群れとひとつになり血の海に呑み込まれてゆく。子供を守る見返りにマインドは餌を要求する のだ。こうして過去二年の間に全人口の3割は他の惑星へ移住、経済は崩壊に瀕していた。そんな折、巨大企業ザリントン機関が経済復興の援助を申し出、アル カディア議会はそれを承諾。やがて移民として無定形生物と巨大トラック・ブロントメクの群れが送り込まれて・・・。

 僕は『ハロー、サマー』より断然『ブロントメク ! 』派でした。
 これ、本当に素晴らしい傑作 ! 続けて河出から山岸氏訳で出版されることを望みます。

◆関連リンク
マイクル・コニイ, 千葉 薫『ハローサマー、グッドバイ』(サンリオ文庫版)
『ブロントメク ! 』(サンリオ文庫版)

| | コメント (9) | トラックバック (1)

2008.06.09

■平山 夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』

平山 夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』(amazon)

 遅まきながら平山夢明氏の短編集を読んだ。この平山夢明氏って、自主映画番組えび天で、「ペキンパーの男」を作ったデルモンテ平山氏らしい。僕は「怖い話」シリーズを一冊読んだことがあるだけだったので、どんな小説世界が開陳されるか期待してページをめくった。

 噂に違わぬ傑作。暴力と人体改変等の強烈なインパクトのある7編の短編。
 良かった順に簡単な感想です。もともと映画を撮っていた人なので、このままヒットを続ければ、いずれ自作の映画化もあるのかも。

「Ω(オメガ)の聖餐」
 映像的に強烈なイメージ。Ωの異様さにゲぇッとなりながら、数学の探究とか、幼い頃の匂いの記憶と養蜂家のエピソードで清廉なイメージをパラレルに感覚させる話。この重層的な幻想、たしかに癖になりそうなトリップ感がある。

「C10H14N2(ニコチン)と少年 ― 乞食と老婆」
 いじめられるこどもの視点と大人の世界。乞食を通して語られる恐ろしい街の現実。しかし一皮剥けたこの世界が、どっか日本の典型のように見えてしまうところが凄く怖い。

「無垢の祈り」
 これも現代の子供の世界の闇を描いた作品。
 ラストに登場する者に象徴化するイメージがなんだか凄い。何が描かれたか、実は具体的に掴めないのだけれど、それでもこのラストの必然は無意識の何かを形象化している感覚で凄い。

「独白するユニバーサル横メルカトル」
 タクシードライバーと地図の物語。
 半村良の「箱」を思い出した。もう一歩ひねりあったら傑作かなーって感じ。

「卵男(エッグマン)」
 ラストへ向けた変転がうまい。幻の記憶のリアリティと、隣の独房の男の言語崩壊感が面白かった。この作品、CGアニメ化されるのですね→ここ(Egg Man)。

「すまじき熱帯」
 『地獄の黙示録』21世紀版。熱帯世界のガイキチな社会に頭がクラクラしてくる。これにも言語崩壊なシーンがいくつもある。

「オペラントの肖像」
 異様な社会体制と芸術の位置づけの変容と、そこでのラブストーリー。
 ラストのまとめかたが鮮やか。

「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」
 この拷問話は痛すぎる。痛さに著しく弱いので、いちばん後ろに来ました。

◆関連リンク
光文社エンタテインメント Blog:
 3刷できました。新オビです。パネルも作りました。
 
咄嗟の判断でオリーブオイルをよける:
 「平山夢明とデルモンテ平山のゴミ鍋~大毅サイボーグになれ編 」

Edoardo Belinci ARTWORK Gallery
 表紙のイラスト「WATERMETER」のアーティストのギャラリー。
 ここ、なかなか素晴らしいので、明日の記事へ続きます。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2008.06.07

■宇宙軍大元帥 野田昌宏氏 宙へ旅立つ

Noda_shambleau_press_all_3

訃報:野田昌宏さん74歳 (毎日新聞)

日本のSFファンの代表的存在として「宇宙大元帥」のニックネームで親しまれたほか、作家としても活躍した。ガチャピンのモデルといわれる。

 今朝の新聞で知りました。先日のクラーク今日泊亜蘭氏と、今年はSF作家たちの訃報が相次いでいますが、とても残念です。今夜は宇宙に向かって、野田さんに黙祷を捧げたいと思います。

 右の写真は、野田さんから送ってもらったソユーズ宇宙船の欠片。日本初の宇宙飛行士の秋山豊寛氏が持ち帰られたものをフロッピィのケースに入れ、色紙として綺麗にまとめられています。SFマガジンの大元帥の連載エッセイのプレゼントに応募していただいたもの。うちの家宝です(^^;)。破片はソユーズのもので、TBS鈴木順アナウンサーの好意によるものとのこと。

 数年、リビングに飾っておいたので、すっかり日焼けしてしまっていますが、野田さんのサイン代わりの「あの逆三角形眉毛の顔」と自分の名前が描かれているのが嬉しい(名前はモザイクにしました)。

Noda_daigensui  一部拡大版も掲載。
 Shambleau Pressとか、加藤直之氏のカットが入っていたり、こういうこだわりが楽しい。氏のエンターテインメント精神がこんなところにも活き活きと表れています。

 SFの翻訳では、学生の頃、『キャプテン・フューチャー』や『スター・ウルフ』でワクワクし、著作『銀河乞食軍団』のべらんめいなスペースオペラを楽しませてもらいました。あと<日本テレワーク>ものも大好き。

 でもやはり僕にとっての野田大元帥は、SFマガジンの連載でのSFイラストの熱い紹介記事の数々が忘れられません。「SFは絵だ」の言葉は有名ですが、氏の紹介で観るアメリカのSFイラストの光り輝いていたこと。
 僕らは絵そのものを観ていたのでなく、神田の古書街で米兵が残していったSF雑誌を見つけた時のセンス・オブ・ワンダーを加味した野田氏の脳内イメージをそこに観ていたのだと思う。数々のエピソードとともに、それらのイラストを眺めるのは、本当に楽しい時間でした。

 そしてもうひとつは、野田氏の手による宇宙開発のドキュメント。
 『NASA これがアメリカ航空宇宙局だ』他、フロリダの現地からの氏の宇宙開発の現場のルポルタージュは、これも宇宙への夢と希望にあふれていて、ワクワクしました。

 今頃、野田大元帥はクロパン大王に乗って、銀河のどのあたりを飛んでいるのだろうか。これから僕らは宇宙を見上げるたびに、そんな想いを想い描くことになるんだろうね。合掌。

◆関連リンク
野田昌宏 - Wikipedia
SPACE FORCE GENERAL STAFF OFFICE
ガチャピン日記にはまだ訃報の記載はありません。
・2ch 【訃報】大元帥、宇宙に還える 野田昌宏さん-74歳
野田大元帥やすらかに(Youtube)

・(6/8追記) 野尻ボードにて野田さん追悼の文を、TBSの鈴木順氏が書かれています。
上のソユーズの破片についても触れられています。破片の正体は「ソユーズの二段ロケットのアクリル保護カバー」とのこと。

| | コメント (3) | トラックバック (2)

2008.05.26

■飛 浩隆『ラギッド・ガール―廃園の天使Ⅱ』

飛 浩隆『ラギッド・ガール―廃園の天使Ⅱ』

人間の情報的似姿を官能素空間に送りこむという画期的な技術によって開設された仮想リゾート“数値海岸”。その技術的/精神的基盤には、直感像的全身感覚をもつ一人の醜い女の存在があった―“数値海岸”の開発秘話たる表題作、人間の訪問が途絶えた“大途絶”の真相を描く書き下ろし「魔述師」、“夏の区界”を蹂躙したランゴーニの誕生篇「蜘蛛の王」など全5篇を収録。

 硬質な文体で綴られる幻想的でシュールで、そして痛い傑作。
 飛 浩隆氏、きっとジェームス・ティプトリーJr.「接続された女」とかジョン・ヴァーリー「ブルーシャンペン」とか好きなんだろうなー。阿形渓というキャラクターの造形とかサイバーな感覚とか、直接的ではないにしても同様のイメージを感じた。

 ということで調べてみたら、下記のような記事が。

2006年度第6回Sense of Gender賞 大賞
飛浩隆『ラギッド・ガール―廃園の天使2』)

短編「ラギッド・ガール」は、露骨に「接続された女」の影を匂わせているにもかかわらず、実は執筆にあたり(その後も)一度も読み返さないままでした。
というのも「ラギッド・ガール」に専念した七ヶ月のあいだ、私の視野をおおっていたのは阿形渓嬢の圧倒的印象であり、それと格闘するだけでいっぱいいっぱいだったからです。
格闘の相手は印象であり質感であって、つまりは言語化以前の領域でした。そして、阿形渓の質感とこすれ合うことによって、さらなる怪物、安奈・カスキがしだいしだいに飛の中から研ぎ出され形を得ていった、という記憶があります。(略)

 AIの描写とか意識について深く考察した記述が多く、「質感との格闘」というのが的確に物語の雰囲気を表現している。作家の頭の中の「質感」として立ち現れた登場人物や物語を文章として紡いでいく「格闘」。このような意識的な「質感」の表現が丁寧にひとつひとつ硬質な言葉づかいをされた物語に結実している。

 官能素空間について、「感覚器官のふるまいを律儀に計算し、その延長上に人間の意識を描きだそうとすれば、少なくとも体内で生起するあらゆる電気的、化学的反応を逐一計算しなければならない。とうてい実現不能なその難事を正面から解決せず、間に合わせの便法で済まそうとするのが、情報的似姿の本質だった」(P166)と記述されている。

 感覚器官と意識の間に横たわる人間の世界認識のメカニズムが、人それぞれ固有の世界像を形作っていて、それが個性の大部分を占めるような気もしている。少し違和感を持ったのは、そこを官能素として統一してしまうと、各個人がそれぞれに把握する世界像の差がなくなってしまうのではないか、ってこと。そこのところの違和感について、次作『空の園丁』で描きこまれていたら面白い、と個人的に思った。

◆「夏の硝視体(グラスアイ)」
 漁師ジョゼと少女ジュリー、グラスアイの発見『グラン・ヴァカンス』の前日譚的物語。
 『グラン・ヴァカンス』と同じ<夏の区画>が舞台。

◆「ラギッド・ガール」
  官能と残虐の描写が冴えている。ヴラスタ・ドラホーシュ教授のキャラクターが秀逸。「人間の意識と感覚は、秒40回の差分の上に起こる」。小説の読者と登場人物の関係の本質と、そこを伏線としたラスト。特に終盤の6ページの変転は素晴らしい。

◆「クローゼット」 
 死んだ恋人の残された似姿の再生。多重現実と“数値海岸”の組合せで現れる新たなイメージ、ここからまだまだ多くのワンダーを生みだせそうだ。

◆「魔述師」 
 〈数値海岸〉の〈大途絶〉の真相を東欧(チェコ?)を舞台にして描いた一編。
 このタイトルの原題はLATERNA MAGIKA:ラテルナ・マギカ。本書では〈数値海岸〉を運営する会社がラテルナ・マギカ社。そして飛氏のHPのタイトルがラテルナ・マギカ。あれ、HPは確認したら題材不新鮮というタイトルに急に変わってる。
 僕の知っているラテルナ・マギカはチェコの劇場とそこで上演される映像と演劇を融合したパフォーマンスの名前(日本の大阪万博にも来てたらしい)。(当Blog記事 チェコプラハ ラテルナマギカ)。
 映像とリアルが混在するチェコの舞台に刺激されてこのネーミングを付けたのだろうか。
 似姿が体験してきた仮想世界を再生して体感する<数値海岸>とチェコの映像を再生して演じられる舞台。どこか近いものがある??

 この短編、鯨の映像的なイメージとAIの人権問題というネタが効いている。

◆「蜘蛛の王」 
 『グラン・ヴァカンス』の〈夏の区界〉に登場したランゴーニのエピソード。〈汎用樹〉区界という世界設定も素晴らしい。

 『空の園丁』の刊行が待ち遠しい。

◆関連リンク
ラテルナ・マギカ Laterna magika Národní 4, Prague 1(CSA-jp.com)

ラテルナ・マギカの歴史は、1958年ベルギーはブリュッセルで開催された万国博覧会までさかのぼります。当時のチェコ・パヴィリオンにおいてのプログラムがラテルナ・マギカと呼ばれ、後にこの劇場の名前として与えられました。プログラムは言葉を使わず、フィルム・プロジェクターに、ライヴの動きであるダンス、音と光、パントマイム、ブラックライトシアターの要素をからめたパフォーマンスで、劇場は世界中を巡りました。

 「ラテルナマギカ」は、言葉の意味としては、元々「幻灯機」のことのようですね。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.04.29

■飛騨高山 留之助商店 本店  訪問記

Tomenosuketile
                          ※その他写真はアルバムで公開。
飛騨高山 留之助商店 本店 公式HP

 SF映画研究家 中子真治氏が店主の留之助商店 本店へ行ってきました。

 高速が開通し、うちからなんと約2時間で高山まで着いてしまった。この距離に、ターミネーターやエイリアンの映画で使われた本物が存在していると思うと、それだけで嬉しい(^^;)。

 繁華街の大通りに面して留之助商店はある。
 店先には「玩具みたいな芸術みたいなオブジェモチャ専門店」、「ハリウッドSFX映画プロップ・ギャラリー」の二つの看板が向かい合って並んでいる。そして入場料500円を払って中へ。

 60m2くらい(推定)の広さの店内にはところ狭しとオブジェモチャとプロップが並べられている。特にプロップはそのまま置いてあるが、オブジェモチャはほとんどガラスのショーケースに収められている。それぞれがまさに壮観。店主さんのBlogで観たことのあるものが多いが、それにしても写真でなく実物の存在感は圧巻。特に写真ではわからない大きさの感覚と、(オブジェなので当たり前なのだけど)それが物体であることによる立体感。

◆オブジェモチャを鑑賞する脳の回路の物語

 あの写真のこれは、この存在感だったんだね、って、そんな感じでじっくりと見入ってしまった。
 特にプロップは以前アプライド美術館と倉庫で観ているので、今回眼に新しかったのが、オブジェモチャ。アートとフィギュアの中間に位置するアーティストの立体造形作品のポップなイメージを堪能。あまりこうしたものは日本で紹介されていることを知らないのだけれど、この味わいは脳の新しい回路を刺激する。

 正直、店主さんのBlogで拝見してた時は、頭の回路が着いて行ってなくて、どうもいま一つピンとこなかったのだけれど、今回立体物で全体の質感がとらえられて、なんだかとても感心して見入ってしまった。これが新しい脳の回路が開拓されていく瞬間なのだろう。

 無性にほしくなるアイテムもいくつかあったのだけれど、これ以上収集するものを増やすと、金銭的にもスペース的にも、そして家族の視線的にも辛いので、今回はオブジェモチャは一つも買わずに帰ってきた。同行した妻は、ざっとひととおり見て、また旦那の趣味が増えるのかと危惧しつつ、先に高山のGWの雑踏へと出て行ったのであった。(自制心という言葉は私の辞書にまだかすかに残っていたようだ(^^;))

 というわけでお土産は写真とアメリカの「HI-FRUCTOSE:ハイ・フルクトース」という“アートの秘境ガイド”誌。写真はアルバムとして公開します。いつものようにハイビジョンハンディカムで撮影した動画から切り出した静止画です。店内は撮影自由、Blogでの公開も店長さんにOKをもらったので、よかったら見てやってください。
 「HI-FRUCTOSE:ハイ・フルクトース」については刺激的な雑誌なので、後日詳細をご紹介する予定。

そして中子真治氏は今回不在

 実は今回、もしかしたら中子氏に会うことができるのではないかと期待して、氏がSF映画作家論を連載していた雑誌「奇想天外」と大作『超SF映画』を持参して行った。もし会えれば、それらのファンであるという話とサインをもらいたいと思ったから((^^;)。ミーハーと笑って下さい)。

 でも本当にこの「奇想天外」誌の連載「新主流派SF映画作家論」は、僕の学生時代のSF映画鑑賞のバイブルだった。鋭い分析とクールな文体は今も輝きを失っていない。この連載が単行本として纏まっていないことが今も僕には残念でならない。

 話をさせてもらった店長さんによると、中子氏は昨日来店してたとのこと(!)。
 最近は本業が忙しく、ほとんどここには来られないらしい。

 本にサインをほしかった、という話をすると、親切にも預かってお送りすることもできます、と言ってもらったのだけれど、さすがに気が引けてご遠慮しました。

>>店長さん
 プロップとオブジェモチャの紹介と、そして中子さんの話をありがとうございました。

◆関連リンク
mixiに「中子真治」氏のファンのコミュニティを作りました(今までないのが不思議!)。
 ファンの方、よろしけれぱ参加下さい。現在、会員は私だけ(^^)。
・Blog 店主55才、玩具道(オモチャミチ)の光と影
留之助商店 Download資料室
 むかしオブジェモチャのCMフィルムが観られる貴重なページ
・留之助商店 YAHOOでオークションの出展
Hida-Takayama travel guide - Wikitravel

For something completely different (and slightly out-of-place), Tomenosuke is a science-fiction movie gallery-store hidden a few blocks north of the Train Station. Inside the store you will find some very cool original movie props (a beast mask from Star Wars, the original robot suit from Spaceballs, and a 1/4 model of the Alien queen for example) in addition to replicas and American designer art figurines. There is an admission fee of 500 yen, but it is well worth it.

 留之助商店の紹介記事がイギリスのWikitravelで大きく取り上げられているとのことで原典をペーストしました。僕が見てた時、外国人観光客は入り口で興味深そうにしてたけど入店しませんでした。

◆当Blog記事
・92年 下呂のアプライド美術館と中子真治氏の倉庫
『ブレードランナーの未来世紀』町山智浩氏と中子真治氏
中子真治氏のオブジェモチャ専門店 飛騨高山 留之助商店 本店

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.04.09

■伊藤計劃 『虐殺器官』 メモ

『虐殺器官』 ハヤカワ・オンライン

ポスト9・11の罪と罰を描く小松左京賞最終候補作
すごい男が現れた。
イーガンの近未来で『地獄の黙示録』とモンティ・パイソンが出会う。
日本SF史に残る衝撃のデビュー長編。    
猛毒注意。あなたはこの結末に耐えられるか?――大森望

 「SFが読みたい! 2008年版」でベスト1になった『虐殺器官』を読了。
 大森望氏の言葉通り、デビュー長編であるのに、かなり衝撃の一冊。近未来軍事SFとうたわれているけれど、エンタテインメントと思弁的・政治的な側面を両立させた傑作言語テーマSF。

 硬質な文体は翻訳SFを連想させ、無駄のない筆致と細部に盛り込まれたアイディアとトリビアなディテールが冴える。

 氏のBlog伊藤計劃:第弐位相を見ると、相当な押井守マニアで海外SFファン、ということだけど、本書はアニメ的に見ると、『パトレイバー2』の柘植の影響とか、もろもろ想像できる。映像的なシーンの鮮烈さは、まさに映画・映像ファンでもある氏の真骨頂。

 本書の面白さは、いずれ詳細に書いてみたいと思っているのだけれど、今日は駄文で締めておきます。

 本書、もしかして神山健治監督でアニメ化ということはないだろうか。
 ラストのくだりとか、もろもろ神山監督の手で映画化されたら、かなり合いそう。
 筋肉を震わせる飛行機械がタンザニア湖上空を飛翔するシーンが猛烈に映像で観たい。

 既に深く静かにそんな計画が進行しているのを夢想したりして、、、。

◆関連リンク 
・当Blog記事押井守 DVD『イノセンス』
 伊藤計劃:第弐位相へのリンク有。 といいつつ、この時アクセスして、たぶんその後はBlogを拝見してません。ずっとアクセスしてれば、新しいSF作家の誕生に立ち会えたのに残念でなりません。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.03.13

■山本 弘 『アイの物語』

山本 弘『アイの物語』(amazon)
作者解題 (山本弘のSF秘密基地)

 現実はフィクションほど筋が通ってはいない。物語のように理想的なハッピーエンドを迎えることはほとんどない。ハッピーエンドを書けば「甘い」「そんなことあるわけない」「現実離れしている」と批判する人もいる。だが「そんなことあるわけない」のは、作者だって百も承知である。
 これはフィクションにすぎない。ひとかけらの事実も含まれてはいない。だが、フィクションだからこそ素晴らしいものもあるはずだ。

 いろいろな切り口で読める、噂に違わぬ傑作だった。
 まず主題として、フィクションが持つ価値についての物語。「機械とヒトの千夜一夜物語」とあるように、ロボットが語る複数の物語から焙り出されるフィクションの意味、これがまず素晴らしい。SF読み、かつ現実というよりは頭はいつもフィクションに浸っているような我々(僕だけ?)にとって、凄く共感できる。

◆未来の地球知性の進化ヴィジョン

 次に機械知性による地球の未来の描写。
 宇宙探査について描かれたこうしたヴィジョンはどこかのSFでたぶん読んだことがあると思うけれど、 最終話で語られるのはかなり迫真のヴィジョンである。未来にこんな光景が本当に現れるかもしれないという幻視力。ここは素晴らしいなー。

 このクライマックスの描写から、今現在、地球へ別の星から人工知能体が来ていないとすると、もしかして知的生命は地球にしか登場しなかったのではないかと思える。こんな想像をさせてしまうのもこのストーリーのプロットがコンセプトとして非常に優れているからだと思う。

◆何故人を殺してはいけないのか

 世の中で最近よくなされるこの問い。
 シンプルに答えられるはずなのに、何で迷ったり複雑怪奇な言説が出てきてしまうのか、不思議に思っていたのだけれど、山本弘はズバリと回答を書いている。そしてその答えをシンプルにロボットの知性の骨格に据えて、人間にはなしえない世界を描いている。

 本書冒頭で山本氏の娘さんへの言葉が掲げられている。
 この部分は、自身の子供と現代の子供たちへ向けた氏のメッセージだと思う。

 ゲド・シールドという言葉で人の持つ業を説明している。それによる人の限界と機械知性の可能性。SFらしいアプローチで丁寧に倫理を描いている。今の時代、なかなか貴重なことだと思う。(うちの子供たちにも読ませたいけど、読まないんだよなー、これが(^^;)。)

◆機械知性の意識への疑問

 と書きつつ、実はここで描かれた、人の限界と機械知性の対比には、実は僕はかなりリアリティとして疑問を持った。(冒頭で書いたようにフィクションとしては全然OKなのだけれど、、、)。

 というのは、ロボットが意識を持つ過程を書いていないことに起因する。僕にとってはこの本のひとつ残念な点である。

 乱暴にまとめると、本書の機械知性は鉄腕アトムと同じ。つまり意識の生まれる過程ではなく、本書の人工知能はすでに意識らしきものをはじめから持っていて、描かれているのはそこに自我が生成していく過程のみ。

 実は意識とゲド・シールドというのは原理的に非常に密接な関係があるんじゃないかと思う。極論すると、ゲド・シールドこそが意識そのものって感じがするので、果たして本書で描かれた意識を持った機械知性が本当にゲド・シールドからこれほどフリーでいられるのか、甚だ疑問だなー、と思いつつ読んでいた。

 と、最後暴走して全く自分のあやふやな観点で批評してしまったけれど、連作短編としてこれだけ力のある作品はなかなかないと思う。非常に丹念に人工知能のありようを地に足のついた描写で書いていて、フィクションの魅力にあふれた一冊。お薦めです。

◆当Blog記事 人工知能の意識関連リンク
意識を持ったロボット
無意識の脳活動と芸術家の「半眼」 
神林長平が描くロボットの意識『膚の下』 
茂木健一郎 『プロセス・アイ』Process A.I.

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.02.27

■復刊 アルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ!: Tiger!Tiger!』

Tiger_tiger_02

アルフレッド・ベスター著,中田耕治訳『虎よ、虎よ!: Tiger!Tiger!』(amazon)
ハヤカワ・オンライン

 この物情騒然たる25世紀を背景として、顔に異様な虎の刺青をされた野生の男ガリヴァー・フォイルの、無限の時空をまたにかけた絢爛たる〈ヴォーガ〉復讐の物語が、ここに始まる……鬼才が放つ不朽の名作!

 ベスターのワイド・スクリーン・バロックSFの傑作が復刊。
 寺田克也の表紙が素晴らしかったので、世界の『The Stars My Destination/Tiger!Tiger!』の表紙を集めてみました。

 アメリカ映画界は最近日本の過去のアニメにまで題材を求めるようになっていますが、こんな映画向きの傑作が自分たちの国に眠っているのを知らないのでしょうか。まさしくもったいない。

Image9 それにしても最下段左ふたつの英語版イラストはなんだかなー。
 ガリバー・フォイルはこんなじゃないぞぉー。二人目はまるでドクター・スミスじゃないか!

 最下段右の寺田克也のが群を抜いていいですね。

  検索でひっかかった左のDonato Giancola氏のイラストもなかなか素晴らしい。
 この方のほかの題材のイラストを掲載した下記のサイトもお薦めです。
 Friday Favorites: Donato Giancola

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2008.02.26

■新刊メモ 眉村 卓『司政官全短編』

眉村 卓『司政官全短編』 東京創元社

地 球人類が星々に進出した時代。だが、それまでの連邦軍による植民惑星の統治が軋轢を生じさせるに及び、連邦経営機構は新たな制度を発足させた――それが司 政官制度である。官僚ロボットSQ1を従えて、人類の理解を超えた植民星種族(ロボット、植物、角の生えたヒト型生命など)に単身挑む、若き司政官たちの 群像。

 これも刊行が嬉しい眉村卓の傑作群。
 僕は『消滅の光輪』が一番好きなのだけれど、書き込まれた異星世界とロボットによる端正で知的な政治世界が魅力のSF。こんな能力があれば、ロボットに日本の政治家は一掃してほしいもの。

著者あとがき

 (略)妻が 亡くなって気がついたのは、自分が過去からやって来て現代にいる――いわば未来滞在者になっていた、ということである。要するに、老人になったのだ。そし て今の私には、新しく、書きたいものが生まれてきた。

 もしも私が司政官を書くとしたら……きっと、違う角度からのそれであろう。それは仕方のないことなのだ。ひょっとすると、老人小説として書くのだろうか? いや、そんなことは不可能だ。それとも……。

 先日の筒井康隆の本でも書いたのだけれど、日本のこの世代のSF作家が年老いていることを気づかされてしまう。もう一度新作の司政官を是非読ませていただきたいものです。

◆関連リンク
_ 眉村 卓『Hikishio No Toki (引き潮のとき)』(amazon)
 これは英訳版のようです。
眉村 卓『消滅の光輪』(amazon)

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2008.02.18

■筒井 康隆『ダンシング・ヴァニティ:Dancing Vanity』

筒井 康隆『ダンシング・ヴァニティ』(amazon)

この小説は、 反復し増殖する、驚愕の文体で書かれています。この作品を読んだあとは、人の世の失敗も成功も、名誉も愛も、家族の死も、自分の死さえもが、全く新しい意 味をもち始めるでしょう。そして他の小説にも、現実生活にさえも、反復が起きる期待を持ってしまうかもしれません。

冒頭部分掲載 雑誌『新潮』編集長・矢野優氏から (新潮公式)

「一般読者や同業者が首を傾げたり、もしかすると「錯乱の産物」として眉を顰めるかもしれないような小説を創ることこそわが使命」。これは本号掲載の「ダンシング・ヴァニティ」(長篇第1部130枚)を予告した筒井康隆氏の言葉だ

 「反復し増殖する、驚愕の文体」は、時に「錯乱の産物」として読者の眼前に現れ、過去の記憶と現在を混沌とさせる。

 「自分の死さえもが、全く新しい意 味をもち始める」というのは、ちょっと大げさではあるけれども、しかし後半のネタばれ部分で述べるように、まさに「死」を想像する時の自分のイメージを少し拡張されたような気になるのは、確か。

 いきなり冒頭から反復するシーン。
 内容はほぼ同じなのに、少しづつ表現が変えてあることで書かれているそのひとつづつの時間が、少しだけ別の小世界として立ち現れる。小説の構造に切り込んでいる作家の実験を感じる。少しづつの表現の違いで、読者の想起する小世界を自在にコントロール熟練の作家の技に舌を巻く。

 齢73歳の筒井、この年齢でここまでの文学的な冒険を実現できることに驚嘆しながら読み進めていたのだが、それは大変失礼な感想。

 読み終えた時には、まさにこの年齢だからこそ、死を間近なものとして切実に感じているだろう作家の想像力が描き出した世界であることがわかる(ある番組での「未来は死ぬんだよ、俺は」の発言が生々しく思い出される)。

 反復の意味。読者は本書の最後でそれに気づくことになる。たぶん。

★★★★★★★★以下、ネタばれ注意★★★★★★★★★★

 Dancing Vanityとは、直訳すると「踊る空虚/虚飾」。これは何か。
 死の直前で自分のありようを認識する主人公のシーンがまず思い出される。

 反復する文章は、死の直前の時制の混乱を示しているのだろう。反復しているのは、主人公の記憶。そしてあり得たかもしれない自分の人生。走馬灯のように、死の直前の錯乱した精神の中に立ち現れる光景がこの小説全体なのだろう。

 だから僕たちはそれを疑似体験する。正確には作家筒井が思い描く、死の直前の精神がさらされる状況なのだが、、、。虚構を究めようとしている作家が挑んだこの今回の作品のターゲットは、恐ろしく巨大なものだ。

 それが成功しているか、少しだけその尻尾を掴んだのかは、実は僕らには今は判断できない。そしておそらくそれをわかって、この本の書評を精度よく書ける人間はどこにもいないだろう。
 なぜならそれは、死に直面してみないとわからないから、、、。

 キトクロ キトクロ キノクトロ キクラト キクラト キノクラト

 果たして僕ら読者は、この言葉を自分のその瞬間に思い出すことがあるのだろうか。

 、、、、と何やら誇大妄想な感想になってしまったけれど、読んでいる間はいろいろな趣向が散りばめられていて楽しく読めるいつものスラプスティック。狂騒的に描かれるいくつものシーンの切れ味は相変わらず鋭い。

◆関連リンク
asahi.com:「場面反復」の実験的小説 筒井康隆氏 新作『ダンシング・ヴァニティ』

 「人間の記憶は、大事な部分が強調されたり、いやなことが省略されたり、回想するうちに歪曲(わいきょく)されていくもの。だけど失敗も含めて通過してきたことで現在の自分がある。どの道を通っても完成された死はない、と主人公は知るのです」

 2/20追記、筒井氏のインタビューがありました。まさにテーマについて語られています。
・筒井康隆公式サイト
BSアニメ夜話 細田守『時をかける少女』
 筒井康隆、アニメにおける文学の可能性を毒とともに語る

 この小説は雑誌『新潮』07年2,5,8,9月号に発表されたもの。
 一方、細田守の『時をかける少女』が公開されたのは06年7月15日。
 反復する小説を思いついたのは、実はこの映画を観て文学とゲーム的リアリズムの関係を描く手法を思いついたから、ということはないだろうか(邪推)。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008.02.17

■SFマガジン編集部編『SFが読みたい!2008年版』
   & 究極映像研 2007年SFベスト

SFが読みたい!2008年版 (ハヤカワ) (amazon)

 今年、日本はほとんど読んでいないけれど、海外は少しカバー(^^;)。
 ので僕も一応ベスト選出。

2007年 SFベスト
 タイトル部分リンクは、当Blog記事へ。もしよろしければ、コメントはそちらで読んでいただければ幸いです。(Blogに感想書くと、こういう時は凄く便利。)
 気に入った順番で挙げます。

★日本★
 円城 塔『Self-Reference ENGINE』
井上 晴樹『日本ロボット戦争記―1939~1945』
 冲方 丁『マルドゥック・ヴェロシティ』
 昨年は、この作品が読みたくて『マルドゥック・スクランブル』から続けて6冊読了。しかし機会を逸して感想は書いてない。
 僕はどちらかというとポーカーSFとしてあれだけ読ませた『スクランブル』の方が好き。でもどちらもダークで硬質な雰囲気がとても良い。

★海外★
 スタニスワフ・レム, 久山 宏一訳『フィアスコ(大失敗)』
 ケリー・リンク『マジック・フォー・ビギナーズ』
 ジェイムズ・ティプトリー・Jr. 『輝くもの天より堕ち』
 ネットでは評判がいまいちだったけれど、僕は傑作と思う。『SFが読みたい』では評判が良く安心(?)した。
 アルフレッド・ベスター『ゴーレム100
 シオドア・スタージョン他, 中村 融編『千の脚を持つ男―怪物ホラー傑作選 』 
 これも感想を書いてない、、、。ホラー風味の強いウルトラQアンソロジーで、かなり広範囲の時代の作品が読めて、幸せな一冊。アンソロジスト中村融氏、相変わらずいい仕事をされてます。

2008年 各社SF出版予定

 いつもこのコーナーが楽しみなのだけれど、今年も豪華!ラインナップ。
 翻訳SF、ここ数年充実してますね。きっと買うものをメモ。順調な刊行を祈ります!

