浦沢直樹がアトム誕生(2003.4/8)後に描いてきた新作が単行本化。
僕は『鉄腕アトム』にアニメで触れた世代で、マンガ版にほとんど感銘を受けずに育った。どちらかというと『鉄人28号』ファンだったので、アニメ版の「地上最大のロボット」篇も全然思い入れがない。で、この漫画が「地上最大のロボット」篇を描きなおすと聞いて、実は「えー、浦沢直樹に今さら手塚のアトムをリメイクさせるの??もったいないーー!」と思ったという、手塚ファンが聞いたら石が飛んでくるような印象しか持っていなかったわけです。
んで、雑誌では全然読んでなかったので、今回単行本が出て「あーあ、一応読んでみよか」と手にとってぶっ飛んだわけです(^^;)。持ってた印象とまったく違った。(前置きが長いっちゅーーの)
◆1巻全体の感想
何が凄いって、このマンガ、ロボットと人間が共存している未来で、人をロボットが殺めるということの哲学的アプローチにリアルに挑もうという壮大なテーマ設定がなされていること。『MONSTER』で人にとって「悪」が何ものであるかという深遠なテーマ設定をした浦沢が、今度はそれを一歩進め、ロボットを導入することで違った切り口から再挑戦しようというわけである。
今回は謎の提示。これは手塚版「地上最大のロボット」篇に全くない設定がなされている。最初のモンブランの描写の後の事件が、この後どう説明されていくのか?そしてこれも手塚版にないブラウ1589の登場。たぶん十巻以上になるだろう全編に対して、本当にドキドキするような導入部である。
そして特筆すべき「ノース2号」の巻。これも手塚版ではわずか2ページしか描かれていない人間とノース2号のストーリーをオリジナルで描き出して、逆に戦いのシーンは原作より短く、秀逸な涙なしには読めないエピソードへ昇華させている。いやー、この「ノース2号」の巻が読めただけでも1巻は幸せです。
★以下、ネタばれを含む詳細レビュウ(未読の方は絶対読まないこと!!)
◆人とロボットの共存
アシモフのロボット三原則からこっち、この人をロボットが殺めるということは、いくども描かれてきたテーマだと思うけれど、そこに浦沢的リアル描写で挑むというのが一巻でもいかんなく発揮されている。(アシモフだけでなく、既に『フランケンシュタイン』からか、、、。人間の根本的な恐怖感として、人に似たものを作って殺されるというのがあるのでしょう。)
いたるところにロボットと人間の共存する未来描写のリアルさがある。
まずはドイツの刑事ゲジヒトの描写。最初、妻との会話等で人間としてみせておいて、P24でロボットであることを描く。なんとなくそーだろうなと思って、読んでいるのでそれほどショックはないが、共存という部分を強調する描写として秀逸。あとモンブランとノース2号が明らかにロボットとわかる外観であるのに対して、ゲジヒトとブランドとアトムの外観は全くの人間。時代経緯とともにロボットの外観が進化したと、まずは思えるのだけれど、これも共存の混沌を表す描写として面白い。
巡査ロボットのロビーについて、外観と妻を描くことで示されるその内面描写も、ロボットの進化の状態を示すために挿入されているエピソードとして読める。
◆ブラウ1589
トマス・ハリス『羊たちの沈黙』のレクター博士と、大友克洋『AKIRA』のAKIRAを封じ込めた人間の慌てふためきぶりを融合して描き出したブラウ1589も今後の展開が見逃せない。基本的にミステリーやSFファンって、こういう封じ込められた悪魔の描写って大好きなので、安直な先行作品のコピーに見えようが、つぼにはまってくる。
ブラウ1589の語る言葉は(ネタばれ注意→コマの引用はこちら)、まさに前述のテーマに直結したものとして迫力がある。この手塚版にないロボットが今後どう描かれるか、興味津々。
◆ノース2号
ノース2が音楽家ポール・ダンカンに会ったシーンのこのセリフもイメージを膨らまさせていい。(ネタばれ注意→コマの引用はこちら)。この老音楽家の手がけてきた映画のシーンを思わず夢想してしまう。これで随分広がりが出てきていると思う。
