2024.02.20

◾️感想 OpenAI テキスト動画生成AI SORA

Introducing Sora — OpenAI’s text-to-video model

 先週末、公表されてAI映像に業界中心にネットが騒然となった、OpenAIのテキスト指示による動画生成AI SORAついて思うところを記しておきます。

 リンク先は最初にOpenAIが公開した動画集。
 まず冒頭付近に置かれたゴールデンレトリバーの子犬が雪と戯れる映像。このフォトリアルで実写にしか見えない完成度は素晴らしい。この映像を生成AIによるものと判別できる人はどこにもいないだろう。

 他の動画でベッドの上の猫の足が3本になったり、SUVを後方から捉えた映像はゲーム画面の一昔前のシージーに見えたり、まだ欠点も見られるけれど、いずれも完成度は、先週までの他の生成AI映像に比べると桁違いに素晴らしいと言っていい。

 この技術が映像クリエータと映像制作をこころざすアマチュアに衝撃を与えて3日たった。思いのほか、フェイスブックとX の僕のタイムラインでの映像関係者の方のコメントは少ない。ほぼAI界隈のコメントで埋め尽くされている。 もちろん皆さん衝撃は受けられているはず。だけれど、まだOpenAI の公式発表+α(サム・アルトマンのXでの一般のポストのプロンプトから映像を作ったもの)が目に触れるだけで、自身でソフトウェアをいじって実作できていないから、なのだろう。

 早晩(2-3ヶ月 or 半年)、何らかのフェイク映像対策がとられたバージョンで、OpenAIはソフトを誰でもが使えるように公開するだろう(有料?)。その時に自身でつぶやいた言葉がこのクオリティで映像化できたら、ここで映像関係者には再度大きな衝撃が走るのでしょう。

 ちまたで言われるように、広告映像業界は壊滅的な打撃を受けるかもしれない。少なくとも僕が携わってきた企業の展示用技術説明のCG映像は、もともと作家性の薄い領域なので、おそらくこの技術に置き換わるでしょう。数百万〜かかるコストの削減効果は絶大と思う。

 そして楽しみなのは、アマチュア映像作家によるこのクオリティの映像作品の制作。アイデアがあっても時間と金の準備ができずに制作を断念している作家の作品がどんどん世に出てくるのが楽しみでしょうがない。まさにデスクトップ映画スタジオの誕生。 キャラクターデザインや画風を独特にした動画も撮れそうなので、本当の埋もれていた作家がこうしたツールを使いこなしたらとてつもない作品ができるかも。自分も今からアイデア考えておいて、何か作ってみたいものです(^^)。

 フォトリアルなSFX CG SF映画も夢ではないわけで、プロの方々の衝撃とは別にそうしたアマチュアの趣味の開花には期待したいものです。

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2022.12.19

■感想 ジェームス・キャメロン監督『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』3D(Real D) 吹替 HFR


 IMAX 3D Teaser • Avatar 2: The Way of Water • Dolby 5.1
 このYoutubeの3D予告篇、画質も良くて素晴らしい3Dが楽しめます。うちの3D視聴環境(2K 三菱DLPプロジェクタ+3D液晶メガネ)で観ると、映画館のRealD版より美しいw。

 ジェームス・キャメロン『アバター ウェイオブウォーター』イオンシネマ3D吹替 HFR RealD版を昨晩観てきました。

 HFRは違和感なく、3Dの水の表現、異世界の生物描写等、没入感が素晴らしい。特に霧が水辺にたゆたい、水面と砂浜の透明感を幸せそうに体感する様な何でもない情景シーンの佇まいに息を飲みます。

 物語は、公開されたばかりなので、まだ多くは語れないですが、、、映画全体では前作の方が好きですが、パンドラの自然と一体となる体感映像として、この充実度は凄いです。

 字幕が邪魔しない3D吹替、そしてイオンシネマのリアルDは冒頭等、画面がメガネで暗くなるので(うちのプロジェクターより数段暗い)、IMAXレーザー、ドルビーレーザーがお薦めかも(観てないのにw。キャメロンがそう言ってる様なので間違いないでしょう(^^;))





★★★★★★★★★★★以下、ネタバレ注意★★★★★★★★★★★









物語展開的に解せないところ。このあたりが前作に軍配を上げる理由です。今後、2作目に続く、連作の物語でどうストーリーが昇華していくか、キャメロンのお手並み拝見というところでしょうか。

・大佐があの方法でアバター化できるなら、前作でジェイクの兄も同様の方法が取れたはず。
・希少鉱物アンオブタニウムの鉱床の件はどうなったのでしょう。いつの間にかトゥルクンの脳髄液(不老不死の妙薬)の話に置き換わっている。
・捕鯨船ならぬ捕トゥルクン戦での戦いのシーンで、最初一緒に攻撃したメトケイナ族の民がその後、戦いに参加していない。
・ネイティリが本作では精彩がありません。彼女、ヒステリックに叫んで戦っているだけに見えてしまう。前作では良いキャラクターだっただけに、丁寧さのない描写が残念でなりません。

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2022.11.14

■感想 ゲルハルト・リヒター展 @ 豊田市美術館

ゲルハルト・リヒター展

"会期 2022年10月15日[土]-2023年1月29日[日]
休館日 月曜日[2023年1月9日は開館]
[2022年12月28日-2023年1月4日は休館]
開館時間 午前10時-午後5時30分[入場は午後5時まで]"

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 ゲルハルト・リヒター展@豊田市美術館、観てきました。ほとんどリヒターについて前知識なく、東京展の評判だけを頼りに観たのですが、噂に違わず、ずしんと来る印象的な作品群でした。豊田展は平日、実に空いていたので、結構独り占めに近い感覚でずっと作品に浸っていられたため、とても贅沢な気分でした。

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 展示はほぼ年代順、まずフォトペインティングと名付けられた、写真をキャンパスに投影して絵筆で描かれた「モーターボート」という作品が印象的。4人の若者が描かれた絵は、白と黒の陰影が美しく、近づいてみると確かに筆の描画のタッチが横方向に見えて、その何ともいえない淡い筆致が美しい。

 
 同じく「8人の女性見習看護師」、「頭蓋骨」と「不法に占拠された家」というフォトペインティングの作品は、写真を写し取ったもので淡い色調でまるで網膜に光が残像している様なタッチで、記憶の中の映像といった面持ち。

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 そして1966年に16mm白黒フィルムで撮られた「フィルム:フォルカー・プラトケ」というわざとフォーカスを甘々にしてボケた様に撮られた映像で、さきほどまでのフォトペインティングのまるで動画版という趣でスクリーンに映し出された作品。ここでもやはり「記憶の残像」といった印象が強く感じられた。

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 次に作品はアブストラクトペインティング、抽象絵画に移っていくのだけれど、冒頭の残像のイメージが強く、抽象画は自分には向いていないと心配していたのだけれど、どれもが作家の頭の中に記憶され/焼き付けられた現実の残像の様な景色に見えてきて、なんだかすんなりと作品世界に入っていける印象、

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 そこからフォトペインティング作品とアブストラクトに加えて、カラーチャート、オイル・イン・フォト(焼き付けた写真に油彩を塗ったもの)というような実験的な作品群に移行していくのだけれど、どれも人の記憶の、光の残像のような見え方で、凄く納得してその雰囲気を楽しめたのでした。

