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2004.12.04

■イアン・ワトスン『エンベディング』山形浩生訳
    The Embedding (1973)

the_embedding.jpg 国書刊行会の<未来の文学>第二弾。『ヨナキット』や『マーシャン・インカ』を読んだのは既にもう20年前。マイナーだったけど、あの時のイギリスSFブームが懐かしい。んで、当時から噂の高かった『エンベディング』をハードカバー&山形浩生訳で読める喜びを噛みしめながらページを捲った。
 山形浩生氏のあとがきを読むと、褒めているんだか貶しているんだかわからない(貶しているに決まってる)。これを先に読んでしまったので、昔持った期待感なく読めてよかったのかな、思ったより破綻なくまとまって楽しめた。

 異星人とのファーストコンタクトものとしてなかなかいい。最近、この手のを読んでなかったから、コンタクトのシーンですごいワクワクして、ここでも自分のSF魂を確認してしまった。ベスター『願い星、叶い星では地球最後の人間の部分に時めくし、この本ではファーストコンタクト。ひねったものより、こういう原初に刷り込まれているSFの持つ怪しげなメインネタのダイナミックなワンダーに体の奥の方から反応。破滅もの異星人もの、これにドキドキするわけです、いまだに。正直『ケルベロス第五の首』より好き。

 このファーストコンタクトで登場する異星人とのトンデモ度の高い奇妙な取引、ここでキーになるのが言葉と現実という70,80年代を風靡した言説。うんなことないだろ、と飛躍に着いていけない気分と、あの当時、ディックとか神林長平とか読んで、現実が言葉によって構築されているというイメージを想いだすと、ほほえましくも懐かしい。
 ワトスンはこれを別に信じていたわけではないだろう。ひとつのヒトの現実を革命する小説内のツールとして選んだのだと思う。だけれど、当時の雰囲気って、ここに出てくるような言葉による現実認識の制限みたいのを切り崩すと何か新しい世界が出現するような期待感ってのがあったと思う。(これも『万物理論』の感想で書いた人間の現実認識が脳内の現象でしかないことを転倒して出てくる単なる妄想なのだけれど。)

 というようなシチメンドクサイ話でなく、これらをガジェットとして脳内に展開されるファーストコンタクトの異様な形態のひとつとして読むと、とってもワクワクする一冊。この秋の海外SFラッシュの中では僕のベスト1でした。
 こういうのハリウッドも映画化の目を向けるといいのにね。(売れない、売れない(^^;))

岡本俊哉氏のレビュウ
Ian Watson - Official Homepage ワトスンの思いがけなくも人のよさそうな写真と、なんとムービーも見えます。あと詩とか。
山形浩生勝手に広報部:部 室
『エンベディング』(Amazon)

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