そして感動の「ノース2号の巻」のラスト(ネタばれ注意→コマの引用はこちら)。うーー、これはセンス・オブ・ワンダーそのものです。
作劇上は、ここで敵方(本当にプルートゥなのか??)を出せないのだろうけれど、それを逆手にとってこのように描写する手腕に興奮。読者の空想に戦いの中身をゆだねることと、音楽家の視点(さらに盲目という点も重要)で描くことで、手塚版で味気なく岩山の戦いとして描かれたシーンが重層的な情感と想像による激闘をイメージさせて、秀逸なコマに結晶しています。すごいすごい。
◆アトムとウランとゲジヒト
ラストのアトム、、、背筋が本当にゾクゾクしました。
ランドセルを背負ってレインコートを着た小学生。しかしどっかアトム。もうこのコマだけでも長編『PLUTO』の導入部の一巻としては完璧でしょう。
「地上最大のロボット」篇としては確実に、この先、さらにウランが絡んでくるわけで、もうやたら想像力を刺激されます。まさに『鉄腕アトム』の現代的21世紀的リメイク。小学生の自分がワクワクした時よりも、たぶん40代でこれを読んだ自分の方がワクワク度としては上。これって、凄いことだと思うので、今後に期待。10歳になる娘にこの興奮を語ったら、「パパってまだ子供ね(^^)」とわらわれてしまった。あーあ。(『20世紀少年』の時も一巻で期待しすぎて、最近ちょっとだれてるからなーーー(^^;))
◆関連リンク
・ビッグコミックオリジナル PLUTO 公式ページ
・ここでPLUTOの音が聞けます。
・AZUMA MIYAKOさんの"東京難民" PLUTOのページ
・WIKIPEDIA 浦沢直樹、プルート
・PLUTO 1【豪華版】(Amazon)
豪華特別付録として、原作の鉄腕アトム「地上最大のロボット」を完全収録!!
雑誌掲載時と同じB5判の特大サイズ!!
雑誌掲載時のカラーをすべて再現!!
メタリックな美麗装丁!!
浦沢直樹×手塚眞 対談を完全収録!!
この「豪華版」と「ビッグコミックス通常版」を比較すると、色の濃さが随分違います。B5版の方が随分と白い。「通常版」を買って読んだ後、手塚版をどうしても読みたくなって豪華本を買いに走ったバカは私です。
・
鉄腕アトム 地上最大のロボットMy First Big
・
PLUTO 1ビッグコミックス(Amazon)
・
鉄腕アトム DVD-BOX(1) ~ASTRO BOY~ このDVDにアニメ(白黒版)の
「地上最大のロボット」篇が入っているようです。
ビデオ版が近所のレンタルにあったので、借りて観ました。前後篇で前篇が手塚御大の脚本、後篇は石津嵐。
漫画との違いは、次のようなところ。にしても白黒アニメ版は今観るとつらい。(←物好きと笑ってやって下さい)
・ウランへのプルートゥの感情が描かれていない。
・伝馬博士は登場せず、アトムは100万馬力に改造されない
・お茶の水博士がすぐ解放される
・オーストラリアのエプシロンが阿蘇山でアトムと協力して戦う
・ラストで正体を明かすロボットが召使でなく、闘技用ロボットであった
→ロボット同士の戦いの無意味さのテーマは強調されている
・続けて、最新版も観ました。
アストロボーイ・鉄腕アトム Vol.5(Amazon)。現代的でリアルになってます。
新しいアトムでは、第17話「地上最強のロボット」第18話「プルートゥは死なず」の二編で構成。西田正義 絵コンテ/作画監督で、特に17話はなかなか作画が見せます。漫画との違いは、次のようなところ。
・プルートゥは天馬博士がアトムを進化させるために作った。(が、実は天馬博士が作ったロボット科学者が、、、。)
・プルートゥが狙うのは5体のロボット
・ウランとの関係とか、原作よりわかりやすいストーリー
・大きなアトムの進化のストーリーの一貫として構成
・最後に出てくるのがプルートゥの影であるブラックプルートゥ。
最近のコメント