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 「8枚のガラス」という作品は、巨大な、展示ごとに配置をランダムに変化させているらしいカラーチャートの手前に置かれていて、このガラスの前を歩きながら、カラーチャートを眺めると、無数の明るい色がガラスで散乱して不思議な空間にいる気分になる。これらも記憶に堆積した光の残像のようで、一貫したこの画家のアプローチが、客観の物理的光と、視覚を通して頭の中に残像として多数積層させた光の織りなす主観の融合みたいなものにあるのかな〜というぼんやりした/そして強い印象を残していくように感じられた。


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 そしてメイン展示のアウシュビッツ強制収容所を描いた「ビルケナウ」という巨大な空間に並ぶ4枚の油彩画とその写真ヴァージョン、そして中央に置かれたグレーのミラーと、収容所でゾンダーコマンド(特別労務班)によって撮られたという4枚の写真。

 帰ってから日曜美術館で紹介された国立近代美術館の展示の様子と比べてみると、豊田市美術館の方が空間が少し広く、またその四角形のスペースが正方形のため、まさに4面に巨大なキャンパスとその写真像とグレイのミラー、収容所の写真がそれぞれ4面の中央に展示され、全体としては(東京展は四角の空間に一部柱の様に太い梁があるので)比較してより均質な空間感覚があって、もしかしたらこの人類史に刻まれる様な強い印象の作品にとって、適した展示状態かもしれない。

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 巨大なキャンパスの油彩画は、まるで収容所で積み重ねられた悲痛の記憶の堆積の様に見えて、とても一言では言い表せられない深い味わいの作品となっている。リヒターも自身体験していないだろうけれど、収容所の暗い建物の隙間から、ゾンダーコマンドに撮られた様な光景を、覗き見ている様な凄絶な雰囲気もあって、こうした印象は今までに絵画からは少なくとも体感したことのないものだった。

 絵画の役割は、作家の心象風景をその筆致を通して、観客の視界の奥に再現することの様な気がずっとしているのだけれど、このリヒターの作品群は、まさに作家が物理的世界から客観として入力された光を、自身の主観で上描きして、その内面の映像空間を切り取った様な迫力に満ちていた。そして「ビルケナウ」は、画家が幻視した収容所の過酷を、光の残像の堆積として描き出した鬼気迫る印象を、見る人の記憶に転写する様な作品だったと思う。こうした美術作品は観たことがないという点で、巷で言われている様に、リヒターという画家は美術の先端を切り拓いている人なのかもしれない、とぼんやりと体感して帰ってきました。

 今回、(一部を除き)撮影自由だったので、ざっと全体を体感した後、印象的だった作品をiPhoneで撮ってきました。一部はその作家の筆の運びを見たくて、近寄って拡大写真と合わせて撮りました。生の絵画を写真に収めて、観た時の印象を持ち帰れるというのはとても有意義な経験になりました。

 以下は最近の素描作品。タッチが金田伊功の原画を思い起こさせるシャープさで、本ブログ的にはこんな絵もとても気に入りました(^^)。
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2022.08.28

■感想 ジョーダン・ピール監督『NOPE/ノープ』


『NOPE/ノープ』予告編

 ご無沙汰しています。久々の記事になりすみません。本業もちょっと忙しくついサボってしまっています。
 ジョーダン・ピール監督『NOPE/ノープ』観ました。

 ネタバレしない様に感想まとめてみます(添付予告篇の範囲のネタバレは許して下さい)。

 今までのピール作品と比べると社会問題的な視点は後退し、今回は正面からエンタメしています。それにしても日常の組立てとか、映像と音と音楽が今回もとても効果的に映画を盛り上げています。

 特に、この予告の冒頭にある速射砲の語りに代表されるキキ・パーマーの快活さと音楽センスがとても気持ち良かった。これは今までのピール監督作にあまりなかった要素で、もともとのコメディアンとしての本領なのかもしれない。

 そしてさらに予告冒頭にあるエドワード・マイブリッジによる世界初の連続写真動画、ここに代表される様に本作は映画の原初的な撮影の姿にも肉薄する、映画撮影の映画でもある。ここが映画ファンの心をくすぐるところ。
いずれにしても端正な映像と的確な演出で(多少の物語展開の理屈的ないつもの無理があっても)ハラハラワクワクと映画ファンを存分に楽しませてくれる。

 何かと比較されることもあるシャマランと比べて、同じく(商業)長編映画3作目で空の未知の存在を描いたピール、『サイン』より僕はこちらに軍配を上げます。

 ピール製作/ナビゲーター/一部脚本の「トワイライトゾーン」もアマゾンプライムで観られるのでこのまま続けて、今年の夏はジョーダン・ピール特集上映が我が家では続きます(^^)。

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2022.05.30

■感想 石川慶監督,脚本,編集、ケン・リュウ原作,制作総指揮『Arc アーク』


映画『Arc アーク』本予告 2021年6月25日(金)公開
 石川慶監督,脚本,編集、ケン・リュウ原作,制作総指揮『Arc アーク』WOWOW録画見。

 昨年6月の映画公開時はあまり評判にならなかったけれど、この映画、静かな佇まいのSFで、なかなか素晴らしい出来でした。ここまでしっとりとした描写と映像で見せるSF映画は稀有ですね。生命倫理をテーマにした『ガタカ』をどこか思い出させるところもあるけれど、あの映画よりSFとしてはよほど思弁的で、その映像演出とともに味わい深い傑作です。

 ケン・リュウの原作短篇は読んでいないですが、テーマ的にはある意味、よくありそうな話なのですが、言葉での説明を極力減らして、多くを語らず映像でテーマを語らせている事で、物語の純度がグッと高まっています。

 その映像、ピオトル・ニエミイスキ撮影監督がとても良いです。多分この方、石川監督のポーランド映画大学留学中の盟友ではないでしょうか。日本の瀬戸内海ほかでロケされた、素晴らしいカメラが堪能できます。

 主演の芳根京子ほか、俳優陣も素晴らしい演技です。とても映画らしいSF、よろしかったら観てみてください。

【単独インタビュー】『Arc アーク』SF作家ケン・リュウが語る、“物語”が存在する意味

"そうした中で、生者と死者が繋がっていることを視覚的な隠喩で示すこのシーンが持つ力強さが、とても気に入っています。自分自身が世代から世代へと続くこの長い鎖の一つのリンクにすぎないことに気が付き、死者と繋がっていることを実感できた時に信じられないほどの力が得られることを、このシーンは素晴らしい形で表現しています。本当に、石川監督の視覚的な隠喩はとてもパワフルで、文章であれば何ページにもわたって書き続けるようなことを、彼はたった一つの画に凝縮しています。"

プラスティネーション(wiki)
 本当にあるんですね! 紐でつるのも本当にやっているみたい!!


