■『願い星、叶い星』アルフレッド・ベスター/中村 融訳
奇想コレクションの5冊目。アルフレッド・ベスターの邦訳オリジナル短編集。
僕の気に入った順に寸評です。あー、でもまた『虎よ、虎よ!』が読みたくなってきた。
・「ごきげん目盛り」Fondy Fahrenheit
狂った会話と文体、アンドロイドと男の宇宙放浪記。この狂った前衛な感じが他の本書作品には少なくって、これの点数が高い。
・「昔を今になすよしもがな」They Don't Make Life Like They Used to
この<地球最期の人間>ものって、60-70年代の核危機の時代の空気から生まれているのでしょうが、なんか馴染みます。個人的SF体験の原点に近いかもしれない。「イヴのいないアダム」のシンプルさより、本編の女と男のずれた会話とか、まるで9.11の映像をベスターが幻視したようなニューヨークの摩天楼が崩れる描写とかにグッときました。
・「願い星、叶い星」Star Light, Star Bright
ミュータントもの。これも60年代的だけれど、切り口がいいです。ラストの一行が好き。
・「地獄は永遠に」Hell Is Forever
ある会合に出た人たちの各々の幻惑な現実を描いた中篇。死ねない男のエピソードが鮮烈。筒井康隆を思い出した。
・「イヴのいないアダム」Adam and No Eve
鉄原子を分解してエネルギを取り出す触媒技術をキイとした地球最期の人間の話。同じ人類破滅ものでは、「昔を今になすよしもがなく」に軍配。でもこういう滅亡も好きです。
・「選り好みなし」Hobson's Choice
タイムトラベルもので、時代とそこに人が馴染むという側面から切りとっているのが面白い。「広島」のキーワードき泣かせます。
・「ジェットコースター」The Roller Coaster
こういう切り口でタイムトラベルが行われるというのも、案外現実に近いかも。作中にも記述のあるニューヨーク近郊のコニーアイランドの遊園地の狂騒に触発されて描かれたのではないかと思った。レム・コールハース『錯乱のニューヨーク』を読んだ後なので。
・「時と三番街と」Of Time and Third Avenue
これもタイムトラベル物。ワンアイディアストーリーかな。
◆奇想コレクションの刊行案内が巻末にありました。スタージョン、デイヴィッドスン、イーガンがまずは楽しみ。各訳者の皆さん、翻訳、頑張ってください。早く読みたい!
「輝く断片」シオドア・スタージョン
「どんがらがん」アブラム・デイヴィッドスン
「ごっつい野郎のごっつい玩具」ウィル・セルフ
「ページをめくると」ゼナ・ヘンダースン
「TAP」グレッグ・イーガン
「たんぽぽ娘」ロバート・F・ヤング
「最後のウィネベーゴ」コニー・ウィリス
◆関連リンク
・アルフレッド・ベスター/中村 融訳 奇想コレクション『願い星、叶い星』 河出書房新社(Amazon)
・みけねこ日記さんの各篇レビュウ。
・WEB本の雑誌「寺岡 理帆の<<書評>>」 評価はA。
・アルフレッド・ベスターの写真。こう並べてしまうとなんだか残酷。若い頃の写真はキューブリックに似ている。
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