早川書房
 ジーン・ウルフ『新しい太陽の書』復刊+5巻

河出書房新社
 奇想コレクション

 ジョン・スラディック『蒸気駆動の少年』 2月
 グレッグ・イーガン『TAP』
 マーゴ・ラナガン『ブラック・ジュース』
 河出文庫
 マイクル・コニイ『ハローサマー、グッドバイ』 !!復刊
  サンリオ版持ってるけれど復刊が嬉しい。さらに傑作の『ブロントメク!』も是非。

国書刊行会 未来の文学
 クリストファー・プリースト『限りなき夏』 3月
 S・R・ディレイニー『ダルグレン』 秋
 ジーン・ウルフ『The Wizard Knight』 秋

 未来の文学 第Ⅲ期 全八冊 (来年以降?)
 ジーン・ウルフ短編集『ジーン・ウルフの暦』
 ジャック・ヴァンスベスト『奇跡なす者たち』
 R・A・ラファティ初期長編『第四の館』
 ジョン・スラディック初期長編『ミューラーフォッカー効果』
 ジョン・クロウリー日本オリジナル短編『古代の遺物』
 ディレイニー短編集『ドリフト・グラス』
 ハーラン・エリスン犯罪小説集『愛なんてセックスの書き間違い』
 伊藤典夫編アンソロジー

徳間書店
 野阿梓『伯林星列』

◆関連リンク
未来の文学(Wiki)
ジョン・スラデック『蒸気駆動の少年』 (amazon) 柳下氏HP あとがき
映画評論家緊張日記: 『蒸気駆動の少年』発売記念トークイベント
・SFマガジン編集部編『SFが読みたい! (2007年版) 』
 & 究極映像研 2000年代前期SFベスト

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2008.02.13

■山本弘 『MM9』 僕たちの町であんな怪獣を暴れさせないでくれ(^^)

山本弘『MM9(エムエムナイン)』(東京創元社HP)

Mm9  地震、台風などと同じく自然災害の一種として“怪獣災害”が存在する現代。有数の怪獣大国である日本では、怪獣対策のスペシャリスト集団「気象庁特異生物対策部」、略して「気特対」が日夜を問わず日本の防衛に駆け回っていた。

 図書館で借りて読了。
 これは円谷ウルトラシリーズで育った世代には嬉しい一冊。全編円谷への愛に満ちている。

 特に素晴らしいのが、最終話「出現!黙示録大怪獣」。
 怪獣のヴィジュアルがいい。東宝怪獣のアレを思い出すのだが、体表の赤い色と背中にある○○が異様な光景をイメージさせている。ここは是非、樋口監督に映画化してほしいもの。

 いささか残念だったのは、その円谷への愛ゆえに、もう少しSFとして突っ込んで書いたら面白くなりそうなところも、日曜七時のTVシリーズの雰囲気を重視するあまりに人物描写や組織面等々で脇の甘さが目立って、物足りなさがでてしまっているところ。

 この点では先行するウルトラマンリスペクト作品である小林 泰三『ΑΩ(アルファ・オメガ)』の方が出来が良かった記憶。

 本作では「人間原理」を用いたSF設定がなかなか面白い。ここをもっとハードに拡張して怪獣を物凄い存在として描けていたら、SFとしての評価も高かったのだろうと思う。

◆某SF研OB 必読 「危険!少女逃亡中」

 ここからは昔の仲間に私信(^^;)。
 この話には、僕たちがよく知っている長良橋や金華橋や忠節橋といった地名が目白押し。たぶんTVでは放映できないとんでもない怪獣がよく知っている場所で暴れまわる。
 この異様なビジュアルをリアルに楽しめるのは、某SF研OBの特権。学生時代にこの作品が刊行されていたら、どんなにか盛り上がったろう。きっとだれかが自主映画化をたくらんだことでしょう(どうやって撮るんだ!と突っ込まないように)。
 必読です>>ミのつく職人くん、鬼頭くん、クマさん他。
 (どうでもいいが、金華橋は「きんかきょう」とルビが振られているが、「きんかばし」が正解)

◆関連リンク
山本弘のSF秘密基地 『MM9』
 各話あらすじと裏話、過去の災害として描写される怪獣の原典が説明されている。
小林 泰三『ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚』(amazon)
山本弘『MM9』(Amazon)
シオドア・スタージョン他, 中村 融編『千の脚を持つ男―怪物ホラー傑作選 』

 

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2008.01.16

■新刊メモ 円城 塔 『Boy’s Surface』

円城 塔『Boy’s Surface』(amazon) ハヤカワ・オンライン

〈ハヤカワSFシリーズ Jコレクション〉初恋の不可能性を巡る物語を語る写像の物語「Boy’s Surface」、読者を読む恋愛小説機関「Your Heads Only」、そして書き下ろしの「Gernsback Intersection」ほかを収録する数理学的純愛小説集。刊行日:2008/01/24

Self-Reference ENGINE (円城塔氏Blog)

週刊朝日2008年1月18日号(2008年01月04日発売) 決定「最強の本」ベストテン豊崎由美×大森望 「2008年活躍が期待される作家」 で言及を頂いていました。 有難う御座います。 「Boy's Surface」が7位に。まだ出ていないのに。 (短編自体はSFMに掲載頂いております。)

 昨年読んだ日本SFでベストだったのが(実はそんなに数、読んでいないのだけど、、、)『Self-Reference ENGINE』。とにかくそのぶったまげるイメージの世界に酔いました。

 で、新作はなんと「純愛小説」。もちろん一筋縄では行かないでしょう。
 「数理学的」というのは前作も同じだけれど、今回はどんな奇想をみせてくれるか、発売日が楽しみでしょうがありません。(最近、SFMはとんと買っていないので、、、、(^^;))

◆関連リンク
著者インタビュー:円城塔先生 (Anima Solaris)

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2008.01.05

■Arthur Clarke's 90th birthday reflections video
  アーサー・C・クラーク 90歳の誕生日メッセージ

Arthur_clarkeSir Arthur Clarke's 90th birthday reflections video
Sir Arthur C Clarke's 90th Birth day (Blog)

 2007.12/16に90歳になったアーサー・C・クラーク氏のコメントがThilina Heenatigala氏の手によってウェブにアップされている。

 コメントのポイントは以下(意訳もありますが御容赦あれ)。

・この90年で夢が実現してきた。50年間の政府の宇宙開発の時代をへて、いよいよ商業宇宙飛行の時代に至ろうとしている。これからの50年間で何千人もの人々が宇宙旅行をするだろう。

・この四半世紀で携帯電話が人のコミュニケーションを変革した。人々は携帯電話でまるで家族と居るようにいつでもクチャクチャしゃべっている。これが人類にとって何を意味するか。

・人類は史上最も野蛮な世紀である20世紀から何を学んだか。
 私は民族を超えて真のグローバリゼーションと呼べるような一つの家族として人類が行動するのを見てみたい。

・私には3つの望みがある。ひとつは異星人との通信の実現、石油に代わるエネルギの登場、そしてスリランカの平和である。

 クラーク氏らしい21世紀の希望を語った前向きなコメント。このオプチミズムがクラーク作品の魅力なので、現在もそうした意志がくっきりとイメージされているのが、熱いSFの原点を思い出させてくれて嬉しくなる。新年らしいコメントになっているので掲載してみた。

 先日『幼年期の終わり』をひさびさに読み直して、その素晴らしいヴィジョンに再び感動した(しかもクラークがこれを書いたのはなんと36歳の時!!)。今後も健在で我々に未来のヴィジョンを提示し続けてほしいものである。

◆関連リンク
松岡正剛の千夜千冊『地球幼年期の終わり』アーサー・C・クラーク
 この松岡氏の一文は泣かせます。もっとも上のようなクラークのコメントについては、良識的と一刀両断ですが、、、。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2007.12.31

◆<発掘記事92.10/29>
下呂のアプライド美術館と中子真治氏の倉庫

<p><p><p><p><p><p><p><p><p>下呂のアプライド美術館と中子真治氏の倉庫</p></p></p></p></p></p></p></p></p>
下呂のアプライド美術館と中子真治氏の倉庫

                             1992.10/29


アプライド美術館

 岐阜県萩原町にできたアプライド美術館に行ってきた。
 あの中子真治が協力してハリウッド特撮のミニチュアの展示をしているという のが、今回のアプライド美術館の企画である。

 僕には中子真治って特別 、思い入れがある。そして彼が岐阜の出身でどっかにいるというのが、うれしか ったりもしていたのである。(ようするに中子真治のミーハーファン!! )

 で、アプライド美術館は、国道41号を美濃加茂から北へまっすぐ1時間半く らい走ったところ萩原の駅の手前にある。ちょうど41号沿いで右手に、「メト ロポリス」のマリアの看板が見えてくるからすぐわかる。

 ぼくはもしかして中子真治に会えるかもしれないという期待にすこしドキドキ しながら入っていった。
 広さは大学の普通の教室の2倍くらいで結構せまい。
 で、展示のほうは、正確には、主催は地域(まち)づくり有志会、後援/下呂市・ 萩原町、、、下呂温泉観光協会、でもって監修/中子真治とある。どうやら、むらおこしの一貫で町に住む一種の文化人である中子真治を囲んだ有志が企画したような雰囲気である。

 なかにはいるとまず宇宙服の人形が目に入り、それから奥へ進むと あるあるあるというくらいあるSF映画のミニチュアアートと小道具の展示。充実してたのは、中子真治がよく取り上げていた(友達だという)グレッグ・ジーンの作品。

Applied

← チラシより抜粋

 以下、思いつくまま展示品を挙げると未知との遭遇のデビルスタワー、ミクロ の決死圏の潜行艇、宇宙家族ロビンソンの円盤型宇宙船、そしてフライデー(!! 実物!!!!)、宇宙戦争の火星人の円盤、宇宙大作戦(でなきゃネ)のフェー ザー、通信機、TVバットマンの各種プロップ、シービュー号のフライングサブ (ぼくは子供の頃これが大好きだったのだ!!)、レッドオクトーバーのソ連原 潜、そして2001年のあの宇宙服!!!!

 かなりおおものがあって、僕は大満足。なにしろ、実家の可児から1時間 半のところに、同じ岐阜県の地に、憧れて見ていた映画に使われたこんなものたちが展示 されているというだけでワクワクするではないか!フライデーがいるんだゼ、ボ ーマンの宇宙服があるのだゼ!!
 残念ながら中子真治はいなかったけれど、満足して帰ることとした。ここは来 年の3/14までは、この展示が続き、つぎはまた別の展示が行われるらしい。 「アプライド」の言葉から「なんでも美術館」をめざすというから、また面白い ものを見せてくれるでしょう。期待!である。

 というところで終わると思ったでしょう?(長いと言う方。えーー、まだある のーーと言わんでください)

倉庫


 実はまだ続きがある。出口の所でおもしろそうなチラシを発見!
 少し戻った下呂の町に、「倉庫」という名の「博物館のような物置 お茶もで きる」店があるらしい。
 「コンセプトはウェアード・アンド・アンユージュアル  つまり変で、普通でない、ということ」
 「むかしの自動演奏ピアノやジューク ボックス。アール・デコの家具や調度品。ハリウッド映画の小道具や衣装。本物 のターミネイターやプレデター。ようするに、メイド・イン・USAの変なモノ や普通でないモノをまとめて収納したのが、当「倉庫」である。」
 「本当をいう と、ここは、変なモノや普通でないものモノに目がないオーナーが必要に迫られ てつくった単なる物置にすぎない。ほんの気まぐれから一般公開する気になった だけで、、」

 というコピー。どうです、ビンビン来ませんか?SFファンのこ ころをくすぐるこのフレーズ。あたらしもの好き、めずらしいもの好き の血がフツフツと煮えたぎるコピーじゃないですか?!

 見よ!この素晴らしいチラシ! Souko

 で、チラシの地図を見ながら、始めての下呂の町-温泉の町、VOWの町(?!)へ進入。
 大きな黄色の馬が目印のその「倉庫」は下呂のな んの偏屈もない路地をはいった幾分わかりにくい場所にあった。ふつうの田舎の町 並みに突然、アートっぽい倉庫。そこだけどっか都市の洗練/緊張感のあるたた ずまい。

 表の説明書きを見て中へ、変わっている、入口の自販機のコーヒーを500円 で買うと、それが入場料兼「お茶」になる。ちょうど小銭がなく、壊してもらお うと振り返った僕の目に入ったのは、店の人、

 なんと中子真治!!である。

 薄暗くライトアップした店内のカウンタ ー風のところに、雑誌の写真で見たあの中子真治がいるのである!(なんと なく予想したでしょ、この話の展開)(いるかもしれんと思ったけど、、いた のだ!)ぼくはドキドキしながら「あの小銭に壊してもらえますか?」(なん て間抜けなんだ!!)

 で、中子真治の顔を知らない妻は、その近くにおいてあるサ ボテンを見て「これって作り物ですか?」と抱いた娘をあやしながら気楽に聞いて いる。
 中子氏が答える。(答えるのだ!当たり前だけど、、)「そうですよ、 映画の小道具。触ってみてください、やわらかいですよ。  実はネ、うちに 同じサボテンが置いてあるんだけど、子供が小さい頃にそれでよく遊んでてネ。 で、始めて本物のサボテン見たときに、知らないからいきなり抱きついちゃって大変だっ たんですよ」なんて。
 なにも知らない妻は、そんな話に盛り上がって屈託なく話て いるのだ、、あの中子真治と!
 私はと言えば、ドキドキしながら何を話 そうか頭の中で、あせりつつ考えていたというのに!
 で、とりあえず、展示 を見てコーヒー飲んで落ち着いてから「中子真治さんですネ?」と話しかけようと 思ったわけ。

 展示は20畳くらいの広さの、まさに倉庫といった中に、ショー ケースに入った実物大のターミネイター(の骨格)、グレムリン、アメージング ストーリーのジョー・ダンテのカトゥーンものと言ったハリウッド関連から、ジュー クボックス、ライト、時計、プレイヤーピアノ、自転車といった調度品関連(しかも全 部アール・デコ調!)まで幅広い。

 極めつけは、実際に座ってコーヒーも飲めるイスの凄さ。全部 アール・デコの豪華なイスたちなのだ。思わずイスおたくの私は、全てのイスのす わりごこちを試した!(店内には、平日のためか客は、我々だけ)

 プレイヤーピアノを見ていたら、中子真治が声をかけてきた。「先 週来たお客さんが、いろいろ触ってるうちに、そのピアノ壊してしまったんですよ 。本当はいつも演奏してるんですけどネ。  この横のも面白いんですよ。これ を回すと、なかでチャップリンが動くんですよ。」ぼくら2人は覗き込むと、 パラパラマンガの要領でチャップリンの写真が動いていた。

 さあ、ここで話かけるんだ!「新進主流派SF映画作家論、好きでした」と。
 その時、外から現れた若い女性。中子真治 とあいさつをかわす、中子氏は「では、ゆっくり見ていってください」と言っ て交替に外へ行こうとする。12時が近い、どうやら昼の休憩で交替のようだ。

 頭のなかに渦巻いていたいろいろな質問は、「あ、、」という僕の溜め息とと もに行く場を失って、今も安城に燻っている。
 妻にあれが中子真治だったと話すと、「なあんだ、話かければいいのに」 と屈託がない。僕の心中は、でもわかんないだろう。(このミーハーな気持ちを どうしてくれるんだあーー!)「でも、メガネとかもすっごいいい趣味だったし 、なんか洗練されてるネ」とは、妻の中子真治評である。

 というわけで第1の中子真治との遭遇は、こんな具合でしたが、近いことだし 、また次の機会もあるでしょう。「倉庫」は、狭いけど、楽しいものがとにかく 詰まっていて、展示の照明や雰囲気もよくて、なんども足を運びたいものです。
 願わくば、あの自販機のコーヒーがもうすこしうまければ、、。(いいもの見せてもらった上に贅沢?)
 とにかく充実した半日の下呂への旅でした。

(by.BP  '92.10)
P.S. 現在('07.12)、アプライド美術館と倉庫は、運営されていません。現在は飛騨高山 留之助商店 本店で展示中。


| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.12.15

■アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』CHILDHOOD's END
  人類の未来 映像の未来

Childhoodsendtile
アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』(amazon)
                    (光文社古典新訳文庫ラインナップ)

初版から36年後に書き直された新版、初の邦訳。
SFを超えた「哲学小説」!

この改稿版には、時代の趨勢にかんがみ作品の再調整をして、そのつど人類の平和のありかたを考え直す、クラークならではの未来のヴィジョンが貫かれている。

(解説より) 地球上空に、突如として現れた巨大な宇宙船。オーヴァーロード(最高君主)と呼ばれる異星人は姿を見せることなく人類を統治し、平和で理想的な社会をもたらした。彼らの真の目的はなにか? 異星人との遭遇によって新たな道を歩み始める人類の姿を哲学的に描いた傑作SF。

 1953年に刊行され1999年に若干改稿された新版の初日本語訳。話題の古典新訳文庫にこの作品が入るというのが少し以外だったけれど、なんだかSF文庫以外で刊行されるのはとても嬉しい。

 改稿部分は第一章で、米ソの宇宙開発競争を背景としていた旧版に対して、冷戦終結後の世界情勢を反映し書き換えられている。だけれども読んだ印象はそれほど変わらない。現代からのリアリティを補ったくらいの改稿。

◆人類の未来

 今回読んだのが、たぶん中学、大学時代に続く3回目になるはず。年齢をとって読む感覚が多少変わるかと思ったけれど、異星人カレルレンと国連事務総長ストムグレンの会話がクラークにして若干若書きな印象があるくらいで、終盤の素晴らしい人類視野の展開は今だ古びていない。(新訳では「カレラン」になっているが、旧読者にはやはり「カレルレン」でないと(^^;))。この作品、クラークは36歳の時に執筆しているわけで、もう凄いとしか言いようがない。当時すでにオラフ・ステープルドン『最後にして最初の人類』といった思弁的に人類の進化を描いたSFがあったわけで、それらがクラークのこの作品に影響していることは間違いないにしても、こうした筆致で異様な人類の未来を描けているのは、全く凄い。

◆映像の未来

P285 ニューアテネで行なわれた実験のなかでもっとも目覚しい成果を上げたのは、無限の可能性を持つアニメ映画の分野だった。ディズニーから百年が経過しても、この何よりも柔軟な表現様式はまだ本領を発揮していなかった。純粋な写実主義を追求すれば実写と区別が付かない作品の制作も可能になっていたが、アニメ映画を抽象主義にそって進化させようとしている人々からは大きな軽蔑を買った。(略)

P286 そのチームの研究テーマは、"トータルアイデンティフィケーション" -完全な一体感だった。着想のもとは映画の歴史にあった。まず音が、次に色が、立体映像が、シネラマが、古い"活動写真"を着実に現実に近づけた。その発展の歴史の終着点はどこか。それは言うまでもなく、観衆が観衆であることを忘れ、映画の一部になることだろう。それを実現するには、五感のすべてを刺激したうえで、おそらくは催眠術も利用する必要がある。(略)映画を観ている間はどんな人物にでもなれる。現実のものであれ架空のものであれ、想像の及ぶ限りの冒険に参加できる。人間以外の生物の感覚印象をとらえ、記録することさえ可能になれば、植物や動物にもなれるだろう。

 こんな描写にも奮えます。映像の未来に関してもやはりこのフューチャリストの視点は素晴らしい。催眠術を援用した究極映像。この方法で映画を進化させるテクノロジーが開発されたら凄い。(ダグラス・トランブルの『ブレイン・ストーム』の世界か?) 

◆関連 対談『新世紀エヴァンゲリオン』の世界 SFマガジン 1996年8月号

  この対談は、4月28日に開催された「SFセミナー’96」でのパネルディスカッションをもとに再構成したものです。   

大森望 ぼくは逆に、光瀬龍ってのはあんまり思わなくって、やっぱりクラークの『幼年期の終り』から、小松左京を経て、最近でいえばグレッグ・ベアの『ブラッド・ミュージック』に至る、人類進化の階梯をひとつのぼるための物語として解釈してたんですが。

庵野秀明 わかんないですね。そこまで大仰なもんじゃないと思うんですけどね。やろうとしたことは。

 『幼年期』のクライマックスで現出する無表情な無数の子供たちの異様な姿。このシーンは明らかに映画版『新世紀エヴァンゲリオン』に影響している。

 そしてこの映画は、たぶん『2001年宇宙の旅』を超えて、今のところ『幼年期の終わり』の不気味な進化に最も近いイメージを映像化した作品といえるだろう。たぶんリビルド『ヱヴァンゲリヲン』の最終話が作られるまでは。

アーサー・C・クラーク『幼年期の終わり』(amazon) ルビ訳

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2007.11.17

■SF画アーティスト
   ステファン・マルティニエア:Stephan Martiniere

Stephan_martinierehorz
http://www.martiniere.com/ (公式HP)
stephan martiniere(Google イメージ検索) wiki

12vert_2

 Amazonで見つけた海外のアーティスト。
 公式HPのGALLERYが充実している。リアルなメカや未来都市細密画から幻想画、コミカルなタッチの絵までかなり幅が広い。そして技巧もイメージも秀逸。

 僕は都市のリアリティと右の絵のような幻想画の色合いにしびれました。

 是非、公式HPをお楽しみあれ。ポスターも買えます。

 映画関係では、STARWARS EPISODE ⅡⅢi,ROBOTのプロダクションデザインも手がけているとのこと。SFのカバー画では、懐かしのハル・クレメントヴァーナー・ヴィンジスパイダー・ロビンスンラリー・ニーブン

 気に入った絵としては、このAmazing Storiesの紫の光の素晴らしい絵と、マンタと名づけられた生物の絵とか。

 日本でも画集が二冊出ています。

『Quantumscapes 日本語版―
THE ART OF STEPHAN MARTINIERE』

『Quantum Dreams 日本語版―
THE ART OF STEPHAN MARTINIERE』

本書は、映画、TV、アニメ、ゲーム、出版界の著名人が絶賛するアーティスト、Stephan Martiniere(ステファン・マルティニエア)の素晴らしい想像の世界から生まれた、デジタルペインティング アンソロジーの第1弾です。

 こちらのアニメ調リアル画はいったい何?POLYHEDRONと名づけられた絵です。マクロスのイメージですね。本当は数学的な多面体のことみたいだけど、、、。この本の中身はここで見えます。
 で、最後は海外本で共著のやつ。
STEPHAN MARTINIERE他『Robonocchio』

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2007.11.08

■近刊メモ 山本弘『MM9(エムエムナイン)』
       浦沢 直樹『PLUTO 5』

山本弘『MM9(エムエムナイン)』(東京創元社HP)

Mm9  地震、台風などと同じく自然災害の一種として“怪獣災害”が存在する現代。有数の怪獣大国である日本では、怪獣対策のスペシャリスト集団「気象庁特異生物対策部」、略して「気特対」が日夜を問わず日本の防衛に駆け回っていた。(略)
 それぞれの職能を活かして、相次ぐ難局に立ち向かう気特対部員たちの活躍を描く、本格SF+怪獣小説!

収録作品 「緊急!怪獣警報発令」 「危険!少女逃亡中」
       「脅威!飛行怪獣襲来」 「密着!気特対24時」
       「出現!黙示録大怪獣」

 中村融氏が『ウルトラQ』にインスパイアされて編んだという『千の脚を持つ男―怪物ホラー傑作選』をワクワクしながら読んでいるところなのだけれど、この近刊書もそんな『ウルトラ』シリーズに幼少時、心躍らせたであろうSF作家の作品。

 科特隊(科学特捜隊)ならぬ、気特対というのが笑わせる、やはり怪獣は自然災害で気象庁の管轄ですか(笑)。これ、われわれ世代のSFファンには必読書になる雰囲気。

浦沢 直樹『PLUTO 5』

 浦沢で一番ワクワクして読んでいる『PLUTO』の新刊が11/後半に出版。

 今回の恒例別冊付録は、小学館新人コミック大賞受賞作『Return』の完全版&別エンディングバージョン等を収録とのこと。これって『N・A・S・A』に掲載されている短編の別バージョンということですね。どんなんだろう、浦沢の原点。『N・A・S・A』掲載作は坂口尚の絵に凄く雰囲気が似ていたけれど、、、。

◆関連リンク
山本弘『MM9』(Amazon)

山本弘氏の『MM9』宣伝ページ 各話あらすじと裏話

シオドア・スタージョン他, 中村 融編『千の脚を持つ男―怪物ホラー傑作選 』
浦沢直樹短編集『N・A・S・A ナサ』(Amazon)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.11.04

■ケリー・リンク,柴田元幸訳
   『マジック・フォー・ビギナーズ:Magic for Beginners』

ケリー・リンク『マジック・フォー・ビギナーズ』(amazon)
 ハヤカワ・オンライン

 アメリカ東海岸に住むジェレミー・マーズは、巨大蜘蛛もの専門の人気ホラー作家を父に持つ15歳の少年。毎回キャストが変わり放送局も変わる、予測不可能で神出鬼没のテレビ番組『図書館』の大ファンだ。
 大おばからラスベガスのウェディングチャペルと電話ボックスを相続した母親とジェレミーは、そこに向けての大陸横断旅行を計画している。自分の電話ボックスに誰も出るはずのない電話を何度もかけていたジェレミーは、ある晩、耳慣れた声を聞く。「図書館」の主要キャラのフォックスだった。(略)
 爽やかな詩情を残す異色の青春小説である表題作(ネビュラ賞他受賞)。

 国一つが、まるごとしまい込まれているハンドバッグを持っている祖母と、そのバッグのなかに消えてしまった幼なじみを探す少女を描いたファンタジイ「妖精のハンドバッグ」(ヒューゴー賞他受賞)。なにかに取り憑かれた家を買ってしまった一家の騒動を描く、家族小説の傑作「石の動物」。
 ファンタジイ、ゴースト・ストーリー、青春小説、おとぎ話、主流文学など、さまざまなジャンルの小説9篇を、独特の瑞々しい感性で綴り、かつて誰も訪れたことのない場所へと誘う、異色短篇のショウケース。

Magic_for_biginners  長文の引用で申し訳ない。自分でこの人の作品の持つニュアンスを短い文で表現する自信がなかったので、引用した。

 この短編集、素晴らしい味わいだった。"電話ボックスを相続する"とか"ゾンビの住む「聞こ見ゆる深淵」と人の町の間に開店したコンビニ"とか"恋した妻は死んでいてその間にできた死んでいる三人の子供と暮らす夫"とか、、、とにかくその奇妙な設定の魅力がまず印象的。そして繰り広げられる人間と奇妙なものたちの劇。

 レイモンド・カーヴァーの作品は、普通の生活だけれど、根底に横たわる不安感寂寥感みたいなものが個々の登場人物の会話やちょっとしたしぐさに微妙なニュアンスで浮き出て、そこに漂う孤独感のようなものが絶妙な味わいを残す。

 このケリー・リンクの作品には、奇妙な幻影のような事物で表象するしかないような複雑な何ものかの感覚が漂っている。それは必ずしも負のイメージばかりではないのだが、我々が抱えてしまっている現実の個々に先鋭化し一言でくくれない何ものかは、こんなアプローチが必要なほどこんがらがっているのか、という感慨を抱かずにはおれない。

 でもこの奇想は本物です。お薦め。

◆関連リンク
KellyLink.net(ケリー・リンク公式HP)
 The Faery Handbag (「妖精のハンドバッグ」原文)
 他の作品 インタビュー等もあり充実。 
ケリー リンク『スペシャリストの帽子』(amazon)
 これも読んでなかったので、さっそく購入しました。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2007.10.17

■NHK ETV特集『21世紀を夢見た日々〜日本のSF50年〜』

Sf50_nenETV特集 21世紀を夢見た日々~日本のSF50年~
   【NHK教育】 10/21(日) 22:00〜23:30
             (某K君のmixi情報より)

 出演/ゲスト: 小山薫堂, 栗山千明

 伝説的なSF作家たちのグループ、「SF作家クラブ」が結成されて45年。星新一、小松左京、筒井康隆、手塚治虫など、SF作家クラブのメンバーは、文学の枠にとどまらず多方面で縦横の活躍を果たし、黄金の60年代と呼ばれるようになる。鉄腕アトムやウルトラシリーズなどがそこから生まれていった。彼らが育んだSFの「遺伝子」は、70年代半ばから音楽、映画、小説、アニメへと、さまざまなジャンルに広がり、世紀末を挟んで「オタク文化」の豊穣な世界を作り上げて行った。

 高度成長期の日本に生まれ、半世紀を経て世界に認められるようになった、日本SF。その50年にわたる歴史をたどりながら、育まれた遺伝子がどのように発展し現代日本文化を生み出したのかを浮き彫りにする。

 うすうす感じていたけど、やっぱSFが「「オタク文化」の豊穣な世界を作り上げて行った」のか(^^;;) 「日本文化」とか凄い持ち上げ方。

 何故この二人がゲストなのか、不明。二人とも実はSFファンなのだろうか。

 栗山千明の後ろに写る本棚が楽しみ。貴重な映像記録も放映されると良いな。60年代の「SF作家クラブ」のフィルムとか残っていないのだろうか。星・小松・筒井の往年のバカ話が映像で残っていたら素晴らしいのに。

◆関連リンク
・「SF作家クラブ」のHPには何もこの件は載っていない。
栗山千明(公式HP)

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2007.09.09

■ジェイムズ・ティプトリー・Jr. /浅倉久志訳
  『輝くもの天より堕ち』
  Brightness Falls from the Air, James Tiptree Jr.