BODY WORLDS & The Art of Plastination (English/Français)
 Youtubeで「BODY WORLDS Plastination」で検索すると相当えぐい映像が出てきます。
 御注意を!! リンク先を見るか見ないかは、自己責任でお願いします。
 僕はトラウマになりそうだったので、チラ見しかしていません(^^;;)。

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2022.05.15

■感想 樋口真嗣 監督 / 庵野秀明 企画・脚本他『シン・ウルトラマン』


予告篇

 "―空想と浪漫。そして、友情。―
 日本を代表するキャラクター“ウルトラマン”を新たに『シン・ウルトラマン』として映画化!
 企画・脚本に、自身もウルトラマンシリーズのファンであることを公言する庵野秀明。そして、監督は数々の傑作を庵野氏と共に世に送り出してきた樋口真嗣。
 「ウルトラマン」の企画・発想の原点に立ち還りながら、現代日本を舞台に、未だ誰も見たことのない“ウルトラマン”が初めて降着した世界を描く、感動と興奮のエンターテインメント大作。"

 いよいよ公開された『シン・ウルトラマン』、仕事帰りに初日レイトショー@豊田KiTARAイオンシネマで観てきました。
 成田享、金城哲夫他スタッフへのリスペクトと空想科学特撮ヒーロー映画の革新、たっぷり堪能させて頂きました。

 成田享、金城哲夫他円谷プロ初期スタッフの創り出した、初代ウルトラマンのフォーマットで(あのフォーマットを使ってこそ?の)ここまでのSFが出来るとは! 素晴らしいです。SFと書いているのは、高度な宇宙知性との接触とその脅威が見事に描けている侵略SFになっているのです!大満足でした。

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 MCUにしてもハリウッド映画の異星からの脅威がほぼトカゲ型の宇宙人による暴力中心の侵略なのに対して(サノスは知性を感じさせましたが、、、)、今回並外れたテクノロジーの進化を持った宇宙からの脅威をまともにスリリングに描き出したのは、まさにこの円谷初期スタッフのクリエイティブあらばこそ、というのが素晴らしいです。これが空想科学特撮の革新であるとともに、世界のヒーロー映画の革新にもなっていると考えるわけです。ではその核は何なのか、というのは以下のネタバレパートで書きますね。

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 映像的な斬新さについては、今回も『シン・ゴジラ』と同様、CGと特撮技術の融合により斬新な映像が撮られていたところですが、特に、縦横無尽なカメラの多視点と、マンや怪獣をカメラがフォローしてグルングルン動くところでした。特にガボラ戦、単調になりがちな「怪獣プロレス」(失礼)の単調さがなく素晴らしい躍動感ある見応えのある決戦シーンでした。

 SF小説との関連を考えると、冒頭の禍特対(カトクタイ) という禍威獣(カイジュウ) を災害として対応する視点は、樋口真嗣が総監督を務めてテレビドラマ化された、作家山本弘の SF『MM9』の気象庁特異生物部対策課(気特対)を連想させます。

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 また異星人による地球の観察と人類への友愛("―空想と浪漫。そして、友情。―)といったテーマは、田中光二の傑作SF短篇連作である『異星の人―エーリアン・メモ 』を想起させますが、これは初代『ウルトラマン』や手塚治虫『W3』の方が先だったりします。地球の観察者は、時折、地球人にたまらなく惹かれてしまう様ですw。

 音響/音楽的には『シン・ゴジラ』継承で旧作の音楽をそのまま使う部分と、鷺巣詩郎によるエヴァンゲリオンに連なる音楽のハイブリッドで、今回も元作の雰囲気を最大限活かして、さらに革新も音でも感じさせる見事なものになっています。


★★★★★以下、ネタバレ全開しますので、ご注意下さい★★★★★







 空想科学特撮ドラマの革新部分について、まずネタバレで書いてみます。

 遥かに進んだを科学とテクノロジーを自在に操る異星の高度知性体がもし侵略を目的に日本に現れたら、、、そんな侵略SFをウルトラマンのフォーマットでSF(もしかしたら"バカSF"(^^;))として本格的に描き出したのが、空想科学映画『シン・ウルトラマン』であると考えるのです(^^)。

 高度知性体が地球に現れたらどういう状況になるか、、、①全く異質な知性として人類とはコミュニケーションが全く取れない。②異星知性体がその高度な知能とテクノロジーで地球人の言語を習得し流暢にコミュニケーションする。大きく言えば、このどちらかであろう。

 シン・ウルトラマンではもちろん初代ウルトラマンのフォーマットに従い②のファーストコンタクトを描いているが、理論物理学者 橋本幸二 京大教授(素粒子論,弦理論,量子重力理論) の監修により、非粒子物理学によるハイパーテクノロジーを描き、高度知性の侵略を描き出す。

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 ここでは圧倒的な科学技術力の差が描かれており、それだけの進化を遂げていれば、例え知性の形態が全く別の異星人であっても、知能とテクノロジーで日本文化を理解した上で日本語のコミュニケーションを可能としている、というのを納得させる。その際のコミュニケーションが公園のブランコや、居酒屋の割り勘飲み会であっても不思議ではないだろうと言う(バカ)SF的な説得感を持たせるw。

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 実相寺監督が創り出したちゃぶ台でのメトロン星人とダンの会話も、現代的リアリティを持つことになる(でもバカSF(褒め言葉です)でしょw)。

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 今作のメフィラス外星人 山本耕史の素晴らしいコミュニケーション能力とユーモアに、劇場で爆笑しつつ上手いなぁ〜と感心した多くの観客のみなさんには、この感覚わかってもらえると思います。山本耕史最高でした。

宇宙を支配する「たった1つの数式」があるって知っていました? 橋本幸二 京大教授
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非粒子物理学(wiki)
 無知なので、これは映画のための架空科学の造語だろうと思っていたのですが、本当に最先端の思索として理論物理学の世界に実在しましたw。

"理論物理学において、非粒子物理 (Unparticle physics) は、粒子物理学標準模型を用いて粒子の観点から説明することができない、その構成要素がスケール不変である物質を予想する思索的な理論である"

・プランクブレーンの「ブレーン」は、これみたいです。
 ブレーン宇宙論(東大 宇宙理論研究室 小山和哉氏資料.pdf)ってのがあるんですね。

 プランクは「光子のもつエネルギーと振動数の比例関係をあらわす比例定数」であるプランク定数からでしょうか。

 超弦理論等をベースに、プランクブレーンをコントロールして強大な力を持ち、地球人類殲滅兵器たるゼットンを軌道上に展開する超知性体、ゾーフィ。殲滅の目的が、ベータカプセルで巨大な破壊兵器になるポテンシャルを数十億人の人類が持っているから、というのがワクワクするエスエフ設定である。

 圧倒的な力の前に何もできずに立ちすくむ人類の無常感、ここはまさにSFのセンス・オブ・ワンダーだと思う。

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 超弦理論の描き出す11次元とか、劉 慈欣の世界的SF大作『三体』でも超科学文明が次元を自在に操るテクノロジーを利用して、脅威的なシーンが描かれてましたが、ウルトラマンは既に55年前にそんな技術を使う超人を描いてたのですね!(^^)。

 というかそのフォーマットには既にそうした視点が内蔵され、それが55年後に理論物理学の進化の援用によって、樋口真嗣監督 / 庵野秀明企画・脚本のスタッフ陣によって、映像として具現化されたわけです。もう日本の映像界も、『三体』を持って超絶SF世界を描く世界映画シーンに負けないレベルに到達したのです(^^)。どんとこい『三体』、Netflx !! ww。

 最終兵器ゼットンが地球上空に展開していくシーン、人類を一瞬で滅却するパワーの脅威を、あの元作の最終回と同じ効果音で、迫力持って描いてあって、上記の様な侵略SFの映像化に震えながら、胸熱にならざるを得ませんでした。

