■古川日出男『ロックンロール七部作』
『ロックンロール七部作』
今度の古川日出男の新作は、ロックンロールをめぐる20世紀の物語。
『ベルカ吠えないのか』が、犬を中心にすえた20世紀の歴史を描いた小説だったのに対して、今回はロック。文体も『ボディ・アンド・ソウル』 『ベルカ吠えないのか』 『LOVE』と同系列に属する。古川文体としかいいようのない独特のもので、現代的なフィーリングをうまく写しとっているように思える&荒削りな神話的雰囲気。(作品ごとにいろいろな文体を使い分けていたように思えたのだけれど、最近、この雰囲気に一本化?僕は前のように七色の文体を楽しみたいのだけれど、、、。)
そして「七部作」は、地球の七大陸に相当する。各大陸ごとに完結した物語が紡がれる。各物語のアイディアやプロットがなかなか優れていて、それぞれ楽しめる。そして終章でそれらを糸で結ぶような試みが、、、。
以下順に簡単なコメントです。
・第一部 アフリカ大陸
「あなたの心臓、むしゃむしゃむしゃ」というロックを持ってアフリカ大陸へ不時着したボーカル「曇天」の物語。墜落した飛行機のラジオから流れるひとつの歌がアフリカの各部族の中へ溶け込んでいくプロットが秀逸。
・第二部 北米大陸
フードゥー楽器"ゲーター・ギター"をめぐるロッカーたちの物語。金額で描写される各ロッカーの生き様の破天荒さが楽しめる。
・第三部 ユーラシア大陸
ロシアのロックンローラー「赤いエルビス」がシベリアを横断する。そして「ここから物語を再生させるレコード針は飛ぶ。飛びまくる」と描写された後、時代と場所がワープする。大胆。
・第四部 オーストラリア大陸
「ロックンロールが初めて戦争のサウンドトラックになったのは、ベトナム戦争からだ」という一文から始まるこの短編の主人公「ディンゴ」は天才的なソフトウェアエンジニア。彼によりカンガルー他の動物たちの脳波から曲を選択して放送するシステムがくまれ、オーストラリア大陸にロックンロールのソングラインが刻まれる。なんだか雄大なイメージが好き。
・第五部 インド亜大陸
大金を携えてインドへ帰還した「緑っぽい緑」がプロデュースする映画の物語。「監督」と「脚本家」のたくらみ。七本の娯楽映画から編集される一本の政治的傑作とプレスリーの複製たち。インド映画の極彩色が頭を駆け巡る。この一本、どうしても観てみたい。
・第六部 南米大陸
タンゴとカラオケとムエタイとカポエィラ。「武闘派の王子様」の「武闘派の王」への敵討ち。リングの上のロックンロールなイメージとカラオケのミスマッチがどこにもない物語を紡いでいる。このへんてこな喰い合わせの妙技を味わってみてください。
・第七部 南極大陸
ロックンロールスタジオで生まれ育った「小さな太陽」は南極の基地の料理人となる。潜在したロックのエネルギによる愛の暴発。そして極点でのレコードのような回転。この手の内在するものを持て余す登場人物も古川のよく描くタイプ。
・第〇部 地球
そして20世紀最後の記念碑ベイビー「あたし」の21世紀物語。船と「20世紀からの密航者」。おしまいを飾る雰囲気の作品。
あれ、これまとめてたら、この本って凄い奇想小説な気がしてきた(^^;)。皆さんはどのように読みましたか?
◆関連リンク
・『ロックンロール七部作』(集英社)刊行記念
古川日出男 柴田元幸トークショー(青山ブックセンター イベント情報)
2005年12月2日(金)19:00~21:00
新刊の刊行を記念いたしまして、古川日出男氏と柴田元幸氏をお迎えし、お薦めの音楽紹介や朗読などを交えたトークショーを開催致します。
七部作のキーワードは、第一部から順に、希望、自立、鷹揚、無垢、覚醒、解放、贖罪。これらの「無節操で猥雑な、でも真摯な、ロックンロールの七つの航海」は、二十世紀のいちばん最後(二〇〇〇年十二月三十一日二十三時五十九分五十九秒)に誕生した記念碑ベビーたる「あたし」の一人称で語られる。 『ベルカ、吠えないのか?』と同じく、古川日出男はここでも、「誰が誰に語るのか」にきわめて自覚的だ。語り手の「あたし」とは誰で、聞き手の「凍りついている彼」とは何者なのか? その問いを軸に七つの曲を再生する『ロックンロール七部作』は、まさに歴史的名盤と呼ぶべき二十世紀の記録なのである。
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コメント
おはようございます。こちらのレビューに触発されて、ぼくもあらすじまとめてみました。
徒労か?とほほ。
投稿: すの | 2005.12.27 07:44