■ティム・バートン監督 『ビッグ・フィッシュ』 Big Fish (2004)
この映画のウェブページにある黄色い花の中に立つユアン・マクレガーのイメージどおり、夢にあふれた心温まる映画だった。自分の中では、ティム・バートンの作品の中で1、2をあらそう映画になった。いや、本当にいい話です。ティム・バートンのブラックでひねくれたところが好きな向きには、いい話すぎるかも。『シザー・ハンズ』のウォーミングな部分を切り取って、幻のようなエピソードを積み重ねた映画と言うとわかってもらえるかもしれない。ブラックなティム・バートンのファンにはケッってな照れるシーンもあるので、ご用心。
いや、何度も言いますが、僕は気に入ったんですけどね。ティム・バートン作品で『バットマン2』の悪乗りの嫌いな人はまず大丈夫。是非、お勧め !
原作のダニエル・ウォレスの小説は読んでいないけれど、映画のタッチは、『ガープの世界』とかの現代アメリカ文学の世界がうまく切りとられている。原作も読んでみたくなります、この映画観ると。
☆☆☆☆ネタばれ注意☆☆☆☆
この映画は衒いなく、人生に幻という香辛料をふりかけることの素敵さを描いた映画である。
アルバート・フィニー演じる父親が家族や友人に語る幻想のような経験。これが凄くいい。ちょっと奇想な彼の人生のエピソードが幻のようなティム・バートンお得意の色彩で、描かれている。この父親と息子のうまく交流できないもどかしい縦軸の物語は少々拙い描写だけど、ラストでここが活きてきている。
この映画を観ながら、(また『イノセンス』ネタかと言われそうだけど)ロイターが伝えた押井監督のカンヌでの公式上映後の下記コメントを思い出した。
監督はまた、人間が見ているものが現実とは限らないと指摘し、これを認めることが人間の真実を理解する糸口になるだろうとコメントした。
これは押井守のいろんな作品で顔を出す現実認識だけど、『ビッグ・フィッシュ』の父親は、人生の賢い市井の人として、直感的にこの認識で自分の体験を幻の味付けをして語っているのだと思う。言葉に出すと実もふたもなくなる押井発言のように語らずに。
映画を観終え、自分もこの親父のように、ずっと少しだけのホラを吹き続けて人生を終えていけたらいいな、と思った。ラファティとかはこういう親父だったのかなーー。
幻のラストと現実のラスト、どちらも彼を慕って集まった人々の顔がいい。特に川の中から岸辺の木々の下の巨人や上半身双子の東洋の女を映し出す画面。幸福な最高の人生の終わりのひとつが画面に結晶化していた。
◆関連リンク
・究極映像研 小説『ビッグ・フィッシュ』記事
・『ビッグ・フィッシュ』英語公式サイト
・日本語公式サイト
・うちのBLOGの過去記事 ティム・バートン『ビッグ・フィッシュ』 ビッグ・フィッシュ(シナリオ本) Big Fish: The Shooting Script
・原作 ダニエル ウォレス 『ビッグフィッシュ―父と息子のものがたり』(Amazon)
・ビッグ・フィッシュフィルムブックKawade cinema books(Amazon)
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