ウルトラマン (Wiki) より抜粋

放送回 放送日 制作順 サブタイトル 登場怪獣・宇宙人 脚本 特技監督 監督 視聴率
1 7月17日 5 ウルトラ作戦第一号 ベムラー 関沢新一
金城哲夫
高野宏一 円谷一 34.0%
3 7月31日 3 科特隊出撃せよ ネロンガ 山田正弘 的場徹 飯島敏宏 33.6%
9 9月11日 9 電光石火作戦 ガボラ 山田正弘 高野宏一 野長瀬三摩地 39.5%
18 11月13日 19 遊星から来た兄弟 ザラブ星人
にせウルトラマン
南川竜
金城哲夫

高野宏一

野長瀬三摩地 39.8%
33 2月26日 33 禁じられた言葉 メフィラス星人
バルタン星人(三代目)
ザラブ星人(二代目)
ケムール人(二代目)
巨大フジ隊員
金城哲夫

高野宏一

鈴木俊継 40.7%
39 4月9日 39 さらばウルトラマン ゼットン
ゼットン星人
ゾフィー
金城哲夫 高野宏一 円谷一 37.8%

 今作の構成は、初代ウルトラマンの上記リストの話数をほぼこの順番に並べたものである。赤文字部分が登場する怪獣と宇宙人である。各話のエピソードもかなり映画にそのまま使われている部分が多い。ここで脚本家としての金城哲夫の功績が大きいことがわかる。もちろんメインライターだったのでこうなるのは必然かもしれないが、シン・ウルトラマンも金城(と上記リストのシナリオライター)の脚本原案と言っても過言ではないと思う。だけどクレジットには彼らの名前はなく「脚本 庵野秀明、原作監修 隠田雅浩」の名前のみ。ここは成田亨の名前がクレジットされているのと合わせて、是非とも脚本原案等の表記をして欲しかったと思うのは僕だけだろうか。

 そしてこれら5話分のストーリーを繋ぐ縦糸が、上述した侵略SFとしての高度知性の外星人とのコンタクトと人類の無力/そして最後の反撃の物語ということになる。一本の映画として昇華させるための、この庵野秀明らによるアイデアとクライマックスはなかなかのものだと思います。

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 ただこの物語の骨格で、実は一点、しっくりこないこともあります。
 地球人類がプランク・ブレーンとの相性が良く、数十億の超兵器の素材として宇宙から狙われるという設定。ここが凄くドキドキする設定異様な設定で、長澤まさみの巨大化シーンをビジュアル化して、そこから数十億の人類の異様な巨大化のビジョンも観客の脳内に想起させている。しかしメフィラスも同じ能力を持っているはずで、地球だけが特別という感じがしないのが少し腑に落ちません。何らかその辺りの描写があると良かったかな、と。

 あとこの物語の骨格で、一度ゼットン戦にウルトラマンが破れたところで、次がどういう展開になるか、手に汗握った。
 その際に妄想したのが、「シン・ゴジラ」の文字が(「ウルトラQ」の代わりに)冒頭のタイトルに出てきたことで、ついクライマックスで人類が非粒子物理学の公式を得て、東京駅に凍結されたシン・ゴジラを新たなベータカプセルで、対ゼットン兵器として復活させる展開を一瞬、夢想しました。もちろんそんな展開はなかったのだけれど、一瞬シン・ゴジラがプランクブレーンの力で超巨大化してゼットンと戦うビジョンは鮮烈でした(^^)。

◆その他 雑記
・エンディングの歌、米津玄師「M八七」の音調では僕には「空想と浪漫。そして、友情」の歌に聴こえませんでした。ビジネス側面が強いとは言え、ここはやはり初代のテーマソングを高らかに聴かせて欲しかったなぁ〜と思うのです(^^)。

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2022.04.06

■写真 岡本太郎「太陽の塔」1/144スケール ソフトビニール製塗装済み完成モデル

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「太陽の塔」1/144スケール ソフトビニール製塗装済み完成モデル(海洋堂 公式)

"・全高500mmの特大サイズの最上位アイテム。
・左右の目はLEDライトで発光。
・黄金の顔は高級感あふれる金メッキ加工。
・ボディーの質感・稲妻を表した前面のコロナ・黒い太陽を忠実に再現。"

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 海洋堂の1/144、我が家にも50cmの太陽の塔がやってきました。3月が誕生日なので自分へのプレゼントです(^^)。

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 猫はやはり箱には興味を示しますが、塔には今一つのようです。まずは玄関の招き猫の隣に鎮座しました。
 今年古道具屋で仕入れた招き猫がでかく、意外と岡本太郎先生が威圧されてますw。

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 ディーテイル、特にコンクリートの塗りのタッチがリアルで、万博記念公園で実物を見上げた時の感動が蘇ります(^^)。

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◆関連リンク
岡本太郎「太陽の塔」1/144スケール ソフトビニール製塗装済み完成モデル(Amazon)

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2022.04.04

■感想 中江裕司 脚本・演出『ふたりのウルトラマン』

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3/26(土)放送NHK BS4K ドラマ「ふたりのウルトラマン」 NHK公式

"ウルトラマンを創った沖縄出身の2人の男たち。金城哲夫と上原正三の知られざる生涯に迫る。ヒーロー誕生の舞台裏や日本復帰前後の沖縄の光と影、夢と挫折を描く人間ドラマ

1972年の沖縄復帰直前、日本全国で大ヒットした特撮ドラマ「ウルトラマンシリーズ」。その初期シリーズには、金城哲夫と上原正三という沖縄出身の若き脚本家が参加していた。アメリカの統治下、沖縄からパスポートを持って上京、20代にして円谷プロのメインライターとして活躍、子どもたちが夢中になる人気番組を創り上げていった。ヒーロー誕生の舞台裏や沖縄の光と影、夢と挫折を描く、沖縄復帰50周年記念の人間ドラマ。"

 中江裕司 脚本・演出『ふたりのウルトラマン』NHK BS-4K録画見。

 前半の上原正三が円谷プロに来てから『マイティジャック』の視聴率不調/『帰ってきたウルトラマン』の脚本1本を最後に金城哲夫が円谷プロを去るところまでは、どっちかというと戯画化された円谷プロ周辺の人々が観ていて辛かった(特に大伴昌司の酷いキャラクタ象で観るのをやめようかと思った)。

 しかし実はこのドラマの真骨頂は後半の、今まで類似の円谷プロ周辺を描いたドラマでは軽く触れられるくらいだった金城の沖縄帰還後の苦悩の描写だった。

 金城の実在する仕事部屋を撮影の舞台として描かれた後半。沖縄を描いた芝居の1シーンを脚本・演出家である金城が自ら演ずるシーン。沖縄海洋博で金城が脚本と撮影を担当したドキュメンタリー映画「かりゆしの島―沖縄」の1シーンを挿入して描かれる金城の生前最後の仕事の苦悩。沖縄と日本本土との狭間で擦り減っていく金城の姿がとても辛く響いてくる。

 脚本・演出を担当した中江裕司は、『ナビィの恋』(未見)等の映画監督で、京都出身/沖縄在住とのこと。沖縄での金城の仕事を丁寧に追った上で作られているのが良くわかる作品になっていた。