Brightness_falls_from_the_air
 カバー絵のイメージ 僕は左から3番目が近い感じ

輝くもの天より堕ち(ハヤカワ・オンライン)

 翼をもつ美しい妖精のような種族が住む銀河辺境の惑星ダミエム。連邦行政官のコーリーとその夫で副行政官のキップ、医師バラムの三人は、ダミエム人を保護するため、その星に駐在していた。そこへ〈殺された星〉のもたらす壮麗な光を見物しようと観光客がやってくるが……オーロラのような光の到来とともに起こる思いもよらぬ事件とは? 

 ティプトリーの長編初翻訳出版、ワクワクして読み始めた。

 結果はまさしくティプトリーの作品。578ページの隅々にティプトリーが存在し、ファンには素晴らしい作品になっている。僕は今のところ、本年のSFベスト。(たいして読んでないけど(^^;))

 たしかに透徹した思考で徹底的にクールに人類を描き出している往年の短編群に比べると、スパイスが弱い部分もあるかもしれない。しかしその舞台設定であるとか、登場人物一人ひとりへの気づかいとか、SF小ねたアイディアとか、紛れもなく全編にティプトリーらしさが横溢している。作家の衝撃的な死の後、20年を経て、長篇小説を新刊として読むことができる日本のファンは幸せである。

◆全体

 ミステリタッチではあるけれど、謎解きストーリーになっているわけでない。ノヴァとなったヴリラコーチャと、その光景を二十光年離れた惑星ダミエムで観光するツアーの面々。

 それぞれの登場人物とヒューマンが背負った過去。特にヒューマンがヴリラコーチャとダミエムで背負った二つの大きな罪の設定が深い。その残虐性は数々人類が21世紀まで延々続けている愚行の高純度のもの。それに絡んで事件が発生し、各登場人物の人生が浮き彫りにされてくる。SFならではの設定で描かれるこの縦糸と横糸が読み応え充分。

 若干類型的な人物も出てくるが、SF設定と密接に関係し、ほかではちょっと読めないスケールの世界が提示されている。

 ノヴァ前線で観られる光景と、翼を持ったダミエム人の美しい姿のイメージが素晴らしい。

◆関連リンク
Brightness Falls from the Air, James Tiptree Jr..
 冬樹 蛉氏のレビュウ
大野万紀氏のレビュウ 津田文夫氏のレビュウ 岡本俊弥氏のレビュウ

原書27ページ分がここで読めます

『輝くもの天より墜ち』(amazon)

ジェイムズ・ティプトリー・Jr.(wikipedia)
【作家紹介】ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

・当Blog記事
 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/浅倉久志訳
  『すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた』

ネタばれ(以下、未読の方はご注意を)

続きを読む "■ジェイムズ・ティプトリー・Jr. /浅倉久志訳
  『輝くもの天より堕ち』
  Brightness Falls from the Air, James Tiptree Jr. "

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.09.06

■中子真治氏のオブジェモチャ専門店
  飛騨高山 留之助商店 本店

Tomenosuke02 飛騨高山 留之助商店 本店
             (公式HP)

玩具みたいな芸術みたいな
オブジェモチャ専門店
数千点の絶版トイをストック 海外アーティスト作のトイ&絵画 60年代の海外製玩具&家電 ハリウッド映画の小道具を展示・販売するオシャレな新感覚ショップ

 家族が偶然観た夕方のニュース番組で、中子真治氏の店を紹介していたとのこと!!

 調べてみたら、こんな公式HPがあり、お店は2006年9/29にオープンしていたそうです。近くに住んでいながら知らなかったとは不覚。

urban designers toy
  LOWBROW Art 
  Doll and ACTION FIGURE
  PROP REPLICA
  WEIRD and UNUSUAL STUFF
  店舗のご案内

 HPはこのようなコーナーで構成されていて、心躍るオブジェモチャや映画のプロップが満載。YAHOOでオークションの出展もされています。

 さらに、、、。

◆Blog 店主54才、玩具道(オモチャミチ)の光と影

 ここは凄い。あの中子真治氏のBlog。昨年の7月からスタート、店のオープンへ向けた準備の様子や、開店後の様子、新しい商品の入荷情報等満載で、ほぼ毎日更新されています。

 つまり中子氏の文章を我々ファンは毎日読めるわけです。なんというもったいない。今まで知らなかったことが悔やまれますが、雑誌と異なり遡って読むことが可能なのがネットの素晴らしさ。ワクワクしながら、今、読んでいます。

 映画の話題、特にロス在住当時の記事や交流のあった映画関係者の話題にも触れられています。ブレランをめぐる暴言とか、パリ、カルティエ、デイヴィッド・リンチ。とか、うちのBlogの来訪者の皆様にはきっと嬉しい、素晴らしい原稿が読めます。このリンチの記事には中子氏が若かりし日のリンチを撮った写真も掲載されています。

店主としては1983年以来、映画というフィルター越しでしかデイヴィッドを垣間見ることができなくなり、いまでは遠い存在の人となってしまったが、なぜかそこ、カルティエのガラス張りの美術館には20数年の空白を埋めてくれる“時間のようなもの”が展示されている気がしてならない。

 リンチについて書かれた文章の引用です。往年の中子節は健在で、この文体でエッジの効いた映画監督の情報を読むのが大好きだった僕は、ほんとうに嬉しいです。

 8ミリ映画上映会のお知らせ/前編 後編

「これを機会に倉庫から8ミリ・フィルム見つけ出し、懐かしいデザインのパッケージなどスキャンしようかと思います。で、それを紹介がてら、一度は店主の元を離れっていった膨大なフィルム・コレクションが、訳あって出戻って来るまでの四方山話でもさせてもらうつもりです。主演は小松左京先生、共演は手塚治虫先生、乞うご期待」

 この記事も最高。中子真治氏のSF映画コレクションにこんな顛末が、、、。中子ファン必読。(今までBlogがあるのを知らなかったファンはもしかして僕だけかもしれない、、と思いつつご紹介しました。)

◆関連リンク 当Blog記事
・92年 下呂のアプライド美術館と中子真治氏の倉庫
『ブレードランナーの未来世紀』町山智浩氏と中子真治氏
デヴィット・リンチ絵画展@パリ ジ・エアー・イズ・オン・ファイアー展
デヴィット・リンチの美術展 カタログ感想『The air is on fire, David Lynch』 

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2007.08.18

■FM『音の本棚』 田中光二原作ラジオドラマ『異星の人』
   エーリアン・メモ ALIEN MEMO

 30年前の1977年にFM『音の本棚』でラジオドラマ化された田中光二原作『異星の人』。
 盆休みに実家の押入れからカセットテープの録音を発掘。約10年ぶりに聴き返す。
 このドラマが凄く気に入ってて、当時何度聴いたことか、、、。たぶん僕が聴いたSFラジオドラマの中で(あまり多くはないけど)、ベストの出来だと思う。

 ネットでこのドラマに関する情報がほとんどないため(下記、関連リンクにいくつか掲載)、今回記事として紹介します。

(クリックで引用分を聴けます)

 まずはどのようなものか知ってもらうため、ドラマの一部を引用。
 (掲載するファイルは全5話各話20分 計100分のうちのほんの一部、研究の引用範囲と考えますが、著作権者の方、もし問題があればご指摘ください。30年前のSF文化的遺産(^^;)として掲載する側面もあります、ご容赦いただければ幸いです。)

◆総論

 全体の構成は次のとおり。
 (タイトルの後の数字は、僕が所持する録音の長さ。当時学生の身でテープ代にも困っていたので、ラジオからマニュアルでダイジェスト録音)

 第1話 「ドラゴン・トレイル」 7'30"
 第2話 「怒りの谷」 14'15"
 第3話 「大いなる珊瑚礁の果てに」 8'40"
 第4話 「汝が魂を翼にゆだねよ」6'00"
 第5話 「世界樹の高みに」16'45"

 原作は下記の連作短編なので、7話から5話分を抜き出してドラマ化したということになる。各話主人公のジョン・エナリーが世界の各地で、人類の営みを観察する、というもの。連作短編という形態を見事に使った物語になっている。(上の引用で興味を持っていただけたら、是非田中光二氏の原作をお薦め。傑作です。この傑作がamazonで見ると、どこの出版社のも絶版。残念でなりませんが、amazonでも古本なら買えます)

 田中光二『異星の人』(amazon)

 第1話 「ドラゴン・トレイル」
 第2話 「怒りの谷」
 第3話 「白き神々の座にて」 <エーリアン・メモ エキストラ>
 第4話 「大いなる珊瑚礁の果てに」
 第5話 「許されざる者」
 第6話 「汝が魂を翼にゆだねよ」
 第7話 「世界樹の高みに」<エーリアン・メモ エキストラ>

 僕は原作をほぼリアルタイムでSFマガジン掲載時に読んだのだけれど、このタイトルを見るだけで、雑誌掲載時の山野辺進氏のイラストがイメージとして浮かんでくる。(すみません、なつかしモードで(^^;))

 ラジオドラマの内容は、ほぼ原作に忠実。しかし細部でセリフ等に独自のニュアンスを出してある。僕は当時、原作も大好きだったのだけれど、このラジオドラマの雰囲気の方が実は好きだった。ポイントはラジオドラマならではの音楽と、変更してあるセリフまわし。

 音楽は、ドビッシーからカントリー調の曲まで各話の国/雰囲気に合わせてワールドワイドに選んである。このセンスが当時素晴らしくいいイメージを構築していた。

 セリフは、ラジオでは「誇り」という言葉を使用しているのがひとつのポイントになっている。特に「怒りの谷」のヤキ族のインディアンのホアンと、「世界樹の高みに」のコミューンのリエ(原作ではチコ)の行動をエナリーが表現する時の言葉として印象的に使われている。ラジオドラマでのテーマといっていいと思う。(原作を見直してもこの二話の中で「誇り」という単語は使われていない。)

 今回、聴きなおして思ったのだけれど、思春期に繰り返し聴いたことで僕の中では「誇り」という言葉の基本的なイメージとして、このドラマの影響が結構強く自分の中に残っているのを感じた。

 音楽と登場人物たちの素晴らしさ、エナリーの超然としたスタンスが、この言葉の語彙を定着させてしまった感じ。

 残念ながらスタッフと声優と曲名のデータが録音テープの中にもネットにもない。声優に詳しくない僕がわかるのは、ウルトラマンのムラマツキャップ役の小林昭二氏のみ。毎回彼が地球人側の主要な登場人物として出てくる。主役のエナリーの役の方は、全然わからない。女性はもしかして、旧ルパンの不二子役 二階堂有希子氏?(上の引用に声が入っています。どなたかお分かりなら、よろしくです)

 この素晴らしい作品について、どんな情報でも持ってみえたらコメントいただきたくお願いします。特に脚本が誰か、凄く知りたい。

◆田中光二「異星の人・ふたたび」

 日本SF作家クラブ編アンソロジー『2001』(amazon)
 日本SF作家クラブ公式HP

 この記事を書こうとしてネットで調べていて、20世紀末にこの連作の新作が、田中光二自身の手で書かれていることを知った。そこで近所の図書館で読んでみた。

 ジョン・エナリーを再び登場させた田中光二の現実に関する憤りをとても強く感じる一作。

 物語としては、単行本化されている7話の続きではなく、第1話~第5話の世界の延長として、エナリーが世界を旅し続けている世界の話。宇宙機の「論理知能」との決別後の話ではなく、エナリーが現在も地球の現実を観察する旅を続けている世界。

 この新作のテーマは、アフリカで続く紛争の悲惨を描くこと。94年のルワンダのツチ族とフツ族の民族紛争。99年のリベリアシエラレオネの内戦の場にエナリーが赴く。

 しかしそこに以前の連作にあった「誇り」を示す人類の姿、地球の自然と動物の美しさは描かれない。これが現実かもしれない。今ならエナリーは、「大いなる意思」へ向けて、どう地球をレポートするのだろうか。

◆関連リンク このラジオドラマについて触れているHP
SFの部屋  ::: Cafesta MyHp :::

20年以上前にラジオドラマになったんですが情報が見付かりません。 最終話「世界樹の高みに」の不思議な雰囲気は未だに覚えています。

探し物のページ 『音の本棚』(藤戸薬局さんHP)

19770307 さらば愛しの宇宙人/異星の人1「ドラゴン・トレイル」
19770309 さらば愛しの宇宙人/異星の人3「大いなる珊瑚礁の果てに」
19770310 さらば愛しの宇宙人/異星の人4「汝が魂を翼にゆだねよ」
19770311 さらば愛しの宇宙人/異星の人5「世界樹の高みに」

 『音の本棚』について、長大な作品リストが記載されています。ネットでは最も充実しているHPです。ここで『異星の人』の放送日と「さらば愛しの宇宙人」というタイトルが付いていたのを知りました。僕の記憶にはなかった情報。

★09.02/15 toshiさんのコメントに基づき、スタッフ・キャストについて追記。
 脚色   田沼雄一。
 主人公 ジョン・エナリー:岩崎信忠
 他の出演者 小林昭二、井上真樹夫、武藤礼子

 続けて、各スタッフ・キャストの関連リンクです。

Variety Japan | FILM SEARCH - 岩崎信忠
 落ち着いたクールな声の持ち主は、映画俳優としてネットに情報があります。Google画像するとドラマ『記念樹』(山田太一もシナリオを担当)のページに写真があります。
武藤礼子(Wikipedia)
 侍ジャイアンツの「理香」、ど根性ガエルの「ヨシ子先生」とか、メルモちゃんとか、、、宇宙家族ロビンソンの「ジュディ」もだ!! 旧ルパンでは「リンダ」の声なのですね。
 この方、06年に72歳で亡くなられたとのこと。僕らの世代にとっては忘れられない声です。ご冥福をお祈りします。
田沼雄一という方の本のリスト(amazon)。主にスポーツ関係の映画の本を書かれている。この方が『エイリアン・メモ』のシナリオライターなのでしょうか。
 藤戸薬局さんのWanted!のページに添付されているリストを見ると、田沼氏は相当数のシナリオをこの番組に提供されていますね。
 検索して出てきた下記情報もありますが、まさか加山雄三のペンネームじゃないですよねー(^^)。
田沼雄一(加山雄三) (若大将シリーズWikipedia)

 田沼雄一は明治時代から続く老舗のすき焼き屋「田能久」の息子で、大学の運動部(競技は作品によって異なる)のエースである。この役名は「田能久」の屋号をヒントに田沼姓が浮かび、これに加山雄三の「雄」をとって命名された。

| | コメント (8) | トラックバック (0)

2007.07.29

■新刊メモ ジェイムズ・ティプトリー・Jr. 『輝くもの天より堕ち』
  Brightness Falls from the Air, James Tiptree Jr.

Brightness_falls_from_the_air輝くもの天より堕ち(ハヤカワ・オンライン)

 翼をもつ美しい妖精のような種族が住む銀河辺境の惑星ダミエム。連邦行政官のコーリーとその夫で副行政官のキップ、医師バラムの三人は、ダミエム人を保護するため、その星に駐在していた。そこへ〈殺された星〉のもたらす壮麗な光を見物しようと観光客がやってくるが……オーロラのような光の到来とともに起こる思いもよらぬ事件とは? 

 ティプトリーの長編が初めて翻訳出版された。

 あの超絶技巧を駆使した短編群に対して、ティプトリーが長編でがどのような世界を読者に提示してくれるのか。
 本書は、あの衝撃的な死からわずか2年前に発表された彼女の二作目にして最後の長編。日本語訳で578ページの大作である。

 人類を透徹した思考で徹底的にクールに描き出した作家の、晩年の作品を心して読み進めたいと思う。

◆関連リンク
ジェイムズ・ティプトリー・Jr.(wikipedia)
【作家紹介】ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
 2002年出版の研究本The Battle of the Sexes in Science Fictionのchapter 6を参考にした紹介記事
Brightness Falls from the Air, James Tiptree Jr..
 冬樹 蛉氏のレビュウ
原書27ページ分がここで読めます
ジェイムズ・ティプトリー・Jr. 『輝くもの天より堕ち』(amazon)

・当Blog記事
 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/浅倉久志訳
  『すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた』
james_tiptree_jr.jpg

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2007.07.15

■アルフレッド・ベスター著 渡辺佐智江訳『ゴーレム100

Golem100_2
※この本は、四枚の絵を切り貼りしてグチャグチャに並べて表紙にすると、少しだけベスターのイメージに近づくのかも。どの一枚も本の内容とは合わない大嘘なので騙されないように。

アルフレッド・ベスター著 渡辺佐智江訳『ゴーレム100 (amazon)
ストーリー(読むまで死ねるかっより)

 22世紀のある巨大都市で、突如理解不能の残忍な連続殺人事件が発生した。犯人は、ゴーレム100、8人の上品なミツバチレディたちが退屈まぎれに執り行った儀式で召還した謎の悪魔である。事件の鍵を握るのは才気あふれる有能な科学者ブレイズ・シマ、事件を追うのは美貌の黒人で精神工学者グレッチェン・ナン、そして敏腕警察官インドゥニ。ゴーレム100をめぐり、3人は集合的無意識の書くとそのまた向こうを抜け、目眩く激越なる現実世界とサブリミナルな世界に突入。自らの魂と人類の生存をかけて戦いを挑む。しかしゴーレム100は進化しつづける……。
 『虎よ、虎よ!』の巨匠ベスターの最強にして最狂の幻の長編にして、ありとあらゆる言語とグラフィックを駆使して狂気の世界を構築する超問題作がついに登場!

 『ゴーレム100』を読了。
 噂にたがわず、異色作/問題作でぶっ壊れている。約30年前の小説であるが、そのぶっ壊れ度が妙に日本の現実に合う。、、、というのは、この本を通学の学生がたくさん乗る電車の中で読んだのだけど、彼らの会話がバックグランドに聞こえてくると、妙にこの本の精彩が上がるのだ。訳者の渡辺佐智江氏があとがきで書いている下記表現が、まさにぴったり。

 現時点で既に言語崩壊のスピードを果敢に加速させ、ガフしゃべり一歩手前の日本人ならば、2280年を待たずして、世界の人々に先がけ、豊穣なるジョイス語をスイスイと繰り出しながら、二進法で女男で鳥肌で水不足で超格差で相互破壊なわけだ。

 僕は言語崩壊な本はバロウズもちょっと齧っただけだし、ジョイスも読んだことがない。だから一番近く感じたのが、古川日出男の描く小説だった。言語というのが人の無意識の脳活動と意識的活動の狭間で生まれているものなら、壊れているのはどちらなのだろう、なんてことを考えながら読んだ。

 ベスターが今回描いた世界はとても猥雑な2080年のアメリカ東海岸の巨大都市ガフ。退廃にして卑猥で不条理なその都市と登場人物。彼らはきっと意識も無意識もぶっ壊れているのだと思う。ベスターが描いた言語と無意識の世界の描写は、きっとそれら両方の破壊状況を描きたかったからなのだと思う。

 破壊状況を冷静に見つめる作家の眼がそこここに感じられるのだが、まだ表面的にしか読めていないので、それ以上の突っ込みは自分の意識の領域にも無意識の領域にも今は期待できない今日この頃。

 というわけで、実はこのぶっ壊れ方に中盤付いていけず、総論としてはあまり傑作とは感じらなかった。再読がきっと必要なのだろう。だけどまず未読の『コンピュータコネクション』を探してみたい。

◆関連リンク
映画評論家緊張日記: ゴーレム降臨!

(略)「〈三省堂SFフォーラム〉史上最悪のグタグタ」とか言われてしまいました……すいません……無理矢理登壇していただいた渡辺佐智江さん、若島正さん、山形浩生くんどうもありがとうございました。まあ滝本誠の知られざるSF史と自前でゴーレム・スタンプまで用意してきてくれる渡辺さんのラブリーさは伝わったと思うのでいいですよね。

a day in the life of mercy snow(殊能将之氏のメモ)

 でたらめで安っぽくて薄っぺらくて狂っていて下品で猥褻で悪逆非道なSFだった。

 「ガラクタ以下で完全にぶっ壊れている」という意見は変わらない。しかし、解説や訳者あとがきの評価にも反対はしない。(略)

 完全にぶっ壊れているからこそすごいのだよ。
 壮大な傑作イコール唖然とするようなクズ小説なのだよ。

夢のなかでも話したと思う。 (略)

ゴーレム降臨トークショーat神田三省堂(Blog 異色な物語その他の物語 さん)
 行きたかったイベントの貴重なレポート。かなり詳細に書かれていてとても嬉しい。

(略)滝本誠さんと柳下毅一郎さんが壇上に登場。ウォーミングアップにリンチとベスターの共通点について。キーワードは“フーガ”だと。次に滝本さんのSFとの出会いの頃の話。ディックの本を持っていると女の子に逆ナンされるという夢のような時代だったようだ。(略)

 それにしても渡辺さんの話が印象的で、『ゴーレム100』に関しては集中して訳す方法をとり、45日でほとんどを仕上げたようだ(これには山形さんも驚いていた)。(略)

  柳下さん「(渡辺さんが)訳すにあたって一番苦労されたところは」  渡辺さん「あの訳すときに、とっとこハム太郎のテーマがずっと頭から離れなくて」
  一同 ?????????

 あ、僕もこの本の「フーガ」という言葉には反応。リンチファンなら当然かも。『ロストハイウェイ』のサイコジェニックフーガ(心因性記憶喪失)」。滝本氏がさらにどう深く『ゴーレム100』に切り込んだか、確認したいものです。

コンピュータ・コネクション アルフレッド・ベスター 復刊リクエスト投票
 現在投票20票。是非、投票して復刊を実現させましょう。
国書刊行会  ・ゴーレム(wiki)

当Blog記事
新刊メモ アルフレッド・ベスター『ゴーレム100』
『願い星、叶い星』アルフレッド・ベスター/中村 融訳
国書刊行会-<未来の文学>第Ⅱ期、開幕
ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』 
R・A・ラファティ 『宇宙舟歌』 
ジーン・ウルフ 『デス博士の島その他の物語』
イアン・ワトスン『エンベディング』

| | コメント (5) | トラックバック (0)

2007.07.02

■新刊メモ 神林長平 『敵は海賊・正義の眼』
  & 神林初期作品 新装版

神林 長平『敵は海賊・正義の眼』 (ハヤカワ・オンライン)

 敵は海賊シリーズの最新刊が10年ぶりに出た。
 と言いつつ、実は神林作品はほとんど読んでいるのだけれど、『敵は海賊』のみ、シリーズの4作目以降を読んでいない。これを機に読んでみようかと思う。

Kanbayashi_1

 リアル書店で、平積みで神林の文庫がいっぱい置いてあって感激。
 『敵は海賊・正義の眼』の刊行に合わせて、ミニフェアの様相。しばらく見ていなかった初期作品が新装カバーで並んでいたのが嬉しい。

 残念ながら、「神林長平でamazonの検索をかけても、これら新装版は表紙絵が入っていない。どうなってるんだ、amazon!と思ったら、楽天も似たようなものだった。

 というわけで、新装版の表紙を引用。ハヤカワオンラインで全部見えます。

◆関連リンク
『狐と踊れ』『言葉使い師』『七胴落とし』 (amazon)
『あなたの魂に安らぎあれ』『帝王の殻』『膚の下』 (amazon)

当Blog記事
『永久帰還装置』 ・『膚の下』 『ライトジーンの遺産』 
『魂の駆動体』 ・『完璧な涙』 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.06.18

■新刊メモ アルフレッド・ベスター『ゴーレム100』
  & 刊行記念・柳下毅一郎さん、滝本誠さんトークショー
   「ゴーレム降臨!-アルフレッド・ベスターに学ぶSF史」

Golem100_2
『ゴーレム100(国書刊行会)』刊行記念
柳下毅一郎さん、滝本誠さんトークショー
ゴーレム降臨!-アルフレッド・ベスターに学ぶSF史
 
     (映画評論家緊張日記: ゴーレム降臨!経由)

アルフレッド・ベスター著 渡部佐智江訳『ゴーレム100』
出版社:国書刊行会 (発売日:2007/06/25)
三省堂書店神田本店8階特設会場
2007年7月6日(金)18:30~ (開場18:00~)
6月25日発売予定の対象書籍をご予約、お買い上げの方先着100名様に、参加整理券を差し上げます。

殊能将之氏のメモ

 ガラクタ以下で完全にぶっ壊れている。「唖然とするようなクズ小説」(若島正)以外の何物でもないけれど、唖然とするだけの価値はある。

 アルフレッド・ベスターの問題作が国書刊行会のシリーズ<未来の文学>の一冊として出版されます。これも数十年翻訳が待望されていた作品。今のところ、<未来の文学>って、自分的にはハズレがないんだよなー。大期待。

 どなたかこのイベントへ行かれたら、滝本氏の語るベスターをレポートください。トラックバック大歓迎!

