■中島らも 『 ロカ 』
中島らも 『ロカ』 (Amazon)
昨年なくなった中島らもの絶筆。『酒気帯び車椅子』とは異なり、こちらは未完。主人公がとてもいい。世間に媚びず、わが道をゆく老作家の姿が気持ち良い一冊。ある意味ワンアイディアストーリーの『酒気帯び車椅子』に比べて、中島らもらしさ炸裂の傑作。
--------------- 以下 ネタばれ ----------------
未完であるだけに最後、話が全く途中なのにスッパリ終わってしまうのが、悲しさを誘う。主人公の老作家小歩危ルカが若い恋人(未満)のククに会いに行こうとするところで本は突然終わる。その前にルカがギターにチューニングをするシーンがある。ここは何故だかくどいほどにチューニングを事細かに描写してあるのだけれど、まるで恋人に会いたいのになかなか会えない悪夢を見ているようなシーンになっている(結果的に)。
そして絶筆。読者はこの主人公とともに、もう二度とククに会うことは出来ない。この余韻はまさしく悪夢だ。警官が突然出てきたところで終わるところまで含めて、図ったような夢の終了を思わせる終わり方になっている。主人公といっしょにククに恋をした我々読者はどうすればいいのか? この続きを読みたい ! これはククと中島らもが永遠になった瞬間なんだろう。
大きな余韻を残して去っていく中島らも。ある意味、訃報を聞いたとき以上にジワジワと哀しみが広がっていきます。あらためて合掌。
◆関連リンク
・死の1週間前に書かれた本当の絶筆 「DECO-CHIN」
(『蒐集家』ホラー競作集「異形コレクション」30巻目収録)
★以下、好きなシーン、言葉を引用。
「いや。オスの鮫糠というのはメスに比べるととても小さいんだ。五、六センチくらいしかない」
「そんなに」
「小さいんだ。そして時期が来るとオスはメスにへばりついて生殖行為をする。受精が完了した後のオスがどうなるか見当がつくかね」
「わかりません」
「メスの腹に貼りついたまま、段々メスの身体の中に埋もれていくんだよ」
「えっ」
「そしてついには完全にメスの中に埋没し、メスと同化してしまう。精子を放つことだけがオスの存在理由なんだ」(略)
「ニンゲンのオスはメスを受精させれば本来は何もすることがない。ヒマなもんだから要らないことばっかりする。宗教を作る。国家、政治を作る。戦争をして殺し合いをする。神学、哲学、文学、絵画を作る。強盗をする。人殺しをする。レイプをする。要らざることばかりだ。男は身長十センチくらいで、交尾後は女性の身体の中に還して溶けてしま奮い。神様はどうしてこンゲンを鰻鰊のようにお創りにならなかったのか。爺はそう思うね。文化だ芸術だと人は騒ぐが、そんなものは無くったって何の不自由もない。女性ばっかりで優しく暮らしていけばいいんだよ」P107-108
「これだ。この感じなんだ。何もせず、何も考えず、意味を求めず、表現を放棄し、社会的存在であることを拒否し、ひたすら心のたゆたいに身をまかせている。こういう時間を私は"生きている"と呼びたいな」
「爺さんはさすがに作家だね。この気持ちを言葉であらわすことができるんだ。おれにはとてもできねえな」P128
ゆらゆらと、たゆたうようなこの感じ。これが僕にとっての中島らもです。
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コメント
gigababaさん、はじめまして。
コメント、ありがとうございます。
やはり中島らものこういう部分が好まれているのですね。グッときます。あーー、続きが読みたい!
投稿: BP | 2005.06.06 21:33
好きなシーンが同じだ。
投稿: gigababa | 2005.06.05 18:22