 この時代の金城哲夫を、沖縄出身の満島真之介が熱演していて、色々と迫ってくるものが多い印象的なドラマになっていた。

 『ウルトラマン』とか『ウルトラQ』『セブン』リマスターの4K映像がドラマの中で流されて、35mmフィルムと16mmフィルムの差がよく分かったり、といった映像的な楽しみもあったけれど、映像的な一番の収穫はラストシーン、4Kで見事に捉えられた東京の夜景と星空のシーン。見事な「光の国」の描写に感動、でした。

◆関連リンク
ウルトラマン・金城哲夫さん映画「かりゆしの島」 映像・脚本 初の同時公開 

"「ウルトラマン」シリーズの脚本を手掛けた故・金城哲夫さん(1938~76年)が生前最後に手掛けたドキュメンタリー映画「かりゆしの島―沖縄」の映像の一部と、哲夫さん直筆の同作品の脚本が、21~27日の正午から午後5時まで、南風原町立中央公民館で一般公開される。同作品は、沖縄国際海洋博覧会(75~76年)の沖縄館で上映された。作品の映像と脚本が同時に公開されるのは全国でも初めて。県内で映像が公開されるのは、海洋博以来とみられる。"

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2022.03.07

■感想 三木孝浩監督『夏への扉 -キミのいる未来へ-』


『夏への扉 ーキミのいる未来へー』予告映像

 三木孝浩監督『夏への扉 -キミのいる未来へ-』WOWOW録画初見。
ハインラインの原作を読んだのは、はるか昔。ハヤカワの青背で読んだはずなのだけれど、実はほとんどストーリーを忘れていることに気づきました。

 本作はなかなかのSFマインドもあり、かなり楽しめました。過去と未来の映像化も上手く出来ていて、SF世界に彩を加えています。SFの映画化としては日本では有数の作品になったのかもしれません。本作、世界でも初映画化ということで素晴らしいことだと思います。

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 映画化は、『ノルウェイの森』他を作られたプロデューサー小川真司氏の「1979年の初読以来、映画化はずっとずっと個人的な夢」だったとのことで、思いのこもった作品になっていました。
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★★★★★★★ネタバレ注意★★★★★★★
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 Wikiで確認してみたら、本作、ほとんど原作と同じストーリーですね。もうまるで忘れていたことに気付かされました(^^;)。

 映画見ていて、少し惜しいと思ったのは、主人公が30年後の未来へコールドスリープで「戻る」理由がわかりにくかったこと。ここをもう少し丁寧に描いていたら、SFらしさがもっと出たのに、と少々残念でした。ラストの感慨もさらに増していたはずですね。

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2022.02.28

■感想 ジャン=ピエール・ジュネ監督『ビッグバグ』"BIGBUG"

BIGBUG Trailer (2022)

『アメリ』監督6年ぶりの最新作!SFコメディ映画『ビッグバグ』のティザー予告

" 時は2050年。人工知能は至るところにあふれている。あまりにも身近になり過ぎて、人間はあらゆるニーズや欲望の充足をAIに頼る生活に。それが究極にプライベートで道を外れたことであっても…。
 ある静かな住宅街で、4体の家庭用ロボットが突然、主人を人質に自宅に立てこもることを決意。一緒に閉じ込められたのは、どこかかみ合わない家族、お節介な隣人、そして野心的なセックスロボット。彼らは、異常なほどおかしくなっていく雰囲気の中で、お互いに我慢せざるを得なくなる。
 一方、家の外では、最新世代のアンドロイド、ヨニキスが世の中を乗っ取ろうとしている。" 

 Netflixのホーム画面で、カラフルな予告篇があるな、と思ったら、何と『ロスト・チルドレン』『アメリ』のジャン=ピエール・ジュネ監督のNetflixオリジナルの最新作。(ちなみにYoutubeにはこの映画の予告が上のリンクの様なおどろおどろしいサムネイルのものしか置かれていないので、本来の映画の雰囲気を示したキッチュな画像を置けませんでした)

 実に『天才スピヴェット』(2013)以来なので、9年ぶりの新作長篇である。ジュネ監督、9年新作を撮れなかったのだろうか。事情はよくわからないが、ありがとうNetflixと言わざるを得ない。

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 物語は上に引用した通りなのだけれど、2050年のある限定的な空間を舞台にして、アンドロイドと人間によって繰り広げられるブラックコメディ映画。全篇フランス語なのだけれど、どっか映像にはアメリカのホームコメディテレビドラマの雰囲気が横溢。観客の笑い声は聴こえてこないけれど、物語の組み立てもそんなホームドラマをシニカルにダークに、そしてさらにキッチュにした様な、ジュネ監督独特の映画になっておりますので、ご安心。

 冒頭のサムネイル画像を観ると、まるで『ロボコップ』のピーター・ウェラーが年取った姿でロボット役をやっている様な映像なのだけれど、実はこの役者  François Levantal というピーター・ウェラーより若い1960年生まれのフランスの俳優さん。このキャラクターは『ロボコップ』のパロディに見えてしかたなかった。

 多分、舞台を限定したのは、予算的な問題もあったのだろう。だけど、場面と登場人物を絞ったことで、一つ一つのCGやキャラクターの映像と造形はなかなか高レベルでジュネ監督の名目躍如。

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2022.02.25

■感想 濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』


『ドライブ・マイ・カー』30秒予告【第1弾】
 濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』、Amazonプライムで有料レンタルにて観ました。48hrの時間制限があったので、2晩で続けて2回観ました。1回目も凄く良かったのですが、じっくりセリフの端々まで堪能した2回目はまさにこの映画の凄さを感じました。


 まず濱口監督の演出、映像として見せて、登場人物に多くを語らせていないのが、いいですね。
ただ僕は同じ村上作品の映画化では『ノルウェイの森』『バーニング 』に比べると、映像で村上作品の登場人物の内面を語る手腕はトラン・アン・ユン、イ・チャンドン両監督に軍配が上がるかと思いました。



「映像化に向かない」ハルキ作品をめぐる映画化への挑戦
米紙が絶賛「映画『ドライブ・マイ・カー』は濱口竜介監督の新たな傑作だ」

"「村上さんの文章は、内なる感情を見事に表現しています。だからこそ、人は彼の作品の映像化を望むのだと思います。ですが、内面における感情を映画で再現するのは、本当に難しいことです」

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 例えば本作では、車が闇の中を進む描写で、人のどす黒い部分へ触れていく雰囲気が醸成されています。
これが『ノルウェイの森』の場合はロケ地である兵庫県神河町の砥峰(とのみね)高原の森の空撮、『バーニング 』では北朝鮮との国境沿いの村の夕闇の映像が、そうした役割を果たしていたけれど、僕は後の2者の方がその映像センスの的確さで上を言っていると初見では思いました。

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 しかし2回目を観て、映像だけでなく、物語と並列して描かれる演劇「ワーニャ伯父さん」のセリフが、相当に雄弁に村上作品っぽさを盛り上げていて、『ノルウェイの森』『バーニング 』と並ぶくらいの高みに映画を到達させている気がしました。


また演劇の援用としては、神が不在の『ゴドーを待ちながら』からはじまり、『ワーニャ伯父さん』で、神による村上ワールドの喪失を救済する構造にもとても感心しました。特に3回違う形で登場するセリフで、あの世から現生を回想する部分の鮮烈さ。1回目から3回目へのその深化もスリリングで白眉です。