◆関連リンク
国書刊行会  ・ゴーレム(wiki)

当Blog記事
『願い星、叶い星』アルフレッド・ベスター/中村 融訳
国書刊行会-<未来の文学>第Ⅱ期、開幕
ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』 
R・A・ラファティ 『宇宙舟歌』 
ジーン・ウルフ 『デス博士の島その他の物語』
イアン・ワトスン『エンベディング』

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.06.07

■山田 正紀『イノセンス After the Long Goodbye』

山田 正紀『イノセンス After the Long Goodbye』(Amazon)

 バトーの一人称で、映画『イノセンス』の前日譚を語ったハードボイルド。
 主役は、バトーとその愛犬バセットハウンドのガブ。しかし主役は、僕たちが『攻殻機動隊』で知っているバトーではない。九課も出ない。トグサが一瞬出るだけ、新巻は名前だけ。
 まさにバトーを山田正紀が描いたらさもありなん、と想像できる小説。よって、アンチヒーロー的バトー。

 冒頭で、バトーが車の中でハッキングされ、無意識層に意識を移行させるような描写があるが、ここはなかなかエキサイティングだった。
 山田正紀はこの小説を書くにあたって、電脳と意識とゴーストの関係について、SF的にかなり突っ込んで考えているのではないか。ただ書きすぎてしまっていて、士郎正宗のサイバーパンクな描写には勝てない、という感じ。
 だけど意識と無意識の境界を描いているところは、面白かった。

 いないはずの息子の夢を観るくだりとか、ガブへ向かって一直線のところとか、ここにも切ないもう一人のバトーがいます。

◆関連リンク
・山田正紀『襲撃のメロディ
 車の中からのネットへのアクセスを30年前に描いた小説。僕はおそらくネットでの情報検索というのを初めて読んだのがこの小説だと思う。『イノセンス After the Long Goodbye』の車の中でハッキングにあうシーンで、この本を思い出した。
山田正紀(wikipedia)
山田正紀 - 書評Wiki『イノセンス』
山田 正紀『襲撃のメロディ』(Amazon)
『イノセンス』公開記念 押井守とバセットバウンド
押井 守, 桜 玉吉
 『犬の気持ちは、わからない―熱海バセット通信』
(Amazon)
押井作品のキーワードを探る@野良犬の塒 押井守と犬についてはここが詳しい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.03.30

■スタニスワフ・レム, 久山 宏一訳『フィアスコ(大失敗):FIASKO』

スタニスワフ・レム, 久山 宏一訳『フィアスコ(大失敗)』 (公式HP)  

任務に失敗し自らをガラス固化した飛行士は、二十二世紀に蘇生して太陽系外惑星との遭遇任務に再び志願する。不可避の大失敗を予感しつつ新たな出発をする「人間」を神話的に捉えた、レム最後の長篇。

Lem_fiasko

 1986年に出版されたポーランドのSFの巨人スタニスワフ・レム最後の長編小説。
 真正面からのファースト・コンタクトテーマのSF。思弁的であり、そして何故か日本のSFアニメーションを髣髴とされるストーリー。アニメファンに受けるワクワクする物語になってます(ラストはやはりレムですが、、、)。SFとしては、同じファーストコンタクト戦争ものとしても、神林長平の『雪風』の方がSFしてるかもしれない。

 世界の『FIASKO』のカバー絵。皆さんはどれがイメージに合いますか?
 残念ながら巨大ロボットを描いた表紙画家はいなかったようです。国書刊行会には、再販時には是非アニメータかロボットメカデザイナーの採用を希望したい(^^;)。

------------------以下、ネタばれ含みます。ご注意を---------------------------

 木星の衛星タイタンで描かれる巨大二足歩行マシン「ディグレイター」。壮大な木星のパノラマ映像の中で描かれる無骨な巨大ロボット「ディグレイター」の絵がまず素晴らしい。(あとレムの筆致で木星の巨大ロボットアニメを読める喜び(^^;)。)操縦方法はライディーン型というかエクゾスケルトン(外骨格)タイプ。乗り込んだ操縦者とロボットがマスター/スレーブの関係となっている。

 そしてロボットともにタイタンの地から掘り起こされ、22世紀の未来世界で復活する操縦士(固有名詞は不明)。
 人類は初の異星生命体とのコンタクトのため、「エウリディケ号」でブラックホールを利用して、光の速さを超える宇宙の旅へ。そして遭遇する球体戦域惑星クウィンタ。
 人類とクウィンタ星は知的なファーストコンタクトに失敗し戦闘状態に入ってしまう。そして、、、、。
 
 どうです、血沸き肉踊るでしょ。これがレムの小説のあらすじだと思えますか?ほとんどSFアニメ。

 ところどころ人類についてのレムの思弁が語られはするものの、それでもストーリーは真正面からファーストコンタクトSFアニメとしても読めるわけで嬉しくなる。ちまたでは翻訳の文が難渋で読みにくい話と言われているようだが、そんなことはなくて実に読みやすい(と言っておきます)。(確かに翻訳文は、わかりやすい言葉でも、単語が何故か原語のまま綴られて(   )の中に訳語が入っていたり読みにくいところはあるけれど、、、。)

 後半のクウィンタ星人とのコンタクト手法として、レーザーを用いてクウィンタ星の大空一面に映像が描かれるシーンがあるのだけれども、こんな壮大な映像ショー、是非観てみたい。クウィンタ星の知的生物がどうそれを認識したのかは想像するしかない。

 ラストは、レム的な不条理で終わる。しかし中盤の戦闘シーンがあまりに人間的な異星人を想像させており、僕はラストの不条理感とストレートにつながらなかった。もっともその落差、違和感が異質なものの出会いということなのかもしれないが、、、。
 あの擬人化したようにみえた敵 異星生命の思考の描き方は、レムは意図してやったのだろうか。もっとひねりがあっても良かったと思うのは、僕が読み込めていないだけなのかもしれない、、、。エンターテインメントとしても思弁的にも、とても刺激的なSFだけれど、ここがさらに過激だったら素晴らしい傑作になっていたと思う。

◆関連リンク
スタニスワフ・レム (Wikipedia)   
スタニスワフ・レム - 評山の一角:書評wiki

柳下毅一郎氏の 映画評論家緊張日記: 『大失敗』スタニスワフ・レム

 これは究極の宇宙冒険SFであり反宇宙SFである。つまり、究極の反SFなのだ。これが最後の小説になったのも当然のことである。

 実は柳下氏の言う「反SF」というところの意味が正直僕にはよくわからない、、、。たぶん読み込めていないと思うので、誰か僕に解説していただけると幸い。

・殊能将之氏の a day in the life of mercy snow 

 わたしの貧弱な脳みその限界ぎりぎりまで知的興奮をかきたてられるうえ、ほとんどスペースオペラのような通俗性があり、最後は夢の体験に酷似した幻想的・寓話的結末を迎える。「今年の海外SFベスト」と呼んでも、気が早すぎないと思う。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2007.03.01

■堀晃著『バビロニア・ウェーブ:BABYLONIA WAVE』
  創元SF文庫 国内SF刊行開始!

堀晃著『バビロニア・ウェーブ』
『バビロニア・ウェーブ』(東京創元社 公式HP)

 ――太陽系から3光日の距離に発見された、銀河面を垂直に貫く直径1200キロ、全長5380光年に及ぶレーザー光束「バビロニア・ウェーブ」。いつから、なぜ存在するのかはわからない。ただ、そこに反射鏡を45度角で差し入れれば人類は厖大なエネルギーを手中にできる。傍らに送電基地が建造されたが、そこでは極秘の計画が進行していた。

堀晃 文庫版あとがき(東京創元社|Webミステリーズ!)

 構想を巡らしているうち、宇宙SFとして、設定の大きさだけならちょっとした記録が狙えそうな気がしてきました。

 これぞ、SFの醍醐味。この全長5380光年という超巨大な存在の設定にドキドキしないSFファンはいないでしょう。長らく幻の作品となっていた傑作がついに文庫として復刊されました。
 宇宙空間の広大さと、真空の空間の虚無感に酔えること間違いなしです。徳間書店版ハードカバーを持っていますが、加藤直之氏の表紙も美しいので、もう一冊、買います!

創元SF文庫 2007年2月より国内SF刊行開始!
堀晃『バビロニア・ウェーブ』(創元SF文庫): Blog マッドサイエンティストの手帳

 創元SF文庫の一冊。クラーク、アシモフ、ハインライン、アンダーソンからイーガンまで、ずらり並んでいるあの薄紫の背表紙と同色で並べていただけるとは、さすがに感激ですねえ。

 そして創元SF文庫での日本人作家作品の刊行開始。
 ミステリは国内作品もあったので、これまでSF文庫で出てなかったのも不思議。引き続き、復刊が望まれている名作と、それから新たな新作の登場を心待ちにしたいと思います。まずは『バビロニア・ウェーブ』がヒットして、堀晃作品が続々と刊行されたら嬉しいです。

◆関連リンク
黄金の羊毛亭さんの堀晃<情報サイボーグ・シリーズ>について
てつの本棚さんのリストによると、SFマガジン1977年10月号(227号) ヒューゴー賞特集!に短編版「バビロニア・ウェーブ」が掲載。 「太陽風交点」1977年3月号、「バビロニア・ウェーブ」1977年10月号、「梅田地下オデッセイ」1978年5月号と怒涛のように傑作のオンパレード。あの時は幸せでした(^^)。
田中芳樹著『銀河英雄伝説 1 黎明編』
 創元SF文庫のもう一冊はこれ。星野之宣氏によるカバーがこちらもなかなか素晴らしい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.02.28

■SFマガジン編集部編『SFが読みたい! (2007年版) 』
  & 究極映像研 2000年代前期SFベスト

SFマガジン編集部編『SFが読みたい! (2007年版) 』 (早川書房公式HP)

 発表!「ベストSF2006」&「2000年代前期SFベスト」  今回は特別企画として、2000年から2005年までの6年間のベストSFを大発表、21世紀SF最初のスタンダードがついに決定。鏡明・大森望・前島賢の3氏による対談で総括する。
 また、恒例の年間ベストSF発表のほか、飛浩隆・浅倉久志インタビュウ、サブジャンル別ベスト10、SF関連書籍・DVD&ビデオ目録などでおくるガイドブック最新版。

 2006年のベスト10ランクイン作品は、日本海外あわせて3冊しか読んでいないという体たらく。最近は、このベストを読んでから、面白そうなものを後追いするという状況で寂しい限り。

 というわけで、ベストを見ていたら自分もリストアップしたくなりました。2006年の年間ベストは挙げられないのだけれど、「2000年代前期SFベスト」ならなんとかなりそうなのでリストアップ。(それでも日本SFは10本挙げるのがちょっと辛かった。だめだ、もっとちゃんと読まないと、、、)
 海外はこの5年間、出版が充実してますね。これも<奇想コレクション>、<未来の文学>(とハヤカワ、創元の各出版社)のおかげです。
 ところでこれらの本はしっかり売れているのだろうか。引き続き刊行が順調に進むのを祈りたい。

2000年代前期SFベスト  茶色の文字は、当Blog記事へのリンク。

★日本★
アラビアの夜の種族      神は沈黙せず
永久帰還装置          太陽の簒奪者
マルドゥックスクランブル   半島を出よ
アビシニアン           膚の下
終戦のローレライ         後巷説百物語
 番外・PLUTO 1 (これ、ベスト5には入ります)

★海外★
アジアの岸辺          エンベディング
願い星、叶い星         どんがらがん  
パターンレコグニション     最後にして最初の人類
祈りの海             あなたの人生の物語 
ゲド戦記Ⅴ アースシーの風  ミスター・ヴァーティゴ 


 「2000年代前期SFベスト」の投票内容を見ると、オラフ・ステープルドン著『最後にして最初の人類』(04年2月刊)が森下一仁氏の一票のみ。これ、傑作なのに、あまりに寂しいのでここで特筆。書かれたのは1930年だけど、今読んでも傑作。お薦めです。
 たしかに「2000年代前期SFベスト」で、1930年代の本を挙げるのも違和感あるのだろうけれど、、、。ただもともと翻訳SFは書かれた年でなく翻訳された年でベストを選ぶというところに時代を無視したところがあるのでここは特筆してみました。

 ちなみにチェックしてみたら、『SFが読みたい! (2005年版) 』では2004年ベストに対して、『最後にして最初の人類』への投票は4票(岡本俊哉、森下一仁、中藤龍一郎、鈴木力の4氏)。この年は翻訳SFの当たり年だったからしかたないでしょうね。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.02.19

■『日本沈没』スクラップNo.4
  ラジオドラマ紹介第二回と広告等

Nippon_chinbotsu_scrap_book_1 Nippon_chinbotsu_scrap_chirashi_1
 まず画像は、本のベストセラーを伝える広告 と 映画チラシ裏。
                     (詳細は、右クリック「リンクを開く」で見てください)

『日本沈没』スクラップNo.2 岡本愛彦演出ラジオドラマ
『日本沈没』スクラップNo.3 『トリツカレ男』のスクラップ帳
『日本沈没』スクラップNo.1 メディアミックス各シナリオ

 今まで3回に分けて掲載した1973年の『日本沈没』スクラップですが、コメント欄で追憶の人さんといろいろやりとりをしている中で、ラジオドラマについて疑問とか情報がありました。興味のない方には、つまらないでしょうが、面白くなってきたので(^^;)もう少し続けます。

 何かわかるかも知れないと、切れていた3本目のカセットテープを復旧。ちょうどテープの始まりが切れてたのでケースを分解、別のリールに巻きなおしてネジ止めの別のケースに収めました。SONYのテープ、偉い!だいぶんとテープの磁気の転写で音の重なりが発生していますが、ほとんど無事当時のまま聴けました。

 テープの中味は、ラジオ日本沈没第55回+その他(ラジオを聴きながらの手作業による名シーン)で60分間。特に第55回は、1973.12/31に前半のあらすじをまとめたものでラジオドラマ前半の全体像が掴めたので大収穫。やはりかなり原作に忠実。

 そして追憶の人さんが気にされている郷六郎についても少しだけわかりました!

 以下引用は、『日本沈没』スクラップNo.3 スクラップNo.2への追憶の人さんコメント

>>郷六郎とは小野寺の親友で第二新幹線の建設技師ですよね
>>私の記憶ではラジオ版に、「近ごろの日本列島は身震いしてるみたいだぜ、コンニャクみたいにな」という郷のセリフがあり、後に小野寺が頭の中でそれを反芻する、というシーンがあったと思うのですが。(略)
>>BPさんがわざわざキャスト対比表にしているということは、郷が映画にもテレビにも登場していない以上、ラジオには出ていた、ということではないでしょうか。

 

 興味のある方は、以下へ。

続きを読む "■『日本沈没』スクラップNo.4
  ラジオドラマ紹介第二回と広告等"

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2007.02.16

■公式サイトが閉鎖!! デストロイ オール ヒューマンズ!
  DESTROY ALL HUMANS!

Destroy_all_humans
内容のヤバサから、セガの公式サイトが閉鎖され、
→今は海賊版サイトでしか見れません(^^;)。 極秘映像 キャスト(voice sample) 
主題歌『馬鹿がUFOでやってくる』 O.P.ムービー(Youtube)

豪華開発陣&声優陣によってローカライズされた衝撃作! (制作秘話)

 最初からかなりマニアックなところを狙いたいという意図がありました。そうなると宇宙人やUFOの正確な情報が必要となります。いい加減に作ると舐められちゃうから(笑)。
 
 そこで自分の周りでもっとも豊富な知識を持っている人を考えたら、山本弘さんだったので相談したんです「協力してくれませんか?」って。他の人も同様です。軍事関係は佐藤大輔さんが最適だし、特撮やアニメ関係は氷川竜介さんだろうという感じで……。自分の知り合いで専門分野に詳しい人を引き入れたら結果的にこのようなメンバーになってしまいました。幸い皆さん大乗り気で引き受けてくれたんで、こちらの要望以上の仕事をしてくださいました。

 ある意味、プレイヤーへの挑戦的なほど、細部までネタが用意されている。しかも、ジャンルがSF、特撮、アニメ、コメディなど多岐に渡り、すべてを理解できる方がいたとしたら、かなりの猛者だ。

 「脚本・監修 山本弘 佐藤大輔 ムトウユージ 大倉雅彦 氷川竜介」、「キービジュアル 開田裕治」という日本語版スタッフが素晴らしい米国の侵略バカゲー。スタッフリストにある「アクリル装飾 植木不等式」の「アクリル装飾」っていったい何?と突っ込みたくなります(^^;)。

 騙されたと思って極秘映像オープニングソングを観て下さい。あと声優ファンはvoice sampleは必聴。僕は「少佐」と「西海岸の男」が好きです。

◆関連リンク 
アメリカ公式サイト
 予告編はDOWNLOADをクリック。Trailer2がちょっと良い。
 日本でこんな事態になっているのを知ってるのか!?
声優メッセージ 
氷川竜介ブログ 大進撃放送BONZO! 制作中のエピソード 
山本弘公式ページ 日本版シナリオに全面協力しています。
・げーまー的ダッシュ「ついに移植された神バカゲー!!」 元ネタ分析
『デストロイ オール ヒューマンズ!』

| | コメント (3) | トラックバック (1)

2007.02.11

■R.A.ラファティ著/井上央編訳『子供たちの午後』
   R.A.Lafferty "Among the Hairly Earthmen"

R.A. ラファティ著, 井上 央編訳『子供たちの午後』

 1982年に刊行されていたものの復刊。ラファティのとぼけた奇想が楽しめる。
 最後の「彼岸の影」は凄い。

アダムには三人の兄弟がいた Adam Had Three Brothers
 約200人のレクェセン人(全員詐欺師)を、スルリと人類世界に潜り込ませるラファティのさりげない筆致が良い。日常の中に捻じ曲がったすっとぼけた人々が暮らしているこの感覚がたまりません。

氷河来たる Day of the Glacier
 予測されていた第五氷河期が一気にやって来た1962.4月1日を描くラファティのSFデビュー作(とのことです)。巨大な地球の歴史の一頁がこうまで微視的に描かれるこの感覚はSFです。

究極の被造物 The Ultimate Creature
 「世界で一番みすぼらしい男」ピーター・フィーニィは宇宙究極の美女を評定する能力の持ち主。そして射止めた究極のクリーチャーとの生活。子沢山のふたりの食事前の風景が何気なく描かれる。「夕食に四人ほど呼んで下さらないこと!」。まったくなんだってこんな話を作るんだろう、このおじさん(下の写真の人)。語り口と奇妙さが傑作。

パニの星 The Pani Planet
 パニ星人の語り部イスカと、探検隊のツォーニング大佐との異世界コミュニケーションの掛け合い漫才が抜群に楽しい。そこへ加わる死んだはずのラドル将軍、、、。
 もし現実に20世紀後半にファーストコンタクトが起こっていたら、地球代表はラファティがつとめたら、きっと素晴らしいコミュニケーションが成立したでしょう、と思わせる話。わけのわからないものには、わけのわからない思考回路をぶつけるしかありません(^^;)。

子供たちの午後 Among the Hairly Earthmen
 地球へ降りたった子供たちが繰り広げる一大歴史劇(期間2~3世紀)。ラファティに地球の歴史をまとめてもらったら、きっと独自のどこかの別の星のような物語が生まれるでしょう。

トライ・トゥ・リメンバー Try to Remember
 わずか7ページの掌編だけれど、僕はこれ、かなり好きです。ラファティのとぼけた味を短い中でいかんなく発揮している。学問追求に集中するあまり、他の生活様式については、妻の記したノートに基づいて暮らすディラー教授の物語。こんなおとぼけ、本当にいそうだから楽しい。(続編はこういうのだそうです、読みたい。)

プディブンディアの礼儀正しい人々 The Polite People of Pudibundia
 超礼儀正しいプディブンディア星人との交流がなぜうまくいかないかの探索行に訪れたマーロウの悲劇。眼を見ると死ぬ事態と言葉の拘束力(礼儀を尽くす)とが引き起こすねじくれた世界。言葉の論理を徹底していくと、このような異常な世界が現われる。現実も冷静に見ると既にこの領域かも、いやねじくれ加減が。

マクグルダーの奇蹟 McGruder's Marvels
 戦争の勝敗を決める超小型コントロールステーション"弾丸頭脳"の受注から製造をめぐるマクグルダー氏とシャハマイスター大佐の物語。大佐が子供の頃に観た蚤の競技と"弾丸頭脳"の関係。郷愁と奇想はとりあわせが良い、僕はこの話大好きです。でもこのネタをここまで真面目に/不真面目に佳作に仕上げられるのもラファティのこのとぼけた文体があるからこそ。このネタ、エンジニアがアイディアに困った時に会社の同僚とする馬鹿話といっしょ(って僕らだけか、、、(^^;))

この世で一番忌わしい世界 The Weirdest World
 地球に追放されたヘビと、地球の直立するイモムシによる賭博の物語。異星生物のコンタクトと金が絡む話というのもラファティらしい切り口。

奪われし者にこの地を返さん How They Gave It Back
 巨大な島の市長に交渉に来るミッドランド鉄砲愛好クラブの役員たち。その目的は、、、、。
 短いけれど、濃密な空間が描かれていると感じるのは僕だけか?でもあまり奇想の度合いは高くなく、本書の中では小粒。

彼岸の影 Configuration of the North Shore
 これは掛け値なしの傑作。精神分析医とその患者が「北の岸」をめざす夢をめぐる物語。
 ふたりはシャドー・ブースと呼ばれる「夢を全ての感覚領域にわたって再生する」装置で夢を共有する。描かれる数々のイメージ描写が、素晴らしい奇想。本来夢は言語には置き換えられないと前半で精神医に語らせておいて、そして確信犯としてラファティが詩的超絶技巧で描写する言語でない夢の世界。すげえ。
 特にギニアの"下地の大地(アースベーシック)"の前触れの夢から始まり、世界の果ての大瀑布に伸びる水路を船が進むところの描写。これは鳥肌もの。

 精神分析医が見る「夢の空の形」、「人間を人間自身から解放する"究極への到達機能"」。
 メタフィクション的に見えるが、これは堂々とそのイメージを描いた傑作だと思う。たぷん形はない。

R_a

◆関連リンク
・ファンサイト 秘密のラファティについて
・ファンサイト とりあえず、ラファティ(徳島大学医学部放射線科) 子供たちの午後 -Among The Hairly Earthmen-(1982年版について) 居住世界シリーズ The Humanly Inhabited Universe  
R.A. ラファティ著作(amazon) 
・当Blog記事
 新刊メモ R.A.ラファティ 『子供たちの午後』
 R・A・ラファティ 『宇宙舟歌』 柳下毅一郎訳

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.01.29

■『ビジュアルジャーナリズムをきり拓く
   元祖オタク OH 大伴昌司の世界』展

京都大学-お知らせ/イベント情報 企画展情報 文学部
 ビジュアルジャーナリズムを切り拓く 元祖オタク OH 大伴昌司の世界
 (京都大学文学部二十世紀学研究室寄託記念)

Oh_ohtomo_syouji   昭和の高度成長期に、少年誌の巻頭グラビアの企画構成や怪獣図鑑、放送脚本など、ポップカルチャーの分野において先駆的な仕事を残した伝説の天才プランナー・故 大伴昌司。
 今回、その膨大な原稿・原画や貴重な資料が京都大学に寄託されることになりました。

会期 2007年1月30日(火曜日)
    ~2月23日(金曜日) 9時30分~17時
      (注意) 2月5日(月曜日) 休館
会場 京都大学百周年時計台記念館
   歴史展示室内(企画展示室)
入館料 無料

京都大学-お知らせ/ニュースリリース 2007年1月17日
 「ビジュアルジャーナリズムをきり拓く 元祖オタク 大伴昌司の世界」展の記者説明について

京都新聞電子版 「元祖オタク」故大伴昌司氏の資料を寄託 京大で30日から企画展

 フリー編集者の故大伴昌司氏(1936-73年)が残した資料約2万点が、京都大文学部二十世紀学研究室に寄託された。(略)
 寄託品には、怪獣図鑑や巻頭グラビアの原稿のほか、怪獣映画の制作現場の写真や広報資料など映画会社やプロダクションに現存しない資料も多いという。(略)
 企画展では、ウルトラマンやバルタン星人の解剖図の原画や、少年マガジンのグラビア原稿など約100点を展示する。

 「元祖オタク」というキャッチコピーは、大伴昌司(wikipedia)氏のイメージにどうも合わないのですが、とても面白そうな展示会です。この方ほど、70年代のSF映像シーンを深く探求していた方はいないのではないでしょうか。
Oh_ohtomo_syouji_book その貴重な資料が京都大学へ寄贈されたとは知りませんでした。その数、2万点。今回の展示は100点とのことだけれど、一日でも二日でもいいから、この2万点の資料を手にとって、「究極映像研」の視点で発掘作業をしてみたい。きっとうちのネタが山ほどあると思う。(半ば本気で声をかけていただきたかったりする、、、(^^))

 願わくば、京都大文学部二十世紀学研究室による大伴昌司アーカイブスがネットに構築されることを願って止まない。

◆関連リンク
大伴昌司の著作
・代表作 『Oh! SF映画―先駆的SF特撮映像論』
 SFマガジン連載のトータルスコープ等の先駆的な映像評論集(右書影)。トータルスコープというのは、大伴氏が名づけた完全なる映像のこと。
京都大文学部二十世紀学研究室 二十世紀研究
 こちらの研究室、オタク文化ということではなく、サブカルチャーも含めた現代史の分析がテーマのようです。
07.2/6 追記
・大伴昌司の世界展関係者 yamato-yさんの定年再出発 番組を作り続ける : (大伴昌司の世界展)準備万端
 展示の準備の様子かが掲載されています。あと正式ポスターも。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006.11.12

■新刊メモ 冲方 丁『マルドゥック・ヴェロシティ』

 
早川書房公式HP

 毎週一冊ということで出版がスタート。

 実は前作『マルドゥック・スクランブル』を今、読み始めたところ。まだ『The First Compression 圧縮』を読み終わったところですが、噂にたがわず面白い。テンポもいいし、人体改変とデカダンな雰囲気がしっかりサイバーパンク。なにより疾走感が心地良い。またちゃんと3巻読み終わったら、感想書きます。

◆関連リンクMardock_pv
・アニメ 『マルドゥック・スクランブル』公式サイト
 ソエジマヤスフミ監督によるGONZO作品。
GDH、「マルドゥック・スクランブル」を革新的な3DCGキャラでアニメ化 年初のプレスリリースでは、2006年末にOVA発売予定となっていますが、、、、。
マルドゥック・スクランブル(wikipedia)

『マルドゥック・ヴェロシティ〈1〉』 『〈2〉』 『〈3〉』 (amazon)
『マルドゥック・スクランブル―The First Compression 圧縮』
 『The Second Combustion 燃焼』
 『The Third Exhaust 排気』 (amazon)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006.10.14

■スタニスワフ・レム追悼企画『ソラリス』完全舞台化
  演劇ユニットG.com vol.5 『孤独の惑星』

Solaris_kodoku_no_wakusei
演劇ユニットG.com vol.5 [孤独の惑星] スタニスワフ・レム追悼企画 (公式HP)
 <06.10/23追記>公式ブログで稽古風景がご覧になれます。
 mixiの「スタニスワフ・レム」コミュからの情報です。きっとうちのブログを見てる方に興味を持ってもらえると思い、情報掲載者のみゆきさんから許可いただいてご紹介します。

 2001年9月にG.com第2回公演として上演された「孤独の星」の再演。
 本作の原作者であるポーランドの作家:スタニスワフ・レム(2006年3月27日逝去)への追悼公演として、同作の上演を目的とする。
(略)
 レム本人に戯曲化を承諾され舞台上演された作品は日本国内では(おそらく)本作のみ。
 2001年公演では、翻訳者である飯田規和氏(2004年1月14日逝去)に連絡。
 上演の快諾を受け、早川書房に上演許可をお願いする事となり、レム氏と直接交渉。

日程 ● 2006.11/2 (木) - 11/5 (日) (略)      
     場所 ● 劇場MOMO(中野区中野3-22-8ザ・ポケット2F)
     料金 ● 前売り3000円 / 当日3500円 / 学割チケット2500円
   作・演出 ● 三浦 剛
     原作 ● スタニスワフ・レム『ソラリスの陽のもとに』 
         (訳:飯田 規和 ハヤカワ文庫SF)
     後援 ● 駐日ポーランド共和国大使館
     出演 ● 浦川 拓海 / 佐藤 晃子 / 内藤 羊吉 / 星野 祐介 / 
         犬塚 浩毅 / 楠見 藍子 / 松村 沙瑛子 / 重盛 玲架
   舞台監督 ● 劇工房双真
   演出助手 ● 大河原 準介  (略)
     協力 ● CHINRA-MAGAZINE / MENTE / AD-AReT / 中島みゆき

 すでに2001年に一度公演されているとのこと。
 凄く観に行きたいのですが、東海地方からは遠ーいので僕は断念ですが、もしどなたか観に行かれたら、この記事へのコメントで感想をお聞かせください。

 『ソラリスの陽のもとに』って、考えたら演劇に案外むく題材かもしれません。レムの言葉がスモークのたかれた劇場の空間に拡がっていくのをイメージすると、なかなかゾクゾクします。(スモークの匂い、好きだし(^^;))

◆関連リンク
演出家プロフィール 三浦剛氏
 プロデュースユニットGCOM主催。「実験空間」専任作家/演出家。
・三浦剛氏(作・演出)オーケストラ芝居。
 実験空間×GCOM公演 「完全な真空/ブラックボックス」
 こちらはレム原作ということではないようです。
『ソラリス』 スタニスワフ・レム作品(Amazon)
・当Blog記事 
 スタニスワフ・レム Stanislaw Lem 死去
 フロリアン・クラール個展「ソラリス-セカンド・チャンバー」Solaris
 スティーブン・ソーダバーグ監督 『ソラリス』

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2006.10.02

★★ルディー・ラッカーのブログ!!
  Rudy's Blog at rudyrucker.com

Rudyrucker_mad_professorRudy's Blog at rudyrucker.com

 ラッカーが撮った写真によるワールドコンレポートだとか、イラストだとか満載。すごーーくファンキーでいいよー。興奮。(ろくに読めてないけど、、、(^^;))

 最近、日本ではラッカーの話題を全然聞かなかったのだけれど、本国では元気。

 Ruckerのページにトラックバックもコメントも付けられるわけで、考えただけでワクワクします。(だけどドキドキして、結局まだ何も実行できていない私。)

Wikepedia ルーディ・ラッカー

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006.07.20

■小松左京 『SF魂』

小松左京『SF魂』

 タイトルに惹かれて買った本書。小松左京のいまだ衰えぬ若いSFへの想いに、こちらの目頭が熱くなります。本書は小松左京の半生記であるとともに、そのジャンルの可能性の虜になりSFを創り上げてきた博覧強記のSFブルドーザー小松左京のSFエッセンスを凝縮した本。

 自分の話で申し訳ないけど、考えたら僕は中学高校時代が一番小松左京を読んでいた時期で、大人になってからは、ほんの2,3冊しか小松本を読んでいない。本格的な小松SFの出版が減っていたこともあるし、自分がどっかで小松左京を卒業してしまった錯覚を持っていたからのように思う。

 でも本書でそのエッセンスが紹介された小松哲学・人類学を読みながら、その全貌はまだまだ自分には全然理解できていないような壮大なものだと感じた。でもそれらのエッセンスは、確実に自分の中のSFコア部分に染みこんでいるのもまざまざと実感。体の中にSFを読み始めた頃のエキサイティングな熱さが蘇ってきた。

 そんな大げさなと思った元小松ファンのそこの貴方、だまされたと思って読んでみてください。最終ページのラストセンテンスに涙することは間違いないから。

 本書前半はいろいろなエッセイで読んだエピソードが多いのだけれど、後半の80年代以降が僕には新鮮だった。そして忍び寄る「老い」。心がこれだけ若々しくかつての熱い想いを継続して宿されているのに、体がゆうことを効かなくなっていることの残酷さを少しだけ文面から感じた。
 ご自愛されて、これからもこんな熱いSFコアを、世界のSFファンに注ぎ込んでいただきたいものである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006.07.18

■『小松左京全集 完全版』プロジェクト

 今週は究極映像研 小松左京週間となっております(^^;)。

 小松左京『SF魂』、もちろんタイトルに惹かれて買いました。
 ひさびさに小松氏のSFへの熱い想いに触れています。(感想は明日にでも、、、。)
 巻末の年譜を読んでいて、全集の企画があることを知りましたので御紹介。

『小松左京全集 完全版』(城西国際大学出版局)

 『小松左京全集 完全版』は、小松左京事務所と城西国際大学出版会との協働のもと、オンデマンド出版で刊行することになりました。

『小松左京全集 完全版』出版プロジェクトは、
・大学における「小松左京学」の確立と展開をめざしています。
・小松左京事務所と協働して「小松左京アーカイブ」の一環として行っています。
・「オンデマンド出版」という次世代出版システムを先導的に活用し、新しい時代の出版人材の育成を目指す「メディア学部」の教育の一環として取組んでいます。

