■キャロリン・パークハースト『バベルの犬』小川 高義訳
The Dogs of BABEL
突然、妻レクシーを亡くしたポール。警察は木から落下した事故死と断定したが、ポールは納得できない。なぜ妻は木に登ったりしたのだろうか……。唯一の目撃者は愛犬のローレライ。言語学者であるポールは、犬に言葉をしゃべらせることができれば、愛する妻の死の真相が分かるのではと考える。ローレライへの言語レッスンが始まった。
書店で手にとって、この導入部にひかれて読んだ。なかなかの佳作。
骨格となるミステリー部分の趣向も抑えたトーンで良いが、やはり言語学者の主人公と仮面制作を仕事とする妻との関係の部分が良い。
一人称で物語が進むが、妻を亡くした主人公の心の動きが表面の文体の冷静さに対して、深いところで狂っている様がひたひたと伝わる部分はうまい。実はきっとすでに彼は心の奥で妻の死の意味を最初から知っている。で、物語全編がそれを深層から表層へ浮かび上がらせる過程なのだ。
そして並行して描かれる二人の出会いから始まる追憶の物語。ここでは妻の仮面創作の推移が二人の関係の微妙なトーンを描き出している。ここもなかなかいい。
二人の家族のローデシアン・リッジバック ローレライ。犬に言葉をしゃべらせるという狂気を、ある犯罪との関係で描いている部分は、物語のトーンを崩して若干読者サービスのきらいもなくはないが、ここのグロテスクさは犬好きにはたまらなく不愉快。
映画化も決まっているらしいが、僕はこのシーンがある限り絶対映画館へは行きません。きっと小説のように抑えたトーンで描くのは難しいから。
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