■ジャン・ピエール・ジュネ監督『ロング・エンゲージメント』
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寡作なジュネ監督の第5作目。『ロスト・チルドレン』が僕には最高傑作ですが、今回のもこの監督ならではの映像とエスプリの効いた物語で楽しめました。
戦争シーンはスピルバーグ『プライベート・ライアン』の戦闘シーンに明らかにインスパイアされていますね。弾の軌跡の描写とか死体の損壊のハードな描写とか。戦争モノは『プライベート・ライアン』以前・以後であきらかに求められる質が変化したと思うのは僕だけでしょうか。
物語、実際に手を打ち抜いて戦争から生還していた人たちがいたんでしょうね。僕が戦争へ行かされたとしたら、きっとどうやって負傷したら帰れるか、という手段ばっかり考えて戦場から意識を逃避させているような気がする。あんな状況にさらされるなんて想像すらしたくない感じ。映画体験だけで充分。
ハードな戦場シーンと平和なフランスの村の描写が交互に描かれるのだけれど、この対比がいやでも戦争の惨さを強調する。まじめに今回ジュネ監督は反戦争映画としてこれを構想したのでしょうね。戦場での死と、村での生と性。たまたま映画を観た後にこんな記事を読みました。
野良犬の塒: 『めざめの方舟』は『天使のたまご』立体版?より。(前の記事と重複引用です)
サイゾーに掲載されている押井守氏の“ツレヅレ観賞日記。”に、『めざめの方舟』について書かれている。(略)「今更宇宙から地球を見た映像を見たとしても何の感慨もわかないのと同様、自然の映像をただ見てもどうにもならない。人間にとっての環境とは人間自身であるのなら、環境を表わすものとは戦争とセックスである。そこで万博では戦争とセックスの映像を表示する……つもりだったが当然のごとく却下された」という。
という視点を導入すると、この『ロング・エンゲージメント』はまさに「環境」の映画であるわけです。
押井守のひねくれた視点は、よくわかります。万博の開会式を見て日本側の挨拶のあまりの陳腐さにあきれたのはこういうラディカルな視点なしに、お題目のように「自然」を語る輩ばかりが博覧会主催側の人間として露出しているからなのでしょうね。
こういう現在に戦争映画が果たすべき強烈な役割を意識しないわけにはいきませんね。これを温めてきたジュネ監督のモチーフもそんなところにあるような気がしてなりません。戦場の描写、マジだもの。
お得意の幻想シーンは今回はほとんどなし。マチルドの夢が若干、ある程度かな。
バジェロメンティの音楽も徹底して低く暗いトーン。音楽は幻想的ではあまりなく、精彩を欠く印象。もっとイマジネーション炸裂してほしい気もします、このコンビには。
アメリじゃないけど、マチルドが「、、、、が起きたら、マネクが生きている」とやる御まじないとか、このあたりの感性がジュネ監督に共鳴してしまう部分ですよね。『アメリ』で特に全開したこういうエスプリ(??)の効いた小ネタの集積による独特の世界構築は、今回、少ない。『アメリ』を期待した女性ファンは物足りないでしょうね。オドレイ・トトゥの不思議少女ぶりもかなりトーンダウンだし、、、。
あと脇がなかなかいいです。探偵とか「調達屋」のプーとか郵便配達とか。マチルドのおじさんはジュネ監督の常連役者(あれ、名前が出てこない、、、、(^^;))。ジョディ・フォスターも中年おばさんの良い味出してます。
原作がミステリーだけれど、ミステリーネタもそこそこ。ビンゴの戦場シーンがいろんな視点から語られ、真相があきらかになっていく過程が面白かった。ラストのシーンは凄く抑えた描写だけれど、僕は気に入りました。(でも、この監督にはまたイマジネーションの飛躍のある映画に戻ってきてほしいと思ったり、、、、)
◆関連リンク
・★究極映像研究所★: January 3, 2005 - January 9, 2005 バックナンバー
・予告編
・『アメリ』(2001)
・『ロスト・チルドレン』(1995)
・アンジェロ・バダラメンティ
・Yahoo!ムービー A Very Long Engagement
・公式サイト 日本、アメリカ(Warner Independent Pictures Site)
・■『ロング・エンゲージメント』の原作『長い日曜日』
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