 常に未来を思考してきた小松さんらしい企画です。他にもこのような形で全集を出している作家はいるのでしょうか。
 あと城西国際大学の「小松左京学」への取組み、「小松左京アーカイブ」、これらも興味深いですが、今のところ、同大学HP他ネットには情報がないようです。詳しく知りたいものです。「小松左京学」は、是非学んでみたいものです。作品の解析だけでなく、どうやったらあのような博覧強記に成れるのか、という「学」も学んでみたいものです。

◆関連リンク
・このオンデマンド出版は、コニカミノルタビジネスソリューションズ(株)「リアルタイムパブリッシング」システムを利用するとのこと。
小松左京がメディア学部主催のシンポジューム「オープン・プラットフォーム化による出版の新しいビジネスモデル」に参加しました。 城西国際大学と小松氏はいろいろと関係があるようです。
BookPark: オンデマンド版・小松左京全集 もうひとつのオンデマンド出版。こちらは2000年からの企画。

| | コメント (3) | トラックバック (1)

2006.07.17

■樋口真嗣監督 『日本沈没』

 森谷司郎監督の前作がデザスターパニック映画だったとすれば、今回は特撮SF映画。何故、特撮SFかは観た方には説明不要ですよね。僕は災害映画でしかなかったら、その物語の懐かしさだけを楽しむことになるのかな、と思って観に行ったのだけれど、どっこい特撮SFとして映画は構築されており、たいへん楽しめました。東宝の特撮SF映画の現代版達成を観たければ、この映画、絶対におすすめです。

 樋口真嗣監督の設定した本作のテーマは、まさにこの特撮SF映画へ『日本沈没』を化けさせることと、そして『日本沈没』を阪神・淡路大震災後の物語として再構築することにあったのだろう。そしてその二つの視点から観て、この映画は成功している。『日本沈没』の原作の良さを持った上で、換骨奪胎してこのテーマを見事に表現していると思う。かつ特撮と映画としての画面構成の的確さも素晴らしい。エンターティンメントとしてもレベルが高い。(ただ主人公小野寺俊夫が前半の何やってんだかわかんないドラマ作り(「イギリスからオファーが」と言いまわって日本の重大事に何もしていないぷーたろうにしかみえない)と、草彅剛の演技にさえ目をつぶれば(^^;))

 二つ目のテーマは、阪神・淡路大震災の被害者のことを考えたら、ある意味、地震を見せ物にしかねないこの映画がどう撮られるのか心配だったが、しかしこの映画は見事にそこに配慮し答えている。震災の被害者がこれから日本の中で、どう活躍される可能性があるかを提示した映画ではないだろうか(詳細はネタばれ部分で)。

----------ネタばれ注意!!------------

◆特撮SF映画としての達成

アップル - Pro/Film&Video - 映画監督 樋口真嗣 

「それだけに同じものを作ったのでは、絶対に前作を超えられないと思いました。そこで、監督を引き受けるにあたって、一つ条件を出しました。それは『日本が沈没する』という基本線は変えないけれど、結末を変更するということ。危機に遭遇した人間が立ち向かい、乗り越えていく姿を描きたかった。この映画は、僕なりの新しい『日本沈没』です」(樋口監督)

日本沈没公式サイト 試写会レポート

かつての映画ではみんな逃げてました。沈む日本から逃げるというお話でした。今回我々が作った映画は、ここにいる登場人物を演じた皆さん全員が、それに対して恐れず立ち向かいます。これから我々もどのような試練が来るかわかりません。そうしたときにどういう姿勢で向かっていけばいいか、そういったことを自分の中で願いを込めて、ここにいる登場人物を演じた皆さんとともにやりました。(樋口監督)

 樋口監督は子供時代に前作と衝撃的に出会って、33年ぶりにリメイクを自身の手で撮った。ここからは推定だが、小学生だった樋口少年は、前作を観たときに興奮するとともに違和感を持ったのかもしれない。今まで観ていた東宝特撮映画のいい部分、怪獣や破滅の日に立ち向かっていく人間の姿がないのが凄く不満だったのではないか。何故逃げるだけで立ち向かわないのか、『妖星ゴラス』をすら切り抜けた東宝特撮テクノロジーはどこへ行ったのか、と(^^;)。
 本作でそれを解消するクライマックスは、まさに樋口少年のフラストレーションの炸裂であるのかもしれない。細かいところではいろいろと言いたいこともあったけれど、この心意気と水平線に炸裂する爆炎がみえただけで本望(^^;)。

 (一個だけ書くと、映画としては小野寺がクライマックス手前まで何をやっているのかわからない緊迫感のなさが弱点。イギリスからオファーを受けたというネタではなく、D計画上で結城といっしょに動けない、何か重要な役目を割り振っておけば良かったのに。)

◆阪神・淡路大震災後

 この二つ目のテーマに関して、僕が、1970年代でなく今もし日本が沈むとなったら、本当にそこに立ち向かう/自分の身を呈して人を助けるという仕事をどれだけの人間がやれるか、ということを疑問に思いつつ映画を観ていたのがいい方向に作用している。
 自分含めて世の中を見回した時に、われ先に逃げ出す人間が圧倒的に多くて、そんな現代の空気の中でどうD計画を成立させるのかな、と。

 これに対しての映画の回答は、阪神大震災の被災者(それもその頃の子供たち)が現時点の「日本沈没」という災害に最も対処できる人々であり、その人たちが引っ張っていく形でD計画並びに市井の人々の脱出を実現していくのではないか、というもの。
 阿部玲子の設定と冒頭の少女を助けるシーン、これがこのテーマをくっきりと提示している。映画では玲子の行動のみから、それを描いているが、たぶん映画世界でのD計画推進の原動力はそうした被災経験者からうまれたものではないかと感じさせた。

 誰がこの時代に他人の救助に命を投げ出すだろう、という不遜な考えは、災害に直接見舞われていない地域に住んでいた自分の脳天気で批評家的な駄目さを痛感させる。地震映画に対する受け止め方は、きっと関西と新潟、普賢岳等地域の人と、災害を経験していない我々とで大きく異なるのではないか、と改めて思った。

 これを描けているだけで、この映画は素晴らしいと思う。(はたして被災地域の方々がこの映画をどうとらえられたか、非常に興味がある。この感想自体、ただの脳天気な感想と読めてしまうのかもしれない、、、。)

◆関連リンク
『日本沈没OFFICIAL BOOK―沈没へのカウントダウン』
映画「日本沈没」撮影協力 JAMSTEC
 地球深部探査船「ちきゅう」 有人潜水調査船「しんかい6500」

| | コメント (6) | トラックバック (15)

2006.07.16

■小松左京 谷甲州著 『日本沈没 第二部』

Okino_tori_shima『日本沈没 第二部』

 33年ぶりの続編。既に第一部に感動していた私の脳細胞もほとんどが新しく更新されてしまっていると思うのだけれど、とても感慨深く読みました。前作の登場人物が何人か出てくるが、まずその段階で涙(^^;)。「渡」「邦枝」という名前を想い出したのはきっと20年ぶりくらいかもしれない。いまだかろうじて生き残っている中学生時代のニューロンが反応している。

 そうした感慨で読み進めた物語は、当時続編としてイメージしていたものとは、少々ニュアンスが異なった。すでに物語世界では沈没から25年が過ぎ、混乱のピークから歳月が流れている。列車でシベリアを行く小野寺のラストシーンから第二部の物語が始まるとイメージしていたのだけれど、、、。

---------以下ネタばれ注意------------

 本書のテーマは、海の底の日本への郷愁と、コスモポリタニズムであると思う。この二つについて思ったことを書いてみたい。

◆日本への郷愁

 まず潜水艇からの映像がグッとくる。

 映しだされたのは、既視感のある風景ばかりだった。電柱の列と道路標識、二階建ての木造家屋、壁面に時計のあるコンクリートの校舎、そして田圃の畦道と用水路。
 ありふれた風景だった。日本のどの地方なのか、映像から判断することは不可能だった。それだけに、叫びだしたくなるほどの郷愁をかきたてられた。映しだされているのは典型的な日本の風景であり、誰もが心に思い描いている故郷の姿だった。(P75)

 日本の典型的風景であるが、沈没後25年のこの時代はこうしたものが限りなく郷愁を誘うイメージとなっている。25周年の式典でこの実映像が流されるシーンは圧巻。水没した都市、ここに残るのは昭和四十年代の日本であり、第二部で世界中に散らばっている日本人にとっても、物語第一部を想い出しながら読む我々読者にも、ともにあった自分たちの昭和とイメージがオーバーラップする。
 郷愁というのは、現在と過去のギャップを体感した時にうみだされるイメージなのだけど、本書では物語世界の物理的に失われた日本と、現実世界のあまりに40年代から変貌した日本の二つが別の郷愁をうみだして複雑な感慨をもたらす。物語世界の日本人の方が、現実世界の日本人より、日本人らしいと感じてしまったのは僕だけだろうか。

 水の底に沈んだ都市というのは、まるで記憶の奥底に沈んでいる過去のようなもの。第二部が映画化されることは、恐らく地味すぎる物語であり得ないように思うけれど、もし映画化されたらここが最も美しいシーンになるだろう。(既に樋口監督の映画にはそんなシーンが仕込まれていたが、、、。) 

◆コスモポリタニズム

 もうひとつのテーマは日本人の持つコスモポリタニズムについて。

 これはようやく後半の中田首相と鳥飼外相のディスカッションで明確になるビジョンである。ほぼこれが本書の日本人論のコアである。長くなるが引用する。

中田首相の言葉
 我々が真に継承すべきなのは、日本人という集団の有り様ではないのか。誇りをもって語れる日本という存在を、次世代の若者たちに残していくべきだろう。さもなければ、数世代をへずして日本は・・・日本人は消滅する。すでにその兆候は、いくつか報告されている。年ごとに日本への帰属意識はうすれ、日本国籍を放棄するものは増加しつつある。(P386)

鳥飼外相の言葉
 宗教には寛容であるはずの日本人が、なぜ既成の宗教を受入れようとしないのか。それほど日本人は、強烈な信仰を持ちあわせていたのでしょうか。
 これについては、日本人の生活様式そのものが宗教である、との指摘もあります。ユダヤ人が心の拠り所としたユダヤ教は、実は祖先から受けついだ『生活の知恵』を集大成化したものでした。それと同様に日本人も、自分達の生活様式を信仰の対象としていたのではないか。
 無論その行為は、無意識のうちにおこなわれます。それも当然で、ここでいう『日本人の生活様式』とは単なる社会常識でしかないからです。たとえていえば『嘘をつくな』とか『借りた金はかならず返せ』といった社会常識を、宗教的な行事とは誰も思わないでしょう。
 ですが日本人のアイデンティティを考える場合、これは充分信仰の対象となりえます。(略)
 均質化された社会で培われた日本の生活様式は、どれもみな含蓄があって美しい。(P392)

 誤解をおそれずにいえば、パトリオティズムやナショナリズムも捨てるべきです。そんなもので共同体を維持できるのは、せいぜい三世代-おそらく百年までです。それをすぎて四世の時代になると、急速に現地化がすすむものと考えられます。(略)
 日本人の特異さ-均質でありながら内部に別組織を抱えこみ、ときには国家よりも帰属する組織の利益を優先する点は、コスモポリタニズムにこそふさわしいのです。インターナショナリズムやグローバリズムではなく、ましてやパトリオティズムやナショナリズムでもない。そのような枠組で、自分たちの行動に枷をはめるべきではないのです。
 まして我々の同胞は、世界中に分散しています。この好機をとらえて、コスモポリタニズムに移行すべきではないでしょうか。(略)
 コスモポリタニズムには別の側面もあります。宇宙から地球を俯瞰する視点を、この考え方は持ち合わせているのです。(P393)

 生活様式とコスモポリタニズム、この二点で日本人の美点を表現しているが、わずか二人の会話で、しかもここから深化した議論がなされていないのが、凄く残念。また本来小松左京が持っている宇宙的な視点での人類/日本人考察というのは、もっと哲学的であったように思うのだけれど、それが充分に表現されているようには読めなかった。

 本来、ラストのあのシーンへいたるコスモポリタニズムを具体的に描写する世界各地での日本人たちの行動がもっと描かれていたら、芯のとおったストレートな感動につながったのではないだろうか。メガフロートとかそれをめぐる中国とのいざこざを描くよりも、書かれるべきことは他にあったのかも。

 物語を読み進めるためのドライバが前半非常に曖昧-ストーリーの目的地がなかなか提示されず、分散した日本の状況を羅列的に描くシーンが長く続くのであるが、この二人のディスカスを冒頭に持ってきて、この周辺の事象や議論で縦糸を作り出していたら、物語はリーダビリティとダイナミズムをもっと獲得していたのではないか。
 
Earth_simulator  あと蛇足的に(もうひとつの物語の縦糸なので「蛇足」というのも変なのだけど)、自然科学SFの部分では、今回、地球シミュレータが面白かった。日本沈没の地球的規模での影響がヘッドマウントディスプレイで3Dで映像として描かれるシーンがあるが、ここは脳内映像として興奮。合わせて、こうした最先端技術が軍事的な意味を持つところも面白かった。

 あと最後に、先日のラジオ<アヴァンティ>で、第三部について小松左京がこう語っていた。是非期待したいものです。
 http://www.avanti-web.com/thisweek2.html

「もしこれが出版として成功したら、今度は本当に2人の合作で第三部を書こうと約束している。もし第三部を書くとしたら、宇宙にメガフロートを作って、そこを「日本」にしようか、なんて。今度は日本人を「宇宙人」にしちゃおうって。」

◆関連リンク
・本書のパラレルワールドにある地球シミュレータ。(右の写真)これ、映画『日本沈没』に協力した海洋開発研究機構:JAMSTECに属するのですね。複雑性シミュレーション研究グループの動画で研究成果の映像が観られますが、残念ながら立体映像ではない(^^;)。

沖の鳥島の映像。沖の鳥島写真集。沈没後の日本領土はこのように守られたのでしょう。

mixiコミュ 『日本沈没 第二部』 なかったので、自分で立ち上げました。初コミュ(^^;)。
吾妻 ひでお他『日本ふるさと沈没』 

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006.07.15

■トークライブ「小松左京&谷甲州,『日本沈没』を語る」と
  サタデー・ウエイティング・バーAVANTI 「小松左京SP」

 今夜の東京は、さながら小松左京ライブ。

宇宙作家クラブpresents 「小松左京&谷甲州,『日本沈没』を語る
  (shamonさんの情報より)

7/15に映画「日本沈没」も公開。そして小説「日本沈没」第二部も発売。
小松左京氏とともに第二部作者の谷甲州氏をお招きしてのトークライブ。
この対談イベント、必見!
【出演】小松左京(作家)【Guest】谷甲州(作家)
【聞き手】松浦晋也、笹本祐一
18:30Open/19:00Start 前売¥2300/当日¥2500(共に飲食別)
前売はロフトプラスワン店頭にて7/9~発売

◆僕も極秘情報(^^;)をひとつ。
 今夜アヴァンティ:SUNTORY SATURDAY WAITING BAR AVANTIに小松左京が17:00来店との情報を掴みました。 予約の噂  今週の来店

 7月15日の土曜日は、作家の小松左京さま、タレントの草なぎ剛 さま、サイエンス・ライターの鹿野司さま、のご予約が入ってい ます。

 というわけで、今夜我々も究極映像研のオフ会、急遽開催。AVANTIにくり出して、聞き耳をたてましょう(^^;)。

◆これら情報は、mixi『日本沈没 第二部』コミュと連係しています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006.07.08

■ついに刊行!小松左京+谷甲州著『日本沈没 第二部』

小松左京+谷甲州著『日本沈没 第二部』

 中学の時に『日本沈没』を読んで小松左京にしびれ、それから僕のSFどっぷりの生活が始まりました(^^;)。個人的に読書の原点のような本なので、続編の刊行、感慨深いです。

 いつだったかのSF大会で小松氏が、「第二部」についてはいつ脱稿するか聞かないでくれ!と訴えていたのを、つい昨日のことのように想い出しますが、既に刊行から30年以上経ってしまったのですね(遠い目)。

 で、この本の刊行予定を全く知らなかった私は、今日、本屋で突然、眼にして驚愕!!もう一生読めない本のリストに入っていたので、ひさびさのセンス・オブ・ワンダーでした。

 さー、こうしてる暇があったら、読まなきゃ。読書に沈んできまーーす!!

◆関連リンク
小松左京原作 『日本沈没』研究会: 『日本沈没』第二部について その1
・2006映画 名古屋版ポスター
 僕も映画館に貼ってあるのをみましたが、これはのけぞります。
 だって金シャチが、、、。
 生頼範義氏にこんな怪獣金シャチ(お笑い)を描かせてしまった東宝宣伝部って、、、。
mixiコミュ 『日本沈没 第二部』 なかったので、自分で立ち上げました。初コミュ(^^;)。

吾妻 ひでお他『日本ふるさと沈没』
吾妻 ひでお『うつうつひでお日記』

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2006.06.20

■フロリアン・クラール個展
  「ソラリス-セカンド・チャンバー」Solaris

S o l a r i s

フロリアン・クラール「ソラリス-セカンド・チャンバー」
6つの主題によるチャンバーオペラより~情景その2
会期 :2006年6月16日(金)~2006年7月14日(土)
会場 :ヴァイスフェルト(レントゲンヴェルケ)
住所 :東京都港区六本木6-8-14 コンプレックス北館3F
tel / fax :03-3475-0166
ホームページ:http://www.roentgenwerke.com

<展覧会概要>
フロリアン・クラールは、1968年ドイツに生まれ、94年にシュトゥットガルト国立芸術大学大学院を卒業後、武蔵野美術大学の研究員として来日。一時渡米し、数年間メディアアートと彫刻を教えた後再来日。現在は神奈川県にアトリエを構えて活動をしています。
91年以降国内外で数多くの展覧会に参加し、また多数のパブリックアートも手がけてきました。
数学や音楽を制作の根幹に置くクラールは、幾何学的なパターンで構築される彫刻作品で知られ、その技術や思想は、常に注目を集めています。
今回ヴァイスフェルトでは、2002年以来の、久々の個展を開催致します。
展覧会のタイトルである「ソラリス:セカンド・チャンバー」はスタニスワフ・レムのSF小説「ソラリス」にインスピレーションを得て、その概念を導入した作品で、2001年に福岡の三菱地所アルティアムで開催された「'Solaris' a chamberopera」の中で展開されたインスタレーション作品の一部をリメイクしたものです。
自己に眠る記憶や想像といった、無意識が引き起こす、夢想の現実。事象と心象の相互作用。物質と非物質の融合。浮遊する感覚は、内と外の境界線を超越し、規則性を持つ混乱へ、自己の中核へと導かれ…クラールは、美しい独自の公式と、時間を経て変化し続ける彼自身の記憶とに従って、システムを作るようにその世界観を作り出します。暗闇となったギャラリーの空間には、小さな街灯の灯る人工都市が出現します。リズミカルな灯りが照らす、無限のループは、我々に遠い未来の記憶を沸き起こすかのようです。

展覧会初日の6月16日(金)午後7時よりアーティストを囲みましてのオープニングパーティを開催致します。ご多忙とは存じますが、万障お繰り合わせの上、是非ともの御来廊を心よりお待ち申し上げます。

 先ごろ亡くなった巨星スタニスワフ・レム(当Blog関連記事)の『ソラリスの陽のもとに』にインスパイアされた美術展。上記の告知は、mixiのスタニスワフ・レムのコミュニティからの転載(告知された画廊の関係者の方の許可を得て転載)。
 画廊ヴァイスフェルト(レントゲンヴェルケ)の公式HPで宇宙ステーションのエアドックらしき、素晴らしい雰囲気の画像が観えます。

 『ソラリス』と言えば、人間に不可知な存在としての異星生命体を描いたSFなわけで、そのレムの意図がどのように美術作品として昇華されているかが、大きな興味をひきます。

 今、ちょうどレムの『高い城・文学エッセイ』を読んでいるところなのですが、レムの先鋭的な言説に溢れていて素晴らしい。その中のエッセイ(というより評論)の幾つかで触れられているのが、異星生物とのコンタクトについて。
 「メタ・ファンタジア-あるいは未だ見ぬSFのかたち」「H・G・ウェルズ『宇宙戦争』論」、「A&B・ストルガツキー『ストーカー』論」という三本の中の記述で、『ソラリス』を描く時にレムがイマジネーションしていた思弁の一端に触れられる。異質な知的生命の意識へと想いをはせたレムの思索にこの美術展の作品がどういうアプローチで迫っているのか、非常に興味深い。
 遠方で観に行けないので(いつもこれで、全く歯がゆい(^^;))、2001年三菱地所アルティアムで開催された「'Solaris' a chamberopera」について、情報検索してみました。

・'Solaris' a chamberopera 12/08/2001
 フローリアン・クラール個展 -ソラリス-6つのパートからなる室内歌劇
 solaris a chamberopera in 6 parts by Florian Claar
 November 23- December 16, 2001@三菱地所アルティアム

電脳猫屋敷ホームさんの 音楽日記

(略)インスタレーション作品はもちろん素晴らしいものだった。6つの部屋が繋がっている一番奥は、立体物(映画の方の「ソラリス」のラストシーンをどうしても思い浮かべてしまうような)へ、計算されつくしたCGアニメーションを投影した作品だった。全体を眺めていると、アニメーションはとてもゆっくりとした変化として見える。それをしばらく眺め、前の部屋へ移動した。一番奥の部屋との間には小さな覗き窓がある。その覗き窓から見るCGアニメーションは、非常なスピード感をもって変化していた。(略)

◆関連リンク その他Florianclaarフロリアン・クラール氏関連
 SFチックなイメージの作品を作られているようです。これ、観てもやはりワクワク。
Florian Claar - Germany(韓国での展示会。右写真)
金沢21世紀美術館”
 第1回:“アリナのためのクランクフェルト・ナンバー3”(フローリアン・クラール)の巻

Florian CLAAR フローリアン・クラール

1991 ギャラリー・キンター、ゲラットシュテテン/ドイツ
1998 INAXギャラリー、東京
2000 "Ferelich und sehr langsam"、レントゲンクンストラウム、東京
2001 "Sinfonia Antarctica and two other movements"、レントゲンクンスト ラウム、東京
    「ジェネレーション」、レントゲンクンストラウム、東京
    「ソラリス」、三菱地所アルティアム、福岡

TAB イベント ヴァイスフェルト-レントゲンヴェルケの過去イベントのリスト

スタニスワフ・レム 『ソラリス』(Amazon)
『高い城・文学エッセイ』(Amazon)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006.05.16

■筒井康隆原作・河崎実監督 『日本以外全部沈没』

この秋、日本以外全て消える…傑作パロディ『日本以外全部沈没』ミニ記者会見!
作品紹介『日本以外全部沈没』 (CINEMA TOPICS ONLINE)

Nipponigaizenbu  映画「日本沈没」出資社のTBSテレビからは、「『日本沈没』よりこの映画がヒットしたらどうしますか?」との質問が。これに対し河崎監督は「本当にすみません!」と恐縮の姿勢を見せた。
 しかし原作者の筒井康隆先生は「そっちがまずヒットしないと、こっちが不利だよ!」とあおる場面もあり、まさにパロディ映画らしい、笑いの絶えない会見となった。 (略)
  クランク・インは5/7、クランク・アップは5/17の予定。2006年秋、シネセゾン渋谷にてレイトショーほか全国順次公開

 これ、今日、一番インパクトのあったニュース。筒井康隆のこの悪乗りな感じがいいです。巨匠健在なり。それにしても引用文のTBSの質問は傑作。河崎実監督にはもう少し素敵な切り返しを期待したいところです。
 あと撮影期間が10日間というのも、このくらいの規模(って制作費も知らないけど(^^;))の映画だと、当たり前なのか??これで本家よりヒットしたら、これまた快挙ですね。

「日本以外全部沈没」胸張って便乗(goo映画ニュース)

小松氏の快諾も得た河崎監督は「胸を張って便乗。二番せんじでぶっ飛んだ物語を描く」と意欲を語った。

日本以外全部沈没 - 電子書店パピレス
 ここに小説の抄録があります。むかーし読んで今は記憶の彼方です。とにかくタイトルのインパクトが強烈だったもので、、、。
 あと以前、作家上田早夕里さんのブログNomadic Noteで、「『日本沈没』の文庫……残念ながら「○○以外全部○○」の併録案は、諸般の事情により流れたようです」と堀晃さんがコメントを書かれていました。小説のカップリングはなくなったようですが、DVDではこの2本の映画を同時収録する粋な計らいを期待したいところ(^^;)。

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2006.04.23

■新刊メモ 『SF画家加藤直之―美女・メカ・パワードスーツ』


『SF画家加藤直之―美女・メカ・パワードスーツ』(Amazon)
 (公式HP)

目次
1 宇宙船(上に向かって飛ぶ宇宙船水平に進む宇宙船 ほか)
2 ロボット(ロボットについて考える小説に登場するロボット ほか)
3 パワードスーツ(『宇宙の戦士』のパワードスーツ『宇宙の戦士』文庫判 ほか)
4 美女(美女を描く沈黙の美女)

加藤直之オフィシャルサイト Naoyuki Katoh's Offcial Site

(上記画集について)僕がこれまでの仕事で描いたスケッチ、絵の途中経過を撮影したフィルムや、途中で保存したデータを元に、 製作秘話など紹介してあります。内容が盛り沢山で、文字サイズが小さくなり過ぎたかもしれませんが、その分お楽しみ頂けると思います、きっと。

 学生時代、加藤直之氏の絵、好きでした。宇宙に浮かぶメカの冷たい感じにひかれたわけです。最近のハリウッド映画のCGが描く宇宙ものを観ると、加藤直之氏の絵を思い出します。

 ひさしぶりに画集を本屋でみかけ検索してみると、上記の内容の新刊が3月に出たということです。名古屋の三省堂(名駅 松坂屋地下)では、加藤直之のサイン入りで売っていました(ただビニールが被っていて中は未見)。また出版社の公式HPには下のような複製画の発売も告知されています。

 氏のオフィシャルページにも、以前SFマガジンに載っていたような、スケッチがどうカラーのイラストになっていくか、このプロセスがいくつか掲載されていて、なかなかいいです。最近作メイキングのコーナー。

◆関連リンク
Naoyuki_kato 
 限定150部・シリアルナンバー入り武部本一郎・加藤直之 SFイラスト複製画
 加藤直之作品には本人による直筆サイン入


武部本一郎『武部本一郎SF挿絵原画蒐集 1965~1973』
(Amazon)

SFアートの父・武部本一郎が描いたSF文庫用挿絵約1000点の原画を、いつも身近に置いてすぐに取り出せるサイズで掲載。上巻は1965年から1973年までの作品を収録。

大久保 淳二『出雲重機 INDUSTRIAL DIVINITIES 』(Amazon)

「出雲重機」は、デザイナー・イラストレーターの大久保淳二によるメカニカルキャラクターデザインの創作実験企画であり、作品発表のひとつの形である。その作品群を一堂に集めて紹介。「鉄騎」未公開設定画稿も多数収録。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006.03.28

■スタニスワフ・レム Stanislaw Lem 死去

Stanislawlem

ポーランドのSF作家、スタニスワム・レムさん死去、84歳(ロイター)

 小説「ソラリスの陽のもとに」と、その映画版である「惑星ソラリス」「ソラリス」で知られ、IT界ではSun MicrosystemsのOS、Solarisの名前にも足跡を残すスタニスワフ・レム氏が84歳で死去した。

「ソラリス」を生み出したSF界の巨星、スタニスワフ・レム氏が死去(ITmedia News)

 「午後3時直後(グリニッジ標準時13時)、血液循環系の問題で心臓病の治療中だったスタニスワフ・レム氏が死去した」とジャギエロニアン大学病院のアンドレイ・クリーグ部長はReutersに語った。
 レム氏の著作は2700万部が販売され、40カ国以上に翻訳された。ロボットが支配する機械世界を描いた「宇宙創世記ロボットの旅」が1974年に初めて英訳され、称賛を浴びた。

 SFの巨星が、東欧の地で亡くなりました。合掌。
 僕は『砂漠の惑星』と『ソラリス』が特に好きです。「思弁小説」というのはまさにレム作品のための言葉ではないでしょうか。

 先日、自伝と評論を載せた『高い城・文学エッセイ』を購入したので、追悼の意を込めて読んでみようと思います。

◆関連リンク
The Official Stanislaw Lem Site(ポーランド)
・上記公式サイトの掲示板 Solaris ForumLem has diedという記事があります。ここには19時間ほどで三十数人の追悼文が寄せられています。

| | コメント (2) | トラックバック (2)

2006.03.07

■インタビュー:『どんがらがん』編者 殊能将之先生

Online Web Magazine Anima solaris アニマ・ソラリス
『どんがらがん』編者インタビュー:殊能将之先生

松崎健司氏(インタビュアー)
 ところで、先生は本家サイトのReading diaryコーナーでデイヴィッドスン以外にもいろんな未訳作品の紹介をされていますが、アヴラム・デイヴィッドスンに続いて、もしまた短編集の企画が通るとしたら、どなたの作品集がお勧めでしょうか?