 演劇要素は、原作にはなく映画のオリジナルで、こうした使い方が何とも言えない映画の奥行きを創り出していました。加えてそこの役者たちのダイバーシティ含めて、何とも豊潤な映画空間を構築しています。

これらの複合的な描写でアカデミー賞の作品賞ノミネート作品として『パワー・オブ・ザ・ドッグ』や『ドント・ルック・アップ』に比べて、相当に重厚な傑作だと言ってもいいのではないでしょうか。

 ただ、エンターテインメントとして一般受けするかどうかというと、特に初見における演劇部分の複雑さが足を引っ張るかもしれないと思ったのでした。はてさてどうなりますか。

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★★★★★★★★★以下、ネタバレ注意★★★★★★★★★
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特に映画的な力に満ちていたシーンとして一番素晴らしかったのが以下の件です。



【ネタバレ解説】「ドライブ・マイ・カー」がより面白くなる11の裏話



“原作には「“声”について非常に真実と思えることが書いてあった」という。濱口監督は、最も心に残った部分も明かしている。それは高槻というキャラクターの言葉を表現しているものだ。
「高槻という人間の中にあるどこか深い特別な場所から、それらの言葉は浮かび出てきたようだった。ほんの僅かなあいだかもしれないが、その隠された扉が開いたのだ。彼の言葉は曇りのない、心からのものとして響いた。少なくともそれが演技でないことは明らかだった。」”



 サーブの後席で主人公家福の隣に座り、家福の妻 音が(原作の短篇集の「シェヘラザード」として)語る「同級生の家に空き巣」に入る物語の続きを話す高槻のシーン。特にカメラ目線で目に当てる照明により独特の表情を作り出した高槻によるスリリングな語りは、まさにこの「隠された扉」が開き奥底から響いてくる彼の声の描写である。


 同じ車の中での深淵を覗き込む様な描写に、押井守『ビューティフルドリーマー』における夢邪鬼の語る言葉を思い出したのは僕だけでしょうか。



◆その他のメモ


・短篇「木野」については、主人公の妻 音 の語る物語の少年の名前として出てくるだけでしたが、「木野」でバーに迫るどす黒いもののイメージが映画でも使われていると感じた。どちらかというとそれは村上作品全般に登場するそれの描写を援用している様にも感じた。



・北海道の架空の町 十二滝町で描かれるクライマックスの場面、それでも生きていかないと…と語る主人公の二人を映した後、画面はサーブの車が雪の中に佇むシーンを長回しで映す。タイトル通り、運転と人生をオーバーラップさせた様な味わい深いシーンです。

・村上作品の心象風景を映像として映すシーンで印象的だったのは、渡みさきが「母を殺した」と告白したシーンの後、家福がそれを自分は否定できないと言って、カメラが車の速度でトンネルから海を描く映像。ここの迫ってくる映像の力は素晴らしい。 

・言語のダイバージェンスとして、手話による女優の語り。特に『ワーニャ伯父さん』のラストの回復シーン。あの女性の生命力の輝きは特筆です。

・ラストシーン、ヒュンダイ製のモダンな車、しかも全部ソナタというある種異常なシーンの中に一台だけ違う車 サーブが映るシーン。あれは一体どういう意味だったのでしょう。元々この映画は冒頭以外は、韓国を舞台に描かれる予定だったのが、コロナ禍で広島が舞台になったとのこと。韓国がラストシーンで描かれるのはわかるけど(あの夫妻の犬がサーブに乗っているし)、あの同じ車は一体何だったか悩みます。どなたか、教えて。

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 西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、濱口竜介監督が登場『ドライブ・マイ・カー』壮行会イベント【トークノーカット】

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2022.02.23

■感想 村上春樹 短篇集『女のいない男たち』

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女のいない男たち (文春文庫)

 村上春樹『女のいない男たち』、濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』が観たくて堪らなくなっていて、再上映されている映画館に先日行ったのだけれど、劇場前まで行って、ほぼ満席で(ビビリなのでコロナ怖くてw)帰ってきました。



 で、代わりにまず村上春樹の原作読むことにしたのですが、どの短篇もなかなかの傑作。


「ドライブ・マイ・カー」★

 有名女優である妻を失った主人公の俳優の喪失感、生前の妻の浮気相手の、若い俳優との交流。それを端で見守る女性ドライバ。
ドライバの視点で静かにそして的確に心を動きをトレースされているが、それはまるでドライバみさきの運転の技量そのままだったりする。ここにも見事な村上作品の息吹があります。



「イエスタディ」

 その小さな物語は調子を外したビートルズの曲の関西語バージョンの歌詞の断片から始まる。田園調布で育ったのに関西弁を流暢に操る木樽という不思議な名前の男とその友人の早大生と、木樽の恋人の物語。

 幼なじみが故にその距離を持て余す木樽と彼女 栗谷えりか、その心の動きを象徴的に表す長い航海をする大きな船から眺める氷の20cmの月の夢が素晴らしい。


 この物語が本短編集の中ではどうしてか一番好きになりました。これは映画の元になっていると言われている3編には入っていない様です。




「独立器官」
 整形外科医 渡会とアウシュビィッツの医師のエピソードをダブらせながら、女の独特の嘘を自然に生成する独立器官についての物語。
テニスのスカッシュとラケット、渡会の秘書の男と物書きの主人公の会話で語られる物語に戦慄します。


「シェヘラザード」★
 千夜一夜物語にちなみシェヘラザードと名付けられた女性と、不可思議に閉じこもった男との寝物語を巡る物語。

 学生時代の彼女が、片思いの同級生の家に空き巣に入り、少年の小さな日常品を盗み、代わりに自分の物を代替に置いていく少女。
語られなかった物語の続きと、海中に吸い付き獲物を待つなつめうなぎのエピソード。


「木野」★
 「ドライブ・マイ・カー」に少し出てきたバーのマスターを主役にした奇妙な物語。営業マンだった彼が妻の浮気現場に遭遇して退社して開くバー。

 そこに現れる謎の読書する静かな痩せた男神田:カミタと、カップルで現れマスターに近づく女。そして3匹のへびの登場と、迫る危機。本短篇集では唯一の幻想味がある一篇で想像力をかき立てられます。


「女のいない男たち」

 唯一雑誌掲載でなく短篇集のために書かれた書き下ろし。
死んだ女の回想でほとんどが綴られている1篇。本当は違うが、14歳で知り合ったエムという少女の描写と自分の追憶の記述が詩的に記されていく。

 ここのところは村上春樹を嫌いな人には受け付けられない嫌味があり、ファンには堪らなく村上作品/まるで作家本人の感性をそのまま期した様に感じ染み入ってくる描写の数々。

 僕は初期には前者(じゃあ何で読んでたんだろう?)、最近は後者という具合に変化してきているので、とても気持ち悪いことに/心地よく読めた。

 後半、エムの好きなエレヴェーターミュージックの一曲として語られるパーシーフェースの「夏の日の恋」、そして14歳の僕の、性欲の象徴としか思えない描写で描かれている一角獣のイメージ。

 「たぶん」この表題作が全体の「女のいない男たち」の寂寞感を見事に洒脱にまとめている。




 ★印の三篇が濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』のベースとなっているらしいが、この全体の寂寞感がどうエピソードと会話等で構成されて映画化されているか、、、僕の頭の中ではなかなかこれらが一つの物語に纏まらないだけに、映画を今からAmazonプライムでレンタルして観るのに、ワクワクが高まります。巣ごもりもなかなか楽しいね。では。

