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2004.06.12

■神林長平『膚の下』(2004)(早川書房)

 神林長平の火星三部作の完結編となる大作を読了。
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 アートルーパー(人造人間)と機械人と人間のコミュニケーションを、アートルーパーの意識の動きを中心に丹念に描き出していく前半が素晴らしい。この人造人間慧慈の意識の描写は、例えばメカでできたロボットに意識というものが生まれていく過程を読んでいるようで、スリリング。人間たちと機械人アミシャダイとのコンタクトが慧慈の意識を変貌させていき、それがまるで人工知能に意識と魂が宿っていくような遍歴を描き出していて読ませる。また慧慈以外のアートルーパーのタイプの違いによる意識の描き方の違いも素晴らしい。僕はインテジャーモデルのスーパーコンピュータぶりとそれぞれが個性を持っていく描写がとても気に入った。
 この意識の発生の描写は、SFという小説形態でしかたぶん表現できないことのように思う。そしてもちろん言語と心のありように着目し続けてきた神林長平だからこそ書くことが出来た意識の発生と発達の物語だと思う。この前半を読んでいて、実は僕はもうこの小説にかなりの部分満足してしまった。神林って作家をずっと読んできてよかったと感慨に浸りながら。(21年かけて完結した火星三部作を一作目からリアルタイムで読んできたのでたぶんに感傷的ではありますが、許してちょ。) 
 にしても神林をSFの文脈以外で評した文学批評を読んだことはないのだけれど、SF以外の評論家、文学者にはこの小説はどんな風に読まれるのだろう。ある種SFだからこその奇形的なガジェットや意識のありようの描き方をそうした立場から眺めた時にどんなことが書かれるのか、メチャクチャ読んでみたくなった。SFが凄いという観点で言っているのではなく、その特殊性故にこのような奇妙な形態の意識の物語が描かれることを、SF視点でないところから読んだ批評が、きっと僕らSF読者の持ち得ない視点にあふれ、センスオブワンダーに満ちているような気がするので望むのである。ねぇねぇ、ユリイカで「神林長平」特集やって下さい。>>青土社殿。

 で、実は中盤は少し中だるみ(^^;)。でもラストへ至るもう一つのテーマである創造主の物語がまた読ませる。
 複雑に思惑の入り混じったいくつもの集団同士の軍事行動をエンターティンメントとして描きながら、人造人間アートルーパーが到達する創造主としての認識。冒頭で慧慈に間明少佐が言う言葉。「われらはおまえたちを創った。おまえたちは何を創るのか」。この言葉が慧慈の意識に創造主というベクトルを発生させ、動物→アンドロイドという救済策によって形を成していく創造主の意識、これを読者は追体験することになる。そしてここが『あなたの魂に安らぎあれ』へと直結する。
 ラスト、慧慈と偶然知り合い文字を教わった実加が読む慧慈の日記。特にサンクのくだりが泣かせる。

 そのページには、ただ一文、それだけだった。サンクは十八年生きた。(P682)

◆関連リンク
・多村えーてるさんの美しい暦BLOG 神林長平『膚の下』読了
『膚(はだえ)の下』(Amazon)
・三部作の簡単な紹介文 神林作品ガイド

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