殊能将之氏
 フィリップ・ホセ・ファーマー。
 ポリトロピカル・パラミス(「ダイヤモンドは洗うべからず」「わが虫垂の内なる声」「真鍮と黄金」「だれに樹が作れよう」「シュメールの誓い」)を全編収録して、あとは「キング・コング墜ちてのち」と「わが内なる廃虚の断章」かな。英語で読んだことがないので、未訳短編は知りません。

 このほかにも、アヴラム・デイヴィッドスンについてはもちろんR・A・ラファティやジーン・ウルフについて、むちゃくちゃ濃いインタビューが読めます。オススメ。

◆関連リンク
・もっと濃い話を読みたい方 → 殊能氏自身による編者インタビュー
松崎健司氏のHP  とりあえず、ラファティ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006.03.06

■ジーン・ウルフ 『デス博士の島その他の物語』
  The Island of Doctor Death and Other Stories and Other Stories

TheIslandofDoctorDeathandOtherStories  SFマガジンで「デス博士の島その他の物語」と「アイランド博士の死」は学生時代に読んでいたのだけれど、面白かったという以外、実にきれいさっぱり忘れていました(^^;)。というわけでほとんど初読の楽しみを今回味わいました。
 面白かった順に書くと「アイランド博士の死」「デス博士の島その他の物語」「アメリカの七夜」「眼閃の奇跡」「死の島の博士」。僕は「アイランド博士の死」が圧倒的。本当にすごい作家だと感じました。
 技巧派とか叙述の人だとかの評判は確かにそうなのだけれど、この一冊を通して読んでみて、書くことによるユニークなイメージの構築と書かないことによる想像力の刺激とが、渾然一体となって素晴らしい小説世界を作り出している。本当に凄いので、小説読みの皆さんには是非ともお薦め。

では、一編づつの感想です。ネタばれ全開ですので、ご注意を!!

◆「デス博士の島その他の物語」 The Island of Doctor Death and Other Stories
 ある陸つづきの島に住むタックマン・バブコック(タッキー)という主人公の少年を二人称で描いた短編。少年の読む本『デス博士の島』の現実への侵入と、離婚後再婚を考えている母親とタッキーの物語。
 スティーブン・キング『シャイニング』を思い出した。どちらかというとその映画化作品キューブリックの『シャイニング』のホテルのバーに現れるゴースト達のイメージかもしれない。
 健全な魂の持ち主として描かれる少年の心に家族環境の影響が出ていることは明らかであるが、そこは直接描写されることはない。その影響の描写としての本の世界の現実への侵入。そして少年が短編の最後で見る母親の実態と本の結末。ラストの一文が物語の重層的な構造から様々なイメージを想起させ、深い味わいを作り出している。

「きみだってそうなんだ、タッキー。まだ小さいから理解できないかもしれないが、きみだって同じなんだよ」

◆「アイランド博士の死」  The Death of Dr. Island
TheDeathofDrIsland_jupiter  木星の白斑上空に浮かぶ強化ガラスで作られた人工の衛星。その中に作られた海と人工知能(らしき)島であるアイランド博士。そしてそこで精神病の治療を受ける三人の登場人物。、、、このイメージだけで僕は既にイチコロです。こういうのを読むと、つくづく「SFは絵だ」という名言を思い出します。
 精神病の治療を受ける三人のうちの一人、脳梁をメスで切られ二つの分離した脳を持つニコラス少年が主人公の三人称小説。しかしその治療の真の対象は○○○らしい。
 ここでは主人公が実はその世界の主役ではないことがほのめかされ、そのことによる不気味な不安感が物語りのトーンを支配している。ここがこの短編のひとつの大きな魅力になっている。「デス博士の島その他の物語」が二人称で語られていることで真の主人公が物語りの外部に存在する気配を感じさせていたのを想起させる。
 僕が凄いと思ったのは、主人公ニコラスがアイランド博士との会話で過去の母親との記憶を話すシーン。アイランド博士に話したニコラスの言葉「あんたは復活祭の飾り卵だ」。それからアイランド博士の推定「復活祭の卵はきれいな色に染まっているし、私の色彩は美しい-そういう意味だね、ニコラス?」。
 その後に記述されるニコラスの記憶。

 その卵は母が面会日に持ってきてくれたものだが、母にそんなものが作れたはずはなかった。(略)その金色は、精密機器をシールドするのに使われる純金のそれだった。卵の表面に小さな星をちりばめた結晶炭素の透明な薄片は、実験室の高圧炉の産物としか考えられない。(略)卵は二人のあいだの無重力の中にうかび、香水の匂う母の手袋の記憶とともに、ゆっくり回転していた。(P103)

 これはアイランド博士に語られることはない。人工知能の持ったものと少年のイメージのあまりの落差。とりわけ少年のイメージの質感を想像すると胸にぐっとくる。そしてここが「デス博士の島その他の物語」へ繋がっていく。こうした部分をSFが持ちうる情感の最先端と呼んだら、誉めすぎだろうか。

◆「死の島の博士」 The Doctor of Death Island
 殺人を犯して刑務所で暮らす主人公アルヴァードが癌にかかり延命のため冷凍睡眠に。
 そして数十年後、癌治療どころか永遠に生きられる生命技術を得た人類を目の当たりにするアルヴァード。その世界では彼が発明した読者と(人工知能で)対話する本が普及しもはや人は識字能力を失いかけている。
 ウィルスのように本を侵食していくディケンズのキャラクター。死と病から逃れた世界を描いているのに、何故か読後は相当に病んだイメージ。悪夢のような対話する本と刑務所の息苦しい描写が作り上げたイメージだろう。

◆「アメリカの七夜Seven American Nights
 ミュータントだらけの未来のアメリカへやってきたイランの青年ナダンが経験する幻惑に満ちた世界。これをナダンの日記という体裁で描いた小説。
 劇場で買った六個の卵菓子のうちのひとつに自分が仕込んだドラッグ。これをロシアンルーレットのように一晩にひとつづつ食べるナダン。どこからが幻覚でどこからが現実なのか、それが未来世界の幻惑とまじりあって、アメリカなのにとても中東風な幻想的世界に感じられた。
 朝食をとるホテル近くのレストランを描写するところがわざと矛盾させてある。叙述によるトリックのウルフによる読者への信号。丹念に追っていったらきっとどれがドラッグの幻覚かわかる仕掛けがあるのだろうけど、僕はあきらめた。
 そしてラスト。ナダンが出会って恋した女アーディスとのデート。「これまでの一生で、あの小さなボートに乗っていたときほど幸福だったことはない。」そうした甘ったるい砂糖菓子のようなどこにでもある恋愛風景の後に仕掛けられたウルフの罠。ここでは暗闇の中でナダンが酒に灯された明かりで見たアーディスの真の姿に関する描写は少ししかない。恋愛シーンに感情移入した読者は自らの想像力で幻想のトラウマを味わうことになる。

◆「眼閃の奇跡」 The Eyeflash Miracles
 網膜が破壊された少年リトル・ティブの物語。少年の一人称で一見ジュヴィナイル的な描写。そして明らかになる医学実験と少年の秘密の能力。
 頭のねじが外れた教育長パーカーさんとその召使いニッティ。見えない巨大女とキリストを意味するライオンと神学のプリティーヴィー博士と足の悪い女の子ドロシーと、「わしの話しのネジを巻いてくれ」と言う銅男。
 少年の空想と幻想がないまぜになり、これまた幻惑的な小説世界となっている。こう書くとファンタジーのようですが、それでも硬質なSFフィーリングに満ちている。

◆関連リンク
未来の文学『デス博士の島その他の物語 (amazon)
ジーン・ウルフ 岡部 宏之訳『新しい太陽の書① 拷問者の影』 (amazon)
 しばらく前に復刊されたが、現在amazonは品切れ。私は『独裁者の城塞』『警士の剣』を先週買いました。来週から読む予定。
国書刊行会告知SFに何ができるか――ジーン・ウルフを語る

★三省堂SFフォーラム★ 『デス博士の島その他の物語』刊行記念
柳下毅一郎さん・山形浩生さんトークショー
日時:3月4日(土) 開場17:30 開演18:00
場所:三省堂書店 神田本店8階特設会場

・若島正氏のただし書き 「デス博士の島その他の物語」ノート

SFM7211_TheIslandofDoctorDeathandOtherStoriesSFM721102_TheIslandofDoctorDeathandOtherStories  SFM7509_TheDeathofDrIsland
 SFマガジン掲載時「デス博士の島その他の物語」(左)は、A・デイビットスン「どんがらがん」と同じ号('72.11)。なんか凄いですね、SFって過去の資産でまだまだ食えるということでしょうか。にしてもイラストが楢喜八とは選んだ編集者はどういう感覚?(楢氏のイラストは大好きなのだけどさすがにウルフには合わん)
 「アイランド博士の死」(右)は、ティプトリーの「愛はさだめ、さだめは死」と同じ号('75.9)。こちらは中村銀子氏のイラスト。翻訳は伊藤典夫氏と浅倉久志氏の共訳ですね。
・殊能将之氏のケルベロス第五の首:勝手に広報部
 『デス博士の島その他の物語』のリンクもあります。
 殊能氏の「アメリカの七夜」の“真相” インターネットの諸説をチェックして一押しの解釈も紹介されています。
2ch 【新しい太陽の書・ケルベロス】ジーン・ウルフ第2の首
 06.3/5付けNo.418の書き込みに、柳下毅一郎・山形浩生トークショーのレポート。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006.02.21

■トマス M.ディッシュ、若島正編, 浅倉久志他訳『アジアの岸辺』

asia_no_kishibe
 収録作品は本邦初訳8篇を含む全13篇。とにかくブラックでラディカル。
 実はトマス・M・ディッシュは今まで、『いさましいちびのトースター』しか読んでいないという体たらく。やっと有名な「リスの檻」もこの本で読みました。
 僕にはディヴィドスン『どんがらがん』よりこちらの方が馴染めた。わかりやすさからかな。物語性もこちらの方があるからかも。

 あと編者の若島正が、あとがきで最高傑作と書いている『歌の翼に』(サンリオSF)をどうしても入手したくなった。筑摩文庫あたりで再刊されると良いのだけれど、、、。スタージョンのミニブームに続く形で、ディッシュの再評価と出版が続くことを期待したい。サンリオを高い値段で入手した後で、再刊されると悔しいので少し待とうかな。

◆降りる
 エスカレータで下り続ける男。なぜだか理由はわからない世界に紛れ込んでしまったシチュエーション。こういうのがまさにシンプルだけども奇想。好き。奇想って、ある意味、自分が夢で(現実だったらイヤだけど)遭遇したいシチュエーションだったりする。

◆争いのホネ
 いやーな話。こういうブラックなのがつくづく好きなのか、読者にそういう気分を味あわせたいのか。とにかく人の悪さが如実にでている。ある一点をのぞけば単なる夫婦の不仲のどこに出もある話なのだけれど、その原因のホネが、、、。でもこんな時代がいつか来るかもという怖さもありますね。

◆リスの檻
 これはやはりオールタイムベスト級で傑作。
ただ単にこうした不条理な閉塞されたシチュエーションだけでも面白いのだけれど、さらにこれはそこに作家を置いてメタフィクション的な仕掛けを施している。凄くうまい。
 「一くだひげ虫」とか「動物園の午後」だとか、この狂いっぷりも凄い。
 映画『トゥルーマンショー』や『CUBE』、こうした奇想映画のルーツにあたる作品。で、こっちの方が強力な破壊力を持っている。

◆リンダとダニエルとスパイク
 これもブラック。なんでこんなにも残酷なストーリーを書くのだろう。しかし現代的な心のゆがみの物語として読める。キングの『キャリー』はみにくいアヒルの子的に救われる部分もあったのだけれど、これは救いがない。本当にディッシュってひどいやつだ。

◆カサブランカ
 不幸の連鎖でどんどんどん底へ落ちていくアメリカツーリスト。これってアメリカ覇権主義のアンチの話なのだろうか。アメリカが無意識の上で世界の中心と(たぶん)信じている主人公夫妻が異国の常識の中でもがく話。
 ブッシュに擬似的でも良いからこういう体験をさせてやりたい。異文化を身に染みさせる必要がありますね、あの男には。しかしそんな経験でも何も変わらないような気もするけれど。

◆アジアの岸辺
 イスタンブールを舞台にした異文化コンタクトもの。主人公が写真屋で自分の撮った写真を受け取るところがなかなかショッキング。
 ディッシュには日本の訪問記もこんな小説に仕立て上げてほしかった。

◆国旗掲揚
 これもえぐいなー。アメリカの恥部ってしっかりとこういう形態があるのでしょうね。このエスカレートの様も気持ち悪い。

◆死神と独身女
 これはユーモラスでブラックな一編。僕には黒いだけに見える上の方の作品だったけれど、こいつはちゃんとブラックユーモアと感じられた。死神と秘書というのがなんかビジネスライクなんだけどユーモラス。

◆黒猫
 狂気へ至る過程を描いた掌編。

◆犯ルの惑星
 異様な性習俗を描いた作品。これもどぎつい。

◆話にならない男
 これ、なんか好きな一編。コミュニケーションがこんな風に許可制になったら、ますますややこしい。しかしこの主人公の雰囲気が読ませる小説にしていました。

◆本を読んだ男
 これはSFというより、現実にありそうな話。日本もこんなビジネスが成立しそうな気がする。
 そういえば最近、新聞であなたの原稿を本にします、という広告をよく見ます。この話と一緒だということではないので、念のため。

◆第一回パフォーマンス芸術祭、於スローターロック戦場
 これはネタ的に「パフォーマンス芸術の祭」というのが好きでした。

◆関連リンク
『アジアの岸辺』(Amazon)
『SF/が読みたい! (2006年版)』 第6位でした。
・WEB本の雑誌 今月の新刊祭典メニュー 『アジアの岸辺
・復刊ドットコム リクエスト投票 『歌の翼に』(サンリオSF) 是非投票しましょう!

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006.02.20

■アヴラム・デイヴィッドスン 殊能将之編
   『どんがらがん』   bumberboom

 物語を楽しむというより、その情景や雰囲気が前面にでている小説が多いように感じた。で、自分としては、そうしたものより物語が前面に出ている傾向のものに惹かれた。

 ただ「尾をつながれた王族」は物語というより雰囲気ではあるけれど、別格で凄かった。雰囲気でその背後の大きな物語を予感させるというか、、、。
 個々の喚起されたいイメージとディビッドスンの狙ったタッチがマッチすると凄いあたりになる、って感じか。

 以下、一編づつ、短評です。(3ヶ月前に読んで、なかかな書けずにようやくアップ。すでに随分忘れてしまっているので、ご容赦(^^;)) 

◆「ゴーレム」 SF

 老夫妻の日常と、非日常のゴーレムのすれ違い。そして日常への取り込まれ方がユーモラスな一編。テレビのコメディでフランケンシュタインのネタはかつてどこかで観たような気がする。う、ん?ドリフだっけ?(失礼) でも会話が軽妙で楽しい一編。

さもなくば海は牡蠣でいっぱいに」 SF 奇想小説

 F&O自転車店の共同経営者と赤い自転車と無くなる安全ピンと増えるハンガーの擬態をめぐる話。
 日常にもぐり込む奇妙な存在を端正にまとめている。タイトルによるイメージの拡がらせ方がうまい。

◆「ラホール駐屯地での出来事」 ミステリー

 軍の駐屯地での三人の兵隊と女と手紙の計略の話。これもうまい短編ミステリー。
 酒場での語りの趣向が効いている。

◆「物は証言できない」 ミステリー

 黒人問題を痛烈に皮肉った一編。奴隷仲買人ベイリスの陥る事態は、短編ミステリーの結構としてきっちりまとまっている。

◆「さあ、みんなで眠ろう」 SF

 未開の星のヤフーという生物と彼らを連れ帰った主人公ハーパーの苦悩。

 スウィフトは発狂した。ちがいますか?彼は人類を憎んだ。彼の目には、人間がみんなヤフーに見えた・・・・・。ある意味では無理もないと思いますよ。みんながこうした原始人を軽蔑する理由は、そこにあるんじゃないかな。自分たちのカルカチュアに見えるからですよ。

 ラストが胸に染みる一編。

◆「クィーン・エステル、おうちはどこさ」 ホームドラマ(!?)幻想小説

 西インド諸島のスパニッシュマーン出身のお手伝いさんクィーン・エステルのお話し。言葉のすれ違いや異質な者への差別やらが描かれるホームドラマにそっと忍び込むマジックリアリズム。
 
短いけれども、独特の雰囲気が漂よってくる。

◆「尾をつながれた王族」 SF

 これが本短編集の僕のベスト。わずか13ページの作品に炸裂する奇想。簡潔に削った文章で異質な世界の一端が描かれる。全貌が全くわからない。だからこそ想像力を刺激するこの異世界。本書を読もうか、悩んでいる方、まず立ち読みでもいいのでこの一編を読んでみてください。このイメージ喚起力は凄い。

 悪夢に限りなく近い。目覚めるとその世界のロジックが理解できないけれど、見ている間は迫真のリアリティある悪夢。

◆「サシェヴラル」 奇譚

 奇妙だけれどこれは削られすぎてよくわからない。「わざとわかりにくく書いてあるシリーズ」とのこと。
 
読んでから3ヶ月ほど感想書くのを貯めてたので、ますますわからなくなっている(^^;)。

◆「眺めのいい静かな部屋」 ミステリー

 老人ホームの男女関係。よぼよぼの老人たちのミステリー(ボケで事件がよりわかりにくくなる)って、案外面白いネタかも。

◆「グーバーども」 幻想

 おじいの嘘のグーバーが現実化。「おれ」の一人称で書かれた語り口が楽しめる。

◆「パシャルーニー大尉」 幻想

 ハートウォームなファンタジー。こういうのもいいですね。
 
似たネタだけど、「グーバーども」より好きな一編。

◆「そして赤い薔薇一輪を忘れずに」 普通小説

 アジア系移民の書店主が開陳する祖国のいろとりどりの書物。都会の殺伐とした雰囲気に紛れ込む異国情緒。

◆「ナポリ」 幻想

 これも雰囲気と情景描写を読ませる話。「ナポリ」という単語が時々挟み込まれて、独特の雰囲気を醸し出している。
 
でもなんだか苦手な小説でした。

◆「すべての根っこに宿る力」 ミステリー?

 メキシコの首なし死体と呪術。これも苦手。ここらで僕は濃厚な密度に着いていけなかったようです。

◆「ナイルの水源」 奇想

 これは一転、凄く好きな話。物語が起動しているというか、、、。謎の「ナイルの水源」という言葉がドライバになって読ませる。作家が酒場で知った謎の言葉。それを狙う男たち。不思議な雰囲気と語り口がいい。好きです、これ。この短編集で二番目に好きな小説。

◆「どんがらがん」 奇想

 これぞ奇想小説。どんがらがんとやってくる「なにやら奔放な想像力の生みだした巨大な吹き矢筒を思わせる」ガジェット。登場人物たちの突飛な行動やユーモラスな様子が楽しめる。続編も是非訳出してほしいものです。

◆関連リンク
SFセミナー SEMINAR 2005「異色作家を語る」 出演者の推薦図書リスト
『どんがらがん』勝手に広報部
アヴラム・デイヴィッドスン作品リスト
殊能将之氏の『どんがらがん』宣伝的雑談

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2006.02.09

■茂木健一郎 『プロセス・アイ』Process A.I.

 脳科学者・茂木健一郎のSF。
 茂木氏が、論証を挙げた緻密な理論の論文としてはまだ構築できないけれど、直感的に把握した大胆な説を、どうしても書きたくて、今回、小説という形態を選択したのではないか、と期待して読んでみました。

◆心脳問題

 前半、世界的脳科学者・川端武史が、ついに人間の意識の秘密を解き明かした「プロセス・アイ」理論を学会で発表しようとする場面までは、特にワクワクして読んだ。
 だけれど、後半、解き明かされるかと期待した「意識」と「私」と「志向性」の「物語」は、結局、直接描かれることはなく、肩透かし。
 (それを見たある人物のある変容が描かれるところは、なかなか面白いアイディアでグッとくるところもあったけれど、、、、)結局、学者茂木健一郎がまだ直感でとらえているだけで論文として書き上げるのには推測が多すぎるような理論とかを開陳するようなことはなかった。そこに期待していたので、残念な思いで本を閉じた。

 これは小説を読むのには、邪道な読み方である。
 では純粋に小説またはSFとしてみた場合の感想はどうか(こちらの方が通常のこのBlogで扱っている分野)。

◆小説

 まずは小説として。
 もっと、らしくない小説かと思っていたけれど(失礼)、初長編ということで考えると凄く手馴れている。プロットとか、結構面白い。
 ただ残念だったのが前半の高田軍司と高木千佳と金城剛の関係を描いたところ。本来ならば微妙な三人の関係がいくつかのキーとなるエピソードとともに読者に強いインパクトを与えて記憶に残るはずの場面なのだけれど、結局3人は東京のグルメをいっしょにまわっていた印象が一番強い。ここは物語のきっかけになり、本書風の表現をすると、読者へのクオリアを構築する最重要な部分だったと思う。しかしここが良くない。もう少し、ここで3人の意識の関係が見事に描かれていたらと、残念でならない。

 エピソードのアイディア等の出来不出来が作家としての才能の中核になるように思う。うまい作家は、物語のクオリアの本質をつかまえて、素晴らしいシークエンスをこうしたところに配置する。いい小説を読むと、読者の脳に生成させるクオリアにとってどんな物語の具象化が必要か、これのつかみ方が凄い。作家の才能というのは、そういうものだと思う。この才能を持った作家はそうそういない。本作は、平均的な作家(?)のレベルは充分満足してると思うのだけれど、、、。

◆SF

 SFとしては、新人SF作家のなかなか力作な処女長編、というところ。
 結構宗教がかったところがあるので、SFの読者は、トンでもな感想を持つのではないか。心脳問題って、やっぱSFとしても難しい。理論よりも感性的情緒的な部分が強く、特にSFとしての仕掛けである超知性体的なものを出さないと、新興宗教的な匂いが出てしまう。

 奇想小説としてみると、イメージの飛翔は、A.I.とか月とかテイラーメイドテクノロジーだとか道具立てはあるのだけれど、ぶっ飛んではいない。常識的SFの枠内(ん、なんだ、それ??)。A.I.シーンは、声を変えるところにイメージがいっちゃってるけど、なんで声?って感じ。

 何故か、グダグダと愚痴ばっかり書いてしまいました。これも冒頭に書いたような過ぎた期待があったから、と勘弁してください。あとネットの感想は、褒め言葉が並んでいるものが多く、へそまがりの私は批判的な言説で攻めてみました。
 んじゃ、あとは<関連リンク>の下に、ネタバレで意識の問題など好き勝手に書いてみます。さらにグジャグジャなので、ご容赦。

◆関連リンク
茂木 健一郎『プロセス・アイ』(Amazon)
・『神狩り 2 リッパー』で「クオリア」をキーワードにした山田正紀氏推薦文
 (茂木氏のクオリア日記より)

12章を読んで新幹線で泣いた。この「物語」には風が吹いている。その風は世界を吹き抜けてぼくのクオリアを優しく震わせる。

 山田正紀が泣いたのは以下の12章のフレーズでしょうか。絶対者へ挑戦する女性を描かせたらピカイチの山田正紀的フレーズ。ここは僕も好きです。

「私たちが、言葉を通して、様々なものを志向すること自体が、私たちが因果性の限定を逃れていることを意味することにはならないと思うわ。(略) 少なくとも、私たち人間の置かれた絶望的な状況を超えるためには、単に志向性の自由に頼るだけでは、だめで、もう一つ飛躍が必要だと思うのです」(P275)

・作家本人が作った『プロセス・アイ』専用掲示板
・カバー絵の飯田信雄氏 IIDA Nobuo HP。美しいイメージが観えます。

続きを読む "■茂木健一郎 『プロセス・アイ』Process A.I."

| | コメント (4) | トラックバック (1)

2006.01.12

■フィリップ・K・ディック 『スキャナー・ダークリー』
   "Scanner Darkly"映画化

scanner_darkly01
キアヌ・リーブス主演 映画『スキャナー・ダークリー』(06.夏公開) 
予告編

"A Scanner Darkly" is set in suburban Orange County, California in a future where America has lost the war on drugs. When one reluctant undercover cop (Reeves) is ordered to start spying on his friends, he is launched on a paranoid journey into the absurd, where identities and loyalties are impossible to decode. It is a cautionary tale of drug use based on the novel by Philip K. Dick and his own experiences. "A Scanner Darkly" stars Keanu Reeves, Robert Downey Jr., Woody Harrelson, Winona Ryder and Rory Cochrane and is written for the screen and directed by Richard Linklater.

 なかなか予告編がかっこいい。実写映像をアニメ的彩色で表現している。
 リチャード・リンクレイター監督の作品は観たことがなかったのだけれど、『ウェイキング・ライフ(2001)』というのが、この作品の手法のきっかけになっているようだ。、『ウェイキング・ライフ(2001)』は「新境地を切り開いた実験的アニメーション映画。リアルに描かれた登場人物が、実写さながらに文学、哲学、宗教、人間存在についての会話を繰り広げる」。この映画、哲学的で画面もアートになっていて、お薦め!

 この技法で描かれる(?)スクランブルスーツ(あれ、原本はスキャナースーツscanner suits?)が、予告編でも秀逸な映像になっています。これは一見。原作の雰囲気がよく出ていると思うのは私だけ?
scanner_darkly02

◆関連リンク
・当Blog 『ウェイキング・ライフ(2001)』紹介記事
 『スキャナー・ダークリー』アニメと実写を融合した技法「ロトスコープ」とは
『スキャナー・ダークリー』浅倉久志訳 『暗闇のスキャナー』山形 浩生訳(Amazon)
 僕は山形版で読みました。翻訳の比較をされている塵芥王さんの記事
SF MOVIE DATA BANK 「スキャナー・ダークリー(原題)」
Philip K. Dick - Science Fiction Author - Official Site
ワーナーインディペンデント公式HP
 UPCOMING RELEASESから予告編へ行けますが、サイトはまだない。
Richard Linklater監督
・ 『ウェイキング・ライフ』Waking Life公式HP
DVD このパッケージの絵には見覚えがあります。

| | コメント (4) | トラックバック (2)

2005.11.13

■R・A・ラファティ 『宇宙舟歌』 柳下毅一郎訳

Space_Chantey
 国書刊行会<未来の文学>第5弾 R・A・ラファティ宇宙舟歌』を読了。ラファティの長編デビュー作(のうちの一冊)。画像は左から、エースダブルの原著、英国版、邦訳版。宇宙ほら話なので、イメージは原著の表紙がベスト。国書刊行会版は何か勘違いした表紙としか言いようがない。ま、原著の絵を使ったら、間違いなくSFファンでない海外文学ファンは逃げ出すので商売的には正解な表紙とは思いますが、、、。

 本作も怪作にして快作です。ラファティ版宇宙のオデッセイア。<未来の文学>と言っても、超絶叙述トリックや言語哲学的なアプローチはありませんので、肩の力を抜いてまさに「宇宙ほら話」として、ラファティおじさんの異様なイメージを楽しみましょう。

 収録された各惑星の旅はこんな感じです。

世界を背負う一人の男の話
 知覚しないと存在を停止する世界。その知覚する男との物語。なんだか分からない理論。

 (フィーラーの推論に関して)「不真面目な性質をもつ、ごく小さな天体に関しては、重力の法則に、脱力の法則が優先してもよい」俺は同情的な推論と呼んでるんだ。

・過去へ戻って賭けに勝ち続ける話
 壮麗なカジノで繰り広げられる"世界"をかけた賭博。

 ピョートルは大負けするたびにピストルを抜いて頭を撃ち抜く。ただのジョークだ。いつも同じ穴を撃つ。そしてピストルで穴から吹き飛ばされる。"脳"は実際には脳の穴にたまった粘液だった。とはいつても、はじめての人にとってはかなり異様な見世物だし、すぐ後ろに立った野次馬はしょっちゅう流れ弾で殺された。

・食人する羊の惑星
 乗組員の一人が食べると爆発する人造人間を食人すると、、、

 マーガレットはすでに船の四分の三を占め、男たちは隅に押しこめられ、ぎゅう詰めになって喘ぎ、身を屈めていた。マーガレットはゴロゴロ音をたてはじめ、今にも爆発し、すべてを道連れにしようとしていた。
「爆発する! 爆発するぞ!」と男たちは怯えて吠えた。「爆発したら、俺たちもみんなも船ごと巻き添えになっちまう」大爆発の前触れがさらに低くゴロゴロと音をたてはじめた。
 危機また危機! さらなる危機が襲い来る。故郷はまだまだはるかに遠い。

 襲い来る危機また危機。そして惑星ごとに炸裂するラファティの奇想爆弾。
 ラファティの奇想の特徴は、この作家の頭の中が本当に螺子が外れているのではないかという狂気冴え渡るイメージの飛躍にある。たとえば中井紀夫は、たぶんラファティをめざしてタルカス伝(『いまだ生まれぬものの伝説』他)を書いていたと思うのだけれど、わざとはずした頭の螺子がどっかまだ外れきっていない部分があった(それにしても、国内の奇想作家の中で随一の傑作だったと思う。続編が読みたい!!)。
 ここではたまたま中井紀夫を引き合いに出したのだけれど、たとえば河出書房新社の<奇想コレクション>の海外作家でも、ラファティに比べたら、同じようにどっか螺子は外れていない。作家本人は奇想の外にいて、冷静に描写している気配があるのだけれど、ラファティの場合は、どっぷりとその世界のロジックが作家の体と脳になじんでいる肌合いがある。
 奇想小説ファンで、もしラファティを未読の方がいたら、是非お薦めです。螺子外れっぱなしのラファティ脳内宇宙旅行の楽しさは格別。

◆関連リンク
11月10日(木)神田本店 イベント情報: 浅倉久志さんצ柳下毅一郎さん三省堂書店SFフォーラム『宇宙舟歌』刊行記念トークショー 国書刊行会の案内文

<未来の文学>完結巻、R・A・ラファティ『宇宙舟歌』の刊行を記念しまして、訳者の柳下毅一郎さんと、海外SF翻訳の第一人者として数多くの翻訳書を世に送り出しR・A・ラファティ作品の紹介者としても知られる浅倉久志さんをお迎えしてのトークショーを開催いたします。<史上最高のSF作家><世界でもっとも独創的な作家>であるR・A・ラファティの魅力をそんぶんに語っていただきます。さらに、浅倉氏、柳下氏が翻訳を担当している<未来の文学>第Ⅱ期刊行予定のジーン・ウルフ『デス博士の島その他の物語』や、ユーモア・奇想SFアンソロジー『グラックの卵』についての話もうかがいたいと思っております(編集部ST)。

