■ケリー・コンラン監督 『スカイキャプテンと明日の世界』
SKY CAPTAIN & the World of TOMORROW
自宅のガレージに置かれた1台のコンピュータを駆使しながら、ケリー・コンランは小さい頃から憧れてきたサイエンスフィクション、ファンタジー、歴史、運命などに含まれる“もし~だったら……?”という空想的要素にさらにひねりを加えていき、何と4年という長い年月を費やし6分間の映像作品を完成させた。この「The World of Tomorrow」と題された、たった6分間の短編作品が、コンラン自身の「明日の世界」を大きく切り開いていくことになる。(公式HPより)
◆総論
上の画像に書かれたケリー・コンラン監督の言葉が、この作品について本当に的確な紹介になっている。僕らの失われたかつての未来世界がここにある、って感じ。町に突然現れる巨大なロボットや、摩天楼に係留される豪華飛行船、空飛ぶ空母、銀色の流線型のロケット、こういったものを空想して子供の頃きっと未来はこうなるだろうと、ワクワクした人にはこの映画は素晴らしい贈り物になるだろう。

なので、この映画は『スカイキャプテンと明日の世界』というタイトルが本来マッチする。ロゴも現在のものより当初使われていたこっちの方が断然イメージぴったり。
元々"The WORLD of TOMORROW"というタイトルだったのが、『ザ・デイ・アフター・トゥモロー』と紛らわしてということで、"SKY CAPTAIN"を付け足したらしい。まさにワクワクするパストフューチャー "The WORLD of TOMORROW"の映画であるのだから、邦題も『スカイキャプテンと明日の世界』が良かったのに。
岡田斗司夫に、『二十世紀の最後の夜に』とか、『失われた未来』(Amazon)といった著作があるけれど、あの本の好きな人には絶対お薦め。今のところ、ネットには岡田斗司夫の『スカイキャプテン』評はないけれど、きっと涙なしには観えないでしょう。って。
◆冒頭
1939年ニューヨークのスカイクレーパーに係留されたヒンデンブルグ3。ここで事件が動き始める。
セピア色でソフトフォーカスの画面が続くので少し気にはなるけれど、ここからロボットとの戦闘シーンまでがまず秀逸。とくにこの飛行船の映像が良い。摩天楼にぴったり。
ゆったりとした時間が最も贅沢な今、なんで飛行船は復活しないのだろう。ちょっとデザインは合わないけれど、東京都庁や名古屋駅のツインタワーに係留される飛行船の光景を観たくてたまらない。
ロボットが発電機を発掘して、運び去る展開もワクワク。奪われるニューヨークの街のエネルギー源、飛行ロボットと戦闘機のドッグファイト。そしてそれを取材する美人新聞記者に迫る危機。この道具立てを聞いて、ワクワクしない人はこの映画に向かないので観ないでください(^ ^;)。
あと特筆すべきは「見える電波」。昔の映画であったようにこの世界ではスカイキャプテンを呼ぶ無線の電波が見えるのである。これのかもし出す雰囲気が良い。
◆俳優のリアリティ
「美人新聞記者」役のグウィネス・パルトロウって、あれでアカデミー女優なんだビックリ。好みが合わなかったからかもしれないけれどタコ演技に観えて仕方なかった。
俳優たちはブルーバックの前で23日しか演技してないらしいけれど、ジュード・ロウも精彩ないしCG合成映画って俳優たちの現場での雰囲気を作るための道具立てをこれからは考慮していかないと、このように薄っぺらな芝居になる危険があるんだろうね。安く凄い場面が撮れるのは良いけれど、俳優のリアリティの構築は課題でしょう。
僕は、このタコ演技でもこの映画大好き。というくらい画面が好きだったのでいいけれど。
アンジェリーナ・ジョリーの演じた英国空母艦長のフランキーは別格。かっこいい。あのコスチュームと眼帯で、演技するための雰囲気を的確に掴んだのかもね。
◆CGによるパストフューチャー
ガジェットやら画面レイアウトやら、痺れまくりのパストフューチャーだったけれど、当然このCGが気に入らない、という意見も多いのだろうと思う。どっかのゲームのオープニングCGみたいな画質の気がしないでもない。だけれども勝利は監督のセンスでしょう。それを統一しているのが、この記事トップにある監督の言葉。これだけワクワクする画面を次から次へ提示してくれたので、このCGダサいというある意味客観的な現代の自分でなく、万博や50,60年代SF映画が好きだった過去の自分が体の奥の方から、ザワザワと喜ぶのだった。
