■山田太一 初期作品<木下恵介アワー>再放送
& DVD『早春スケッチブック』
番組:『山田太一が語る木下恵介アワー』(ホームドラマチャンネル 06-04 07:30) (再放送 6月11日(土)24:00 6月18日(土)7:30)という番組をケーブルテレビで観た。70年代後半からの山田太一ファンとしては初期の(シナリオ本)にもなっていない作品を見ることができる初の機会かもしれない。木下恵介アワーとしての放映リストは下記。うち山田作品は1966年の「記念樹」から。(テレビドラマデータベース 山田太一脚本リストを参考に山田参加作品は青字で示します)
全16作品441話
4月放送「喜びも悲しみも幾歳月」 (全26話/1965年)
5月放送「記念樹」(全46話/1966年)
6月放送「二人の星」(全26話/1965年)
7月放送「女と刀」(全26話/1967年)
7月放送「今年の恋」(全8話/1967年)
8月放送「もがり笛」(全13話/1967年)
8月放送「おやじ太鼓」(全65話/1968年)
9月放送「兄弟」(全26話/1969年)
10月放送「あしたからの恋」(全32話/1970年)
11月放送「3人家族」(全26話/1968年)
11月放送「太陽の涙」(全26話/1971年)
12月放送「二人の世界」(全26話/1970年)
12月放送「幸福相談」(全17話/1972年)
2006年1月放送「たんとんとん」(全26話/1971年)
2006年2月放送「思い橋」(全26話/1973年)
2006年3月放送「わが子は他人」(全26話/1974年)
番組では『記念樹』の出来たいきさつを語っていた。九州をタクシーで木下恵介と旅した時に、そのタクシーの運転手が孤児院出身で途中の道中でそこの先生に会いに寄らせてほしいと言ったことから木下によって着想されたという。いい話。
あと『女と刀』についてもシーンを流しながら語られていたけれど、なんか壮絶な話みたい。中村きい子という作家の原作を脚色したもので、非常に強烈な女の物語。主演の中原ひとみの顔が怖すぎ。これは後年の『早春スケッチブック』ファンとしては、主人公沢田竜彦への影響とかもしかしてあるかも、と邪推。観てみたい。
あと番組では、『3人家族』が山田の初のオリジナル作品として語られていた。当時TVのホームドラマでは大人数の家庭が描かれて人気だったが、実際の都市では核家族化が始まっていた。そうした社会的動向を背景にそうしたホームドラマへのアンチテーゼとして着想する、といったところはいかにも山田太一。
僕は木下恵介アワーではないけれど、『沿線地図』と『それぞれの秋』を一度で良いから観たい。ドラマは観てなかったけれど、後に読んだシナリオ本がとにかくよかった。特に『沿線地図』。このドラマの冒頭のシチュエーションとか凄いなって思う。
◆山田太一のおそらく(だって『3人家族』が凄いかもしれないではないか)最高傑作『早春スケッチブック』がDVD-BOXで発売された。
DVD(Amazon) シナリオ本 上・下(Amazon)
DVD特典映像 山田太一&山崎努 対談
山田太一&岡田惠和 対談
岩下志麻&鶴見辰吾 対談
このドラマは僕にとっては最高のSFドラマだった(^^;)。いまだかつてここまでのレベルを達成したTVのSF番組を僕は知りません(マジ)。SFを価値観の相対化によるセンスオブワンダーと定義してですが、、、。(間違いなきように言っておきますが、SF的設定やガジェットはいっさい出てきません。外見はホームドラマそのもの。)
ホームドラマの人の良いお父さんというイメージの河原崎長一郎演じる望月省一の家に、いきなり闖入した価値観相対化男 沢田竜彦(山崎努)。『岸辺のアルバム』とか『男たちの旅路』でも、社会派的に出てきていたこの山田太一の価値観相対化の視点がこの作品では極限まで推し進められている。
さきほどSFと書いたけれど、これは究極のホームドラマでもある。竜彦が相対化するのは通常のホームドラマが描いている価値観である。ミステリにアンチミステリがあるように、本作はアンチホームドラマと呼べる。ホームドラマの『虚無への供物』というところでしょうか。
価値観相対化による緊張感と笑い。絶妙のシナリオ。これをDVDで観えるようになったことはとても嬉しい。
第一話で初めて会った竜彦と(河原崎の息子)和彦(鶴見辰吾)の会話から抜粋。
竜彦「ケッ。5千円ぐれぇのことで、胸はるんじゃねえ」
和彦「僕は小遣いひと月一万円です。五千円は大金です。理由もなしに貰えません」