・松崎健司氏のとりあえず、ラファティラファティ 原書リスト。 トロル族の空飛ぶ石盤のイラスト。
この頃の乱読さんのレビュウ(あらすじも詳しく載ってます)
・原書 R.A. Lafferty 著『Space Chantey 』(Amazon Japanでも扱っているようです)
・『宇宙舟歌 』(Amazon)

| | コメント (0) | トラックバック (1)

■『日本沈没』製作発表

Nippon_chinbotsu_Image02 Nippon_chinbotsu_Image
32年ぶり再浮上!草なぎで映画「日本沈没」来夏公開 (サンスポ)

 少し前のニュースですが、樋口真嗣監督『日本沈没』の製作発表が行われた模様。
 上のイメージスケッチは、樋口監督によるもの。左が10歳の時に映画『日本沈没』を観た後に描いたもの、右が今回の映画のもの。「構想30年」ということです。
 特撮監督は前作が中野昭慶、本作が神谷誠(平成ガメラの樋口組助監督)という布陣。既に樋口真嗣が視覚効果デザインをつとめた『ドラゴンヘッド』では街の破壊が描かれいてるが、そこからどうイメージが発展するか、期待です。

 さて、配役ですが、ウィキペディア(Wikipedia)「日本沈没」(うまくリンクしない時は、ウィキペディアへ行って「日本沈没」で検索をして下さい)に情報がありました。ゲゲ、田所博士:豊川悦司!! 誰もこの配役は予想できなかったのでは?? しかしこれはもしかしてなかなかのキャスティングセンスかも。随分斬新な解釈の『日本沈没』が出来上がる予感。(渡老人が出ないのはさみしい。)

キャスト
小野寺俊夫:草彅剛
阿部玲子(ハイパーレスキュー隊員):柴咲コウ
田所雄介博士:豊川悦司
結城慎司(原作の結城達也に相当):及川光博
渡老人:未登場
山本尚之総理大臣:石坂浩二
野崎亨介内閣官房長官:國村隼
鷹森沙織危機管理担当大臣:大地真央
その他:ピエール瀧

◆関連リンク
eiga.com [ニュース&噂]
内閣総理大臣役の石坂浩二
女性大臣役の大地真央
エキストラ募集(11/13撮影分なので既に間に合わない)
東京右往左往: 日本沈没 by 樋口真嗣

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2005.09.11

■国書刊行会-<未来の文学>第Ⅱ期、開幕

DelanyDHALGREN

 国書刊行会の叢書<未来の文学>ですが、10月にR・A・ラファティ『宇宙舟歌』が出た後、第Ⅱ期(全6巻)がスタートとのことです。

国書刊行会--最新ニュース

・第1回配本は、『ケルベロス第五の首』のジーン・ウルフによる傑作中短篇をあつめた日本オリジナル短篇集『デス博士の島その他の物語』(浅倉久志・伊藤典夫・柳下毅一郎訳)。収録作品は「デス博士の島その他の物語」「アイランド博士の死」「死の島の博士」「アメリカの七夜」「アイフラッシュ・ミラクルズ」の五篇、さらに、83年刊行の限定本に付された「まえがき」も収録した決定版です。華麗なるウルフ・ワールドをご堪能ください。今秋刊行予定。

アルフレッド・ベスター『ゴーレム100』 渡辺佐智江訳 
・アンソロジー<未来の文学>
 Ⅰ『グラックの卵』 浅倉久志編訳
   (ボンド、カットナー、スラデック、ジェイコブズ他) 
 Ⅱ『ベータ2のバラッド』 若島正編
   (ディレイニー、エリスン、ロバーツ、ベイリー他)
クリストファー・プリースト『限りなき夏』 古沢嘉通編訳
   (日本オリジナル短篇集)
サミュエル・R・ディレイニー『ダールグレン』 大久保譲訳

 まさにかつてのサンリオSF文庫を見ているようなラインアップ。凄いなー、『ダルグレン』DHALGRENですよ。なんか全部買いそう。ワクワク。

◆関連リンク
銀の知識人たちさんのサンリオSF文庫未刊行作品集
サンリオSF文庫全リスト
サミュエル・レイ・ディレイニー 邦訳作品リスト
Delany Cover Art
サンリオSF文庫 オークション相場リスト

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.08.21

■筒井康隆自薦グロテスク傑作集
    ポルノ惑星のサルモネラ人間コレクションフィギュア

tsutsui_sarumonera_toy
マスコット&フィギュアの世界 【筒井康隆自薦グロテスク傑作集/ポルノ惑星のサルモネラ人間コレクションフィギュア】

企画:G-mix宙組 / 原型製作:(株)玄翁堂/大西正善 / 製造管理販売者:(株)あすなろ舎 / 協力:新潮社 / モンスターデザイン:大西正善

 凄いものが出ました。8/22から全国サークルKサンクス、一部書店で販売らしいが、いったい誰が買うんだろう、、、、私は買いません。(でも近所のサークルKで売れ残りを値引きしてたら買っちゃうかも(^^;)。)
 こんなものまで、食玩(?)になる時代なのですね。これって、筒井でシリーズ化するのだろうか、、、。
 この「(株)あすなろ舎」って、『三丁目の夕日』も作っているのですね。

ポルノ惑星のサルモネラ人間(楽天で買えます)

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2005.07.31

■『輝く断片』シオドア・スタージョン/大森望編

and_now_the_news
                         (「ニュースの時間です」「ミドリザルとの情事」掲載誌)
河出書房新社 『輝く断片』公式ページ

“ミステリ作家シオドア・スタージョン”の
特異すぎる才能に度肝を抜かれるはずだ
                    大森望

 奇想コレクションから『不思議のひと触れ』に続く2冊目のスタージョンの短編集が出ました。今回のは編者大森望氏の解説タイトルにあるとおり<Crimes for Sturgeon>。ミステリーというよりクライムスートリーという方が似合う。けれども一般的なイメージのそれとは全く異なる世界が展開されている。このアンソロジー、作品選択が素晴らしい。スタージョンのこうした傾向の短編をまとめて読める我々はとても幸せである。

 全体を通して読みおわって、かなりずっしりとおなかの底の方に何かが落ちていく感覚がある。切ないのや暗く重いのや奇抜なシチュエーションの展開に頭がねじれるのや、そんなものが堆積していく。
 これは、社会からドロップアウトもしくは平凡な日常の底流に淀んでいるような登場人物たちが多く扱われており、それによって形作られているイメージの堆積でないかと思う。フリークスというのとも違う、勝手に名付けると、<『わたしは慎吾』のお父さん物>(^^;)というジャンルに属するような作品。と言ってもわかりませんよね、普通。

 僕の場合、こうした登場人物に出会うと、あの楳図かずおが描いたガテン系のちょっと頭の弱いタイプの人というかあのお父さんの不思議なイメージが自分の頭にこびり付いていて、必ず思い出す。独特の思考回路を持っていて、通常のキャラクタから異様にねじれている感覚、『わたしは慎吾』の読者ならわかってもらえますよね、この感覚? 映画で言えば、コーエン兄弟の『ファーゴ』にもこのねじれた感覚があった記憶。P・K・ディックだと『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』のイシドア(ちょっと違うかも)。
 こうした登場人物によって描かれる奇妙な物語。しかしスタージョンのその視点は優しい。明らかに<『わたしは慎吾』のお父さん>の側に立った視点の物語。ずしりと思いのだけれど、どこか心地よいのはこのスタージョンの視点によるものだと思う。<『わたしは慎吾』のお父さん>であることを否定的に描くのではなく、むしろそちらの方がいいのでは?という肯定というか、、、、そのような感覚。

 では、例によってお気に入りの順に、感想。
 (▽が<『わたしは慎吾』のお父さん物><<誤解をまねきそう)

◆「ルウェリンの犯罪 A Crime for Llewellyn('57) 柳下毅一郎訳 ▽
 これ、切なくて、一番のお気に入り。主人公ルウェリンの淡々とした日常とその後のアンチ犯罪な展開。この主人公、生活能力に乏しい(頭が弱い)人なのだけれど、その日常と思考、そして長いこと一緒に暮らしているアイヴィとの関係がとても切ない。
 短編アニメ五本つき子供向き映画+ポテトの皮むき、という991週 続いた休日の習慣が崩れる時、それでも金銭的な計算をこの映画代何年分と考えてしまうルウェリン。ここいらがこの短編の雰囲気を決定していると思う。
 そしてラスト。ある意味書き方によってはまさにコメディでしかない物語がこんなにも胸に迫るものになるところが凄い。
 あと殺人研究家の柳下毅一郎をここで訳者に持ってくるのもなかなか。サイコな事件である「マエストロを殺せ」と合わせて訳した柳下氏の文体の切り分けも楽しめました。

◆「マエストロを殺せ Die, Maestro, Die!('49) 柳下毅一郎訳
 というわけでもないけれど、次も柳下訳。
 ジャズバンドをひとつの生体として描いた短編。クライムストーリーとして、このひねり、凄いです。ジャズファンは楽しめること、確実。これは▽ではなく<キモメン文学>という定義があるらしいですが、、、。

◆「輝く断片」 Bright Segment('55) 伊藤典夫訳 ▽
 最初のおどろおどろしいシーンから、このような物語を結晶化できるスタージョン、凄い。上記二編より下にしたのは、主人公と他者との関係の描写が一方的で少ないため。しかしその分、濃密ではありますが、、、。これもミステリー雑誌に載っていたら、異彩を放つこと間違いなしの名品。

◆「旅する巌 The Traveling Crag('51) 大森 望訳 ▽(ちょっと)
 これはこの本では他の1篇(秘す)と合わせて2編だけのSF。タイトルはある新人作家が書く傑作のタイトル。作家のエージェントが触れるある秘密。この作家が山に一人隠遁している人物として設定されているが、この孤高というかストレンジャーな感じがよい。

◆「ニュースの時間です And Now the News...('56) 大森 望訳 ▽(ちょっと)>
 今年の星雲賞受賞短編。本書の中ではこのくらいの順位かな、と。でも奇妙な感覚は一級です。これもある理由で隠遁する主人公を描いている。それにしてもこのねじくれ感、相当のもんです。
 それにしても、本作の初出は1956年のF&SF。その表紙は上の右から2つ目。凄いですね、この時代にこういう掲載誌で、超絶技巧を駆使した小説を書いていたスタージョンって、改めて凄い。そして今年の星雲賞。やはり50年は早かった小説なのでしょう。

◆「ミドリザルとの情事 Affair with a Green Monkey('57) 大森 望訳
 これ、案外好きです。割とシンプルなアイディアストーリー。主人公の女性とその夫の関係と、夫の強引な偏見描写が秀逸。そしてオチの部分と合わせて、独特の手触りを構成している。

◆「君微笑めば When You’re Smiling('55) 大森 望訳 ▽
 これも主人公の強引な描写が面白い。あとその相手との関係から生み出される奇妙な一夜。これはでも普通のミステリー的ではあります。

◆「取り替え子 Brat('41) 大森 望訳
 シチュエーションが面白い一篇だけれど、小品という感じ。アメリカの家族親族の描写とか面白い。

関連リンク
『輝く断片』刊行記念大森望× 柳下毅一郎×中原昌也トークショー
神田本店 1階さん: ♪大森望さんצ柳下毅一郎さんトークショーのご報告★
かめの洞窟日記さん: スタージョンについて語る

WEB本の雑誌 課題図書
すみ&にえ「ほんやく本のススメ」 『輝く断片』
Theodore Sturgeon Literary Trust

・『輝く断片』(Amazon)

当Blog記事
シオドア・スタージョン『ヴィーナス・プラスX』大久保譲訳
『願い星、叶い星』アルフレッド・ベスター/中村 融訳

| | コメント (5) | トラックバック (1)

2005.07.30

■福井晴敏
   『月に繭 地には果実―From called “∀”Gundam』

from_called_a_gundam
月に繭 地には果実』(Amazon)

 ハードカバー版を図書館で見つけて、あの福井晴敏の書いた『ガンダム』ということで、かなり期待して読み始めた。しかしどうでもいいけど、ハードカバー版の表紙(画像右)は通勤電車で読むには酷です。文庫版が渋い表紙なのに何故?責任者出て来い!と言いたい。(ハードカバー版は「著者自身のプロデュース」らしいので、責任者は福井氏か?)

 『∀ガンダム』をほとんど観たことがなかったので、冒頭の月の女王ディアナと地球の令嬢キエルが同じ顔だとか、主人公ロランの金魚のオモチャだのといったいかにもアニメチックな設定に引いてしまった。で、しかもなんか文体が富野小説に近い(富野小説を読んだのは既に20年近く前なので、保証の限りではありません(^^;))。

 『亡国のイージス』『終戦のローレライ』の重厚な文体でガンダムを読めると期待した私が馬鹿だったのかと、細かい字/残りの分厚い頁を後悔の念とともにじっと見てしまいました。

 でも地球最終戦争後に月へ移住していた人々が復興しかけた産業革命直前といった風の地球へ戻ってくるというなかなか壮大な小説世界に惹かれて、アニメチックな設定には眼をつぶって読み進めた。結局、シオニズムからジオンが名付けられた『ファーストガンダム』と同様に、この小説は故郷を無くした民族が元の土地に帰ろうとして武力で衝突するという人類永遠のテーマの再話であり、それを福井晴敏がどう描くかという興味が沸いたというわけです。

 で、人類が繰り返すジェノサイドの歴史に、新たに月を含んだ一頁が築かれる、というわけ。クライマックスは福井版の方がアニメ版よりハードらしい(下記リンク参照)。重力の井戸から宇宙へ出るための巨大な宇宙振り子(?)<ザックトレーガー>とか、最終兵器<カイラル・ギリ>とかSF的ガジェットは原作のものだろうけれど、雄大な世界観を福井流の緻密描写で読ませてくれた。ニュータイプも描かれるけれど、残念ながら、それほど新鮮味はなかった。

◆関連リンク
終戦のターンA 『月に繭 地には果実』 接触篇 アニメとの違い

例えば登場人物では、シド爺さんの相方がジョゼフではなくウィル・ゲイムに変わっていますし(ゆえに、フランの付き合っている相手が会社の同僚という一度も出てこない人間になっている)、フィルの部下もテテス・ハレになっています(なので、しまいにはサブタイトルにまでなってしまったポゥの泣きっぷりが拝めない)。ボルジャーノン(ザク)のパイロットでソシエと婚約した挙げ句、核兵器で壮絶に命を落としたギャバンは存在すらありません(そのため、ソシエの寝取られ属性がなくなっている)。個人的に好きだったリリ・ボルジャーノンは幼少の頃病死したという扱いにされています(そのせいで後半の展開がグダグダになってしまっています)。

とにかくここで言えるのは人が大量に死ぬ、ということです。『ターンAガンダム』は(富野作品としては)人があまり死なないことで有名なのですが、そんなアニメ版など嘲笑うかのような惨殺っぷりです。

∀ガンダム - Wikipedia
ファミリー劇場で再放送中

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2005.07.20

■HAMACON2レポートリンク

第44回日本SF大会 HAMACON2
 先週末に行われたSF大会のレポートリンク。SF大会は20年位前に2-3回行っただけですが(ゲゲ、もう20年か!!)、毎年ウェブのレポートは楽しみにしています。

・SF作家 上田早夕里さんのNomadic Note
 海洋SF対談(HAMACON2) 小松左京が語る映画『日本沈没』

・野良犬の塒さんの
 「押井守、『立喰師列伝』を語る!!」について各所のSF大会リポート

第36回星雲賞が決定 (Excite エキサイト ブックス)  ← リンク集にもなってます

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2005.06.04

■新刊メモ 『輝く断片』 『現代SF1500冊 乱闘編 1975-1995』

kagayaku_danpen  gendai_SF_rantouhen

シオドア・スタージョン『輝く断片』(大森望編)河出書房新社公式ページ 6月10日発売 (Amazon)
 『ヴィーナス・プラスX』に続く、本年のスタージョン第二弾。昨年に続き、スタージョンが続けて出版されて嬉しい。第三弾はないのだろうなーー。
“ミステリ作家シオドア・スタージョン”の特異すぎる才能に度肝を抜かれるはずだ
 大森望氏の解説

 数あるスタージョン短篇の中でももっともスタージョンらしい(と僕が勝手に考えている)小説を中心に、一種のコンセプトアルバムをつくることにした。

大森望『現代SF1500冊 乱闘編 1975-1995』(Amazon) 6月17日発売
 今回の新刊メモは大森望氏ミニ特集。大森氏のページに目次の紹介があります。ウェブ含め、あちこちで読んでいた氏のエッセイが纏まるのは嬉しい。もっと早く出版されていても良かったと思ってたのだけど、やはりSF出版は冬の時代だった(今は?)のでしょうね。こういう本が出てなかった状況はSFにとって寂しいものです。

 本の中身としては、《小説奇想天外》連載の翻訳SF時評コラム「海外SF問題相談室」と、《本の雑誌》連載の「新刊めったくたガイド」SF時評が二本柱。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005.05.31

■シオドア・スタージョン『ヴィーナス・プラスX』大久保譲訳

venus_plus_x
 国書刊行会の<未来の文学>第4弾スタージョン『ヴィーナス・プラスX』が4月に出た。上と下の写真は"VENUS PLUS X"で検索した各国のカバーだけど、僕は上の左二枚が凄く気に入った、小説のイメージとしては、三枚目の方が近いのですが、イラストとしては左二枚が良い。あと一番右のは論外。こんな小説ではないので、この画は忘れましょう(^^;)。

 ジェンダーSFというイメージが先行してあった本作だが、僕にはその側面よりもユートピアを描こうとした長編のように読めた。<未来の文学>で僕の読んだ3冊の中では一番好きな一冊になった。(ディッシュは相性が悪くまだ手に入れてません)
  この長編も最近続けて出た短編のいくつかと同じくリリカルなスタージョンが楽しめる。砂糖細工のような瞬間をトリミングしていくことによって描かれたユートピア。傑作『夢見る宝石』にはかなわないけれど、もっと人物が魅力的に描かれていれば、迫れたかも。

 ユートピアものとして読んでいった時、僕がどうしても思い出してしまったのが、宮崎駿の漫画『風の谷のナウシカ』。レダムが『風の谷のナウシカ』最終巻の7巻で墓所の手前で人間の文化を永遠に守る清浄なヒドラたちにオーバーラップしてしまった。そしてスタージョンも人工的な清浄に対するアンチテーゼをぼんやりとは描いているが、どちらかといえば、肯定的。宮崎のほうがグッと深みへ行っているように思われてならなかった。(それにしてもアニメでなく漫画版『ナウシカ』は凄いSFだ。一回ちゃんと何か感想を書いてみなきゃ。)
 
venus_plus_x02

◆関連リンク
・海外のサイト 単行本リスト 短編等掲載誌リスト (書影つき)
『ヴィーナス・プラスX』(Amazon)
この頃の乱読(読書感想)さんのレビュウ
Nomadic Noteさんの 『ヴィーナス・プラスX』(感想)
・濫読ひでさんの活字中毒者の小冒険 ヴィーナス・プラスX
・当Blog記事 スタージョン関連 新刊メモ『時間のかかる彫刻』 『夢みる宝石』
 <未来の文学>ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』 イアン・ワトスン『エンベディング』

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2005.04.28

■神林長平 『永久帰還装置』

eikyu_kikan_souchi
 『グッドラック』(1999)の次、神林長平2001年の長編永久帰還装置
 まず冒頭の面白さで、つくづく思った。神林長平って完全にSFファンだけを向いた作家なのだけれど、どう考えてもこれはもったいない。この冒頭、奇天烈なシチュエーションとテンポの良さによる面白さのレベルは第一級のエンターテインメントになっている。例えば『このミス』の読者が喜ぶ要素がこの冒頭には全てそろっていると思う。
 このエンタテインメントとしての面白さに加えて、この作家の面白いのは「言語」をコアにした哲学的なテーマのエンターテインメントとの融合がある。

 『このミス』でベストへランクインさせたり、哲学的テーマとの融合ということではP・K・ディックよりずっと現代的なので例えば『ユリイカ』でとりあげたり、もっと出版界はこの作家を広く読ませることを積極的にやらないといけないのではないかと切実に思う。いや、SFファン以外の読者にこの作家の面白さをもっと広く伝えるべきだと思うので、、、。とにかくもったいない。

 でも早川書房とか朝日ソノラマとか、彼を扱う出版社がいまいちマイナーなところなのが問題。こんなに言葉使いにセンシティブでテーマからエピソードまでリリカルなんだから村上春樹と同じように、、、、キャラクターの痛快さとか言語の意味づけでは京極夏彦と似ているのだから、、、例えば講談社でプロデュースして売れば、かなりの線に行くのではないだろうか。神林さん、メフィスト講談社ノベルス持込とかって、どうですか<<失礼)

 タイトルが損をしているのかもしれない。読んでみれば、それが意味するものの正体がなかなか良くて、素晴らしいタイトルと思えるのだけれど、これだけ見たら大概の本好きは引くのではないか。SFファン以外は、しちめんどくさいハードSFかと思うもの。神林ファンの僕も実はこのタイトルと、何故かイメージが合わないハードカバーの表紙絵(写真左)で積読だったから、、、。だけど実態はまるで違う。
 じゃ、売るためも考えるとタイトルは何が良いのか。すみません、僕の能力じゃくだらんのしか思いつきません。『神の追跡』とか、『永久追跡刑事 火星編』(^^;)とか、『赤い空の闘争』とか、、、。うーん、やはりこの本は『永久帰還装置』だ。周到にこのタイトルに向けて構築されていますネ。

 特に冒頭の破天荒なシチュエーションはミステリーファンに読ませたい。
 なんでこれが『このミス』のベストに入ってないか疑問(出版が11月末なのも問題)。ベスト3に入れても良いのではないか。なにしろ追うのは神(の刑事)、追われるのも神というトンでもない存在に関わる謎が冒頭で提示されるミステリー/刑事ものなのである、この本。神のような万能の世界改変能力。「本格」の必要条件である幻想的な凄い謎の提示にワクワクする。(一級のバカミスとも読める(^^;)というかバカミスそのもの。)

 とにかくSFファンのためだけの作家であるのはあまりにも惜しい人だと思う。そして編集者によってはSFでなくても(むしろSFで縛らない方が)凄い傑作を書く人ではないか。SFファンとしてはSFをずっと書き続けてほしいけれど、それ以外の例えばミステリーとかメインストリームの文学(『七胴落とし』のようなやつ?)とかも是非読んでみたいものである。
 こんな傑作がソノラマ文庫の扱いでいいわけがない(<<ソノラマにメチャ失礼(^^;)しかしなんでヤングアダルトのソノラマ文庫の扱いなのか、本当に疑問。逆にソノラマの読者の中高生あたりが面白さにぶっ飛んでいる例ってないのかな??)。とにかく小説好きの編集者! この人をSFだけで埋もれさせないでくれぇーー。(、、、と、本の感想というより、冒頭の凄い面白さに、つい熱くなって神林キャンペーンしてしまいました。)

◆関連リンク
永久帰還装置 神林長平の本 (Amazon) 
◆レビュウ特集
野阿梓氏レビュウ「永久帰還装置」~テロの時代の新世紀に書かれた存在論的なテロリストと、その意味論的解体の寓話~

本書は、神林の傑作である『猶予の月』のテーマを、よりエンターティンメントに徹してリミックスしたものだ、との見方も可能だ。否、そこには、作者の明らかな成熟があり、テーマのさらなる深化と、それにも関わらず、エンターティンメントであり続けることを見失わない、ほとんどアクロバット的な妙技を見せる。
だからといって、誤解されては困る。これは決して〈難解〉な作品ではない。サスペンスフルで滅法おもしろく、そして、驚いたことに、ウェルメイドな一篇の恋愛小説でさえ、あるのだ。
 あのテロリスト小説の白眉『バベルの薫り』の野阿梓が絶賛している。
SFオンライン57号(2001年11月26日発行) 書籍レビュー『永久帰還装置』評者:冬樹蛉
岡本俊弥氏のレビュウ
エスパラさんのどくしょ日記

 以下、ネタばれの本の感想を少し。


続きを読む "■神林長平 『永久帰還装置』"

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2005.04.17

■エドモンド・ハミルトン『反対進化』中村融編

 昨年の<奇想コレクション>『フェッセンデンの宇宙が同じ中村融氏の編で面白かったので今回も期待して読みました。
 『フェッセンデンの宇宙』よりも全体的に古い感じもあったけれど、なかなか堪能。
 一編づつの短評、行きます!気に入った順番。

◆「異境の大地」(Alien Earth,1949.4,青心社『星々の轟き』1982既訳)
 奥さんのリイ・帝国の逆襲・ブラケットが「埋もれた名作」と呼んでいると編者あとがきにあるけれど、これは本当に傑作と思った。植物の異界を描いた作品。目の前に異様な世界が突然広がったような気持ちになる。SFってこういうものだというパワー溢れる作品。
 「樹木信仰は人類の歴史と同じくらい古い。(略)あのもうひとつの異質な世界への原始信仰に由来する。」(P321)とか、スリリングな視点が素晴らしい一編。

◆「ウリオスの復讐」(The Avenger of Atlantis,1935.7,SFM既訳)
 こういうアイディアはバカバカしいと思いつつもワクワクします。歴史の闇に脈々とこんな闘争があったっていうのが、いい感じ。『妖星伝』とか『バビル2世』は遺伝子に潜んだけれど、この作品ではダイレクトに、、、。しかしむちゃくちゃしつこいおっさんやね。付き従ったスサンくんに敬意。

◆「失われた火星の秘宝」(Lost Treasure of Mars,1940.8,初訳)
 この宇宙冒険調の一編、楽しいです。短い一編に恋あり、冒険あり、火星の秘密あり。てんこもりの楽しさ。全体のトーンがどっかユーモラスでいいのですよね。

◆「呪われた銀河」(The Accursed Galaxy,1935.7, 青心社『星々の轟き』1982既訳)
 これ、あとがきにも科学的間違いについて指摘されているけれど、わざと書いてるような気もする。ここでの膨張する宇宙の解釈って、なんか好きです。「反対進化」とも通底する人類への冷たいまなざしが好きです。

◆「審判の日」(Day of Judgement,1946.9,初訳)
 編者鍾愛の一編とか。中村融氏は犬が好きなのかな、犬好きにはたまらない一編。
 僕は石森章太郎や手塚治虫より藤子不二雄をイメージした。S(すこし)F(ふしぎ)な短編。

◆「審判のあとで」(After a Judgement Day,1963.12,SFM既訳)
 こういう地球最後の日ものもなんか哀愁がいい。そして宇宙に流されるサイボーグに託される人類の記録。
 こういうのを読んで、星空を眺めると、中学のころのSFが蘇る。

◆「プロ」(The Pro,1964.10,青心社『星々の轟き』1982 、新潮文庫『スペースマン』1985既訳)
 アメリカ人の父子って雰囲気が良い。ハミルトン父子の実生活の、SF作家とその子供の関係もエッセイか何かで読んでみたい。あ、だれか著名SF作家の子供達が父親のSFの想像した未来をどんな風に受け止めていたかってエッセイ集を作ってくんないかな。万博の年にそんな本が無性に読みたい。

◆「反対進化」(Devolution,1936.12,ハヤカワSFシリーズ『フェッセンデンの宇宙』1972既訳)
 これは以前読んだことがあった。あー昔の脳の襞が覚えているって感じ。SFの原初的アイディアのひとつと思う。こういうのを自分で考え出した時のSF作家って嬉しかったでしょうね。

◆「超ウラン元素」(Transuranic,1948.2,初訳)
 壮大さでは本書中随一かも。月面での閉ざされた研究施設とか、これもひさびさに味わうプリミティブなSF。

◆「アンタレスの星のもとに」(Kaldar, World of Antares,1933.4,SFM既訳)
 これはいかにもな古い感じの話。「物質転送機による惑星間輸送」はハミルトンが初めて書いたアイディアとのことなので、そのアイディア創出には敬意を表する必要があるのでしょうが、古さはいなめないと思う。


関連リンク
・猫は勘定にいれませんさんの反対進化/エドモンド・ハミルトン
東京創元社|反対進化(エドモンド・ハミルトン)編者あとがき[全文]中村融
『反対進化』エドモンド・ハミルトン(Amazon)
・手当たり次第の本棚さんの『反対進化』 キャプテン・フューチャーのいない世界
・FSF通信さんの『反対進化』 ハミルトンによる珠玉のSF短編集
・BBSカフェアルファの『反対進化』について

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2005.04.12

■山田正紀 『神狩り 2 リッパー』

★究極映像研究所★: ■新刊メモ 山田正紀 『神狩り 2 リッパー』

 30年前に読んだ本の続編! 中学の時に神の言語とヴィトゲンシュタインの哲学に触れ、主人公達が強大な存在に挑む『神狩り』をワクワクして読んだ。そして30年後の自分が、またワクワクして続編を読めるのかどうか?

