■殊能将之『キマイラの新しい城』(講談社ノベルス)
殊能将之の新作。
ヒロイックファンタジーな描写と、中世からの視点で現代の東京を描いた異世界描写が面白い。ただミステリーとしてみると、、、、。
異世界描写はセンスオブワンダーが、切れ味良く決まっている。こういう設定のミステリーで、SF視点を読めたのは収穫。元々SF読みだった殊能将之氏のSFを一度読んでみたいと思っていた向きには、嬉しい一冊。
◆関連リンク
・『キマイラの新しい城』講談社ノベルス(Amazon)
・講談社のサイトで冒頭を試読できます。
★以下ネタばれ注意!!!!
ミステリーネタとしては、ラストの2段構えのオチはちょっとないなぁーと…。たぶんミステリーとして読んじゃいけないんじゃないかと、、、。『黒い仏』の時は、まだミステリーの結構をわざと壊している人のわるーい小説ということで、ある意味、インパクトがあったのだけれど、、、。今回のは「○常口」も着想はまあ面白いけどーー、だし。ラストの○殺/○○死のちゅうぶらりんさも、トリックとしては・・・・だし。まあミステリーは時々しか読まない、カーの密室モノも読んだことのないドシロウトの感想ですが、、、。
んが、ある意味、味もあるかなーーと一晩寝てラスト付近のみ今、読み直していたところ。
『ハサミ男』でスリリングだったのは、切れ味の良いメインネタもだけれど、「医師」の乾いたペシミスティックな描写が作品の切れを良くしていた。本作も主人公エドガーのラストで明かされる心情をミステリーのネタとしてでなく、感情移入して読むと苦い読後感があり、なかなかいいのかな、と。
殊能将之の小説は、舞城王太郎と比べると(単に福井在住のメフィスト賞出身作家って共通点だけで比較してしまうのだけれど)、乾いていて衒学趣味で情動が届きにくい小説なのだけど(舞城がその対極だからか、、、)、時々こぼれてくるこうした部分が小説読みとしては楽しめる(『子どもの王様』はそちらに振っていたけど)。テクニシャンな部分と時々でてくるそうした乾いた情感的シーンが融合してクライマックスが描かれたら、もっと好きな作家になるんだろーなーーと思った。まあ、殊能本人やこの人のファンにとっては知ったこっちゃないって希望のような気もしないでもないけど。
しかしキマイラって、何を意味しているのか??
僕は六本木描写で克明に描かれた西洋のキマイラ的表象としての東京の異世界ぶりが本作のテーマ※1で、「キマイラの新しい城」とはそのものずばり「ロポンギルズ」と思った。うーん、この作家の衒学趣味から言ったら、とんでもなくストレートな解釈。2chとかウェブみてても、まだこの「キマイラ」の解釈って、ちゃんと分析された文章は見当たらないのだけれど、誰か新解釈、コメントください。、、、ということで、次は舞城の『好き好き大好き超愛してる。』(なんてタイトルなんだ!!)(Amazon)でも読もうかな。『ケルベロス第五の首』も積んであるけど、、、。
※1という解釈からいくと、本作はSFかファンタジーとして読むべきで、ミステリー部分はおまけ??かも。
| 固定リンク
コメント
jesusさん、コメントとトラックバック、ありがとうございます。
実はムアコック、全然読んでないのです。あ、一冊昔読んだかもしれん、、、。超薄くてすみません。
ムアコック作品と『キマイラの新しい城』の関係、興味深く読ませていただきました。んーー、でも、ということは『キマイラ』は、ミステリーでもファンタジーでもなく、ムアコックファンのための一冊という側面がかなり強いのですね。ムアコック未読者の皆さんは、ご注意を!ということでしょうか。
投稿: BP | 2004.08.22 22:44
どもです。
TBさせて頂きました。
うちのレヴューにも書いたんですが引用文献のマイケル・ムアコックから推測するに『キマイラ=混沌』の象徴ではないかな、と。
反対の『天使=法』で主人公はエターナルチャンピオンな訳ですから『中央の天秤に手をかざし祈りを捧げる』ってのが『法と混沌のバランスを取ろうとする』って事の象徴で肝心のオチの『蓋然性の殺人』に関して言えば『髪に翻弄され命を奪われ永遠に転生を繰り返す』からこそ『運命に身を委ね』剣に魂を奪われる、のだと思いました。
あの剣こそ章のタイトルにもなってましたが『Storm Bringer』..つまり『あらゆる魂を食らう呪われた剣』って事で。
殊能にしては(偉そう)久々に面白かったですけどね(苦笑)
『ハサミ男』のデビューが鮮烈過ぎて..(汗)『黒い仏』の○○ゥ○ーネタにしたって...なにもミステリーで使わなくたって、とか思いましたし。
二段構えオチ、に関しては山口雅也氏の『解決ドミノ倒し』とか摩耶氏の某作品とかの先鞭がありますからそれほど。
投稿: jesus | 2004.08.22 15:16