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2004.05.13

■J・D・サリンジャー「笑い男」と神山健治『攻殻機動隊 S.A.C.』

 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』をひととおり観終えた勢いで、キーとして使われていたサリンジャーの"The Catcher in the Rye"を村上春樹訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(白水社)、'Laughing Man'を野崎孝訳「笑い男」(『ナイン・ストーリーズ』(新潮社)所収)で読んだ。
 村上訳は『ライ麦畑をつかまえて』野崎孝訳(白水社)よりどこかホールデンが村上キャラ化しているように感じた。野崎訳よりまるくなっている印象。村上作品のイメージを引きずった先入観かもしれないけど。微妙な文末の処理の仕方とかが影響しているかもしれない。

 『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』との関係からいえば、登場したハッカー青年(笑い男??)の性格づけをどうせならもっと"Catcher"的にクレージーにしても良かったのでないかと思った。ナーバスさも随分違うタイプのものだし、、あの攻殻のストーリーだったら、主人公ホールデン少年を模倣した人物を出した方がリアリティがあったと思う。演出的には難しくなったかもしれないが、アニメで白水社のあの本をそのまま登場させるくらいなら(ある意味楽屋おち的)、そんなとこまで観たかった。

 「笑い男」は傑作。短い話だし、是非、『攻殻機動隊 S.A.C.』ファンには読むことをお勧めします。50年くらい前に書かれた話とはとても思えない鮮烈なイメージ喚起力のある短編。次の引用でそのあざやかなイメージをみよ。

★★★「笑い男」を読んでみたいと思っていた人はネタばれ注意★★★


 笑い男は、金持ちの宣教師の一人息子で、まだいたいけないころに、中国人の山賊どもに誘拐されたのであった。(略)
 山賊どもはひどく腹を立て、子どもの頭を大工が使う万力で挟むと、とってに力を入れて、右の方へ何回か頃合いの程度にねじったのだ。まだ誰もが味わわされたことのないこうした目にあった子どもは、大人になると、ヒッコリーの実のような形の頭をして、髪の毛がなく、鼻の下には口の代わりに大きな楕円形の穴が開いているといった顔になった。(略)
 こうした笑い男のものすごい顔を初めて見る者は、たちどころに失神してしまった。(略)
 ところが、奇妙なことに、山賊どもはこの笑い男を自分たちの本拠にそのままとどめておいたのである---ただし、彼がその顔を、芥子の花びらで作った薄紅色の薄い仮面で包むという条件をつけてだが。(略)その仮面のせいで、彼は阿片の匂いをふりまいて歩いたのだ。

 この後、盗賊としての腕を磨いた笑い男の神出鬼没の活躍が描かれる!!??小人とか蒙古人の大男とかと仲間を組むのだけれど、何故かここでスタージョンの『夢見る宝石』を思い出した。
 まだ『ナイン・ストーリーズ』はこの一編しか読んでないが、河出書房新社の<奇想コレクション>に並べてもいい一編だった。泣けます。切れ味のいい最高の短編。でも何故、「笑い男」と呼ばれるのだろう。(このミスマッチもいいのだけど。)
 攻殻との関係は、犯罪者としての手際の良さ、義賊的雰囲気といったところの共通性だろうか。ハッカーの名としていいネーミングセンスになっていると思う。サリンジャーファンは監督か脚本家か、誰なのだろう。
 最後に「笑い男」コラージュ??ムンク殿、ごめん。でもこんなイメージだったのです。
the_laughing_man_1.jpg
◆関連リンク
・押井守ファンサイト野良犬の塒に、『攻殻機動隊 S.A.C』の各話あらすじと、サリンジャーの本との関係についてのレビュウがあります。
・S.A.C.の各話レビュウ。サリンジャーへの言及。FREIHEITSTROM/DIARY
・名前は凄いが、中味がさみしい海外のサリンジャーファンサイトSalinger.Org
 サイト内検索でみると、攻殻S.A.C.でサリンジャー作品に言及との記述はあるが、たいしたことは載ってなかった。
・松岡正剛の千夜千冊『ライ麦畑でつかまえて』
『ナイン・ストーリーズ』野崎孝訳(新潮文庫)と原本"Nine Stories"(Amazon)
『キャッチャー・イン・ザ・ライ』村上春樹訳(白水社)(Amazon)
『ライ麦畑でつかまえて』野崎孝訳(白水uブックス)(Amazon)
『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』村上春樹, 柴田元幸(文春新書)(Amazon)


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コメント

眞紗さん、こんばんは。コメントありがとうございます。
 『S.A.C. 2nd GIG』レンタルが借りられ続けていて、未見なのです。
 「個別の11人」??、、、想像力をかきたてる名前ですね。サリンジャーの次は、トマス・ピンチョンだったら凄いっすね。
 僕は「11人」というと萩尾望都ではなく、『ネコジャラ市の11人』を想い出すNHK夕方6時05分な人間ですが、元ネタがこれのわけはないですね。(失礼しました)

投稿: BP | 2004.06.03 23:32

トラックバックありがとうございます。2ndGIGも4話あたりから面白くなってきました。今度の敵は手強そうです。
4話はどこと無く「パトレイバー」って感じがするので、好きでした。「個別の11人」の引用はどこからなんでしょうか??

投稿: 眞紗 | 2004.06.03 12:06

トラックバック有難うございました m(_ _)m
笑い男の話、面白かったです。
今度きちんと読んでみたいと思います。
他の記事も色々と興味深いので、これからゆっくり読ませて頂きたいと思います^^

投稿: mami | 2004.05.22 13:04

 コメント、ありがとうございます。
 「笑い男」、どうですか?傑作でしょ?読んだらまた感想を聞かせてください。

 ところで昨日電車に『ナインストーリーズ』を忘れてしまいました!まだ4編しか読んでなかったのに!ショックっす。

 2nd GIGは、なかなかレンタルできなくて、未見です。早く観たい。

投稿: | 2004.05.19 00:01

サリンジャーの原作、気になってたのですが、このエントリー見て読んでみることにしました。

まだ読む前ですが、とりあえず読む気にさせてもらったっつーことで、ありがとうございます。

初めての訪問ですが、画の見方が近いモノを感じて嬉しかったので、今後も楽しく読ませてもらいます。


P.S.ネタバレになるんで、何も言わないで起きますが、2ndGIG、是非見てください。(あー、でも今見てしまうと続きがずーっと気になって眠れなくなるな…。自分もSACは通して見たし…

投稿: | 2004.05.17 18:07

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