◆結論
 僕の答えは前半○(ワクワク)、後半うーんちょっとって感じ。ドイツを舞台にしている前半の緊密で硬質なイメージは良かった。が、後半の殺人事件から始まるミステリー調の部分、日本が舞台になったところから、登場人物の神への闘いのベクトルが弱くって、なんだか乗り切れない。前半のイメージ構築に比べると、パワー不足でだれた雰囲気がしてしまう。前作は60年代の反体制な臭いと切羽詰った山田正紀の青臭さが良かったのだけれど、今回はそうした雰囲気が現代を舞台にすると馴染まないからか、山田正紀自身の変化かわからないけれど、いずれにしても『神狩り』とは大きく違った読後感だった。

◆神について
 神についてのアプローチがいろいろ出てくるが、山田正紀はこういうものを神として描いたのかなと思った『神狩り』でぼんやりと浮かび上がってきた解釈が、今回はモロに出てきている。(詳しくは下記のネタばれ部分に書きます。) 『神狩り』では、それを言っちゃあおしまいよ、というある意味身も蓋もない解釈のギリギリ一歩手前で踏みとどまって、その周辺を描写して強大な敵のイメージを作り出していた部分が今回割りとあっさり語られてしまっている。しかしラストで、、、、、。
 ラストのイメージは好きです。何、あれ??と思ったけれど、でもなんか迫真なイメージが構築されている。SFにしか描けないイメージ。ここは山田正紀に「ブーメラン」(あとがき参照)が戻ってきた瞬間なんだな、と思った。

◆関連リンク
・山田正紀作品の分析をやられているページ 
神狩り 2 リッパー』山田正紀(Amazon)
山田正紀 - Wikipedia

★以下、ネタばれ★

続きを読む "■山田正紀 『神狩り 2 リッパー』"

| | コメント (4) | トラックバック (2)

2005.03.19

■新刊メモ 山田正紀 『神狩り 2 リッパー』

kamigari2
 ついに待望の山田正紀神狩り 2 リッパー』が出版された。
 作家生活30周年だそうである。1973年デビューなので、刊行が遅れた分だけ、30年を既に過ぎていますが、、、。 『神狩り』をハードカバーの新刊で手に入れたSFビギナーの頃の衝撃をあの新刊のインクの匂いとともに思い出す。当時の衝撃を今回も与えてくれるのを期待して、ページを繰りたい。
 今回イラストは生頼範義であるが、もう少し僕は地味な装丁のほうが合うような気がする。このイラストはこのイラストでいいんですが、、、。
神狩り 2 リッパー』山田正紀(Amazon)
山田正紀 - Wikipediaのリストで見ると、長編は本作で128冊目。短編集18冊を足すと146冊ということで、30年として年5冊。日本のSF作家の中でもこの人ほどコンスタントに書き続けている人もいないのではないだろうか。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2004.12.04

■イアン・ワトスン『エンベディング』山形浩生訳
    The Embedding (1973)

the_embedding.jpg 国書刊行会の<未来の文学>第二弾。『ヨナキット』や『マーシャン・インカ』を読んだのは既にもう20年前。マイナーだったけど、あの時のイギリスSFブームが懐かしい。んで、当時から噂の高かった『エンベディング』をハードカバー&山形浩生訳で読める喜びを噛みしめながらページを捲った。
 山形浩生氏のあとがきを読むと、褒めているんだか貶しているんだかわからない(貶しているに決まってる)。これを先に読んでしまったので、昔持った期待感なく読めてよかったのかな、思ったより破綻なくまとまって楽しめた。

 異星人とのファーストコンタクトものとしてなかなかいい。最近、この手のを読んでなかったから、コンタクトのシーンですごいワクワクして、ここでも自分のSF魂を確認してしまった。ベスター『願い星、叶い星では地球最後の人間の部分に時めくし、この本ではファーストコンタクト。ひねったものより、こういう原初に刷り込まれているSFの持つ怪しげなメインネタのダイナミックなワンダーに体の奥の方から反応。破滅もの異星人もの、これにドキドキするわけです、いまだに。正直『ケルベロス第五の首』より好き。

 このファーストコンタクトで登場する異星人とのトンデモ度の高い奇妙な取引、ここでキーになるのが言葉と現実という70,80年代を風靡した言説。うんなことないだろ、と飛躍に着いていけない気分と、あの当時、ディックとか神林長平とか読んで、現実が言葉によって構築されているというイメージを想いだすと、ほほえましくも懐かしい。
 ワトスンはこれを別に信じていたわけではないだろう。ひとつのヒトの現実を革命する小説内のツールとして選んだのだと思う。だけれど、当時の雰囲気って、ここに出てくるような言葉による現実認識の制限みたいのを切り崩すと何か新しい世界が出現するような期待感ってのがあったと思う。(これも『万物理論』の感想で書いた人間の現実認識が脳内の現象でしかないことを転倒して出てくる単なる妄想なのだけれど。)

 というようなシチメンドクサイ話でなく、これらをガジェットとして脳内に展開されるファーストコンタクトの異様な形態のひとつとして読むと、とってもワクワクする一冊。この秋の海外SFラッシュの中では僕のベスト1でした。
 こういうのハリウッドも映画化の目を向けるといいのにね。(売れない、売れない(^^;))

岡本俊哉氏のレビュウ
Ian Watson - Official Homepage ワトスンの思いがけなくも人のよさそうな写真と、なんとムービーも見えます。あと詩とか。
山形浩生勝手に広報部:部 室
『エンベディング』(Amazon)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004.11.21

■『すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた』
  ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/浅倉久志訳

QuintanaRoe.jpg quintana_roo.jpg

 ひさしぶりのティプトリーの新刊邦訳。
 1986年の作で、世界幻想文学大賞受賞。ユカタン半島のキンタナ・ローを舞台にした「美しくも儚い三つの物語」。
 全体としては、ティプトリー作品としては、凄みのあるSF短編群とは少々趣を異にし、淡いファンタジー的な小編といった感じ。であるが冒頭のノートにもあるように、背景にはマヤ族のメキシコからの独立運動とそれにむけた米軍の派兵といった影が横たわっており、どこか底流に重いトーンが漂う。
 3篇「リリオスの浜に流れついたもの」「水上スキーで永遠をめざした若者」「デッド・リーフの彼方」のうちでは、最後の一篇が一番好み。海と人間の関係、そしてそこにある異世界。廃棄物で構成された"異生物"の存在感がよかった。
◆関連リンク
すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた』〈ハヤカワFTプラチナ・ファンタジイ〉(Amazon) "Tales of the Quintana Roo"
A Bibliography of James Tiptree, Jr.  a.k.a. Alice Sheldon
・www.tiptree.orgのThe James Tiptree, Jr. Award
・ティプトリー
james_tiptree_jr.jpg

| | コメント (0) | トラックバック (0)

■SFアートの展覧会
  『想像から現実へ――サイエンス・フィクションの芸術』

NY_SF_ART_gallary.jpg

 Wired News - SFアートの展覧会、20年ぶりにニューヨークで開催 - Hotwiredより

 ニューヨーク科学アカデミーの『芸術科学ギャラリー』では、入場無料の展覧会『想像から現実へ――サイエンス・フィクションの芸術』が開催中

 ニューヨークの展覧会なので、下記サイトで楽しんでください。でも実物も見たいね。
・会場の写真 Wired News
・『芸術科学ギャラリー』 公式ページ

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2004.11.20

■『願い星、叶い星』アルフレッド・ベスター/中村 融訳

negaiboshi_kanaiboshi.jpg bester_etc.jpg
  (写真右はベスターの諸作の表紙から気に入ったものを選択)

 奇想コレクションの5冊目。アルフレッド・ベスターの邦訳オリジナル短編集。
 僕の気に入った順に寸評です。あー、でもまた『虎よ、虎よ!』が読みたくなってきた。

・「ごきげん目盛り」Fondy Fahrenheit
 狂った会話と文体、アンドロイドと男の宇宙放浪記。この狂った前衛な感じが他の本書作品には少なくって、これの点数が高い。
・「昔を今になすよしもがな」They Don't Make Life Like They Used to
 この<地球最期の人間>ものって、60-70年代の核危機の時代の空気から生まれているのでしょうが、なんか馴染みます。個人的SF体験の原点に近いかもしれない。「イヴのいないアダム」のシンプルさより、本編の女と男のずれた会話とか、まるで9.11の映像をベスターが幻視したようなニューヨークの摩天楼が崩れる描写とかにグッときました。
・「願い星、叶い星」Star Light, Star Bright
 ミュータントもの。これも60年代的だけれど、切り口がいいです。ラストの一行が好き。
・「地獄は永遠に」Hell Is Forever
 ある会合に出た人たちの各々の幻惑な現実を描いた中篇。死ねない男のエピソードが鮮烈。筒井康隆を思い出した。
・「イヴのいないアダム」Adam and No Eve
 鉄原子を分解してエネルギを取り出す触媒技術をキイとした地球最期の人間の話。同じ人類破滅ものでは、「昔を今になすよしもがなく」に軍配。でもこういう滅亡も好きです。
・「選り好みなし」Hobson's Choice
 タイムトラベルもので、時代とそこに人が馴染むという側面から切りとっているのが面白い。「広島」のキーワードき泣かせます。
・「ジェットコースター」The Roller Coaster
 こういう切り口でタイムトラベルが行われるというのも、案外現実に近いかも。作中にも記述のあるニューヨーク近郊のコニーアイランドの遊園地の狂騒に触発されて描かれたのではないかと思った。レム・コールハース『錯乱のニューヨーク』を読んだ後なので。
・「時と三番街と」Of Time and Third Avenue
 これもタイムトラベル物。ワンアイディアストーリーかな。

◆奇想コレクションの刊行案内が巻末にありました。スタージョン、デイヴィッドスン、イーガンがまずは楽しみ。各訳者の皆さん、翻訳、頑張ってください。早く読みたい!

「輝く断片」シオドア・スタージョン
「どんがらがん」アブラム・デイヴィッドスン
「ごっつい野郎のごっつい玩具」ウィル・セルフ
「ページをめくると」ゼナ・ヘンダースン
「TAP」グレッグ・イーガン
「たんぽぽ娘」ロバート・F・ヤング
「最後のウィネベーゴ」コニー・ウィリス

◆関連リンク
アルフレッド・ベスター/中村 融訳 奇想コレクション『願い星、叶い星』 河出書房新社(Amazon)
みけねこ日記さんの各篇レビュウ。
・WEB本の雑誌「寺岡 理帆の<<書評>>」 評価はA。
・アルフレッド・ベスターの写真。こう並べてしまうとなんだか残酷。若い頃の写真はキューブリックに似ている。
bester.jpg

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2004.11.11

■『万物理論』 グレッグ・イーガン/山岸真訳

BANBUTSURIRON.jpg 
distress1.jpg distress2.jpg distress3.jpg

 グレッグ・イーガンの待望の長編!! イーガン史上最長の邦訳長編を満足して読み終えた。

怒涛のワイドスクリーンバロックだったなら、、、、
 まずは総論。今回も壮大な骨格の物語と主にバイオテクノロジーを中核にした未来世界のガジェット群が存分に堪能できる。しかし中盤はちょっと中だるみ。もう少しつまんでスピーディにした方が傑作になったように思う。特に後半の大ネタは、もっと一気にクライマックスへ疾走してほしかった。アイデンティティの問題とか主人公のジェンダー観とか読ませたいのはわかるけど、この素晴らしいアクロバットなコアアイディアはトンデモが入っているだけに、真面目なストーリーより、ベイリーばりのワイドスクリーンバロックにしてしまった方が傑作になってたんじゃないかと思う。
 あと邦訳タイトルの『万物理論』は、原題の"DISTRESS"の方が良かったんじゃないでしょか。ハードSF的なイメージよりなーんかこっちの方が好きです、僕は。

アイディアの奔流の第一章
 特に第一章の未来描写に痺れた。死後復活とか、他の塩基でDNAを置き換える富豪とか、ジャーナリストである主人公アンドルーのドキュメンタリー番組を通して語られる驚異の生命倫理グチャグチャな未来。
 21世紀はやっぱDNAいじりが技術屋のオモチャになる時代なのか。物語の舞台になるステートレスの設定も最高。企業のバイオ特許と無政府主義を組合せて現出する未来の島のスリリングさも特筆。おしげもないアイディアの奔流に身を任せていると、しだいに単語を書くだけでネタばれなコアネタが登場する。

目撃者という究極映像
 究極映像研的には、主人公アンドルーの商売道具である「目撃者」に注目。視界そのものを記録する究極のノンリニア映像編集とAIを用いた画像改変技術の驚異。ジャーナリストの皆さんは、よだれが出るほどこのテクノロジーが羨ましいのではないか。別にジャーナリストでない僕だって、ほしくって堪らない。臍からメモリを入れるのは御免こうむりたいけど、、、、。
 こんな時代の映画だけでも、僕は観てみたい。くそう!2055年まで生きて、究極映像研でレポートしてやるぜ!! 2055年まで待てない貴方は、是非この本を読みましょう。

グレッグ・イーガン/山岸真訳 『万物理論』 創元SF文庫
・原文の冒頭がここで読めます。The Fantastic Worlds of Science Fiction Distress


★★★ 以下、ネタばれ ★★★








 メインネタの「人間宇宙論」って、「人間原理」って言われている奴と同じだよね。なんで呼び方が違うのか不明。宇宙論マニアの人、誰かこの二つの使い分けを説明してください。
 で、このネタ、いつかSFに出てくると思ってました。しかしトンデモすれすれというか、ほとんどトンデモなネタだよね、これって。そこに説得力を出そうとして「万物理論」を学会という舞台まで用意して描いているわけだけれども、真面目に書きすぎててSF的には飛躍とか勢いがそがれている感じ。「ディストレス」との連係現象が面白かったので、このネタの組合せで一気にラストへ疾走してほしかった、というわけです。

 「人間宇宙論」とカルトのくだりは、はっきり言って洒落にならない。本当にこういったカルトが出てきても不思議はないような気がするので。いや、すでにきっと広い世の中には、既に存在するんじゃなかろうか。
 どっかの宗教みたいに、ハルマゲドンが○○年にくる、と言ってしょっちゅう外すより、「人間宇宙論」によって宇宙が存在していると言っといた方が、馬脚を現すことのない現実逃避物語を提供できて、カルト的にはベターなんじゃないのかな。この本読んで、日本でへんなカルトが発生しなきゃいいけどね。

 「人間宇宙論」と映画『マトリックス』、鈴木光司の『ループ』 とか、この手のは、みんな同根の幻想から出てくるものに思えてしょうがない。
 結局、人間の現実認識が脳内の現象でしかないので、外界と内界を裏返すとこれらの幻想がすぐ登場するんじゃないの。脳内にデータとして存在するだけの人間の現実を外の世界へ投影すると、まんま「人間宇宙論」とか、『マトリックス』的な世界はシミュレートされたものって感覚が生まれる。本末転倒はなはだしいのが、このカルトネタと思うのだけれど違うのかなーー? 「人間宇宙論」を誤解してたら、すんません。

◆関連リンク
・人間原理宇宙論については、『人間原理の宇宙論―人間は宇宙の中心か 科学精神の冒険』 松田 卓也 著
『科学にわからないことがある理由―不可能の起源』ジョン・D・ バロウ著

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2004.10.31

■新刊メモ『万物理論』 『願い星、叶い星』
    『すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた』

negaiboshi_kanaiboshi.jpg  SOLARIS.jpg 
アルフレッド・ベスター/中村 融訳 奇想コレクション『願い星、叶い星』 河出書房新社 (レビュウ)
スタニスワフ レム/沼野 充義訳 スタニスワフ・レム コレクション『ソラリス』 国書刊行会
 表紙とロゴがメチャメチャかっこいい!!これは初のポーランド語からの直接日本語訳。

BANBUTSURIRON.jpg QuintanaRoe.jpg
グレッグ・イーガン/山岸真訳 『万物理論』 創元SF文庫
 あらすじで既に痺れます。イーガンの邦訳本では最長の600ページ。(僕のレビュウ)

2055年、すべての自然法則を包み込む単一の理論――“万物理論”が完成寸前に迫っていた。国際理論物理学会の席上で三人の学者がそれぞれ異なる理論を発表する予定だが、正しい理論はそのうち一つだけ。科学系の超ハイテクな映像ジャーナリストである主人公アンドルーは、三人のうち最も若い女性学者を中心にこの万物理論の番組を製作することになったが……。学会周辺にはカルト集団が出没し、さらに世界には謎の疫病が蔓延しつつあった。『宇宙消失』で年間ベスト1を獲得した、現役最高のハードSF作家が贈る傑作!

 参考にこんな本も面白そう。J.D.バロー/林 一訳 『万物理論―究極の説明を求めて』 みすず書房

・ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/浅倉久志訳
 すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた』〈ハヤカワFTプラチナ・ファンタジイ〉 (レビュウ)
 そして11月上旬はティプトリーの新刊! しばらくは海外SFファンの蜜月です。

 「わたし」がキンタナ・ローで耳にした美しくも儚い三つの物語。世界幻想文学大賞受賞

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004.07.10

■ウィリアム・ギブスン『パターン・レコグニション』
                   浅倉久志訳 (角川書店刊)

Pattern_Recognition.jpg
 海外も含めて、表紙の写真を集めてみました。日本のより右から二つ目が中味のイメージに近いです。左のCD?ディスクも捨てがたいけれど。

 『パターン・レコグニション』 web KADOKAWA公式ページより

 webにあらわれる異常なまでの完成度の高さを誇る断片映像<フッテージ>とは?
 <フッテージ>はネット上にランダムに流されている断片的な映像で、ストーリーもないが、抜群の完成度を誇る。主人公ケイスの最終的なタスクは<フッテージ>の正体を探ること。タキという日本人が<フッテージ>の正体の一部を解読したという情報を仕入れ、日本へと旅立った・・・・・・。
 サイバーバンクの王者ギブスンが、現実世界を舞台に描いた、スピード感あふれる極上のハイブリット・エンタテインメント!

 そう、これは「フッテージ」という究極映像を扱った小説なのである! 僕はギブスンより士郎正宗の方がサイバーパンク的には凄いと思ってしまうOTAKU野郎なので、実は相性が良くない。で、最近の3作くらいは読んでなかったのだけれど、このコピーを読んで手にとらないわけにはいかない!
 この本は、はじめから終わりまで、紛れもなく究極映像の探索の物語だ。そして今まで未来社会を描いていたギブスンがその文体で現代を描いた小説。SFではなくこれは現実小説である。

 結論として、フッテージの物語はそれなりにワクワクするのだけれど、タイトルにある人間の認識領域に迫るような高みには、残念ながら達していない。究極映像の探求はかように奥が深いのである、なんつって。
 小説としては911テロ後の雰囲気も醸し出しつつ、現代的で刺激的な完成度。とりわけ現在のネット環境の描き方が秀逸で、われわれのリアルがここにあるって感じ。頻繁に出てくるスターバックスも、ラテ好きにはたまりません(^^;)。
 ギブスン嫌いの人も、今作では三つの制約(「現実世界における2002年の夏を舞台にすること」「多視点描写をやめ、終始ひとりの人物の視点から語ること」「なるべく場面の省略を含まないこと」)を己に課したということで、他よりとっつきやすいです。

文体について
 文体は本作でも詩的で未来的。

 空はまぶしい灰色のボウルで、ほつれた飛行機雲がからまっている。
 ジッポーの墓石が、実存主義的エレジーで彼女をひきつける。

 ともするとギャグじゃないかと、疑ってしまう現実のねじれた切りとり方。だけれど、そのリズムで独特のギブスン世界がわれわれの脳内に展開され、現代を描いているが常に未来的な感覚がつきまとう。ここで未来的な感覚を覚えるのは、ギブスンの視点のペシミスティックさがそう感じさせているのかもしれない。フッテージを分析するように、一文一文を吟味して、そうしたペシミスティックな視点の頻度をみていけば、この雰囲気の原因は解析できそうだ(そんな面倒なことはできまへんが)。下記はフッテージを描写した文章であるが、この小説そのものの評価に近いものを感じる。
 たいていの人はその孤独が深まるのを感じる(略)。しばらくフッテージとつきあうと、それが心にまとわりつきはじめる。短い映写時間にしては、けたはずれに強烈な効果。既成の映像作家でそれがやれる人がいるとは、私には信じられない。(P108)

フッテージと東京のオタク集団
 ギブスンの文体については、ともかく、このフッテージの説明、映像ファンとしては是が非でも観てみたいと思いませんか。この作品、映画化の予定ということなので、その監督がフッテージに挑戦するのが楽しみでなりません。作家が「既成の映像作家でそれがやれる人がいるとは、私には信じられない」と書いた映像にチャレンジする勇気ある監督は、以前の情報ではピーター・ウィアーということですが、この人では、、、、。たぶんアートフィルムの短編作家あたりにそこだけ撮らせるというような手法になるのではないでしょうか。
 そして「六本木の赤提灯」。ここに現れる「東京のオタク集団に顔がきくと主張する」フッテージの秘密を握るタキという男の描写は典型的アキバ系である。汗のかき方の描写が特に。

そして、未来
 解説(巽孝之氏)でも触れられている次の「未来」に関する一文だけど、どうもここが僕にはギブスンの欠点のように思えてならない。

 すみずみまで想像された文化的な未来は、別の時代、"いま"という言葉がもっと長い期間を意味した時代に許されたぜいたくだ。(略)あらゆるものが急激に、強烈に、かつ深刻に変化する可能性があるため、祖父母の考えていたような未来には、その立脚点を築きあげるだけの"いま"がたりない。われわれに未来がないのは、われわれの現在があまりにも流動的であるからだ。(P60)

 うーん、たぶんITやディジタル技術の観点でみれば、そうかもしれない。だけど前世紀に電気や車といったテクノロジーがものすごい勢いで進んでいった時も、人々(祖父母)は同様に感じていたのではないのかな。人の身体機能は電気と車と飛行機によって、前世紀飛躍的な向上を得た。この時の身体的な変革は凄まじいものがあったと思うのだけれど。ギブスンが人間の認識領域へのディジタルの影響を形而上的にもっと描いていたらこの未来についての描写は迫力を持つかもしれないが、、、。
 前世紀の「身体」的拡張に対して「脳」とか「意識」の拡張についてサイバーパンクは描いてきたかもしれないけれど、実はその前世紀の「身体」的拡張がもはや「脳」や「意識」の拡張だった、という気がしていて、祖父母世代が未来を感じていたという書き方がひどく安直な認識に感じられてしまうのだ。わざと変な例えをしますが、この感覚って「年寄りは時代劇が好き」という全く根拠のない認識と実はいっしょなんじゃないの?(だってじいちゃん達は江戸時代を経験してるわけじゃないんだぜ、当たり前だけど(^^;))。なんだかここがギブスンの物足りなさなんだよね。詩的文体の文学としての面白さはわかります。しかし、ギブスンには基本的に架空の人間の未来は描けても、根本のところでなんか違うんじゃないっすか??と疑問符を付けたくなってしまうのである。

関連リンク
・当Blog関連記事 ピーター・ウィアーがウィリアム・ギブスン『パターン・レコグニション』映画化
William Gibson - Official Website ギブスン本人のBLOG  ありゃりゃ、03年9月で終結。言い訳は下記(って機械翻訳で出鱈目)。
 「私が私の日雇い職に戻る時間。(日雇い職は私がbloggingするのをもう止めるべきである時間であることを意味します)。(略)最も容易に思い浮かぶイメージはふたがやめられたので沸騰しないやかんのものです。」
'PR'-otaku: Logging and annotating William Gibson's 'Pattern Recognition' (Joe Clark: fawny.org)
No Maps for these Territories - William Gibson
・購入は 『パターン・レコグニション』(Amazon)

おまけ P35に出てくるリヒテンシュタインの機械式計算機に興味がわいたので、ググってみました。
Pattern_Recognition_caliculater.jpg
 自分の持ってる手回し計算機(写真最右)のイメージで読んでいたのですが、なんか描写が違うと思ったら、こんな形なんですね。かっこいい!!
 これ、オーストリアのクルト・ヘルツシュタークって人がナチの強制収容所にいる間に開発したらしい。ナチは彼を「知的奴隷」と呼んでいたとの描写が『パターン・レコグニション』にありました。ひどい。
会計博物館 CURTA携帯型計算機に詳しいです。

リヒテンシュタインで製造された手動式の携帯型計算機 使い方は、側面に値数をセットし、例えばその数を23倍するのであれば、十の位で2回、一の位で3回時計廻りに頭部にあるハンドルを回転させると、上部の周囲にある表示盤に答えが表示される。

・永瀬唯さんのBlog 錯合回廊--CisMatrix Corridor より海外の詳細なサイトを知りました。大きさは手の中にすっぽり納まるサイズで、とてもクール! うちのタイガー君の無骨さとは対照的か。
 クルタ計算機についての総合的なサイトはここ
 クルタ専門のメンテ屋さんのページだが、フラッシュによるクルタ作動シミュレーターや3次元CGのページなどともリンクしてる。http://www.vcalc.net/cu.htm
      (錯合回廊「書きそこなった日記から(2004.06.09-06.12)」より)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004.06.16

■SF殿堂博物館 Science Fiction Museum and Hall of Fame

 MSN-Mainichi INTERACTIVE コンピューティングより。

 SF関連の資料を専門に展示する「SF殿堂博物館」(Science Fiction Museum and Hall of Fame)が18日(米国時間)、ワシントン州シアトルにオープンする。米マイクロソフトの共同創設者で億万長者、またSFマニアとしても知られるポール・アレン氏が約2000万ドルの私財を投じて建設した。

20億円でSF博物館というのは、今の日本のSF状況からいうと、ビジネスとしてはありえない話で道楽そのものでしょうが、アメリカではどんなもんなんだろうか(きっとアメリカでも道楽でしょう)。行ってみたい!!
 ここがその公式サイト。なかなかいいデザインのページです。
 Science Fiction Museum and Hall of Fame
 ここも公式のようですが、どっちなんだろう?
CNN.co.jp - サイエンスに展示品紹介。うーん、これじゃあね、、、。
館内では、「スター・トレック」でカーク艦長が座ったいすをはじめ、名作に登場する光線銃や多数のポスターなどを見ることができる。宇宙ステーションを模したコーナーでは、スター・トレックのエンタープライズ号や「スター・ウォーズ」の宇宙船ミレニアム・ファルコンが窓の外を通り過ぎて行く。ボタンの操作で、これらの宇宙船をさまざまな角度から見てみることもできる。米海洋大気局(NOAA)が開発した球形のスクリーンには、実在する星のほか、スター・ウォーズに出てくる雪の惑星「ホス」なども映し出される。フランケンシュタインと遺伝子工学など、過去の名作と現代科学を比較する展示も見ものだ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004.06.15

■ルディー・ラッカーの初映画化!! 『時空の支配者』

 少し古いニュースですが、あのルディ・ラッカーのSFが映画化! との情報、ラッカーファンの私としては、何をおいてもこれを載せないわけにはいきません。
 原作は、天才科学者(マッドサイエンティスト)ガーバーとフレッチャーのシリーズもの長編。あの「ポップでキュートな超ナンセンス・ハードSF」(新潮文庫版裏表紙より)が、どんなマッドな作品になるか、今から楽しみ! 大ヒットして、是非『ウェット・ウェア』等のパンクな傑作も映画化してもらいたいものです。
 eiga.com [ニュース&噂]より

ルーディ・ラッカーのSF小説「時空の支配者」(ハヤカワ文庫・刊)の映画化で、時空支配装置という機械を手に入れた主人公が、時間と空間をもてあそぶうちに大混乱に陥るというSFコメディ。メガホンを握るのは奇想天外映画ならおまかせの奇才ミシェル・ゴンドリー監督(「ヒューマンネイチュア」「エターナル・サンシャイン」)。

◆関連リンク
・情報元は下記によれば、米Variety誌らしい。
  http://www.moviehole.net/news/3709.html
  http://movieweb.com/news/news.php?id=3965
Rudy Rucker's Home Page. 作家本人のHPには、今のところ映画化情報はありません。
『時空の支配者』ハヤカワ文庫 SF(Amazon)
ルディ・ラッカー翻訳書(Amazon)
rudy rucker原書(Amazon)

| | コメント (0) | トラックバック (2)

2004.06.12

■神林長平『膚の下』(2004)(早川書房)

 神林長平の火星三部作の完結編となる大作を読了。
kanbayashi_kasei.jpg
 アートルーパー(人造人間)と機械人と人間のコミュニケーションを、アートルーパーの意識の動きを中心に丹念に描き出していく前半が素晴らしい。この人造人間慧慈の意識の描写は、例えばメカでできたロボットに意識というものが生まれていく過程を読んでいるようで、スリリング。人間たちと機械人アミシャダイとのコンタクトが慧慈の意識を変貌させていき、それがまるで人工知能に意識と魂が宿っていくような遍歴を描き出していて読ませる。また慧慈以外のアートルーパーのタイプの違いによる意識の描き方の違いも素晴らしい。僕はインテジャーモデルのスーパーコンピュータぶりとそれぞれが個性を持っていく描写がとても気に入った。
 この意識の発生の描写は、SFという小説形態でしかたぶん表現できないことのように思う。そしてもちろん言語と心のありように着目し続けてきた神林長平だからこそ書くことが出来た意識の発生と発達の物語だと思う。この前半を読んでいて、実は僕はもうこの小説にかなりの部分満足してしまった。神林って作家をずっと読んできてよかったと感慨に浸りながら。(21年かけて完結した火星三部作を一作目からリアルタイムで読んできたのでたぶんに感傷的ではありますが、許してちょ。) 
 にしても神林をSFの文脈以外で評した文学批評を読んだことはないのだけれど、SF以外の評論家、文学者にはこの小説はどんな風に読まれるのだろう。ある種SFだからこその奇形的なガジェットや意識のありようの描き方をそうした立場から眺めた時にどんなことが書かれるのか、メチャクチャ読んでみたくなった。SFが凄いという観点で言っているのではなく、その特殊性故にこのような奇妙な形態の意識の物語が描かれることを、SF視点でないところから読んだ批評が、きっと僕らSF読者の持ち得ない視点にあふれ、センスオブワンダーに満ちているような気がするので望むのである。ねぇねぇ、ユリイカで「神林長平」特集やって下さい。>>青土社殿。

 で、実は中盤は少し中だるみ(^^;)。でもラストへ至るもう一つのテーマである創造主の物語がまた読ませる。
 複雑に思惑の入り混じったいくつもの集団同士の軍事行動をエンターティンメントとして描きながら、人造人間アートルーパーが到達する創造主としての認識。冒頭で慧慈に間明少佐が言う言葉。「われらはおまえたちを創った。おまえたちは何を創るのか」。この言葉が慧慈の意識に創造主というベクトルを発生させ、動物→アンドロイドという救済策によって形を成していく創造主の意識、これを読者は追体験することになる。そしてここが『あなたの魂に安らぎあれ』へと直結する。
 ラスト、慧慈と偶然知り合い文字を教わった実加が読む慧慈の日記。特にサンクのくだりが泣かせる。

 そのページには、ただ一文、それだけだった。サンクは十八年生きた。(P682)

◆関連リンク
・多村えーてるさんの美しい暦BLOG 神林長平『膚の下』読了
『膚(はだえ)の下』(Amazon)
・三部作の簡単な紹介文 神林作品ガイド

| | コメント (0) | トラックバック (0)