■マイケル・ムーア監督 『ボーリング・フォー・コロンバイン』
Bowling For Columbine(2002)
遅ればせながら『ボーリング・フォー・コロンバイン』を観た。
もっとギャグを咬ませたブラックユーモアに溢れた作品かと思っていたが、なんと凄くまじめな映画でないですか。とにかく自分の町とアメリカを少しでも良くしたいというマイケル・ムーアの心意気に溢れた映画。パロディやギャグだけの好きな人は、この映画はきっとまじめすぎてつまんないでしょう。僕は悪ふざけなくここまでストレートな作風に好感を持った。今度の『華氏911』も大期待。
DVDの特典映像で監督のインタビューが入っていて、自らのこの映画での疑問の根源にある子供の頃の記憶を語っている。それはキング牧師暗殺のニュースに歓声をあげる教会の大人達に驚いた経験で、ここを起点にしていろんな自分の疑問を映画を通して解いてみようとした、と言っている。実に生真面目で良い監督ではないか。
この映画でマイケル・ムーアが追及したのは、アメリカで何故、銃による殺人が年間1万人以上か、という謎。最初は全米銃協会の会長チャールトン・へストンの非道なキャンペーンを問いただし、銃所持の規制がないことが理由と考えていたようだが、カナダも同様に銃規制がなく全世帯の7割が所持するのに、殺人は2ケタ数が少ないことで、原因の推定が誤っていたことに気づく。で、追求した果てでつかんだ真実は、どうやらマスコミによる恐怖を人々に継続的に与え続ける文化にその根源の原因があるのじゃないか、というもの。実は殺人は2割程減っていたのに事件報道の時間は6倍になっている、という事実が劇中の学者の言葉として描かれる。
簡単に言うと、銃を持っていて、そして周りから常に攻撃を受けるのではないかという恐怖心を持っていることによって、簡単に銃を人に向けて撃ってしまうという状況があるのではないかということのようである。
では何故アメリカは、そうした「恐怖の文化」を持ってしまったのか?ここについては劇中にはさまれるコミカルなアニメによるアメリカの歴史のシーンで興味深い推定が描かれている。アメリカへ移住した人々が労働したくなくて奴隷をアフリカから連れてきた→奴隷が増えるのにしたがって自分達が逆に襲われるのではないかという恐怖から銃を持つ→その警戒心から自分達の周りに恐怖がある、という文化を構成。あと銃・軍事等企業のマスコミへの影響力、というのもボンヤリとではあるが、この映画は描き出している。僕はもうひとつ大きいのは、人がTVに求める事件の刺激にも原因があると思う。刺激的映像を興奮して観てしまう人間の本性みたいなもの、それと視聴率競争とかが相乗してTVはどんどんエスカレートし、そして人はますます回りに恐怖を覚える。テロ国家を想定し、攻撃を続けるアメリカの根源にはこうしたメカニズムで増殖した恐怖がどす黒く横たわっているのかもしれない。
日本は銃社会でないからまだ良いけど、TVの報道はあきらかにその傾向がある。日本でも実は凶悪犯罪は減っているのに(以前どこかのホームページで数字を見た)、TV報道だけ見てると過激な事件が増えている印象を持つ。同様のメカニズムで「恐怖の文化」が蔓延しつつあるいやーな印象である。
ここでネットで調べた数字から、アメリカの世界の中での殺人の数における位置づけについて。犯罪の国際比較のページの数字からグラフを作ってみた。
政情不安な国々を別にして、いわゆる先進国と言われる国の中でのアメリカの突出した殺人の多さがみてとれる。殺人事件の数からいけば、全く文明的とは言えない発展途上国である。この事実をアメリカ人は認識すべきでしょう。そして自らの中にあるいわれなき「恐怖の文化」の認識。これが世界での紛争をいくらか止める力になると思う。
ムーア監督には本当にこうしたアメリカの傾向に警鐘を鳴らし続けてもらうようエールを送り続けたい。映画が世の中を変えることが出来ると信じて、一歩一歩推進していこうとするこの監督のパワーは率直に凄いと思う。徒手空拳にみえる戦いも、案外、実は一つづつ社会を変えていけるのではないか、ということをこの映画で言っているのでしょう。頑張れ。
・MichaelMooreJapan.com マイケル・ムーア 日本版公式ウェブサイト
・マイケル・ムーアのDVD(Amazon)
・マイケル・ムーアの本(Amazon)
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コメント
ふうちんさん、コメントとトラバ、ありがとうございます。
今、ふうちんさんのblogお気楽気楽にコメントしましたが、2ヶだぶって入力しちゃいました。削除いただければ、幸いです。すみませんです。
投稿: BP@究極映像研 | 2004.06.02 23:23
こんにちは。
こちらからもトラックバックしてみました。
リレーのようにこの映画への興味が多くの人につながるといいですよね。
私もくるっぱーさんのように、アメリカのイラク占領はもう泥沼化の一途ではと思っていたのですが、アメリカ人たちが銃を離す努力をしてくれれば可能性はまだあると思います。
グラフも入ったこの記事は私のところからみんなが飛んできて読んでくれるといいな~と思います。
投稿: ふうちん | 2004.06.02 14:37
くるっぱーさん、はじめまして。
コメントありがとうございます。
マイケル・ムーアの応援リンクがトラックバックで出来ていくと、遠い東洋の地ですが、少しは支援になるかもしれません。
今後ともよろしく御願いします。
投稿: BP@究極映像研 | 2004.05.30 19:49
最近も毎日毎日イラクでの悲惨なニュースが耳に入り
もうこういう状況を止めることはできないのかと
落胆してしまったり、不安に思ったりします。
アメリカでこういう映画が作ることができるということに
まだわずかに希望を託したいところです。
マイケル・ムーアの最新作、
華氏911も見てみようと考えています。
ところで私共、トラックバックをはじめてしていただきました。
ありがとうございます。今までいまいち
トラックバックの利用法がぴんときていなかったのですが
ちょっと理解できたような気がします。
投稿: くるっぱー | 2004.05.30 15:40