■『すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた』
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/浅倉久志訳
ひさしぶりのティプトリーの新刊邦訳。
1986年の作で、世界幻想文学大賞受賞。ユカタン半島のキンタナ・ローを舞台にした「美しくも儚い三つの物語」。
全体としては、ティプトリー作品としては、凄みのあるSF短編群とは少々趣を異にし、淡いファンタジー的な小編といった感じ。であるが冒頭のノートにもあるように、背景にはマヤ族のメキシコからの独立運動とそれにむけた米軍の派兵といった影が横たわっており、どこか底流に重いトーンが漂う。
3篇「リリオスの浜に流れついたもの」「水上スキーで永遠をめざした若者」「デッド・リーフの彼方」のうちでは、最後の一篇が一番好み。海と人間の関係、そしてそこにある異世界。廃棄物で構成された"異生物"の存在感がよかった。
◆関連リンク
・『すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた』〈ハヤカワFTプラチナ・ファンタジイ〉(Amazon) "Tales of the Quintana Roo"
・A Bibliography of James Tiptree, Jr. a.k.a. Alice Sheldon
・www.tiptree.orgのThe James Tiptree, Jr. Award
・ティプトリー
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