竜彦「おう、おう、そういう子供かよ、お前は」
和彦「子供かもしれないけど---」
竜彦「善人め!」
和彦「----(なにを、と思う)」
竜彦「気の小っちゃい、善良でがんじがらめの正直者め!」
和彦「芝居の台詞かなんかですか?」
竜彦「ハハ。それで、きりかえしたつもりか?」
(^^;)どうです、笑えません? 初対面でいきなり価値観の転倒をとーとつに投げかけられて、これはもう現実感がなくなることおびただしい、「芝居の台詞」と思うよね。これが第一話の終盤。謎めいた美女(樋口可南子)につれられて洋館に連れてこられた和彦とともに僕ら観客はこの不思議な男と出会うわけです。
何も知らないでこのドラマを観はじめて凄い掴み。思い出すとこのシーンでどっぷり『早春スケッチブック』に惹きつけられて次回を切望していました。
ネットでこのドラマのことを書いているページのいくつかで、この竜彦と寺山修二の関係について触れられています。いわく寺山が竜彦のモデルであると。(望月の妻役の岩下志麻のだんな篠田正浩が講演で竜彦のモデルは寺山と語ったという情報もある)
山田と寺山が大学時代親友で、本や哲学や美術等々について深いレベルで議論していた仲であることは、山田のいくつかのエッセイで有名な話。そこから連想されたことだと思う。
この点について、山田の見解を一度で良いから聞いてみたい。(今のところ、直接書かれたことはないと思う。)寺山→竜彦。望月省一→山田、という単純な図式ではないと思う。各作品から感じるのは、一見温和な山田太一が実はうちに相対的な竜彦的視点をかなり持っているということ。僕はむしろ学生時代の山田も竜彦であり、ありきたりの日常に対して芸術的視点からいつも批判を加えていたのではないかと思うのだけれど、どうなのだろう。寺山+山田太一(の会話)=竜彦といったところではないのかなーと。(実は寺山修二についてほとんど知らないので、いいかげんな邪推。)
◆関連リンク
・2005年6月下旬号 No.1431号 DVD特集『早春スケッチブック』<インタビュー>山田太一
本屋で立ち読みしました。竜彦はニーチェに影響受けたと語っています。あと森卓也氏のレビュウ掲載。
・木下恵介・映画の世界+α 掲示板
・テレビドラマデータベース 山田太一・早春スケッチブック掲示板 各データ
・テレビドラマデータベース 山田太一脚本リスト
・山田作品をみてシナリオライターを志したという岡田惠和氏の『TVドラマが好きだった』(Amazon) 『ふぞろいの林檎たち』について触れられているようです。
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コメント
「沿線地図」は山田太一作品のなかでも最高傑作です。「岸辺のアルバム」以上の作品だと思います。30年以上前の作品ですが今放送されてもかなりの反響を呼ぶことまちがいないでしょう。時代を超えて見る者に自分の人生をこれでいいのかと、問いかけてくる作品です。主題歌のフランソワーズ・アルディの「もう森へなんか行かない」がやるせない中に漂うように流れ,作品に独特の雰囲気を与えています。なぜDVD化されないのかが不思議だ。この作品こそ時代を超えてそれぞれの年齢の立場で見れる見ごたえある作品です。
特に当時、真行寺君枝の道子には高校生たちは熱狂しました。
投稿: kuwahara | 2011.06.24 13:12
tomoさん、うらやましいです。『沿線地図』、観られたのですね。
>>『早春~』と並んでも、まったく遜色のない
怖ろしい作品です。
げげ、ますます観たくなりました。ホームドラマチャンネルへリクエストしようかなーー。真行寺君江、きっと素晴らしかったのでしょうね。
投稿: BP | 2005.06.28 00:29
『沿線地図』、最高ですよホント。
『早春~』と並んでも、まったく遜色のない
怖ろしい作品です。
正直、もし今『沿線地図』をそのまま
ゴールデンタイムに再放送したら、
物凄い話題になるような気がします(笑)
岸恵子さん、『早春~』にも出ている河原崎さん、児玉清さん、笠智衆さん、等々、
キャストも完璧ですし、主題歌も完璧。
とにかくいいです。最高です。
投稿: tomo | 2005.06.26 21:54
tbありがとうございます。何度も送ってもらっていますが、ちゃんと受け取って見ていますので大丈夫ですよ。こちらへのご挨拶が遅れましたが、私も中3の時にみて衝撃をうけました。
DVD-BOXも早く買いたいです。
投稿: あすか | 2005.06.14 08:34