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2004.05.02

■CASSHERN 血みどろの戦士

 ネットの評判で観にいくのを止めようかと一瞬思っていたのだけど、行ってきました、紀里谷和明監督・撮影・編集・脚本の『CASSHERN』(2004)。
 映像としてイメージを訴えようとする気迫と(ネタばれなので後半で述べようと思っている)テーマ設定の両面で、劇場で観てよかったと思った、、、ということでレビュウというか感想です。僕は"お勧め"です。

◆総評と映像評
 映像としては、ゲームチックで洗練されていないCG部分が一部気にはなったけれど、画面のトーン、レイアウト(特にCASSHERNのポーズ)、戦闘のスピード感等、世界の最先端映像の水準になっていると思う。とにかくかっこいい。予告編の雰囲気は、予告だけでなく全編に溢れている。心配した人物の違和感もあまりなかった。普段見慣れた俳優もこの映画独特のキャラクターに構築できていたのだと思う。

 戦場の描写は、『プライベートライアン』のスピルバーグの臨場感(コマをディジタルで制御?して白黒のイメージでリアリティを出したあのトラウマ映像)が思い浮かんだ。あそこまではいってないけどね。
 亜細亜的な街の描写は『ブレードランナー』、ロボットデザインはタツノコへの敬意?? といったように、どこかで観た映像の引用になっている部分もある。(小技だけれど、アクボーンの心象風景として描かれていた映像がコマ撮りアニメで、少しチェコテイスト入っていたのも嬉しかった。以前観た紀里谷監督の宇多田ヒカル「Traveling」のPVで、枯葉のキャラクターが出ていたのが、やはりシュヴァンクマイエルっぽかったのだけれど、今回もちょこっと楽しめます。)

 そんな中、最もオリジナリティの溢れる映像は、樋口真嗣コンテによる戦闘シーン。特に最初にCASSHERNが空中を飛翔しつつロボットを倒すところの映像のスピード感は凄い。これは当然コンテだけでなく、監督の映像センス(特にスピード)、編集の効果が相乗したものでしょう。も一回、観たい!!
 あと全編各シーンごとに映像の色合いと肌合いのトーンを大胆に場面ごとに切り替えていたのも、従来のドラマを追う映画から、映像でイメージを観客に転写する、というか、新しい息吹の感じられる気迫の映像だったと思う
 この延長上で今後、紀里谷監督が数年後、数十年後、劇場作品でどんな地平を見せてくれるか、期待である。
 

--------------------以下、ネタばれ注意!!!!!!!-------------------
◆テーマ
 映画はCASSHERNの白い装甲服が血にまみれていく過程をこれでもか、と描いている。テーマは、まさに血みどろの戦士。CASSHERNはまず東哲也軍曹として戦場で、民間人を殺す。ロボットの破壊はそこそこに、善悪の混沌とした戦場のジレンマを描いて、そして最後は父親殺し。ドラマとして無理があるけど、テーマ優先で、つい描いてしまったのだろう、、、ドラマ的には置いてけぼりをくわせられる部分もあるけれど、気迫で僕は○でした。(ノベライズ『キャシャーン ザ・ラスト・デイ・オン・アース』の解説で監督が「クールに映画を描いている場合でなく正面から戦争に挑まざる得なかった」というような趣旨を書いてます)
 憎しみの連鎖によって拡大する戦争の実態を極めて過酷に描いている。どこかで戦争モノのパターンという意見も読んだけれど、少なくとも主要登場人物の全員について家族との平和を望むシーンを挿入し、各々に正義があることを示す監督の描写は、まだそれほど映画では一般的な戦争描写ではないと思う。(ここは漫画『ナウシカ』で宮崎駿が描いた戦争と近い、というか、あそこから出発している映画と思う。その先へ行けたわけではないのは残念だけど、、、。)
 そのことにより、映画は非常に苦い後味である。エンターテインメントとしてのカタルシスを持てていない。映画デビューでこうした描き方をするということは、結構な覚悟を持って、まさに確信犯的に戦争の醜い実態をさらけ出して、それに対して、今現在、解決策が抜本的にうてない、ということをテーマとしているのだろう。
 特に映画的にこの描写として、ゾクッとしたのは、クライマックスでのCASSHERNの修羅場にかぶさる戦場の兵士たちのうめき声。画面と関係のないどこか遠くで起こっている兵士の苦痛をサラウンドのリアスピーカから流していた。リアスピーカからの音は劇場で聴くとドキッとする。フロントの画面から現実の劇場に何かが現れたように感じる瞬間があるが、あの音響設計が映画の画面を越えて、現実の戦争の実態が観客側の世界にあるのだよ、というメッセージになっていたと思う。
 第七管区で民衆をテロリストと呼んで掃討する様、殺される子供たちとこれにかぶる大亜細亜連邦の軍部の理屈。ここは対イラクにおけるアメリカの論理のコピー。ハリウッドでのリメイクの話(ZAKZAK)が既に出ているらしいが、変なプロデューサにテーマ改変されずに、アメリカの戦争批判バリバリの作品に仕上げてほしいものである。ついでにちょっとへぼかったCGをハリウッド先端技術でお色直しして下さい。(考えたらよほど政治的なプロデューサでなければ、この監督にエンターティンメントを撮らせることはしないかも。ハリウッドの出方が楽しみです)

◆あと小ネタメモ。
・パンフレットの版型が小さく3分冊になっていて、写真集2冊と解説というのが、なかなかいいです。
・何故、今『キャシャーン』の映画化だったかが、パンフレットに監督の言葉として書かれている。

 とにかく衝撃的だったのが、(TV『キャシャーン』のブライキングボスのセリフで)自分が生まれて初めて悪者の論理に賛同したということでした。(略)「やられたから、やり返す」という「憎しみの連鎖」の象徴として、その存在を初めて僕に教えてくれた出来事だったのです。

・TVキャシャーンのデザインで実写にすると様にならないヘルメットの処置(最初に壊される)が秀逸(笑ったけど)。

◆おまけリンク
・紀里谷和明PV DVDUTADA HIKARU SINGLE CLIP COLLECTION Vol.2(Amazon)

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コメント

壱。さん、はじめまして。コメント、どうもです。
 カッサンドルは、どうかわからないですが、東欧、ロシア、中東、中国?という雰囲気ありますね。次の映画も楽しみです。

投稿: BP@究極映像研 | 2004.05.23 14:40

検索の旅途中に失礼します。
私も先日この映画を見ました。原作のアニメ化を期待していた人にはイマイチな映画かもしれません。
でも、私もキリヤさんの「これを伝えたい」という意欲をすごく感じました。
キャシャーンという名を借りた監督オリジナルのお話だったと思います。劇場であの大画面と音響で見ることができてよかった。
亜細亜の雰囲気は東欧って感じがして、アヴァロンって気もしました。監督はカッサンドルもお好きなんでしょうかね。

長々と失礼しました。

投稿: 壱。 | 2004.05.23 12:27

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