■福井晴敏『終戦のローレライ』
映画化を前提にして樋口真嗣と共同で構想したという潜水艦小説。
丹念に終戦直前の海軍を描写、そこに浅倉良橘という人物を配して、戦後日本を逆照射する筆致は淡々としているが、迫力のある骨太なテーマを描き出している。
自ら戦争そのものを体験するために南洋の島へ赴いた浅倉の描写は鬼気迫るものがある。
誰も彼もが我欲を追う獣になり果てて、百年もすれば日本という国の名前も忘れた肉の塊になる。
ペシミスティックな浅倉の思想は、倒錯しているが、どこか現代に突き刺さってくるものがある。すこし最後は物足りないが、十分に魅力的な人物として描かれている。
これと主人公二人の若者のコントラストがストーリーの縦糸となっているけれど、横糸の潜水艦戦闘も白眉。ひとつひとつ丁寧に戦略と戦術を描き、艦長他、規格外品の乗員たちが魅力的な戦闘をみせてくれる。
映画になって、『ガメラ3』の樋口監督が特撮で描いたら映えるだろうシーンも満載。思わず樋口カメラワークで想像して読み進めてしまった。ネタばれ覚悟でイメージボードを観たい人はここにあります。
映画の方は来年公開。円谷特技監督作『潜水艦イ-57降伏せず』(1959)以来、日本では46年ぶりの潜水艦映画だとか(『マイティジャック』はTVですね)。本作の潜水艦「伊507」のネーミングは、円谷へのオマージュでしょう。来年の公開が楽しみだ。下は「伊507」のベースとなったフランスのシュルクーフの威容。
その他写真は→Google 検索: シュルクーフ
□ミニリンク集
福井晴敏オフィシャルサイト
甘栗屋 終戦のローレライ ファンサイト
樋口真嗣インタビュー 『終戦のローレライ』誕生秘話も有
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