■押井守著『これが僕の回答である。―1995-2004 押井 守』
(㈱インフォバーン刊)
押井守が「ワイアード」「サイゾー」誌に連載した映像論等の原稿をまとめた本。
『GRM』やら『イノセンス』やらについて、いろいろと興味深い内容が書いてある。目次は上記公式ページを参照。
P59「映画の中のリアリティ」
映画というのはそういう意味で正直なもので、誰も見たことのない絵を作りたいと言う想いなしには一日も作業ができない。けれど同時に、それが不可能だということも確かなのだ。動機としては成立するけれども、現実化することは出来ない。映画という百年の歴史の中で、誰も撮ったことのないカットや映像はもはや存在しないし、映像そのものとして新しいものはない。
この一文、読んだ時は、確かに今まで映画って毎年数百(千?)本撮られているし、TV映像まで入れれば、膨大な映像が作られているわけで、本当に新規なものなんて、もはや生み出せないのだろうな、と思った。
しばらくして、ふと人間が捉えられる映像って、確率の組み合わせから言ったら何通りくらいあるのだろう、という疑問がふと沸いて計算してみることにした。
「人間の目には約600万個の視覚細胞がある」というのは以前引用した話であるが、これを起点とする。
600万画素それぞれに1670万色のどれかを置いて1枚の映像は作られる。つまり1670万の600万乗だけの映像があることになる。そして一本の映画を1秒24コマで2時間とする。すると映画は何通りあるか。
((16700000 ^ 6000000) ^ 24) ^ 7200) =
計算しようとしてexcel に上の数字を入れてみたら、なんと計算不能。調べてみたら、excel 処理できる正の最大値9.99999999999999E307 ( Mr.Big~小技集・Excelの仕様制限 より )。会社でも数値計算にexcelは使うけれど、今まで桁数でこの限界に至ったことはなかったので、びっくり。ちなみに会社でその他数値計算ソフト(MATLAB)を使っても、上記計算は扱えない桁数でした。「infinite」と表示された。つまり無限ということ。
E307を限界とすると、16700000 ^ 42までで既に計算不能。1670万色 ^ 600万画素でさえ、途方もない数字でまさに無限。さらに((16700000 ^ 6000000) ^ 24) ^ 7200)というのは気が遠くなります。
つまり『これが僕の回答である。』の「映像は有限」は間違っている。押井守には、映像には限界があるなどと言わずに、未知の映像をこれからも生み出していってもらいたいものである。
我々が映画の映像に感動する時、目の前に映し出されているのは無限の組合せの中のたった一つの映画である。こう思うとどんな映画でも本当に無限の宇宙での一期一会であり、なにやら感謝を奉げたくなる。
究極映像とは「((16700000 ^ 6000000) ^ 24) ^ 7200)」の彼方の映像である、なんつって。
・『これが僕の回答である。』Amazon)
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