■『世界のすべての七月』
ティム・オブライエン著 村上春樹訳(文藝春秋)
『世界のすべての七月』(Amazon)
30年ぶりの大学の同窓会をメインのストーリーにして、そこにさまざまな各個人の30年の中のエピソードを短編としておりまぜた連作的長編。
ウェブでの評判が凄く良かったので(あれ?でもどこのサイトか既に探せなくなってしまったけど)、読み始めた。
50代も中間に差し掛かってきている登場人物たちの人生への未練がもんもんとしている。離婚に不倫に犯罪、それぞれがじたばたとしている様が哀愁をさそう。アメリカの60年代末のカウンターカルチャー的な学生生活が21世紀になってもへこたれた青春として生き続けている、という感じ。うーん、味のある短編もあるし、総体として一群の生活観がアメリカの現在の一面を鋭く切り出しているようでもあり、なかなか深い読後感である。
村上春樹は訳者あとがきで自分も日本の60年代世代の長大なクロニクルをいつか書いてみたいといっている。ちょうど自分の直接の上司たちがこの年代で、日本でこんな小説を書いたら、どんなイメージか、彼らを思い浮かべて想像してしまった。ついこの前読んだ矢作俊彦『ららら科學の子』が、その世代を中国からの帰還という仕掛けで見事に描いていた。オウムの問題、阪神大震災等々の現代までの世相を織り込んだ形の村上春樹の作品も是非読んでみたいものだ。
◆関連リンク
ティム・オブライエン(Amazon)
| 固定リンク
コメント