■押井守監修 林弘幸演出
DVD 『めざめの方舟』SPECIAL EDITION
◆結論
3本の短編をまとめてひとつの大きなイメージが感じられる作品にまとまっている。
冒頭とかラストでたぶんDVDオリジナルと思われる映像があるが、それが縦軸を構築しているように思える。はっきり言って、僕はこちらの方が好き。全体のイメージもだけれど、2本目の「百禽HYAKKIN(ひゃっきん)」は凄く良い。たぶんこの作品は、舞台装置によって盛り上げようとした万博版より、余分なものがそぎ落とされて映像としてのイメージ喚起力が上がっているのでないかな。今のところ、会場でしか買えないようだけれど、とにかくお薦め。この2本目は『イノセンス』の到達点の次の作品として認めることが出来るって感じ。(随分、あの作品からイメージを持ってきていますが、、、)
DVDで100inchクラスのスクリーン+5.1chで観たら、会場行くより感動すると思えたのでした(営業妨害、すみません)。
◆万博は映像中心の方が合ってたかも
周囲に立つ魚と鳥と犬、そして上空の汎。足元に並ぶモニタの同一の複数の映像。現在のこの万博の形態は本来の映像の持つ力を分散させているように思える。むしろこれらのオブジェ群はメイン会場の前室とした方がよかったのではないか。
観客が入場すると、まず大森林の中にオブジェが立つ空間がひろがる。そして何もアナウンスされずオブジェと対峙する観客。無言の10分。
そしてメイン会場はIMAXのように巨大なスクリーンで構成して、観客にこのDVDのようなひとつのストーリーらしきもののある映像を見せる。万博会場で舞台演出としてのイメージ構築が失敗しているように感じたので、あくまで映像作家としての手腕が発揮できるこの形態の方がインパクトがあるんでないかと、DVDを見ながら思った。(偉そうですんません)
◆DVD概要
このDVDには現在万博で公開中の「靑鰉SHO-HO(しょうほう)」の他、今後公開予定の「百禽HYAKKIN(ひゃっきん)」、「狗奴KU-NU(くぬ)」の2本の映像が収録されている。DVDオリジナル映像も入っているとのこと。全34min。
「靑鰉SHO-HO(しょうほう)」の万博公開版と比較すると、会場のスロープ周囲に投影されていた実写の魚の映像がかなり削られている(カクレクマノミもいない!)。主にディジタル編集とCGで描かれたシーン(アリーナに映されていた映像)中心で1本の短編として仕上げられている。
◆関連リンク
・当Blog記事 愛知万博 押井守『めざめの方舟 青鰉 SHO-HO』感想 『めざめの方舟』のリンク 体感型映像空間 『めざめの方舟』」]
・演出の林弘幸氏について。CGIディレクター、海亀事務所株式会社代表で、博覧会映像もいろいろと手がけてた方らしい。万博版では総合演出:押井守。演出:林弘幸ですが、本DVDでは監修:押井守。演出:林弘幸。DVDオリジナル部分は林弘幸氏のイメージかも??
・ 『めざめの方舟』コンプリート版DVD(8/24発売らしい)
◆以下、ネタばれ詳細 (観る前には絶対読まないこと。)
□大森林とゴシック
DVDオリジナル映像は、多分冒頭の地球へ落ちてくる光のシーンと、森の中に立つ魚と鳥と犬のオブジェ。そしてラストの森林の映像。『めざめの方舟』は生命への畏怖がテーマということだけれど、この深い森林のイメージが全体の基調トーンを作っているように思った。以前記事にした『ゴシックとは何か―大聖堂の精神史』で書かれていた西洋人が滅ぼしてしまった巨木の聖林への憧憬と恐れ、これと生命への畏怖は通底する。このDVDの大森林の描写が良かったので、前述のように万博でも大森林とオブジェを再現してあったらいいのにと思ったわけ。で、「百禽HYAKKIN」で描かれるゴシック建築もこのイメージを喚起させる。
□クールになった「靑鰉SHO-HO 水の記憶」
ディジタル編集とCGで描かれたシーンだけを取り出したことで、かなり緊張感のある画になっている。実写の魚の画があまりに環境ビデオチックでつまらなかったので、本来のイメージにダイエットできてる感じ。
□素晴らしい「百禽HYAKKIN 時を渡る」
画面はバードアイでの海の映像で始まる。生命の生まれた海への鳥の郷愁って詩情のある空からの映像。これがいい。で、次に登場する天使のような魚。この1本だけで参ってしまうくらい好きです。押井守は全力投球してないのではと書いてしまったけれど、訂正。この部分はかなり力はいってます。でも80%ぐらいの気もする(^^;)。
□ラストの「狗奴KU-NU 未生の記憶」
押井守の愛する犬なので、これが一番期待したのだけれど、ちょっとがっかり。DNA改変と犬と赤ん坊の映像(モーフィング)。ちょっとチープかな。
CBCで3/19放映された『愛・地球博SP ピース!夢見る山を作りあげた人々』で触れられていた櫻井圭記(『攻殻機動隊SAC』の文芸スタッフ)氏の赤ちゃんの映像をこんな風に使って良いんですか?って気もするが、、、。
CGのケンタウルスな犬も今ひとつな感じだったので、残念。
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