■ポール・オースター監督『ルル・オン・ザ・ブリッジ』
Lulu on the Bridge(1998)
最近お気に入りの小説家ポール・オースターの映画監督(単独)デビュー作品を観た。
シナリオを書いた『スモーク』は以前観ていたけれど、この作品は初見。
N.Y.のクラブで撃たれたイジーは、サックス奏者としての生命を失った。
絶望の最中、彼は夜の路上で見知らぬ死体と出くわす。その傍に鞄があり、中には電話番号のメモと石が入っていた。翌朝かけた電話に出たのは、女優志望のシリアだった。
石が放つ不思議な青い光を洛びて、二人はなぜか強い絆を感じ、深く愛しあうようになる。まるで魔法にかかったように…。
で、感想はというと、、、小品だけれどもジワリと胸に迫ってくる佳作といった感じでとても良かった。ポール・オースター作品としてみると、他の小説作品より重めに振った感じ。だけれども各作品と地下水脈で通底している。なんだろう、一言では表せないけれど、、、、オースター好きの人にはこの感じわかってもらえるのではないか。登場人物が胸のうちに持っている感覚が同じ。(って、こんな風に書いてもわかるわけないか。)
ハーヴェイ・カイテル、ミラ・ソルヴィーノ、ウィリアム・デフォーと言った俳優陣も見事。ウィリアム・デフォーの不思議な悪役としての迫力は、オースターのシナリオと演出の勝利ではあるが、北野武や黒沢清の諸作の不条理な悪役のレベルを達成している。凄い。
そしてもうひとつ特筆すべき点。デビット・リンチ『マルホランド・ドライブ』ファンの(あの映画の中毒と言ってもいい)僕にとっての驚きは、その先行作品をポール・オースターが撮っていた!という驚き。この『ルル・オン・ザ・ブリッジ』はストーリーとテーマ、そしてタッチが『マルホランド・ドライブ』にかなり似ています。リンチ作品の方が後(2001年)なので、この作品にインスパイアされてリンチが撮ったといわれても違和感はない。ラストでジワリと胸に迫ってくるイメージも近いものがある。(以下は本文(続き)のネタばれコーナーで。)
◆関連リンク
・Cinema Clip:『ルル・オン・ザ・ブリッジ』ポール・オースター監督来日会見
・『ルル・オン・ザ・ブリッジ』(みんなのレビュー)
・DVD『ルル・オン・ザ・ブリッジ』(Amazon)
・小説『ルル・オン・ザ・ブリッジ』畔柳和代訳(新潮文庫)(Amazon)
・淀川長治氏がこの映画について書いている(銀幕旅行:ルル・オン・ザ・ブリッジ)
オースターの気取った感じはチェックしつつも、映像的センスを認めている(にしても淀長センセイの感想にリンクをはることがあるとは、夢にも思いませんでした)。
◆『ルル・オン・ザ・ブリッジ』と『マルホランド・ドライブ』
一番似ているのはタッチなのですが、具体的事象としても下記が挙げられます。
・主人公が映画女優を目指している。
・悪の描写の不条理感(『雨に唄えば』を語るところの怖さ)
・小箱をあけることで幻想/現実が入れ替わる
・ラストのにがさ。登場人物の無念な想いがジワリと画面全体に(音楽とともに)広がるあのにがさ。
◆関連リンク
・ググったら、hey11popさんのライトワーズ・グッドテイルズで同様の指摘。この方の評価はネガティブです。
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