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2022.02.21

■感想 堀貴秀監督『Junk Head』


ギレルモ・デル・トロ驚嘆!!映画『JUNK HEAD』予告編
 Amazonプライムで公開された堀貴秀監督『Junk Head』、観ました。

 異様な世界ですが、キャラクタがだんだん可愛く見えてきて、不可思議な世界に引き込まれますね。皆さんが映画館公開時に絶賛されていたのが良く分かりました。

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 一人で7年間、コツコツこうした世界を作り続けた堀貴秀監督のイマジネーションの胆力、素晴らしいです。セットとキャラクターの造り込みはもちろん、カメラアングルとかアクションの組立てとか、見事なショットがいっぱいあって、映像の力の込められ方に感動します。


【公式】映画『JUNK HEAD』本編映像解禁!/3/26(金)公開

 そしてキャラクターの話す、変な言語が面白いです。声もほぼ監督によるものというところも驚異的。時々日本語が混じるけれど、ねじくれまくった言語感覚が、先に述べた映像の異世界と見事にマッチして、この映画にしか存在しない、独特の世界が立ち上がってきてますね。

 この言語とキモ可愛いキャラから作家 酉島伝法氏の描く、やはり唯一無二のSF作品群を何となく想起していました。酉島氏の漢字を使い変容した言語で異世界を描くSF、あのどこにもない世界と堀貴秀監督のイマジネーションはどこか地下世界で通底しているのではないでしょうか。(以下、酉島氏のイラストご参照)
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『JUNK HEAD』堀監督、3部作構想を明かす「次の絵コンテまで完成している」
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2022.02.16

■感想 セス・ラー二―監督『2067』


2067 Official Trailer (2020) Sci-Fi Movie セス・ラー二―監督『2067』 (WOWOW)

"人間が人工酸素を供給するマスクなしには生きることもできなくなった2067年の地球を舞台に、407年後の未来から名指しで呼ばれた主人公の冒険を描くSF。「ザ・ロード」で主人公の息子役を絶賛された若手K・スミット=マクフィーが、妻を救うため旅立つ青年役を好演する。監督・脚本は「トンビルオ! 密林覇王伝説」のS・ラーニーが務め、2067年を中心に、過去・現在・未来が複雑に折り重なる壮大なストーリーを紡ぎ上げた。共演はドラマ「トゥルーブラッド」のR・クワンテン。"

 先週、ジェーン・カンピオン監督の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』を観て、とても印象的な役を演じていたコディ・スミット=マクフィー(この作品でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされましたね)が主演を務めた2020年のオーストラリア映画が、WOWOWでちょうど放映されたので、観てみました。

 よくあるディストピアものかと思っていたら、なかなか面白い展開。少し無理ある展開もあるのだけれど、映像が低予算ながら、シャープに印象的な絵を見せてくれていて、小気味良い感じです。特に予告編にある冒頭付近の映像は、『ブレードランナー』っぽいのだけれど、そうした物の中ではなかなかのレベルでワクワクします。

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 で、主演のコディ・スミット=マクフィー、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ほどではないものの、結構こちらでもエキセントリックな感じ。こうしたSFアクションだとマッチョな主役が多い中、この俳優を主演に持ってくるところも、本作の監督のオリジナリティかもしれません。

 配信でこうしたSF映画は、数々アップされていますが、小品としては佳作に入るのではないでしょうか。

◆関連リンク
コディ・スミット=マクフィー(wiki)
 『パラノーマン ブライス・ホローの謎』『コングレス未来学会議』『猿の惑星: 新世紀』『X-Men』 等々、結構、観たことのある作品に出られていますね。やはり『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が圧倒的に印象的。





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2022.02.14

■感想 マイク・リアンダ監督『ミッチェル家とマシンの反乱』


第49回アニー賞ノミネート作品【本編冒頭10分公開】ミッチェル家とマシンの反乱〈『スパイダーマン:スパイダーバース』の制作チームが再結集!各映画サイトで超好評のSFアニメ映画!〉

 マイク・リアンダ監督『ミッチェル家とマシンの反乱』Netflix初見。

 アカデミー賞長編アニメーション映画賞ノミネートと聞いて、観てみました。これは傑作 ! ソニー・ピクチャーズ・アニメーションは『スパイダーバース』が物語も映像センスも最高だったけれど、今回も物凄くクリエイティブな映像で最高に楽しい映画になっています。

 実は添付したサムネイル画像含め、全然良い感じがしていなかったので、『竜とそばかすの姫』を候補から落としてノミネートされた作品がどれほどのものか、と舐めてかかったら、、、、。

 物語は、娘二人を持つ私としてもいろいろと身につまされつつ、ぐっとくる出来、途中好き嫌いは別れるかもしれないけれど、犬のギャグが結構最高で、これだけ声出して笑ってみた作品も久しぶり。

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 加えて映像のクリエイティビティ、3D-CGアニメなのだけれど、木製のパペット的なキャラクタと、その洋服のクレヨンで塗ったような不思議なタッチ。そしていま風にフォトリアルな画像に手描きされた落書きの数々。これが素晴らしく楽しい映像になっていて、おまけにアニメートのレイアウトや動きの誇張のキレの良さは『スパイダーバース』継承。

 そしてエンドクレジットの趣向の的確で心がざわざわする楽しさ。これは映画史上初めて観る趣向なだけに(たぶん)、そしてテーマと密接に関係していてもう拍手喝采。スタッフリストが流れるところも随所にアナログの魅力的な手描きアニメーションが組み込まれていて、スタッフ陣がとにかく楽しんで作っている様が気持ち良い。

 楽しんでいると言えば、マイク・リアンダ監督、主人公の弟役の男の子の声を自ら演じています。
 下手な声優だな〜、と思っていたら、監督が楽しんでやっていたとは!

 いやー、参りました。これだと『竜とそばかすの姫』をノミネートから落としたのも納得(というか、テーマ的にアカデミー賞長編アニメ映画賞ノミネートの『未来のミライ』にも少し通じて、こういうの本当にアメリカでは受けるんだな〜ということかも(^^))。

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2022.02.11

■感想 アンドリュー・ニコル監督『TIME/タイム』


「TIME/タイム」予告編

 アンドリュー・ニコル監督『TIME/タイム』('12) Amazonプライムで初見。これ、公開当時知らなくて、初めて観ましたが、なかなかスリリングで良いですね。

 設定はちょっと無理もあるけれど、映画のスリラー的にはなかなか見せる設定です。あと『ガタカ』のニコル監督らしいクラシカルな近未来描写と優生思想的な階層社会描写も映画の奥行きになっていていい感じです。

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 ストーリーは安直な展開という批判はあるんでしょうが、この楽天性は僕は好きです、とりわけ今週2本続けてディストピアな映画を観たあとは救われます(^^;)。
 
 ニコル監督の未来描写、『ガタカ』では少しクラシカルなデザインの車に電気自動車的なモーター音を被せて見事に表現していたのが、今作では5-60年代のアメ車を少し改造して、ブンブンとエンジン音を響かせていました。でも黒を基調としたシックな未来社会描写と相まって独特の近未来映像になっているから不思議です。
 
