■古川日出男 『ベルカ、吠えないのか?』

最近新刊が出ると即購入するお気に入りの古川日出男なのだけれど、この『ベルカ、吠えないのか?』は難易度が高い。どう感想書こうか、迷いつつキーボードに向かっています。
つまり手放しで面白い!!って感じでは全くない。犬を通じた近現代史でいくつかのエピソードが犬の系譜にそって系統的に描かれている。各エピソードは面白いし、あきらかに文体的に現在をきりとる実験をしているのはわかるしそれは成功しているのだけれど、、、、。この読後感のザラっとした後味の悪さは何なのだろう。とても古川日出男を初めて読む人には薦められません。
はっきり言って、今回、何が書きたかったか私の鈍いセンサでは感知できてません。文体的には『ボディ・アンド・ソウル』の延長上、ザラっとした読後感はこのせいも大きいと思うが、いったいこの小説は何なんだろう、というのが正直な感想。
1943年・アリューシャン列島。アッツ島の守備隊が全滅した日本軍は、キスカ島からの全軍撤退を敢行。島には「北」「正勇」「勝」「エクスプロージョン」の4頭の軍用犬だけが残された。そこから「イヌによる近現代史」が始まった!
★★ネタばれ、注意★★
ベルカ Belka(写真右)というのはスプートニク5号で初めてペアで宇宙へ飛んだ犬。いっしょに飛んだのがストレルカStrelka(写真左)。本書によればこの宇宙から帰還した夫婦の犬の子孫がソ連の軍用犬の系譜になっていったという。フルシチョフの個人的な思いで政治として利用された犬。悲しいものがありますが、そのトーンで全体が書かれているわけでは決してない。ここらが複雑。
ネットで調べていたら、最初にスプートニク2号で飛んだライカ犬というのは、犬種はシベリアンハスキーの雑種、「ライカ」は名前らしい。「ライカ」って、てっきり犬種かと思ってました。
◆関連リンク
・文藝春秋書誌ファイルベルカ、吠えないのか?(古川 日出男)
・過去記事 ■『gift』 ■『ボディ・アンド・ソウル』
・DVD『ベルカ、吠えないのか?』古川日出男著(Amazon)
■Dogs in Space
宇宙へ行った犬たちについて、ウェブでいくつか調べてみました。
・“スプートニク犬”の真相、45年目に明らかにSputnik 2
・宇宙へ行った動物についてのページ
・スペースサイト!さんのロシア宇宙開発史 > ブラック・マンデー
1960年7月28日、改良が加えられた2機目のコラブルが打ち上げられた。今度は、チャイカとリシーチカという名の2匹の犬が乗せられた…コロリョフは特に、リシーチカがお気に入りだったと言われる。だが、打ち上げロケットR-7の異常で、発射から28秒後に爆発。犬達を乗せたカプセルは脱出装置で放出されたものの、爆風をもろに受け、助からなかった。
8月19日、3機目のコラブルが打ち上げられた。これにもベルカとストレルカという名の犬たちが乗せられ、それ以外にも、12匹のネズミや昆虫、植物や種、細菌類などがゴテゴテと積まれていた。総重量は4600kgで、コラブル・スプートニク"2号"と名付けられた…爆発した7月のコラブルは“なかったこと”にされた。
■以下、写真集
◆ライカ