次から次への脅威の映像ということで書くと、ヒロインのカメラの役割がなかなか良い。あと残り二枚となったフィルムをまだこれから凄いものが撮れるかもしれない、と残しておく感覚。これが観客の期待感とリンクしていて楽しかった。
◆地球最後の日テーマのSFとして
この映画のパンフレットに本作に影響を与えた作品の数々が挙げられているけれど、僕もSFから一作。
先日読んだアルフレッド・ベスター『願い星、叶い星』の中に、地球最後の日テーマの2作があるけれども、そのうちの1作と本作のネタが少しだけかぶっている。コンラン監督がSFファンでベスターを読んでいるかどうか、全く不明だけれど、"Adam and No Eve"が元ネタになってたら楽しいな、とそんなことを思った。 ★次のリンク先 ネタばれ注意★(観てない人はクリックしないで下さい) このシーンのこのアイテムが、、、、。
◆興行成績
・eiga.comによると、9/21週に全米公開でトップ、その後、10/19週に10位で興収は$3600万。制作費が$4000万とのことなのでトントン。まあ、DVDとかでもっと儲かるわけですが、、、。ケリー・コンランの次作はバロウズの『火星のプリンセス』らしいけれど、僕は<火星シリーズ>に思い入れがないので、『スカイキャプテン』の続編が観たい。
◆関連リンク
・『スカイキャプテン』公式HP (日本) (米)
・ノベライズ『スカイキャプテン―ワールド・オブ・トゥモロー』 K.J.アンダーソン,石田亨訳(Amazon)
・DVD『スカイキャプテン』(発売日 未定)(Amazon)
・サントラCD 『スカイキャプテン』(発売日 未定)(Amazon)
曲目リスト
1.The World Of Tomorrow 2.The Zeppelin Arrives
3.The Robot Army 4.Calling Sky Captain
5.Back At The Base 6.The Flying Wings Attack
7.The Aquatic Escape 8.Flight To Nepal
9.Treacherous Journey 10.Dynamite
11.Three In A Bed 12.Finding Frankie
13.Manta Squadron 14.h-770-d
15.Flying Lizard 16.Totenkopf’s Ark
17.Back To Earth 18.Over The Rainbow-Jane Monheit
◆岡田斗司夫の著作より(センチすぎる文体ですが、、、。)
・『二十世紀の最後の夜に』
どうしてだろう。
待ちに待った未来が、こんなに涙でにじむなんて
いつも友だちと語り合ってた。
あと3秒で訪れる未来について。
ポケットに入れて歩いた金属の部品について。
夢の数だけちがう自分がいたあの頃。
まばゆい光、銀色の天幕。
なつかしいのに、新しい、自伝的極彩色物語。
「世界最後の日」。僕はこの言葉に、どんなにあこがれただろう。
大洪水だろうか?水爆戦争だろうか?
強くてかっこいい大怪獣が、僕の住んでいる街を破壊してくれないだろうか。
・『失われた未来』は毎日新聞連載分がここで読めます。
科学と民主主義による輝かしい未来はどこへ行ったのか?おもちゃ、メカ、マンガ…1950~70年代に巷にあふれたモノたちは、銀色に輝く未来の理想郷を夢見ていた。科学万能主義の衰退とともに消え去ったその幻影を「失われた未来」をキーワードに追体験し、あり得た未来と現実のギャップを語る
◆パストフューチャーに関して

・『パスト・フューチュラマ』について、うたかたの日々さんの記事。
・長澤均の編集する20年間でたった3回しか発行されていない雑誌「パピエ・コレ」。ここでも『パスト・フューチュラマ』の紹介。
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