■黒沢清『アカルイミライ』(2002,UPLINK)
黒沢清監督・脚本・編集の映画をDVDで観た。
冒頭からの仁村雄二(オダギリジョー),有田守(浅野 忠信)と藤原(笹野高史)とのやりとり。そこに漂う空気の演出は実に見事なものである。特別な事件があるわけではないのに、仁村と有田の行為が必然的に見えてくる、このリアリティの持たせ方は凄い。
クラゲのようなというと型どおりの書き方になってしまうが、この若者ふたりのたたずまいは、『ニンゲン合格』や『カリスマ』に顕著な黒沢清独特の描写であり、現実の転写の仕方として何故か凄くうなずいてしまう部分がある。このリアリティは他の映画監督が獲得できていない何者かだ、と思う。
ラスト仁村雄二のいないリサイクルの工場から白い服の若者のグループに映像が切り替わる。そしてそれこそどこにでもありそうな所在無げなこのグループの歩くシーンにTHE BACK HORNの「未来」という歌がかぶる。何故だか、とても「アカルイミライ」を感じさせるかっこいいシーンである。これだけの物語でこのクライマックスのイメージを観客に提示できる映画作家の手腕にとにかく脱帽。物語の力ではなく、俳優のしぐさと脚本により与えられたセリフ、そして画面の切り取り方と編集と美術と音楽、これら映画的素材から紡がれたイメージは、芳醇な何者か、である。黒沢清、凄い。(俳優のしぐさでは浅野忠信の何気ないがニュアンスの残る演技はさすが。特にオダギリに対する前半での対比的な芝居とか、クラゲに関していらだっている発言とか。これらがラストのイメージに微妙にじわじわと効果を出していると思う。)
この作品はハイビジョン撮影らしい。公開時はハイビジョンで上映された劇場もあったようなので、TV放映があるなら、DVD版でなくHD版も観てみたい。ところどころ、手持ちのDVになる部分があって、しっかり粗い画面で、それとわかってしまう。これも意識的にやっているのだろうけれど、画面の肌触りの粗さもいい味になって感じられる(あばたもえくぼ、なんだろうけど)。
◆関連リンク
・THE BACK HORNのHP。(「OUR LAST DAY CASSHERN OFFICIAL ALBUM」というアルバムに映画にインスパイアされた歌を提供しているとのこと)
・この映画のメイキング『曖昧な未来、黒沢清』について。
・アカルイミライ 特別版(メイキング『曖昧な未来、黒沢清』添付)(Amazon) レビュウが何本も掲載されています
・黒沢清インタビュー(TALKIN' TIGER)
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