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 その光景の一因は、多分モデル的体型のスリムで脚の長い女優、男優の多用もあるでしょう。それだけでスタイリッシュな未来w。
 今作、『ツイン・ピークス The Return』でエキセントリックなドラッグ中毒娘でぶっ飛んだ表情の演技を見せていたアマンダ・サイフリッドがキュートで快活なヒロインを演じていて、とても映えていました。何というか未来顔でいいですね(^^)。何だ? 未来顔って! クリクリした目玉の印象でしょうか。自分でもわかりません。

◆関連リンク
アンドリュー・ニコル(wiki)
『TIME』アマンダ・サイフリッドが語る もし永遠の命があったら?「誰かにあげるわ」

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2022.02.09

■感想 ジェーン・カンピオン脚本・監督『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』予告編 - Netflix
 ジェーン・カンピオン脚本・監督『パワー・オブ・ザ・ドッグ』をNetflix初見。

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 これは噂通りの問題作ですね。僕は好きになれない映画な感じを味わいながら、自分ちで観ているのに終始居心地の悪さを覚え続けた。

 西部の美しいが不安を讃えた映像と、カンバーバッチ、キルステン・ダンストと25歳の俳優 コディ・スミット=マクフィーら俳優陣の奥行きのある演技が素晴らしい。特にコディ・スミット=マクフィーは、随分と異なるタイプだが、どこかアンソニー・パーキンスを彷彿とさせる印象的な役者。好きにはなれないけれど、一種異様な迫力がある。

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 何が起こるかわからない迷宮的な不穏なトーンに身を任せたい人には最適な映画です。
 才人と評判のジェーン・カンピオン監督、実は恥ずかしながら初見ですが、これは一筋縄ではいかない奥深い作家ですね。他も観てみます。

◆関連リンク
トーマス・サヴェージ『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(角川文庫)

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2022.02.07

■感想 神山健治監督『永遠の831』


「永遠の831」PV 60秒【Youtube】    (WOWOW公式)

 期待の『永遠の831』WOWOW で放映されたので、観ました。

 陰性な『東のエデン』という感じで、あの頃からの日本の時間が、重く作品にのしかかってます。

 厄災と税制、時間を重く止めた様な空気がのっぺりと映画空間を押し包んでいます。

 モーションアクターによる3D-CGによるセルルックアニメの手法、『ULTRAMAN』『攻殻機動隊 SAC_2045』よりもぬるぬる動くキャラクターが少し不気味の谷に寄っていて、作品の空気を助長している様に思う。

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 SF的アイデアも思いっきり重苦しい政治的世界に接触していくツールになっていて、カタルシスなく、これが現在の若者の体感している社会なのかと思うと…。

 キャラクターデザインとか、昨今の青春アニメ映画な路線に見えるけど、底流には神山健治監督の現実認識が横たわっている様でした。3月に劇場公開もあるようです。

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2022.02.02

■感想 アダム・マッケイ監督『ドント・ルック・アップ』


『ドント・ルック・アップ』予告編 - Netflix

 アダム・マッケイ監督『ドント・ルック・アップ』観ました。
 評判通り、なかなかの傑作。ブラックコメディとの噂でしたが、案外シリアス。というかアメリカのトランプ政権とかのあれこれを思い出しながら観ると、まさに笑えない今の現実の鏡を観ているようでなかなかにゾクゾクします。もし日本を舞台にこれを今、撮ったらどうなるか、とか。その辺りの想像力を刺激するところは素晴らしい。そこが現在のねじれた様を炙り出していて、ここが受けている理由なのかな、と。
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★★★★★★以下ネタバレ注意★★★★
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 このテーマだと、『妖星ゴラス』『メテオ』『アルマゲドン』『ディープインパクト』『流転の地球』『メテオ』等々思い浮かぶけれど、僕はラース・フォン・トリアーの『メランコリア』に次いで好きな作品になりました。

 前半笑った上で感じる後半の寂寞感は、まさに全然違うタッチなのに、『メランコリア』に近似してずしんと来るのが本作の一番の魅力でした。

 また『地球外少年少女』でテーマは違うけれど、正常性バイアスの描き方が全然違っていて(ほぼ)真反対で、磯監督が冒頭で正常性バイアスを意識的に描いて、それにあがなう子供たちの様子を描写しているのが、対比としてなかなかに見事だったと改めて感じたり、、、。

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2022.01.31

■感想 磯光雄監督『地球外少年少女』Mitso Iso's "Orbital Children" "Extra-Terrestrial Boys & Girls"


『地球外少年少女』ティーザー予告編 - Netflix
 『電脳コイル』からはや15年、磯光雄監督の待望の新作『地球外少年少女』が遂に公開された。Netflixで1~6話を一気見してしまいました。
 貴重な新作を一気に、何とも贅沢な気分です。

 こちらも『電脳コイル』に続き近未来SF、商業的宇宙開発が活発に実施されている現在から進化して、まさに近未来にこんな宇宙の光景が登場するのでは無いかという、ワクワクする展開でした。

 作画も色彩も美術も素晴らしく、宇宙映像のセンスオブワンダーを堪能できました。

 リンク先は企画当初のイメージの様ですが、ここにコンセプトが明確に構築されてた様子が伺えます。

 素晴らしいSF映像!しかしここで僕がSFと書いているのに対して、なかなか磯監督のスタンスは微妙な様です。

 「地球外少年少女」磯光雄監督「未知の先にある変化はおもしろい」宇宙を舞台にアニメを作る理由。「電脳コイル」との共通点も【インタビュー】(アニメ!アニメ!)

"磯:2014年頃です。いずれは宇宙を舞台にした作品を作らなければならないと思っており、ついにタイミングが巡ってきたのだと企画を作り始めました。『ゼロ・グラビティ』(※)を見て「『宇宙=SF』ではなくなったんだなあ」と実感したことが大きなきっかけだったと思います。同じようにアニメでも宇宙を舞台にしたアクションドラマを作ることができるのではないかと、、、"

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 磯光雄監督御本人は、この映画をSFとは読んでいない様です。なかなか複雑な気持ちになります。これが商業的アピールのしやすさからなのか、SFに対する想いからなのか、気になるところです。

 商業的には、テクノロジー、産業方面ではSFの空想力は再注目されていますが、日本の映画業界は変な誤解があるのかもしれないですね。米のApple movie trailersページ等ではアクション寄り大作("Moonfall"とか)もジャンルはSFとしっかり謳っているのに対して、あえてSFという言葉を前面に出さないのは、日本の映像制作環境の状況が少し違う様にもみえます。

 あくまでも磯監督は前述のインタビューにある「『宇宙=SF』ではなくなった」というスタンスで、現在の宇宙開発/ハリウッドの近未来の宇宙映画状況をこの様に捉えているということなのかもしれないですが、、、。

 SFで育った世代としては100年に満たない(ガーンズバックのアメイジングストーリーズ創刊が1926年ということですので)SFというジャンルがネーミングとしてだけかもしれないですが、この様にトーンダウンしてしまうのは何とも残念な気持ちでなりません。SFって人類の想像力の飛躍のためにも滅ぼしてはいけない概念の様に思います(^^;)。磯監督の本作も想像力の飛躍が素晴らしいので。

 後半、SFにこだわって考えたことの記述になってしまいましたが、SFかどうかというより、これだけの想像力と素晴らしい映像を見せてくれたことで本作は素晴らしい作品だと思います。Netflixは全世界公開ということなので、海外での評価もとても楽しみです。

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