◆ベルカ Belka と ストレルカ Strelka

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» ベルカ、吠えないのか [Yostos@Web]
知らない作家だったが、タイトルが気になって購入した古川日出男著『ベルカ、吠えないのか?』。 戦時中、日本軍に取り残された四頭の軍用犬から始まり、ロシア、南北アメリカ、東南アジアと殖え広がっていったその裔のイヌ達を通して、二次大戦、朝鮮、ベトナム、アフガン、そんな二十世紀後半を描き、そこにソ連崩壊の中を犬を率いる「大主教」と呼ばれる老人と少女の物語を重ね合わせ見事にフィクッションとして成立させたなかなか見事な作品。 イヌが様々な状況、人間に翻弄されながら、生き延び、殖え、絶えて、世代を重ねて犬の... [続きを読む]
受信: 2005.05.04 17:24
» ベルカ、吠えないのか? / 古川日出男 [Not-Boiled]
古川日出男は暗い淵を覗いている。
読み始めはアピシニアンやサウンドトラックの肌合い、読み進むうち....
暗い淵は文字通り暗くて何も見えない。幸せや喜びはもちろん不幸や悲しみも。
過程の濃密な表現も、多分その先を欲しがってはいけないんだろう。
リフレインの合間に見え隠れする闇、繰り返すたびに少しずつの狂気。
根底に流れるうねりとリズム、たどり着かない物語は古川流特製のバブリング創世記。
ドンドンはドンドコの父なり。ドンドンの子ドンドコ、ドンドコドンを生み・・・・... [続きを読む]
受信: 2005.05.26 12:04
» 「ベルカ、吠えないのか?」古川日出男 [図書館で本を借りよう!〜小説・物語〜]
「ベルカ、吠えないのか?」古川日出男(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、犬、軍用犬、年代記
二つの犬の系統の話。二つの大きな物語の流れ。
イヌよ、イヌよ、お前たちはどこにいる?
1943年、アリューシャン列島の無人の島に残された日本軍の軍用犬四頭を祖とする血統の物語。それは時をまたぎ、世界をまたぎ、拡散し、そして集束される。いっぽうロシアの宇宙開発においてロケットに乗せられた二頭の犬、ベルカとストレルカ。 犬の血統、広がる犬の子どもたち、孫たちの物語。..... [続きを読む]
受信: 2005.07.18 07:49
» 古川日出男【ベルカ、吠えないのか?】 [ぱんどら日記]
もっと早く読むべきでした、この本。
世間では大評判であることを知りながら、「早く文庫化されないかな〜」とセコいことを考え、ようやく最近になってハードカバーを買うふんぎりがついた【ベルカ、吠えないのか?】。
おもしろいです。
ベルカは犬なのね。
...... [続きを読む]
受信: 2006.02.16 13:15
» 古川 日出男 『ベルカ、吠えないのか?』 [bookmarks=本の栞]
古川 日出男(著) / 『ベルカ、吠えないのか?』 / 2005-04-22 / 文藝春秋(単行本) / A うぉん。 物語は、教訓を伝えるためにあるのではない。教訓を引き出すためにある。 そんなことばが頭をよぎる。 モノガタリスト古川日出男の真骨頂。 古川日出男は語る。犬の視点から二十世紀を描いた、と。[参考] 正確には二十世紀後半だ。 第一次世界大戦とロシア革命から続くソビエト連邦、軍用犬としてのシェパードと後の宇宙船に繋が るV2ロケットを生み出したナチスドイツが伏線として。 第二次世界... [続きを読む]
受信: 2007.04.15 19:43
» [フィクション]古川日出男『ベルカ、吠えないのか?』 [メディヘン4]
<文学賞メッタ斬り!>シリーズのどれかに書かれたいた評を読んで、おもしろそうだと購入。とは言え、二年越しの積読本にしてしまい、ようやく読了。 ベルカ、吠えないのか? 作者: 古川日出男 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2005/04/22 メディア: 単行本 期待に違わず... [続きを読む]
受信: 2008.01.27 23:28
コメント
ほんのしおりさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
>>「Google Mapsでたどるベルカ・クロニクル地理編」とでもいうものを作ってみました。
地球でのベルカの足跡をたどってみて下さい。
あ、この手がありましたか。
この本、歴史と地理的な移動が大胆に進むので、地図で示していただいて、実感として犬たちの足跡がよくわかりました。
ありがとうございます。また古川本で遊んでやってください。
ではでは。
投稿: BP | 2007.04.17 23:51
はじめまして。このページの「Dogs in Space」が面白くて刺激されたので、「Google Mapsでたどるベルカ・クロニクル地理編」とでもいうものを作ってみました。
地球でのベルカの足跡をたどってみて下さい。
http://bookmark.tea-nifty.com/books/2007/04/post_2bc6.html
投稿: ほんのしおり | 2007.04.15 19:54
TBありがとうございます。
「ライカ犬」の話、面白く読ませていただきました。
ライカが犬種名ではなかったことにも知りませんでしたし、イヌが乗せられたのは一度きりだと思っていたのでちょっとびっくりです。
それにしてもいつからライカ「犬」なんて言われるようになったのでしょうね。まぎらわしい・・・
投稿: ガンQ | 2005.05.04 23:58